戦いのあと
アノンとの戦いから一週間。
雁斗達は平和な日常を取り戻していた。
「なに、雁斗に行かせるから安心してくれ」
迅が電話を切った。
「親父、俺を行かせるって?」
雁斗はパンをかじりながら訊く。
「お前、母さんを迎えに行ってこい」
「なんで俺なの。自分が行きゃいいじゃねえか」
「少しでも早く顔見せて、母さんを安心させろ」
「勝手だな!? 死んだ死んだと散々騙しておいて、その言い種はないだろ」
「レクイエムも知っていた。だが彼は、あまり良しとはしなかった。息子にまで伏せていたのを見過ごせなかったんだろう」
「それは何となく解る。……って、とにかく自分で迎えに行けー!」
「お前、もしかして母さんに会いたくないのか?」
「……十一年だ……十一年も会っちゃいねえ。それなのに会いに行く心構えなんかねえよ」
「だったら尚更行ってこい。どんな理由であれ、幼い子供を置いていく苦しみがどんなものか、レクイエムと融合した今なら解るだろう」
「はあ……。わーたよ」
雁斗が堪らず折れた。
「わかればいい。これが母さんの場所の地図だ」
「げえ、電車に乗るのかよ」
「あれ? 電車克服したんじゃないのか」
「ひ、一人で乗ったことねえ。土地勘もねえし、道に迷うかもしれねえ」
「誰かと一緒に行けばいい。まあ、中学生にもなって満足に電車も乗れない時点で……」
「うっせー! 行ってくる!」
雁斗は、迅の言葉を遮るように家を出た。
※ ※ ※
一時間後。
「で、何でお前と一緒なんだ」
「何、不満?」
雁斗の隣で、羅阿奈が言う。
「甲多にも斬牙にも忙しいって断られ諦めてたのに、まさか駅前でお前に会うとはな」
「だから私じゃ不満なわけ!」
「ちげーよ。へたに女子と一緒だと面倒だろ」
「私がお袋さんと会っちゃ不具合なわけ?」
「へんに茶化されても困るってんだ」
「良いんじゃない? べつに茶化されても」
「とはいってもよ」
雁斗は髪を掻く。
「緊張してんの? バカね」
「当時二歳だぞ!? ほぼ初対面みたいなもんだ。そんな相手に彼女を連れていくんだぞ!」
「……色々と済んで楽じゃない」
羅阿奈がそっぽを向いた。
「怒ってんのか?」
「違うっての。……言われ慣れてないの」
「ん?」
「ほ、ほら! 着いたわよ。早く行くよ」
「先に行くなよ。場所知らないだろ」
二人は電車から降りると、長閑な道を歩いていく。
「何にもねえな」
「都会の騒がしさよりも好きだけど? 私は」
「へぇー。普段騒がしいクセにか」
「悪かったね!」
「悪いだなんて言ってねーよ」
暫く歩いてくと、集落が見えてきた。
「家が有るわよ。あそこなの?」
「そうみたいだ」
「それならさっさと歩きなさいよ。あんたが先頭きんないと話にならないでしょ」
羅阿奈が雁斗の背中を押し出す。
「わーてるよ! だから、んなに押すなって!」
「いけいけー!」
そうこうしていると、集落に着いた。
「どちらさんだ。見ない顔だけど?」
「えっと……桜庭宇美さんをご存知ないですか?」
「……君、宇美さんに何の用?」
雁斗の質問に村人が警戒する。
「息子、です。迎えにきたんです」
「宇美さんの息子!? そんなの信じないよ。帰った帰った」
「んだよ! 下手に出てりゃ、いい気になりやがって! さっさとお袋に会わせろってんだ!」
「素性も知れない相手と簡単に会わすわけにはいかない。どうしてもというのなら、勝負に勝っていくんだ」
「勝負?」
「これでも元特殊部隊員でね。訳あって辞めたけれど、身体は怠けちゃいない」
「組手ってわけか……。おもしれえ!」
雁斗は構える。
「……始め!」
雁斗と村人が組始めた。
「……何でそうなるわけ? ……意味わかんない」
羅阿奈は呆れていた。




