逃走
「お婆さん、何も見てないって」
甲多が古商店から戻ってきた。
「それは残念。しかし、いつまでも逃げれる程、世の中広くなかったりするんだよ」
「え?」
「どれ。空を飛んでみせよう」
少年が靴の爪先を地面に当てると空に浮いた。
「と……飛んじゃった……!」
「驚くのは早いよ? もっと凄いことしちゃうよ」
少年は空中で蹴ると、加速する。
「ちょっ、どこいくの!?」
甲多は必死に追い掛ける。
「見つけた」
少年は降り立つと、勢いよく蹴り飛ばした。
「蹴っちゃった!」
「慌てなさんな。怪我は浅い」
「誰だ!?」
起き上がった男が、打ち付けた額を押さえながら訊く。
「人に名前を訊くときは、まずは自分から名乗るものだろう?」
少年は冷静に返す。
「誰が名乗るか!」
「それは残念だよ。やっと名乗れると思ったのに」
「ふざけてんのか!」
「人を刺しといて、必死に逃げ回っている奴に言われたくないよ」
「なっ!?」
「もう、警察に粗方話してある。逃げれる可能性が狭まったでしょう」
「け、警察が怖くて空き巣ができるかって!」
男が刃物で威嚇する。
「私を刺すのか? ムダな行為だ、お引き取り願おうか」
「さっきから嘗めた口を!」
男の刃物が迫る。
「お馬鹿な空き巣だ」
少年が靴を踏み鳴らすと、男の動きがピタリと止まる。
「うごけねえ……!?」
「私に喧嘩を売ったんだ……覚悟はいいな?」
少年は指を鳴らすと、男の腹を貫いた。
「……が……!?」
「これに懲りたら辞めることだ。空き巣をね」
少年が男の傷口を押さえる。
「……すまないが、警察に連絡を頼むよ。逃げられたら面倒だしね」
「……うん……」
甲多は動揺しつつ通報した。
「うん? そういえば、私の名前を言ってなかったね。私の名前は、レクイエムだよ」
「レクイエム……か。僕の名前は、甲多。よろしくね、レクイさん!」
「レクイさん、か。好きに呼ぶといいよ」
レクイエムが男の傷口から手を離した。
(傷が治ってる! ……ということは、この人は抹殺師かな?)
「どうしたんだい? 甲多。私の手に何か付いてるかな」
「ううん!? 何でもないよ」
(リストバンドを着けてなかった。じゃあ、抹殺師じゃないんだ)
「甲多よ。尋ねたいことがあるんだが」
レクイエムが甲多に写真を見せる。
(えっ……なんで……迅さんが!?)
「この写真の男を知らないか? 暫く連絡を取り合っていないのでな、居場所が変わっているかもしれん」
「……知ってるよ。友達のお父さんだもん」
「そうなのか! それは助かる!」
「一緒に行こうか?」
「会ったばかりなのに悪いね。警察に男を引渡したら行こう」
「うん」
(なんだろう、この人に感じる違和感)
甲多は、レクイエムを警戒する。




