第1章 1
さすがに、毎日六時間も楽器を吹いていると疲れる。美果はため息をついて楽器を膝に置いた。その様子を目ざとく見付けた顧問であり、指揮の榊原が全体に対して皮肉を言った。
「疲れてしまった人がいるようなので、十分間休憩にします。舞台では疲れた顔出来ないんだから、練習もいい顔で臨めるように整えてきて下さいね」
朝九時から夕方四時まで、途中お昼休憩一時間。お昼休憩も二十分で昼食を摂ってあとの時間を自主練習に充てるのが普通。これが、夏休みに入ってからコンクールまでの、座山高校吹奏楽部だ。毎年コンクール前は練習がハードだが、今年はとりわけて気合が入っている。毎年県大会に進むと目されながらも予選でいわゆる「ダメ金」続き。五年前に初めてコンクールに出て金賞を取ってからずっと金賞を取り続け年々周囲の期待が高まっている。それに、榊原が座山に来てから七年目、いつ異動となってもおかしくはない。榊原がいる間に…現役部員の大半はその想いを糧にハードな練習に耐えているのだ。
「美果が乗り気じゃないのは皆知ってるから良いけどさー、先生の前くらいは取り繕わなきゃ」
廊下に出ると、しゃがんで水を飲むあかりに声を掛けられた。
「うん…でも退屈なものは退屈なんだもん」
「まあそうだよね…そろそろ時間だね、戻ろう」
あと一時間くらい、我慢するか…美果は大きく伸びをして音楽室に入っていった。






