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抹殺師  作者: 碧衣玄
35/80

人間の先

「ワタクシの速さに合わせるとはやるね」


「……ぐっ! ……」


「おい!? 大丈夫か!」


 雁斗がダガーに治癒術を使う。


「凖!」


 羅阿奈が凖に治癒術を使う。


「羅阿なん……無理だ。治癒術じゃ対処ムリ」


「傷口を塞ぐだけじゃ駄目なら……!」


 羅阿奈のリストバンドが赤く光る。


「うっ……あ!」


 凖の傷口が癒えていく。


「羅阿奈。何だよ、その治癒術は?」


「これは治癒術じゃないよ。これは魔癒術まゆじゅつ……治癒術は傷口を塞いで治すけど、魔癒術は、傷という傷を治せるのよ」


「傷という……傷!?」


 雁斗の脳裏に風太の姿が浮かぶ。


「少し痛むけど我慢してよ」


 羅阿奈はダガーに魔癒術を使う。


「なあ……例えばよ、身体の不随を治したり出来ないか!?」


「やったことないから分からないけど、魔癒術に治せない怪我は無いから、もしかしたら可能かも」


「そうか!」


 雁斗の瞳に輝きが増す。


「大人しくしてれば、余計に痛がることもなかったのにねえ」


「お前も抹殺師か!」


「フザケルナ。ワタクシが下等な力を使うはずがない」


「下等だあ!? まるで自分は上等みたいな口振りだな」


「そうだとも。ワタクシは抹殺師などという下等な存在はおろか、人間を超越した存在なのだ!」


「何言ってんだ? どう見ても人間じゃねえか!」


「……これでもかい?……」


「んな!?」


 雁斗が振り向くと、仮面の者が立っていた。


「人間には不可能、だろう?」


「へん! ワープくらい、知り合いの得意分野だ!」


 雁斗が間合いをとる。


「ワープなどではない。移動だ」


「う!!」


「ほーらーねー?」


 仮面の者が雁斗に顔を近づける。


「ざけんな!」


 雁斗が後退り際に抹殺器で面を攻撃した。


「弾かれた!?」


「ワタクシの面は鋼だ。簡単には剥がせないよ」


何者なにもんだ……一体!?」


「さあ? ワタクシはワタクシ。それ以外の何者でもない」


 仮面の者は腕を伸ばした。


「な!?」


 雁斗が首を掴まれる。


「このまま絞め殺してもいいけれど、それじゃあ、つまらない。ワタクシが人間を超えた存在であることを存分に示そうか!」


 仮面の者が雁斗を宙へ放り投げる。


「あんにゃろー! 何する気だ?」


「フフフ。空中では身動き出来まい……人間はね!」


 仮面の者が空中に舞う。


「何よ。仮面は飛べるの!?」


「羅阿なん。ウチ、さっきから思うけど……仮面の奴は、人間ってより……冷獣に近くない?」


「どういうことよ?」


「抹殺師でも腕を伸ばしたり、空を飛んだりは出来ない。だけど、冷獣なら出来る」


「それって……つまり!?」


「仮面の者と冷獣は等しい」


 ダガーが言った。


「グハッ!!」


「人間のままでは不可能、だろう」


 仮面の者の猛攻が雁斗を苦しめていく。


(……このままじゃ……殺られる!!)


「何だ?」


「僕も飛べるよ!」


「何だと!?」


 仮面の者が動揺する。


「でかしたぜ、甲多!」


 甲多の風を受けながら、雁斗が地上に着地する。


「雁斗。甲多が戦っているようだが?」


「来てくれたみたいだ。風を使えば甲多あいつは、空を駆けれる抹殺師になる」


「だが、甲多一人では不利すぎる」


「一人じゃねえよ。俺や斬牙だけじゃ無理だった……けど今は羅阿奈がいる、凖もいる……お前だっているんだぜ? 自信過剰な仮面を黙らせてやろうぜ!」


「フッ……。我が頼られる時が来るとはな」


「ガアアアア!!」


 雁斗達を冷獣達が囲んだ。


「甲多の援護は任せるぞ。冷獣は俺に任せてくれ」


 斬牙が到着した。


「良いのかよ」


友達ダチを助けるのは当然だろう?」


「しゃあねえ。任せた!」


「任された!」


 斬牙が冷獣達に向かっていく。


「シツコイよ!」


「くっ!?」


 甲多が落下する。


「ん~。自在に飛べる人は反則だよ」


「風で飛べるのも大概じゃね?」


 雁斗が言う。


「人の動きじゃないよ!?」


「ああ。だからこそ負けらんねえ!」


 雁斗と甲多が空を見上げる。


「人間の先に……人は居ないのだ」


 仮面の者が地上を見下ろしていた。

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