嵐のような2泊3日
「うんじゃ……いっちょ話してもらおうか」
雁斗がホテルの電話係を促す。
「一体何なんだ!? 何を考えているんだ!」
「へー、怒鳴れるんだ。ちと感心」
「君ね、大人をおちょくるのも大概にするんだ。大体その髪の色は何だ!」
「あん? んだよ、何の脈略も無しに外見の批判か。子供の手本になんなきゃなんねえ大人の言葉とは思いたかねえぜ」
「その口の利き方はなんだ! 最近の子供は、まともに会話も出来ないんですか!」
電話係は雁斗達の担任に言う。
「その事に関しましては、あとで重々言い聞かせます。……ただ……外見の批判に関しましては、児童の手前、お控えください」
「あなた方、教師がしっかりしていれば、このような騒ぎなど起きなかった筈ですよ!」
「……申し訳ありません……」
担任が頭を下げる。
「頭を下げれば済む問題ではありません! 学校を訴えることも考えますよ!?」
「さっきから先生を責めてるけど、責められるべきは違う奴だろ?」
「そうだったね。責められるべきは君達だ!」
電話係は鬼の形相で、一階に集まっている児童達を睨む。
「違ーよ。責められるべきは……アンタだ!」
雁斗が電話係を指差しする。
「何だと!?」
「今日の電話係はアンタを入れて三人だ。その中で妙な電話がかかっていた時間の電話係はアンタなんだよ」
「何を言い出すかと思えば、実にくだらない妄想だ」
「妄想だと?」
「そうだよ。電話係だけが電話を使うとは限らない。従業員の全員を疑うべきだ」
「じゃあ見せてくれ」
「何をだ?」
「決まってんだろ、防犯カメラだ」
「そんなのを見る時間が無駄だ。さっさと寝てしまえ」
「皆、不安で寝れねえよ。その不安を解消する為にも見せてくれ」
「……子供が偉そうに……!」
電話係が握りこぶしを作っている。
「ぐうの音も出ねえか?」
「黙れ!」
電話係が雁斗に蹴りを食らわす。
「何をするんですか!?」
担任が止めに入る。
「躾がなってないのでね……大人の恐さを分からせるんです」
「ふーん」
雁斗は腕でガードしていた。
「大丈夫!? 雁斗君」
「こんな蹴り、大したことない」
「強がるか」
「強がってんのはアンタの方じゃねえ? 俺、普通の子供と鍛え方が違えからよ」
「……生意気な!?」
電話係が、痛めた脛を押さえる。
「で、蹴ってきたってこったあ……認めたって解釈で構わないんだろ?」
雁斗は勝ち誇った表情をした。
「ちぃっ!」
電話係は奥歯を噛み締める。
「事情は別室で。児童の手前、手荒な行動は慎んでください」
教師達に囲まれながら電話係が連れていかれた。
「雁斗君、本当に大丈夫!?」
「心配要らないですよ。大した蹴りじゃなかったから」
雁斗は腕を振って示した。
「……雁斗君……。さっき先生が言った事は」
「仕方ないよ。外見のことを控えろって言ったこと、別に気にしてないし、あの場をやり過ごすには、あの返答で構わなかった」
「ハッキリと不謹慎だと言えてれば」
「先生がしょげてどうすんの。先生が止めに入らなかったら大事だったと思うよ」
雁斗は伸びをすると、部屋に戻っていった。
※ ※ ※
「まったくヒドイよー! 雁斗さんを悪く言うなんて」
「俺より怒ってどうすんだよ?」
甲多の反応に雁斗は戸惑う。
「だって友達が悪く言われたんだよ!? 悔しいじゃない」
「悔しがってくれんのは嬉しいがよ、それじゃ俺が怒る場がないぜ?」
「いーの、いーの。僕が雁斗さんの代わりに腹を立てるから」
甲多は横になると、大声を出した。
※ ※ ※
「今日は、ありがとう。お陰で助かりました」
「結局、謎解きは雁斗が全部やったけどね」
「それでも、私は斬牙君に助けられたから!」
花は深々と頭を下げると自室に戻っていった。
「さてと……」
斬牙は階段を昇り、自分の部屋に向かう。
(ん? 妙に騒がしい)
斬牙は恐る恐るドアを開けた。
「ごふ!?」
「やべっ!?」
斬牙が、飛んできた枕を退かすと、しまった顔をする雁斗が立っていた。
「おいおい……就寝時間に枕投げ……か!」
斬牙はおもいっきり枕を雁斗に投げ当てた。
「やりやがったな!」
「先に当ててきたのは雁斗、お前だ」
「いい度胸だ」
雁斗と斬牙が枕投げを繰り広げる。
「混ぜろー」
イッチも参戦する。
「もー!」
甲多は呆れつつも、どこか嬉しそうにしていた。
※ ※ ※
翌日。
「雨かあ……」
二日目に予定されていた体験教室は、雨の影響で出来ず、児童全員で饅頭体験をすることになった。
「凧、揚げたかったなあ」
甲多が残念がる。
「あたしは滝を見たかったけどね」
甲多の隣で美加も残念そうにしていた。
※ ※ ※
更に翌日。
「結局、雨の中を帰るのか」
雁斗は途方に暮れる。
「残念よ。街を探索するの楽しみだったのに」
羅阿奈が空を睨む。
「やれやれ。散々な修学旅行だったな」
「まったくね」
羅阿奈は雁斗を見る。
「何だよ」
「私が告白にどう返事したか気にならないの?」
「気にならん」
雁斗はそっぽを向く。
「全員、振ってやったわよ!」
羅阿奈が勝ち誇った顔をしている。
「折角のチャンスを棒に振ったんだな……振っただけに」
雁斗は笑いながらバス乗り場に向かう。
「うっさいよ!」
羅阿奈も後を追うようにバス乗り場へと向かった。




