新たなる抹殺師
「うー……」
雁斗が朦朧とする意識のなか、自分の状況を確認する。
「俺ん家? ……なんで……」
「助けてやったんだ。感謝しな」
「……親父……親父!」
雁斗は驚く。
「お前なあ。父親が自宅にいて驚くなよ……軽くショックだぞ?」
「少しの間、外に出てくるって出掛けたのはどこの誰だったか!」
雁斗は髪を掻きながら言う。
「いくらなんでも、用が済んだら帰ってくるぞ? それともお前は、俺が居たらマズイのか?」
「だったら冷獣を一匹でも多く倒せよ! そうすりゃ苦労せずに済んだのによ」
「気配は判ってたんだがよ。両手に荷物を持ってて無理だったんだ。許せ、息子よ」
「……ああ~、息子の命よりも買い物の荷物かよ……。呆れるわ~」
雁斗が溜め息をついた。
「そんなに責めちゃダメだよ、雁斗さん」
甲多が雁斗に水を渡した。
「お、悪りい……じゃねえ! なにやってんだ!? 甲多、お前怪我は!?」
「迅さんが傷を塞いでくれたんだあ~。おかげでバッチリだよ!」
「親父のそれは、治療なんかじゃなくて、ただ傷口を塞ぐだけだ! 本当に大丈夫なのかよ!?」
「僕は大丈夫だよ。心配してくれて嬉しいな」
甲多は笑みを浮かべる。
「なら良いけどよ……」
雁斗は水を飲む。
「雁斗。甲多君が抹殺師に興味をもっているみたいだが、どうなんだ?」
「ゴフッ!?」
雁斗は思わず、口に含んでいた水を吹き出す。
「だらしがないぞ?」
「……誰のせいだ! 親父にだけは知られたくなかったのによ……」
「俺は甲多君が望むなら、抹殺師にしても構わないと考えている」
「甲多には何度も言ってるけど、俺は反対だ! わざわざ辛い思いをする奴を増やしたくねえ!」
雁斗は自分の経験から意見を言った。
「一人でも抹殺師が増えれば、お前の負担も軽くなるだろう? 俺はそう考えてる」
迅の顔つきが真剣になる。
「気持ちは嬉しいけどよ……」
「僕の決心は変わらないよ! 僕は雁斗さんの手助けをしたいんだ!」
「……はあ。この頑固者が~」
雁斗は甲多に押しきられた。
※ ※ ※
「スゴーイ!! 地下にこんな場所が有ったなんて」
甲多は迅に地下室に案内された。
「甲多君。俺はこれでも人の親だ。雁斗を抹殺師にしたのも不本意だった……あいつは恨んでるかもしれない」
「雁斗さんは迅さんを恨んでなんかいないですよ。抹殺師になったのは不本意かもしれないけど、雁斗さんは抹殺師に誇りを持ってます!」
「……だと良いけどね」
迅は地下室の水晶に触れていく。
「甲多君、この水晶に触ってみなさい」
「はい」
甲多は渡された水晶に触る。
「わっ!?」
甲多は驚いて水晶を落としてしまう。
「反応が有ったということは、甲多君はこの水晶で抹殺師になれる筈だ」
「……でも……この痺れは?」
「抹殺師になるには、その痺れを克服しないといけないんだ」
(雁斗さんの言ってた激痛って……これかな?)
甲多は水晶に触れる。
「ぐっ!! ……うぅ……!?」
甲多が膝をつく。
「甲多君、離したほうがいい。それ以上、水晶を触っていたら身体がもたないぞ!」
「うわーあああああ!!!!!?」
甲多の身体を激痛が走る。
「甲多君!!!?」
迅が近づこうとするが、あまりの電撃の衝撃に近づけない。
「甲多!?」
雁斗が地下に降りてきた。
「来るな雁斗。お前も怪我をする!」
「……なんだよ……あれは!? 俺のときも、あんな感じだったのかよ!?」
「お前の頃よりも酷い。それほど……甲多君の潜在力が凄いのだろう」
「冷静に言ってる場合かよ! 無茶はさせれねえ!これ以上、俺の友達に辛い思いをさせたくねえ!」
雁斗は電撃を避けながら甲多に近づく。
「雁斗さん……」
「もういい! 離すんだ。これ以上は見てらんねえ! 手すれば死ぬんだぞ!」
「僕は諦めないよ……絶対! ……雁斗さんの重荷を軽くしたいし、迅さんの心配を……軽くしたいし……それに!」
甲多が倒れこむ。
「甲多!!」
「……それに……冷獣になった動物を助けてあげたいんだ……だから」
甲多の触れていた水晶から電撃が止む。
「雁斗、甲多君は!?」
「……やりやがったよ。たくっ……満足そうな顔で気を失いやがってよ! 心配させんじゃねえ」
気を失いながらも満足そうな顔をしている甲多の手首には、リストバンドがあった。
「親父、甲多を運ぶのを手伝ってくれ」
「しょうがないね~。友達の一人も担げないのか? だらしないな~」
「……頼んだ俺が間違いだった」
「冗談だよ。真に受けんな」
迅が甲多の腕を肩にまわす。
「分かってるよ、んなこった!」
雁斗と迅は甲多を担いで一階に上がった。




