人間の先
「ワタクシの速さに合わせるとはやるね」
「……ぐっ! ……」
「おい!? 大丈夫か!」
雁斗がダガーに治癒術を使う。
「凖!」
羅阿奈が凖に治癒術を使う。
「羅阿なん……無理だ。治癒術じゃ対処ムリ」
「傷口を塞ぐだけじゃ駄目なら……!」
羅阿奈のリストバンドが赤く光る。
「うっ……あ!」
凖の傷口が癒えていく。
「羅阿奈。何だよ、その治癒術は?」
「これは治癒術じゃないよ。これは魔癒術……治癒術は傷口を塞いで治すけど、魔癒術は、傷という傷を治せるのよ」
「傷という……傷!?」
雁斗の脳裏に風太の姿が浮かぶ。
「少し痛むけど我慢してよ」
羅阿奈はダガーに魔癒術を使う。
「なあ……例えばよ、身体の不随を治したり出来ないか!?」
「やったことないから分からないけど、魔癒術に治せない怪我は無いから、もしかしたら可能かも」
「そうか!」
雁斗の瞳に輝きが増す。
「大人しくしてれば、余計に痛がることもなかったのにねえ」
「お前も抹殺師か!」
「フザケルナ。ワタクシが下等な力を使うはずがない」
「下等だあ!? まるで自分は上等みたいな口振りだな」
「そうだとも。ワタクシは抹殺師などという下等な存在はおろか、人間を超越した存在なのだ!」
「何言ってんだ? どう見ても人間じゃねえか!」
「……これでもかい?……」
「んな!?」
雁斗が振り向くと、仮面の者が立っていた。
「人間には不可能、だろう?」
「へん! ワープくらい、知り合いの得意分野だ!」
雁斗が間合いをとる。
「ワープなどではない。移動だ」
「う!!」
「ほーらーねー?」
仮面の者が雁斗に顔を近づける。
「ざけんな!」
雁斗が後退り際に抹殺器で面を攻撃した。
「弾かれた!?」
「ワタクシの面は鋼だ。簡単には剥がせないよ」
「何者だ……一体!?」
「さあ? ワタクシはワタクシ。それ以外の何者でもない」
仮面の者は腕を伸ばした。
「な!?」
雁斗が首を掴まれる。
「このまま絞め殺してもいいけれど、それじゃあ、つまらない。ワタクシが人間を超えた存在であることを存分に示そうか!」
仮面の者が雁斗を宙へ放り投げる。
「あんにゃろー! 何する気だ?」
「フフフ。空中では身動き出来まい……人間はね!」
仮面の者が空中に舞う。
「何よ。仮面は飛べるの!?」
「羅阿なん。ウチ、さっきから思うけど……仮面の奴は、人間ってより……冷獣に近くない?」
「どういうことよ?」
「抹殺師でも腕を伸ばしたり、空を飛んだりは出来ない。だけど、冷獣なら出来る」
「それって……つまり!?」
「仮面の者と冷獣は等しい」
ダガーが言った。
「グハッ!!」
「人間のままでは不可能、だろう」
仮面の者の猛攻が雁斗を苦しめていく。
(……このままじゃ……殺られる!!)
「何だ?」
「僕も飛べるよ!」
「何だと!?」
仮面の者が動揺する。
「でかしたぜ、甲多!」
甲多の風を受けながら、雁斗が地上に着地する。
「雁斗。甲多が戦っているようだが?」
「来てくれたみたいだ。風を使えば甲多は、空を駆けれる抹殺師になる」
「だが、甲多一人では不利すぎる」
「一人じゃねえよ。俺や斬牙だけじゃ無理だった……けど今は羅阿奈がいる、凖もいる……お前だっているんだぜ? 自信過剰な仮面を黙らせてやろうぜ!」
「フッ……。我が頼られる時が来るとはな」
「ガアアアア!!」
雁斗達を冷獣達が囲んだ。
「甲多の援護は任せるぞ。冷獣は俺に任せてくれ」
斬牙が到着した。
「良いのかよ」
「友達を助けるのは当然だろう?」
「しゃあねえ。任せた!」
「任された!」
斬牙が冷獣達に向かっていく。
「シツコイよ!」
「くっ!?」
甲多が落下する。
「ん~。自在に飛べる人は反則だよ」
「風で飛べるのも大概じゃね?」
雁斗が言う。
「人の動きじゃないよ!?」
「ああ。だからこそ負けらんねえ!」
雁斗と甲多が空を見上げる。
「人間の先に……人は居ないのだ」
仮面の者が地上を見下ろしていた。




