砕かれた真実
「あ! 甲多お兄ちゃん。こんにちは!」
「こんにちは、螺雨くん。雁斗さんと迅さん、居る?」
「うん!」
「よかったあ! 案内しといて空振りだったら悪いからね」
甲多がレクイエムを見る。
「私は空振りでも構わなかったよ?」
「何回も来るの大変だもん」
甲多とレクイエムは歩きだす。
(今の人、誰だろう?)
螺雨は首を傾げた。
※ ※ ※
「聞いてねえぞ!? 魔癒術に、んなデメリットがあるなんて!」
「そうなのか。きっと、お前に気を遣ったんだ」
「羅阿奈が気を遣う理由がねえ!」
「そうかねえ? 女の子のほうが精神的に大人だからねえ。案外、分からないぞ?」
「意味わかんねえ」
雁斗は首を傾げた。
「ごめんください」
「おい、お客さんだ」
迅が顎で雁斗を使う。
(自分で出ろや!)
「ごめんください。甲多です……あ、雁斗さん」
「甲多! どした? 何かあったか!」
「そんなに驚かなくても……」
「何でもなけりゃあいいんだ。入れよ」
「うん。お邪魔します」
甲多が入る。
「……で、あんたは?」
雁斗が警戒の目でレクイエムに訊く。
「名前を訊くときは、まず自分から名乗るものだ」
「ここは俺の家だ。つまり、主導権は俺だ」
「……レクイエムだ」
「……は?」
雁斗が目を丸くする。
「レクイエムだと言っている。聞こえなかったのか?」
「……ざっけんな! 俺の聞いているレクイエムは、そんな子供じゃねえ!」
「人を見た目で判断するような子供に育て上げたのか? 迅」
「!?」
迅もレクイエムを見た。
「本当に……レクイエムなのか!?」
迅も目を丸くする。
「……呆れたものだ……。親子揃って、行動が同じとは」
「……雁斗、どうやら本人らしい。通そう」
「マジかよ!?」
レクイエムも、中へ入った。
※ ※ ※
「レクイエム、一体何があった。話せ」
「十年振りの再会なのに涙も無しと?」
「お前の変わりように驚いて、それどころじゃなくなった」
「まあいい。茶をくれ」
レクイエムが椅子に座った。
「客なら客らしく畏まれってんだ!」
「それが、お客に体する持て成しか? 紫」
「俺は紫じゃねえ! 雁斗だ!」
「なんでもいい。茶を出せ」
「さっき淹れたばっかのコーヒーで勘弁してくれ。緑茶は切らしてる」
「勘弁してやろう」
(こんのヤロー~!)
雁斗はカップにコーヒーを注ぐ。
「話が途切れたな。さて、どこから話そうか」
「最後に会った日から話せ」
「と、言われても……長くは喋りたくない。ざっくり言うと……代償に若返った、だ」
「ざっくりしすぎだ。それに、何を代償に若返ったんだ? トンデモ実験の影響なのは想像つくが」
「寿命をちょいと減らしたんだ。なーに、二十年縮まっただけだ。余計な感傷は要らんよ」
「何のために若返った。目的もなしに」
「目的はある。冷獣を抹殺するためだ」
「……それなら俺達に任せとけば……」
「悠長なことを言っている時間は無い。あと……一 年で日本は滅びる」
「どういうことだ?」
「この間、都心で暴れちゃってたな。ご苦労なことだ」
「はあ!? あんた、あの場に居たのかよ!」
コーヒーをもてなしながら雁斗が加わる。
「偶々だ。私も加わっても良かったんだが、いまいち気が乗らなくてね」
レクイエムはコーヒーを飲む。
「こっちは命のやり取りだったんだぞ!」
「知らん。大体、あんなザコに手こずっている時点でダメだが」
「んだと!?」
「……雁斗、ちょいと退け。話が途切れた」
「……ちっ!」
雁斗が椅子に座る。
「それで……あと一年で日本が滅びるとは何だ」
「冷獣が進化している、と言えば簡単か?」
「進化?」
「そうだ。猿が人に進化したように、冷獣も進化している」
「んなっ!?」
雁斗が反応する。
「なんだ、紫。過剰反応だ」
「雁斗だ! あんたと同じことを言ってたんだ、ラグナロクが!」
「ラグナロク? へえ~、ヤツが」
「へえ~、じゃねえ! てか、やっぱりラグナロクと繋がってやがったか!」
「やっぱり?」
「俺達が都心でやりあってたのがラグナロクだったんだ。ラグナロクから水晶玉の元を渡された。そんで親父から聞き出した結果、あんたにたどり着いたんだ」
「随分と遠回りな」
「しゃーねえだろ……親父が抹殺師の事を何も話してくれなかったんだ」
「うん? 紫、お前は抹殺師なのか?」
「今更かよ!?」
「結局、遠回りとはいえ、迅から話を聞いたのだろう? よくそれで抹殺師を続けてられるな?」
「どういうことだ?」
「……宇美を冷獣に殺されているんだ。普通なら、恐ろしくて見ることも避けたいだろうに」
「レクイエム!!」
迅が会話を遮る。
「誰だよ、うみって?」
「おかしな子だな? 母親の名前を知らないのか?」
「……な、なに言って……お袋は事故で……」
「事故? 迅、ちゃんと子供に伝えなければ駄目じゃないか」
「事故で……死んだんだろ!?」
「……」
迅が黙る。
「宇美は、冷獣に殺されたんだよ。周りには事故死で通すと言っていたが、まさか息子にまでとはね」
「なんだよ……なんだよ!?」
「冷獣の存在を隠すためとはいえ、辛かったのは解るが、同じ辛さを息子にまで持ち込むな。早い段階で伝えれば、辛さが薄れていくのが早かっただろうに」
「雁斗には……冷獣に対して……邪念を持たずに向かってほしかった」
「親父!?」
「騙して悪かった」
「……他は……他には! 他に騙してることは!」
「冷獣の祖の行方を知らんと言ったが、本当は知っている。冷獣の祖は……俺が殺した」
「いつだ!」
「十 年前、宇美が殺されたときに。その場で」
「……ふざけんなあああ!!」
雁斗がリストバンドを外して叩きつけた。
「雁斗さん!?」
甲多は雁斗を追い掛けた。




