宣言
「記憶を元に心を映す、か。面倒だな」
甲多から話を聞いた雁斗は、顔を曇らせる。
「甲多、本当に何ともないのか?」
「大丈夫だよ、斬牙さん。忘れちゃいけないことを思い出せたから」
「そうか。害がないなら躊躇無用だ。雁斗、泉に飛び込むぞ」
斬牙が準備体操をする。
「ノリノリじゃねえか。ま、いいけどな」
雁斗もベストを脱いで準備する。
「悪りい甲多、預かっててくれ」
「良いよ。気を付けてよ」
甲多は、雁斗からベストを預かった。
「準備はいいか? いくぞ」
「いいぜ」
二人は泉に飛び込んだ。
「雁斗さん……斬牙さん」
※ ※ ※
十分後。
「ふ……。なんだかんだと語り合えた。悔いはない」
斬牙の表情が晴々している。
「斬牙さん、肩の荷が降りたみたいだね」
「両親と本音を言い合えた。俺を陰ながら見守っていてくれていたなんて……」
「ちぇい! そりゃめでてぇこっちゃっすねえ」
「雁斗さん、どうしたの? 拗ねちゃって」
「拗ねちゃねえよ。ただなんで俺はよりによってアイツなんだあああ!」
「雁斗?」
「僕も斬牙さんも亡くなった人と会えた。ということは……お母さんとか?」
「お袋? ちげーよ。俺が会ったのは、レ・ク・イ・エ・ムだ! あんにゃろー、消えてなんかなかった」
「レクイさんが!? よかったあ……のかな? でも会えたんだね」
「よかもんかって。キミを助けてやろうって、大なり小なり言いたいこと言って去りやがって。それに……」
「それに?」
「レクイエムのやつが言ってたんだ……お袋は生きてるってよ」
「本当なの!? 良かったね!」
「いいもんか。生きてるなら素直に言えってんだ。何でわざわざ死んだって嘘ついたんだ」
「……遠ざけているんじゃないか? 親父さん、冷獣からお袋さんを離したくて言ったんじゃないか?」
「それでも俺には真実を言えってんだ」
雁斗は、服を脱いだ。
「服を乾かさないといけないな」
斬牙は、火を起こした。
「斬牙さんは左目が青いんだ」
甲多が斬牙の眼を見る。
「そうなのか。俺自身はなんともないが」
「雁斗さんは……あれ? 変わってないよ」
「別にいい。というか、どうして眼の色が変わるんだ?」
「レクイエムの記憶はどうなんだ」
「泉を調べはしたが、入ってないみたいだからな」
「とにかく無事に済んで良かったね。死の水なんて言っていたから、一時はどうなるかと思ったけど」
「そうだな。さて、服が乾いたら帰るぞ」
斬牙は、髪を乾かしていた。
※ ※ ※
「少し早いが仕掛けるか。オラによる、オラの為の実験を。宣言しよう、戦争だ」
アノンは、不敵な笑みを浮かべていた。




