何事も経験
「おい、レクイエム!」
「ん? 記録更新か?」
アイマスクをしながらレクイエムが答える。
「知るか! タイム測ってる筈のあんたがその様じゃな!」
「更新ならずか」
レクイエムは背を向ける。
「一体いつになったら、俺達に修行つけるんだ!」
「つけてほしければ、課題をクリアしろ」
「……素潜り、魚の素手掴み、息止め、走り込み、崖登り……課題は全部クリアしたんだ。あとは、あんたから実技の修行をつけてもらうのみだ」
「そう急かすな。夏休みは簡単に終わらんぞ」
「……今日で終わりだ……」
雁斗の視線がレクイエムを捕らえて放さない。
「う、うそ!? 嘘だって言え」
「無理だ。時間は残酷に過ぎていく」
「ぬ~! 私としたことが、悠長に構えすぎていた」
「早くしろ。本当に」
「分かった」
レクイエムは立ち上がると準備運動を始める。
「雁斗さん、あまりレクイさんを困らせないの」
「わーてるよ。ただ、時間が無いのは現実だからな」
「分かってるよ」
雁斗と甲多も準備運動をした。
「お前達が、この夏休みの間、抜かりなく課題をこなしていたならば、私に一撃かませる筈だ」
「やってやらあ」
雁斗が構える。
「掛かってね。好きなタイミングで」
(んにゃろー! 嘗めやがって!)
雁斗は平手を放つが避けられる。
「ラーラーラー♪」
レクイエムは、後ろに手を組ながら鼻歌を奏でている。
「真面目にやりやがれ!」
雁斗の足がレクイエムの顔を狙うが、ことごとく避けられる。
「私、真面目なので」
レクイエムが体勢を低くして、そのまま左足を蹴り出した。
「とっ!?」
思わず雁斗が体勢を崩す。
「真面目にやれ」
「ちっ!」
雁斗が回し蹴りをするが、レクイエムは左足で受け止めると、そのまま足を掴み投げた。
「五月蝿いのは口だけだねえ」
「手ぇ、使いやがったな!」
「誰も使わないとは言っていないが?」
「その余裕を吹き飛ばしてやらあ!」
雁斗は抹殺器を振りかざす。
「ばか、だー」
レクイエムが、トンと足を鳴らす。
「……いっ!?」
「そんなに隙だらけで向かってくる奴がおるか」
(動か……ねえ)
「キミ達がこれから戦う相手は、これまでの常識を凌駕しているのだよ? それなのに、よく言えば堂々、悪く言えば無謀だ。戦略も何もない」
「……そこ!」
「ん?」
レクイエムを強力な風が襲う。
「キミ達って言いながら油断してるよ、レクイさん」
クナイを構えて甲多はほくそ笑む。
「あっぱれ……だがねえ」
レクイエムが足を踏み鳴らす。
(出た! レクイさんの金縛り)
「脇が甘い」
「……あんたが、な」
雁斗がレクイエムを押し倒す。
「ほう」
レクイエムが感心している。
「解けた!」
甲多が身体を動かす。
「足は封じた。金縛りは使えねえぜ!」
「仕方ないねえ」
「あん?」
「よっ!」
レクイエムが姿を消した。
「消えやがった!?」
雁斗は辺りを見渡す。
「しまっ!?」
雁斗の視線の先に、甲多とレクイエムが居た。
「まずは……」
「脇が甘いよ、レクイさん」
甲多がクナイを振りかざすと、突風が巻き起こった。
(凄い風だねえ)
「どう、かな? やっと完成したんだ。名付けて……突風斬!」
甲多が、ほくそ笑んでいる。
「よろしい」
レクイエムが手を叩く。
「合格……かな?」
「合格点ではあるが満点ではない。日々精進だよ?」
「はい!」
甲多が意気込んだ。
「……さて、むらさ……」
「雁斗だってんだ!」
「む!?」
雁斗の膝蹴りが、レクイエムの顔にヒットした。
「どうだ? 俺の膝蹴りに合格くれよ」
「紫。年上には礼儀を……」
「年下に憧れを抱かせてから言えってんだ」
「流石は親子だ。遠慮がない」
レクイエムが呟いた。




