勝手気ままに
「やっぱ、見下ろすほうが面白い。よっ!」
ビルの屋上から少年が飛び降りる。
「子供が!?」
通行人が立ち止まり、少年の安否を気にする。
「あらら? 大勢に囲まれちった。ま、いっか」
少年は、注目する人混みを飛び越えていく。
「ビルの屋上から飛び降りて何ともないのか!?」
「何者だ!」
(目立ちすぎたか? ま、いっか)
少年は、平日のオフィス街を抜けて、裏路地に入っていく。
「どこもかしこもビルビルビール。堅っ苦しいスーツなんか着ちゃって! つまらない」
少年の視界にスーツを着た人達が歩いている。昼時なのだからか、あちこちに行列が出来ている。
「やっちゃおー」
ランチの行列を通り過ぎていく。通り終わる頃には両手に物が溢れていた。
(スリが安易な程に、この国は平和ボケだね)
建物の陰に隠れ、煙草に火を着ける。
(危機感無さすぎ、落ち着きすぎ)
少年が煙草を近くのコンビニのゴミ箱に放る。
「ゴミ箱が燃えてるぞ!」
「早く消火を!」
コンビニを通り掛かった人々が慌てふためく。
「これでいいのさ。平和ボケを治すには良い薬だ」
少年は、掏った菓子を頬張りながら、騒ぎを背中に歩いていく。
「およ? 冷獣だ!」
少年が一直線に向かっていく。
「ガアアアア!」
「捕まっえよう!」
少年はボールを蹴るが如く、冷獣を蹴っていく。
「ガアアアア!」
冷獣の口から光線が放たれるが、少年は簡単に避けていく。
「転送されろっての!」
少年の掌が冷獣に触れた瞬間、冷獣は一瞬にして消えてしまった。
「手下、ゲットだぜ!」
少年が高らかに勝ち誇るなか、消防車や救急車のサイレンが鳴り響く。
「光線が当たった程度で大袈裟だって。危機感を持ってれば、避けられたかもなのに。平和ボケ過ぎるよ」
少年は、空を翔ぶ。
「空から見ればちっぽけだ。人間ですら蟻に見える。全てが馬鹿らしい……バッカな奴等だ」
少年は、瞳を閉じる。
「どんなにちっぽけでも死んだら終わり。そんな常識なんかクソ食らえ! オラが生き返らせてやるよ! オラが冷獣を抹殺してやるよ! オラが世界を破壊してやるよ! 常識を破壊してやるよ!」
少年が大きく息を吸う。
「オラ、アノンが変えてやるー!」
アノンの叫びが空に消えた。
※ ※ ※
「ヘックシ!」
「雁斗さん、風邪引いた?」
「うんや。誰か噂してんな?」
《騒がしい》
「斬牙、何か言ったか?」
「何も。腹が減って幻聴でも聞いたのか?」
「んなわけあるか」
「雁斗さん。お待ちかねのお昼だよ」
昼を告げるチャイムが鳴った。




