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抹殺師  作者: 碧衣玄
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深覚水

《出せ……出せ》


「……何か言ったか……」


「どうしたのさあ、雁斗さん。昨日から様子がおかしいよ?」


「またかよっ! 何なんだ、まったく!」


 雁斗が髪を掻きむしる。


「レクイエムとの融合の影響か」


「それはねえと思う。どっちかっていうと、大王の影響かもしれねえ」


《解き放て》


「けっ! 隙ありゃ、俺の身体を乗っとる気だろ」


「レクイエムの魂は滅びたのに、大王の魂は残っているのか!?」


「簡単には、くたばりそうにはねえが。心臓が動いてる限り、細く長く抵抗してやらあ!」


 雁斗は、心臓に手を置いた。


「無茶するなよ。アノンってのとの戦いには、お前の力が不可欠だろうからな」


「斬牙に心配されるたあ、俺も落ちたか?」


「おまっ!? 人が心配してやってるのに」


「誰も頼んでねーよ」


《解き放て》


「大人しくしてろっての」


 雁斗は、小さく呟いた。


「雁斗さん。今日は、うちに泊まりなよ。僕だって心配だよ」


「サンキュー。正直助かる」


「気にしないでよ」


 甲多がニコッと微笑む。


「ん? あれ、何で舞莉愛が……」


 斬牙が、美加の家の前で立っている舞莉愛に気づく。


「あら。皆さん、御揃いで」


「家に帰ったんじゃないのか」


「わたくし、今日はお泊まりなんですよ」


「そうなのか。家には伝えてあるのか?」


「はい。斬牙くんもお泊まりなのですか?」


「いや、特には」


「どうせ明日は学校休みだし……斬牙さんも、どう?」


「甲多に誘われちゃあ断れないな」


「ありゃ? 皆揃ってどしたの」


 美加が玄関から出てきた。


「皆さん、お泊まりのようです」


「えー! なんなら皆一緒に泊まらない? 抹殺師の事で大変なのは分かるけど、気付かずに溜まってるストレスを吐き出さないと参っちゃうよ」


「み、美加!? 流石に一緒は……」


「良いじゃん! お泊まり会!」


 羅阿奈も合流する。


「羅阿奈」


「皆が盛り上がっているときに、なんてツマンナイ顔してんの。あんたがツマンナイと、私も調子狂うからシャキッとしてよね!」


 羅阿奈が雁斗の背中を景気付けに叩いた。


「痛って!? 相変わらず乱暴なやつ」


「痛いって思えるうちが花ってね!」


「なんじゃそりゃ?」


 雁斗が、叩かれた背中を気にしながら溜め息をつく。


「甲多の家にゴー!」


「美加、待ってってー」


「まったく……騒がしいな。休まらねえぜ」


 そう言いながらも雁斗の表情は明るくなっていた。


※ ※ ※


「オイ。どこ中なんだぁ? 俺に許可なく歩いてんな!」


「誰?」


 陽も落ちかけた頃、アノンは不良に絡まれていた。


「俺を知らないだあ? いい度胸だなあ!」


 不良が、落ちていた空き缶を壁に蹴る。


「知らないって。興味ないし」


 アノンは、素っ気ない態度で歩き出す。


「無視すんじゃねえ!」


 不良は、空き缶をアノンに蹴る。空き缶は後頭部に当たるが、アノンは相手にしない。


「コノヤロー! ブッ殺されたいか!」


「殺せるの? オラ強いよ」


「舐めんな!」


 不良が殴りに掛かる。


「……別に……」


 アノンは、振り返りもせず裏拳を不良の顔面に食らわせた。


「!?」


 不良は堪らず顔面を押さえる。


「……別に……舐めてないっけど。ま、いっか」


「ま、待ちやがれ……名前、言え」


「アノン。もういい? オラに絡むの勘弁してくれ」


「俺は、お前に興味が湧いた。喧嘩で俺を負かす奴に久々に会った!」


「オラは、微粒子レベルで興味がない。夜は長いんだ。早く帰れって」


 アノンが暗闇に消えていった。


※ ※ ※


「ほれ。味の保証はできねえが」


 雁斗の手料理がテーブルに振る舞われる。


「親子丼だあ!」


 甲多が目を輝かせる。


「美味しそうです!」


 舞莉愛が感動している。


「んな大層なもんじゃねえよ。冷めねえうちに食べな」


「「いただきます」」


 雁斗の親子丼を一斉に食べる。


「う!」


 羅阿奈が黙る。


「不味かったか?」


「美味いわね……意外だわよ」


「そいつは良かった。何にしても褒められるのは悪くねえ」


「ホントに美味しい! 雁斗君って何者!?」


 美加も驚きを隠せないでいた。


「うん、おいしい。大勢で食べると更においしい」


「甲多?」


「えへへ。親子丼を食べてたら、父さんのことを思い出しちゃった。去年は帰ってこれなかったし、やっぱり寂しいなーって」


「悪りい。気ぃ使えなくてよ」


「雁斗さんは悪くないよ! 勝手にしんみりしちゃってる僕が悪いんだから」


「……たまには吐き出せよ。美加じゃねえが、溜めすぎて壊れたら元も子もねえんだ」


「ありがとう……雁斗さん」


 甲多は、口いっぱいに親子丼をかっ込んだ。


「あのー、雁斗くん。気分は平気ですか?」


 舞莉愛が訊く。


「今は、な。舞莉愛にも心配掛けてたとはな……反省、反省」


「お友達ですし、斬牙くんも気を掛けていました」


「舞莉愛!? 言わなくてもいいって」


 斬牙が動揺する。


「すっかり尻に敷かれてんな」


「誤解だぞ!」


「いーぜ、いーぜ。ごっそさん」


 雁斗が食べ終わり、手を合わせる。


《目覚めを求め》


「よし。行くか」


「雁斗さん、どこかに行くの?」


「レクイエムの記憶にあるんだ。妙な池なんだけど」


「妙な池?」


「深覚水という特別な水があるらしい」


「深覚水? 聞いたことあるわよ」


 羅阿奈が言う。


「本当か!」


「風の噂だけど。浴びれば最後、命の保障はないらしいの。別名、死の水……だったかしらね?」


「雁斗さん、危険だよ!」


「うんや。尚更、興味が湧いた。この目で確かめてみてえんだ」


「俺も行く。二人だけじゃ心配だ……気になるし」


 斬牙が舞莉愛をチラ見する。


「わたくしのことは気にせず、任を果たして下さい」


 舞莉愛が親子丼を完食する。


「良いのかい?」


「わたくしは、斬牙くんを信じていますから」


「!」


 舞莉愛の笑みに、斬牙の顔が赤くなった。

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