温かい街
「へー、街はこんなに騒がしいんだな」
「雁斗さん。どちらかといえば賑やかって例えのほうが合ってると思うけど?」
雁斗と甲多は森を下りて、人が大勢行き交う街に来た。
「悪い悪い……普段、自然に囲まれてる所に住んでるからよう~。人とも普段あまり会わないしな」
「あんな山奥に住んでちゃあ、そうなっちゃうよ。いろいろ不便な場所なのに、引っ越そうとは思わなかったの?」
「俺が産まれたときには住んでるから、あんまり必要性を感じないし、純粋に好きなんだ、自然がさ」
「それにしても、よく山奥に家を建てれたね?」
「少し違うんだ。昔は自然に囲まれて暮らせるってことで結構、家が在って人が暮らしてたらしいんだが、街の便利さに負けて、どんどん周りが引っ越したらしいんだ」
「それで残ったのが雁斗さんの家族なんだね」
「まあな」
そうこう話しているうちに閑静な住宅街に入っていく。
「あら? 甲多君、友達と一緒かい?」
昔ながらの古商店のお婆さんが声を掛けてきた。
「うん! お婆さんもお店ごくろうさま」
「嬉しいの~。そうだ、これ持っていき!」
お婆さんは二人にアイスキャンディーを渡した。
「ありがとう、お婆さん!」
甲多は美味しそうにアイスキャンディーを頬張る。
「……どうも」
雁斗もアイスキャンディーを頬張った。
「またね。お婆さん」
「アイス……どうも」
二人は再び歩き出すと、暫くして曲がり角で止まる。
「どうしたんだ? 立ち止まって」
「ちょっとねえ」
甲多が立ち止まると、家の柵の向こうから犬がやって来た。
「ワンワン!」
「や~、レオ! 今日も元気だね」
甲多が柵の間から手を出して犬に触れる。
「甲多。お前、動物が好きなのか?」
「えへへ。好きだよ!」
甲多は暫くすると歩き出した。
「甲多は人にも動物にも好かれるんだな」
「別に特別な事はないよ」
甲多が立ち止まる。
「どうした?」
「僕ん家に着いたよ!」
「ここかー」
雁斗は甲多の家を見る。
「ちょっと待ってて」
「桜庭……か」
雁斗は表札を見て言った。
「雁斗さん! 入ってよー!」
「ああ」
甲多に呼ばれて雁斗は家に入った。
「初めまして。甲多の母です」
「あ……えーと、初めまして。雁斗です」
「そう! 雁斗君って言うのね。甲多と仲良くしてあげてね!」
甲多の母は雁斗にニコッと笑んだ。
「は、はい」
雁斗の顔がほんのり赤く染まる。
「僕の部屋に行こうよ」
「おう! ……えと……お邪魔します」
雁斗は甲多の母に断りをいれて上がった。
「僕の部屋は階段を登った、一番奥の部屋だよ」
甲多と雁斗は階段を登った。
「手前と真ん中は両親の部屋か?」
「手前は父さんの部屋で、真ん中は物置部屋だよ」
甲多と雁斗は、一番奥の部屋に入った。
「ここが甲多の部屋か」
「ごめんね、散らかってるけど座ってよ」
雁斗は座りながら、しっかり整理整頓されている部屋を見渡す。
「謙遜すんなよ。しっかり片付いてるぞ?」
「そうかなー?」
甲多が照れる。
「そんで? 俺に話したい事って何だよ?」
「今さっき増えたのから聞いていい?」
「ああ」
「雁斗さん。母さんを見たときに顔が赤くなってたけど緊張したの?」
「まあ、思わずな……。母親ってのに慣れてなくてな」
「慣れてない?」
甲多が不思議に思う。
「……俺が幼いときに、交通事故で死んじまったみたいなんだ。だから母親ってのに慣れてないし、自分の母親との記憶も無い」
「……ご、ごめん! 悪気があったわけじゃないんだよ……ごめん!」
「知らなかったんだから仕方ないし、気にもしてないから気にすんなよ。……で? あと俺に聞きたいことは何だ?」
「えーと……ね。その、ね……どうやったらなれるのかなーって」
「なんだよ、勿体ぶんなって」
「……教えてほしいんだ! その……抹殺師のなり方を! 僕も冷獣になってしまった動物を助けてあげたいんだ!」
甲多が真剣な顔で言った。
「気持ちは嬉しいが、俺は反対だ。甲多」




