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第1章 4
そうして迎えた去年のコンクールは、ダメ金。嫌がりながらも真面目に取り組んでいたから悔しいと思ったが、終わって良かった、というほっとした気持ちの方が大きかった。結果発表後、会場外の公園で、先輩たちが悔しさに号泣し、同期が来年度への抱負を口々にする中で美果は、輪の一歩外で何も言わずに街灯を眺めていた。
「美果は、コンクール好きじゃないんだ」
突然声を掛けられ、我に返る。いつの間にか榊原が隣に立って美果と同じ方向を眺めていた。
「正直、あまり好きではないです…」
「なぜ?」
「その団体が、どんな環境でどんな背景で練習してきたのか、という過程を無視して、たった十二分間でその音楽を点数化出来るとは思えないからです」
思うところを正直に述べる。
「なるほどねぇ。それでも、出てくれたのね」
「好きではないですが、悪いとは思ってませんから」
「それはまた、なぜ?」
「自分の技量と向き合う良いきっかけになるからです。技術は点数と違ってコンクールの後まで自分のものとして残るものですから」
「自分のものとして残る、ね…」
榊原はそう呟いて輪の方に戻っていった。