夜の騒動
「あん?」
「どした?」
「ドアノブにコレがよ」
雁斗が斬牙に封筒を見せる。
「……俺宛か……」
斬牙が封筒を開ける。
「修学旅行中はホテルは貸しきりだから、差出人は生徒だろ」
「十九時に部屋に来て、か」
手紙には部屋番号が書かれていた。
「違う階だ。しかも女子部屋だな」
「告られんじゃね?」
「それはないさ」
斬牙は手紙をポケットにしまった。
「夕食まで自由時間か。とりあえず、ホテル内をふらつくか」
「場所を把握しとかないとな」
雁斗と斬牙はホテル内を探索に出た。
「一階は受付と食堂と浴場とトイレ。それから医務室に大広間」
雁斗が、しおりに印を付けていく。
「二~六階は各クラスが泊まる部屋が有る。ちなみに俺達は三組だから四階か」
「エレベーターでも行き来可能か」
斬牙がボタンを押す。
「遊んでんじゃねえよ。注意されても知らねえぜ?」
「念のためさ」
雁斗と斬牙は、一階に降りる。
「雁斗さん! 斬牙さん!」
「なんだ。お前もホテルを探索か?」
「僕達は外を見てきたんだ。ごみ捨て場と駐車場が広くて驚いちゃった」
「桜庭は無邪気だね。オイラなんか飽きちまった」
「甲多はそういう奴さ」
斬牙は時計を見る。
「そろそろ夕飯じゃないか」
「ぞろぞろ移動してるし、俺達も行くか」
雁斗達も食堂に移動した。
※ ※ ※
「男四人で、折角の修学旅行で何故ラーメンなわけ?」
羅阿奈が声を掛ける。
「肉とも魚の気分でもなかった。取捨選択だ」
雁斗はスープを飲む。
「僕は野菜が美味しそうに見えて。ラーメンとなら無理なく食べれるでしょ?」
甲多は麺をすする。
「豚カツは重い……焼き魚は小骨が面倒でな。雁斗と同じく取捨選択さ」
斬牙はラー油を掛ける。
「オイラだけ違うのはシャクだから」
イッチは完食した。
「能天気でいいわー。こっちはクタクタよ」
「まだ着いてから、大した行事無かったろ!?」
「……告白されたのよ……六人からね」
「ふーん」
「なっ……あんたね! 訊いといて、その反応は何?」
「そりゃあ喜しゅうごさんすねえ」
「もしかして馬鹿にしてんの!?」
「してねえよ。祝ってんだ」
「……んのー! 馬鹿雁斗!」
羅阿奈は怒って立ち去った。
「雁斗さん! 羅阿奈さん、怒っちゃったよ? 謝らないと」
「俺、何か気に障ること言ったか?」
「羅阿奈さんは雁斗さんに愚痴を聞いてほしかったんじゃないかな?」
「俺が愚痴を聞かなきゃならねえ理由が無えよ」
「雁斗さん……」
甲多は食べ終わると、席を立った。
「む。桜庭は世話焼きだね~」
「お節介なだけじゃねえか?」
雁斗はラーメンを完食した。
※ ※ ※
「羅阿奈さん!」
「甲多君……」
「雁斗さん……別に嫌味で言った訳じゃないよ?」
「解ってるよ。そんなの」
「え?」
「あいつは昔から、私に対して回りくどい言い方をすんのよ。さっきのだって、結局は好きにしろって意味だから」
「……羅阿奈さん……もしかして?」
「あっ! あと三十分でお風呂じゃん! それじゃ」
羅阿奈が足早に立ち去った。
「……羅阿奈さん……」
「わ!」
「うわああ! ……て、美加かあ。驚いたよ」
「ごめん。なんかしょんぼりしてるんだもん。甲多は笑顔が一番なんだからね!」
「ありがとう。でも気になってね」
「どうしたの?」
「簡潔に話すと」
甲多は美加に事情を話した。
※ ※ ※
「……はい?」
「ごめんなさい! 迷惑かと思ったんだけど、やっぱり怖くて」
「そういう事情は先生に話した方が」
「ううん。話したら、かえってエスカレートしてしまいそう」
「でも、何で別のクラスの俺に頼んできたの?」
「紅君は学年でも結構有名だから。紅君が居てくれれば防げるかなって」
「大層な持ち上げられ方だこと」
「ワガママなのは百も承知です! どうか、ボディーガードをしてください……お願いします!」
「まあ、乗り掛かった船ってことで。構わないさ」
頭を下げられた斬牙は断れなかった。
※ ※ ※
「おっかしいな……斬牙の野郎、どこほっつき歩いてんだ?」
雁斗は斬牙を捜してホテルを歩き回っていた。
「きゃあ!」
悲鳴と共に扉が開いた。
「どうしたんだ!?」
「うっ……君は確か三組の桜庭だっけ? お願いだ、あの電話をどうにかして!」
「え!?」
背中を押されて雁斗が部屋に入る。
「いきなり何すんだ!?」
電話が鳴る。
「ま、まただ!」
「んだよ。電話じゃねえか」
雁斗が電話に出た。
「ダイスキダ。アイシテル」
(んだこのキモい電話!?)
電話が切れた。
「ホテルに着いて暫くしたら掛かってきて。もう怖くて気味悪いんだ!」
「こいつは内線用だ。外からは受けも掛けも出来ねえ。ホテル内部の仕業だ」
「一体……誰が!?」
「女子がこんな事をするとは思えねえ……。修学旅行で舞い上がってる男子の仕業だろうぜ」
「ど、どしよ!」
「簡単な話だ。電話線を抜けば通話が出来なくなる」
雁斗は電話線を抜いた。
「ふー……、助かったよ。ありがと」
「安心は出来ねえ。複数人で一部屋なんだ、誰が電話に出るかなんか分からねえ。だとすると、こりゃ無差別だ。この部屋以外でも、もしかしたら掛かってるかもしれねえな」
「そ、そんな!」
「風呂の時間まで十五分ある。この二階だけでも訊いて回るか」
「わたしも手伝うよ」
「女子が一緒のほうがやり易い。頼む」
二人は訊きに行った。




