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抹殺師  作者: 碧衣玄
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王による絶望

「……」


(肺がやられて声が出せない)


 秋良が肺に刺さった刀を引き抜こうとするが、呼吸が出来ず、力が入らない。


(こんな筈じゃなかった)


「王が罰を与える。死という圧倒的な罰を」


 金色の毛を輝かせながら、冷獣人が迫る。


(雁斗が死んだ。こっちも深傷を負っている。燐は、気を失っている)


「せめてもの救いとして、その刀で絶たせてやろう」


「ぐぅぅはああ!?」


 秋良から刀が引き抜かれる。


「死を」


 秋良に刀が振るわれる。


「疾風斬!」


 素早い風が、冷獣人を吹き飛ばす。


「秋良さん!」


「……ごふっ……」


「肺が!?」


 甲多は秋良と燐を抱えながら、冷獣人と間合いを取る。


「邪魔をするか、人間。王に歯向かうか」


「邪魔? 僕は、この場から去るだけだよ」


「そいつを置いていけ。殺さなければ」


「やっだ!」


 甲多が風を纏って飛んでいく。


「逃がさん!」


 冷獣人の尾が伸びて甲多達に襲い掛かる。


「させん!」


「なんだと!?」


 冷獣人は、尾を掴まされ投げ飛ばされる。


「……行け、甲多。ここは、我と斬牙ので対応する」


「うん。気を付けて! きょうさん、斬牙さん」


 甲多は、羅阿奈の元に急ぐ。


「斬牙の、どうするか」


「貴方に合わせる。ダガー」


 斬牙が剣を構える。


「愚かな。これを見ても歯向かえるか?」


「「!?」」


 二人の目の前に、息絶えた雁斗が掲げられる。


「王の手によって裁かれた。憐れな最期だった」


「そ……んな……」


 斬牙が動揺する。


「斬牙の! 隙を見せれば殺される」


 ダガーが仕掛ける。


「温い。それでは壊せん。人間」


 冷獣人の爪が、ダガーを激しくえぐる。


「浅い!」


 ダガーは光線を放ち、治癒術で傷口を塞いだ。


「かあ!」


「てい!」


 ダガーと冷獣人が光線をぶつけ合う。


「今のうちに雁斗を連れていけ。諦めるには早い」


「くっ……!」


 斬牙は、倒れている雁斗の元にいく。


「雁斗!」


 斬牙は懸命に雁斗に呼び掛けるが、その声は届かない。


「死ぬな!」


 斬牙は、雁斗を連れて走り出す。


「はああ!」


 ダガーが光線の威力を上げて爆発を起こした。


「急ごう」


 ダガーの急加速で退避した。


「……まあいい……。いつでも殺せる」


 王の体毛は、さらに金の輝きを増していく。


※ ※ ※


「羅阿奈ちゃん、それは本当かい!?」


「はい。このままじゃ、住居も襲われます」


 羅阿奈は、病院で迅達と合流していた。


「お嬢ちゃん、また魔癒術を使ったのか?」


「緊急でしたから」


「魔癒術のデメリットは知っているだろう!?」


「記憶喪失ですよ? 知ってます。知ってるけど、それでも命には代えられません」


「若いのが、犠牲心を持っていてはならんよ。生きることに疑問を持ってもならん」


「なら、いい大人が手本をみせてよ。生きる希望を」


「大人をからかうかい」


「そう。だから生きてよ! 迅さんの奥さんの分も、雁斗のお母さんの分も」


「同一人物じゃないか」


 レクイエムが笑う。


「ようやく笑った。こういう事態だからこそ、笑顔を忘れちゃダメ。こんなこと、さっさと終わらせて、子供を笑顔にしてちょうだい」


 羅阿奈がレクイエムの背中を押す。


「やれやれ……似ているな、お嬢ちゃんと紫は。目上でも遠慮がない」


「あいつと似ているってー!? 冗談よ」


「お! そういう表情もイケるよ?」


「レ、レクイエム!」


 羅阿奈の顔が赤くなる。


「……悪かった……。さてと、行きますか、現場に」


「羅阿奈さんんんん!!」


 甲多が駆け込んできた。


「甲多君!?」


 羅阿奈は甲多に驚くと同時に、秋良と燐に気付く。


「秋良君! 燐ちゃん!」


「燐ちゃんは気を失っているだけだけど……秋良さんは、肺をやられちゃってるんだ!」


「それじゃ魔癒術で……」


「お嬢ちゃん、魔癒術は使わんほうが!?」


「言ったでしょ? 命には代えられないって」


 レクイエムの忠告を無視して、羅阿奈は魔癒術を使った。


「……ここは……」


 秋良が言葉を発する。


「気分はどう?」


「助かった。助かった……助かった!?」


「どう……したの?」


「羅阿奈! 大変だ!」


 秋良が羅阿奈に詰め寄る。


「どうしたのよ? 秋良君」


「……雁斗が……死んだ!」


「え!?」


 羅阿奈の表情が曇る。


「秋良さん、それってどういうこと!?」


 甲多も訊く。


「そのままの意味だ」


 慌ただしく足音が迫る。


「はあはあ……気配を追って正解か!」


 斬牙が雁斗を連れてきた。


「雁斗!!」


 羅阿奈が近づく。


(……息がない……鼓動もない!?)


「なんなの!?」


 羅阿奈が雁斗の胸に手を当てる。


「……心臓が……無い!?」


「何があったんだ!」


 迅が斬牙に訊く。


「俺は、冷獣人から見せつけられて」


「オレが話す」


 秋良が事情を話した。


「……!」


 迅が病院を飛び出した。


「行くしかない」


 秋良も病院を出た。


「甲多、ラー嬢を頼む」


 斬牙も病院をあとにする。


「……甲多君……お願い。私を殺して」


「なに言ってるの!? 命には何も代えられないよ!」


「そう、だからよ。私にとって、あいつは命に等しいから。今の私が存在してるのは、あいつのお陰だから」


「羅阿奈さん……やっぱり」


「好きになってるよ。いつの間に」


 羅阿奈が涙を流した。

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