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抹殺師  作者: 碧衣玄
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風の可能性

「うおおおお!」


 甲多がクナイを迅の面前に突き出す。


「終わりか?」


「はっ!」


「うお!?」


 甲多が左手を地面に着きながら、右足で迅の右脛を蹴った。


「くっ!」


 更に甲多は、風を起こして迅の体勢を崩す。


(なかなかだ)


「えい!」


 甲多のクナイが迅の急所を捉える。


「甘いよ」


「ごはっ!?」


 腹を蹴られ、甲多がもがく。


「悪いねえ……足が使えたもんで」


「……ぐっ……」


「へこたれずにくるか。いい度胸だ」


「はああああ!!」


 甲多が走り出す。


「同じ手は通じないぞ?」


 迅が刀を振りつつ、甲多を牽制する。


「当たらなければ!」


「な……!?」


「へっちゃらだよ!」


 風を起こし、宙に浮いた甲多はそのまま、踵落としを迅の右肩に当てた。


(そうきたか!?)


「そおりゃあ!」


 甲多が両足を交互に蹴る。


(……風を起こして宙に浮ける甲多君だからこその戦法だねえ……。けど、詰めが甘いな)


「よ!」


 迅は刀を地面に突き立てると、鞘を左手に持って甲多のバタ蹴りを防いだ。


「……鞘で防いだの!?」


「鞘だって、使い方によっては凄い武器になるよ」


「じゃあ……これなら!」


 甲多がクナイを投げた。


「ありゃ? 武器を投げちゃうの?」


 迅は鞘でクナイを弾いた。


「隙あり!」


 甲多が渾身の正拳突きを放った。


「ぐっ……!!」


 腹部にまともに食らった迅は踞る。


(まさか、クナイを囮に使うとは!)


「ふー」


 甲多が迅にクナイを突き付ける。


「……ここまでとはねえ……驚いたよ。けれど、やっぱり詰めが甘いぞ!」


 次の瞬間、甲多のクナイが弾き飛ばされた。


「え……なんで!?」


 一瞬の出来事に、甲多は戸惑う。


「簡単な理由だよ。刀をリストバンドに戻して、もう一度呼び出す……あとは抜刀しただけだ」


「一瞬で、やってのけたの!?」


「なーに。基本を応用しただけだから、甲多君でも出来る」


「僕でも?」


「それに甲多君には最高の素材がある。風っていう素材がね」


「……風を起こしても迅さんに勝てなかったよ」


「風で身体を浮かせたり、飛ばしたりするんじゃなく、風で攻撃をするんだ」


「風で攻撃……。前に、冷獣にクナイを刺して内側から風で攻撃したことはあるけど。それとは違う感じな?」


「それだと、まずは冷獣を刺さなきゃいけないから、だいぶ難度が上がる。そうじゃなく、風を放つんだよ。風の刃を」


「難しいや。理屈がさっぱりだもん。う~ん……」


「風を起こして、冷獣の周囲を真空状態にして、一時的な鎌鼬を起こす……とかどうだ? 甲多」


「すごい……凄い発想だよ、斬牙さん! 確かにそれなら冷獣にとっては風で切られた様にしか思えない!」


「感謝されるのは嬉しいが、実現させるのは至難の技だぞ?」


「それでもやるよ! 苦労は早いうちに越えなくちゃ」


 甲多はクナイを振り、風を放った。


※ ※ ※


「んー……なるー」


 雁斗は自室で、眉間にシワを寄せながら本を読んでいた。


「なかなかに読む手を止められなかったぜ。お蔭で良い暇潰しができた」


 雁斗は寝そべる。


「……こんなに平和な日は久々だ……忘れてた感覚だ……。忘れちゃいけない感覚なのによ」


「……」


 雁斗は睡魔に負けてしまった。


※ ※ ※


「熱心なのはご苦労だけど、そろそろ帰らないと。夕陽が主張してるしねえ」


「はあ……はあ……!! うん。そうします」


「ぜぇ……ぜぇ……。ああ。にしても、数時間で凄い上達ぶりだな、甲多!」


「斬牙さんが手伝ってくれたからだよ」


「俺は大して何もしてないさ」


 斬牙は汗を拭うと、甲多を見て笑みを見せた。


「迅さん。今日はありがとうございました! とても楽しかったですよー! 螺雨くんもだよー!」


「こちらこそ。また来な」


「ボクも、おじさんと待ってるね」


「うん!」


 甲多と斬牙は、手を振りながら帰っていった。


※ ※ ※


「はああ~」


 雁斗が昼寝から覚める。


「寝てたのか……我ながら無防備な」


 雁斗は下に降りる。


「あら、寝てたの~? 顔が浮腫んでるわ」


「浮腫みは直ぐにとれます。それよりも何です? その荷物」


「実はね……お父さんが、ちょっとした休暇を取ったのよ。それで来ないかって呼ばれてね」


「じゃあ、甲多も一緒に?」


「そうね。その間は学校を休ませることになるけど」


「いいんじゃないですか? たまには親子水入らず、ゆっくりしても」


「そう? それじゃあ、その間は雁斗君と斬牙君に、お留守番お願いしちゃうわね?」


「へ……?」


 雁斗はポカンとする。


「大丈夫よ。二人共しっかりしてるし、安心して任せられるわ!」


「でも俺達、ただの居候で!?」


「なに言ってるの? 二人は家族同然だし、甲多の友達だもの。おばさん、不安無いわよ」


「頼まれちゃ仕方ないですね」


「ありがとう。本当に困ったら向かいの美加ちゃん家を頼ってね。美加ちゃんの両親とは古い付き合いなの」


「分かりました」


 雁斗は寝起きの伸びをした。

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