覚悟
「抹殺師になれば、冷獣と戦える! 冷獣になってしまった動物を元に戻せる! ……僕も抹殺師になって、雁斗さんと一緒に戦うよ!」
「俺は反対だ。抹殺師は生半可な覚悟じゃ務まらねえ。俺は甲多に、俺と同じ思いをしてほしくねえんだ」
「……なんでさあ!?」
「……お前にはあるのか? ……死ぬ覚悟が」
「……死ぬ……覚悟!?」
甲多は目を丸くする。
「俺は七歳のときに抹殺師になった。いや……正確には、させられたんだ」
「させられたって?」
「……強くなりたいなら、強くしてやる……その代わり、冷獣を倒せって言われてよ。意味が解らないまま、激痛に巻き込まれ、気がついたら抹殺師になっていた」
雁斗は眉間にシワを寄せながら話す。
「誰に言われたの?」
「親父だよ。親父も抹殺師なんだ」
「雁斗さんの父さんも抹殺師なの!?」
「それからは、冷獣の気配が嫌でも感じ取れるようになっちまったから、何度も何度も戦わざるを得なくて、そのたびに傷だらけになっては泣きまくってた。毎日が地獄だ」
「よく無事だったね?」
「無事なもんか! 腕や脚が骨折なんて当たり前だったし、風邪なんか引いたときでも気配が感じれるせいで寝付けねえしよ!」
雁斗が、いつの間にか握りこぶしを作っている。
「それは確かに地獄だね」
「入るわよ?」
甲多の母が入ってきた。
「雁斗君は、アレルギーとか大丈夫?」
「俺にアレルギーは無いですよ」
「そう。良かったら食べてね」
雁斗と甲多にケーキとジュースが配られた。
「そのケーキは美加ちゃんも一緒に作ったんだって! 良かったわね~、甲多」
手で口元を隠しながら甲多の母は部屋を出た。
「美加って誰だ? 知り合いか?」
「向かいの家に住んでる……僕の幼なじみだよ」
甲多が恥ずかしそうに答えた。
「ふーん。良かったじゃん、作ってもらえて」
雁斗はケーキを一口食べる。
「どう雁斗さん? 美味しい?」
「……おう。程よい甘さで美味いよ」
雁斗はジュースを飲む。
「美味しい?」
「おう。ケーキと一緒でも甘さが喧嘩しなくて飲みやすい……って、甲多も食べたらどうだ?」
「……食べれないよ、僕には。その資格が無いよ」
「せっかく作ってもらったのに食べない気かよ」
「僕は、美加との約束を果たせてない」
「……約束? 何だよ、約束って?」
「美加に、綺麗な花が咲いてるから、今度摘んできてあげるって約束してたんだ。だけど結局、摘めなかった」
甲多の表情が暗くなる。
「そんなことで落ち込むなよ。綺麗な花なら花屋で売ってるぞ?」
「あの花じゃないと……駄目なんだ!」
「相変わらず頑固だな~。しょうがない、ケーキとジュースに免じて手伝ってやるよ!」
「ほんと!? ありがとう雁斗さん!」
甲多は満面の笑みを浮かべた。
「それと、抹殺師のことだが、やっぱり俺は……」
「行こう! 雁斗さん」
雁斗の言うことに耳を貸さずに、甲多は部屋を出た。
「……ったく! 頑固者でせっかちって、まるで年寄りみたいだな」
雁斗は手付かずのケーキとジュースを持って部屋を出た。
「甲多! どこ行くの?」
「ちょっと用事を思い出してね。すぐに帰るから!」
「甲多の奴、用事が済んでから食べたいって」
「ごめんなさいね? 雁斗君。あの子、たまに忙しくしちゃうのよ」
甲多の母が、雁斗からケーキとジュースを受け取って言った。
「気にしないでください。頑固なのも、せっかちなのも慣れました」
そう言うと雁斗も家を出た。
※ ※ ※
「……すっ……凄いや!」
甲多の面前に白い花が咲き誇る。
「連れてこられたときは驚いたが、回り込んで少し登れば簡単だった」
「ううん! 僕には、五メートルの壁を登るなんて無理だもん。雁斗さんのおかげだよ」
「そんじゃあ戻るか……」
雁斗が真顔になる。
「もしかして、冷獣?」
「……みたいだな。甲多、離れてな!」
雁斗はリストバンドを変化させ、抹殺器を構えた。
「ガウゥゥゥ!」
「ちっ……! 空からかよ!」
翼を生やした冷獣が雁斗に襲い掛かる。
「雁斗さん!」
「大丈夫だ! 翼を生やした冷獣は珍しくない!」
「ガウゥゥゥ!」
冷獣は翼を羽ばたかせ、風を巻き起こす。
「うわあ!?」
甲多は風に圧されるが、側に有った木に掴まる。
「このくれえ!」
雁斗は風に向かってジグザグに進んでいく。
「がら空きだぜ!」
「ガウゥゥゥ?」
「!?」
雁斗が冷獣の攻撃で飛ばされる。
「雁斗さん!!」
「来んな甲多!」
「ガウゥゥゥ!」
冷獣が、横たわる雁斗に襲い掛かる。
「うっ……!!……」
「甲……多……!?」
雁斗を庇い、甲多が冷獣の攻撃で身体を貫かれる。
「……これが……僕の……覚悟……」
「甲多あああああ!!」
雁斗の脳裏に、ある記憶が過った。




