接触
「母さん、ちょっと出掛けてくるよ」
甲多が靴を履く。
「雁斗君の家に?」
「ううん。レオの様子を見たいんだ」
「そう。あまり遅くなっちゃ駄目よ?」
「はーい」
甲多は玄関を出ると、レオの家に歩いていく。
※ ※ ※
「……暑いなあ……」
日除けに帽子を被っていても汗が吹き出している。
「いるかな」
レオの家に着くなり、犬小屋を覗きこむが、レオの姿が見当たらない。
「家の中かな?」
甲多が呼鈴を鳴らすも応答がない。
「おっかしいなあー。この時間なら間違いなく居るのに」
「ワン!」
「?」
「ワン! ワン!」
「レオ!?」
甲多が勢いよく玄関に向かう。
(開いてる!)
甲多は慎重に扉を開いていく。
(いつもなら、しっかり戸締まりされているのに、鍵が開いたままなんて)
玄関へと足を踏み出すと、鼻を衝くような臭いが立ち込めている。
「レオ?」
靴を脱ぐと、静かに足を進めていく。
「ワン!」
レオが甲多の匂いに気付いて駆けてきた。
「レオ!? 燈さんは?」
レオは甲多のTシャツの裾をくわえながら引っ張る。
「どうしたの!?」
レオの動きに従って居間に向かうと、人が倒れていた。
「あ、燈さん!?」
甲多は血だらけで倒れている女性に駆け寄る。
(脈はある……息もある!)
甲多は救急車を呼んだ。
※ ※ ※
「慎重にお願いします」
十分後、燈を乗せた救急車を甲多は見送った。
「ワン!」
「レオ、何があったの?」
「ワン! ワン!」
「お前が話せるわけないよね」
レオの頭に甲多は触れる。
「見たよ」
「えっ?」
思わず甲多がレオを見る。
「違う。後ろだ」
「後ろ?」
甲多が振り向くと、短髪の少年が立っていた。
「この家にマスクをした人が入っていった。五分程で出てきたが」
「どっちに行ったか判らない?」
甲多が道を指す。
「あっちだ」
「あっちなら、古商店のお婆さんが見ているかも!」
甲多は靴を履く。
「情報があったら知らせてくれ。警察には、ありのままを話しとく」
「でも僕が発見者だし!?」
「残念ながら、第一発見者は私なんだよ。キミは第二。話なら任せといて」
少年は腕時計を確認する。
「分かった。僕はお婆さんに訊いてくる!」
「頼んだよ」
少年は胸ポケットから写真を取り出す。
「迅、待ってろよ」
写真の迅は笑顔で写っていた。




