光を感じて
「たっく! 結局、一週間経って詳細を掴めずか」
「藤さん。そうやってムシャクシャをぶつけられても対応に困りますよ」
「黙れって! 世間じゃ無能だ何だと好き放題言われてるし。実際、成果なんかないしよ」
「警察が無能じゃ困るってのは分からずもないけど」
「言われてるときは、とんでもなく気分悪いが!」
藤は、おもむろに煙草に火をつけた。
「ふーじーさーん!」
「……堅いこと言うなって。一本、二本で死にやしねえよ」
「ダメです! 藤さんの身体は、もう藤さんだけの身体じゃないんですよ!?」
「……やれやれ……人気者は辛いねえ……」
藤が堪らず火を消した。
「それでいいんです! 赤ちゃんの為にも長生きしないと!」
「言われなくてもそのつもりだ」
藤は、警察手帳をペラペラとめくる。
「そんだけ情報を得ていながら、まったく真相に辿り着けないなんて災難ですね」
「他人事のように言うなよ!」
藤が同僚の頭を手帳で叩く。
「でも悔しいですよ。あの白い化物が、実は普通の動物だったなんて……。しかも専門家がいて、特殊部隊以上の戦力なんて……悔しいです」
「あるんじゃないかよ? 悔しさが。素性の掴めない奴等が人知れず戦っていて、正義の味方の警察が手も足も出ないなんてな。……無能、か」
藤は、手帳に挟んである写真を見る。
「誰ですか?」
「うーん。飲み仲間ってとこだ。最近じゃ、思春期の息子に手を焼いてるみたいだがよ」
藤の手にする写真に、迅が写っていた。
※ ※ ※
「あれから一週間。雁斗さん、起きないの?」
「起きないよ。死んでるみたいに」
迅は、優雅にコーヒーを飲んでいる。
「このまま起きなかったらどうしよう!?」
「甲多君。君が心配しても状況は変わらない。気楽に待ってやってくれ」
「うん」
甲多は、外を眺める。
「……螺雨君、元気でやってるかな?」
「たよりがないのはなんとやら。元気でやっているだろう」
「だよね。僕、心配性だったかな?」
「どうだったかな? 頑固なイメージが強いけど」
(あんな事の後だ。自分のことだけでも精一杯だろうに……。ほんと、君は頑固だよ)
迅がコーヒーを飲み干した。
※ ※ ※
(……誰だ……)
雁斗は、女性の後ろ姿を見て思う。
(……待ってくれ!?……)
女性に手を伸ばすが、その手は届かない。
(俺は……知っているのか!?)
女性はただ、笑みを浮かべて走り去っていく。
(俺は、雁斗だ! 桜庭雁斗!)
(……知ってる……。けれど……)
女性は、口元に人差し指をかざしながら呟く。
(ちょっと!?)
雁斗の前から女性が消えていく。
(……まだ駄目よ? 彼をお願いね?……)
女性が消えた。
(彼? 誰の事だよ!?)
雁斗の手には、真新しいミサンガが有った。
※ ※ ※
「!」
雁斗が勢いよく飛び起きた。
「……いまのは!? ……あのミサンガは!?」
雁斗は、ミサンガを見る。
「俺のミサンガ……だった。抹殺師の証……リストバンドと対をなす証」
雁斗は考える。
「ミサンガを作ったのは誰だ?」
ドアを叩く音がする。
「起きたのか」
迅が返事を聞かずに入ってきた。
「ああ。……俺、生きてんだよな?」
「少なくとも死んではないねえ」
迅は、マグカップを片手に雁斗を見る。
「なんだよ? ジロジロ気持ちわりー」
「背が伸びたんじゃないか? ついでに髪も」
「んな簡単に伸びるかって」
雁斗が立ち上がる。
「ほれ。十センチ伸びてるか」
「……マジかよ!? 一気に伸びすぎだろ」
「レクイエムの影響かもな。あいつの若返った身体と融合した分、成長が早まったか?」
「それじゃ俺、一気に老けんじゃねえか!」
「老けれればいいがな」
「どういうこったよ?」
「……レクイエムの身体は、もう限界だったんだ。そんな身体と融合したら、お前自身も危ういぞ」
「あんにゃろー! なにが土産だ。かえって爆弾抱え込んじまったじゃねえか!」
「まあ、信じるしかない。確信がなければ命を捨てることもないだろうからな」
「そうだな。一度は死んだ身だ。わがまま言えねえよな」
「そういうことだ。さっさと着替えろよ? いきなり食べるのはキツいだろうが、コーヒー牛乳なら飲めるだろう」
迅が部屋を出た。
「大王は、不死だって言ってたな」
雁斗は、軽く伸びをした。




