僕の心の奥の奥
「うーーん! いい天気だね」
甲多は大きく伸びをする。
「ああ。お陰で濡れずに来れたんだ」
「春に見る海も味なもんだ」
斬牙は、潮風を深々と感じている。
「おーい、別に遊びに来たわけじゃねえんだ。俺達が用あるのはアッチだ」
雁斗は、岩場を指す。
「分かっているさ」
「洞窟になってるんだよね。楽しみだなぁ洞窟」
甲多は、バスケットを片手に言う。
「……たく……。美加も、わざわざ昼飯を作って渡すなんてよ」
「朝、舞莉愛達が話していたのは、そういうことだったのか」
「うん。舞莉愛さん、頑張って手伝ってたよ」
「へー、舞莉愛が」
「おーい、行くぞ?」
三人が洞窟の中に入っていく。
※ ※ ※
「暗いねえ」
「雁斗、灯りは?」
「……持ってきてねえ」
雁斗が、マズッたという顔をしている。
「言い出しっぺだろう……仕方ない」
斬牙の炎が洞窟を照らす。
「ねえ、どのくらいで着くの?」
「さーなー。レクイエムの記憶を辿ってるだけだし……」
三人の足音が反響している。長く続く道を歩いている三人にとって、その足音は耳障りになってゆく。
「雁斗、まだなのか」
「なんだ斬牙? 疲れたのか」
「正直な。かなり歩いている気がするが」
斬牙の顔に疲労の色が見える。
「疲れる筈だよ~。僕達、もう二時間歩きっぱなしだもん!」
甲多が腕時計を見ながら言った。
「どういうこったあ!? 着かねえわけがねえんだけどな」
「雁斗さん、お昼にしようよ。腹が減っては戦はできぬ、だよ?」
「わーたよ。食べるか」
三人がその場で座り込む。
「わー! 美味しそうなサンドイッチだあ!」
バスケットの中には、三種類のサンドイッチが三人分入っていた。
「カツサンド……このカツ手作りか!? よくやりゃあ」
軽く焼いた薄切りパンに、生パン粉を纏ったロースカツと千切りにしたキャベツ、田楽味噌が挟んである。
「タマゴサンドか。変わっているな」
薄切りパンに、塩で味付けした卵焼き、オーロラソースが挟んである。
「フルーツサンドだあ! やったー!」
厚切りパンに、イチゴとバナナ、ホイップクリームとチョコレートソースが挟んである。
「……美味えな……」
「感謝しないとな。女子が朝早くから弁当をわざわざ作ってくれるなんて、ほかの男子が聞いたら五月蝿いぞ」
「えへへ。そうなんだよね。なんかさ、美加が傍に居るのが当たり前になっちゃってて……。その当たり前に感謝しないといけないね!」
「感謝、か。俺も誰かに感謝しなきゃダメなんだよな。……誰にだ?」
「迅さんや羅阿奈さん。いっぱいいるでしょう?」
「親父? ん~、親父に感謝ねぇ……どうすりゃいいんだ? らしくねえって一蹴されるだろよ。羅阿奈に対しちゃ、感謝するほどの事をされた覚えないぜ」
「もう! 羅阿奈さんは幼なじみなんでしょう! 自分のことを心配してくれる女の子なんだから感謝しなきゃだよ!」
「幼なじみ、ねぇ。なあ、お前と美加って付き合ってんのか? 学校で噂になってんぞ」
「えええ!? ぼぼぼ、僕と美加があああ!?」
甲多の顔が赤くなる。
「ま、四六時中、一緒に居りゃ、そう思われてもしゃーねーな」
雁斗が、フルーツサンドを食べる。
「雁斗さんと羅阿奈さんは? 噂があるよ」
「!?」
雁斗の喉が詰まる。
「おいおい雁斗、動揺したのか?」
斬牙が笑いながらお茶を渡す。
「……んなんじゃねえって! そんな噂が立ってんのに驚いたんだ!」
「……今、それを聞いてどう思った? 嬉しいの? 迷惑なの?」
甲多が視線を雁斗から外さない。
「どう……って。正直戸惑ってる。んな噂が立っちまう位、あいつと一緒に居るってこったからな。羅阿奈の為にも、距離を取ったほうがいいか」
「それは駄目だよ、雁斗さん!」
「なんでだよ?」
「そ、それは……寂しいでしょう!」
甲多の脳裏に羅阿奈の言葉が過るが、それを言うのを必死に抑えた。
「噂は噂。いつかは過ぎ去るものだ。気にするくらいなら受け流せばいい」
斬牙は、そう言うと立ち上がる。
「すっかり休んじまったな、行くとするか」
「うん。サンドイッチで、すっかり元気になったよ」
三人は再び、歩き出した。
「それにしても、いつになったら着けるんだろう?」
「ん?」
雁斗の目の前に壁が現れた。
「不自然な壁だ。人為的に造られた壁だろ」
雁斗が、ガントレットを纏い、壁を殴り付ける。
「簡単に砕けたな」
斬牙は、砕けた壁を触る。
「どうなの? 斬牙さん」
「ただのコンクリートだ。捻りも何もない」
「広い場所に出たぜ。進むぞ」
雁斗が足を踏み出す。
「雁斗さん!」
甲多が指を指す。
「……間違いねえ、深覚水の泉だ!」
三人の目の前に、透き通った水が沸き出ている泉が確かにあった。
「綺麗な水だぁ」
甲多が水に触れる。
「甲多!? 迂闊に触れたら!」
「大丈夫だよ? ……あ……れ?」
甲多の身体が泉へと沈んでいく。
(身体が勝手に!?)
「甲多!」
「雁斗! この水は危険だ。触れたら持ってかれるぞ」
斬牙が制止する。
※ ※ ※
「……水の中……? なのに喋れる!?」
気が付くと、甲多の周囲に異変が起きていた。
「どうして……父さんの姿が」
半透明の姿の父の姿が在った。
「何なの。幻影? でも何か違和感が」
周囲の景色は屋内、屋外問わず、次々と変わっていく。
「もしかして……僕の記憶なの?」
甲多と両親が並んで歩いている。
「僕の記憶を元に、僕の心を映してるの?」
甲多の心臓の鼓動が高鳴っていく




