始まりの場所
「久しいな……ここも」
ダガーは懐かしむように眺めている。
「ん? 兄士朗ではないか! 久しぶりだな」
「お久しぶりです。師匠」
「本当だ。何年ぶりだ?」
「三年振りかと」
「三年か……。おっと!? 立ち話もなんだ、中へ入りなさい」
「お邪魔いたします」
ダガーは中に入った。
「さて。御前さんのことだ、寄り道で来たわけではなかろうて」
「はい。実は、街中に冷獣が頻繁に現れるようになっていまして、なにか師匠は存じないかと」
「確かに、ここのところ冷獣の動きが活発化しているようだ。都会の喧騒とは縁遠い、こんな田舎でも最近は五月蝿くなっている」
「このままでは、日本中に冷獣が大量発生してしまうのでは?」
「いつまでも……抹殺師が日陰者で居られるわけではないということかもの」
師匠は掛け軸を見る。
「我の……抹殺師になる……きっかけの場所」
「この掛け軸を見て御前さんは抹殺師になった」
師匠は掛け軸を外す。
「水晶。我が触れたあとに触れた者は?」
「幸いにも居らんよ」
「そうですか」
ダガーは立ち上がる。
「行くのかの? 折角だ、昼食でもどうだ?」
「師匠からの誘いならば、無下に断るわけにはいかない。御一緒します」
ダガーの口元が緩む。
「御前さんが笑うなど珍しいの」
「……その……昨日も似たような事があったもので」
「ほう! 良ければ聞かせてくれぬか?」
「はい」
※ ※ ※
「ごめんね、こんなもので」
「いえ……嫌いじゃないけど……季節外れな気が……」
雁斗の目の前に、冷やし中華が出された。
「ほら~、野菜ってサラダにしても、さほど食べないから……冷やし中華にしちゃえーってヤツよ」
「いただきます」
雁斗が冷やし中華を食べる。
「どう!? 六に食べる冷やし中華の味は」
「まあ……冷やし中華ですね」
雁斗は、ほかに答えようがなかった。
「そーよねえ!? ごめんね雁斗君、無茶ぶりしちゃって」
「おばさんが謝ることじゃないです」
居候の身でありながら、大した感想を言えなかった自分を雁斗は反省した。
「あ。ちなみに雁斗君が食べてるのは醤油ベースね。甲多は胡麻のほうが好きだけど」
「へぇ~」
(よかったあ……胡麻ダレだったら俺、食えなかった!)
雁斗は内心安心した。
※ ※ ※
「……てぃ!」
「こんなもん? 贔屓してる訳じゃないが、まだ雁斗のほうが単純な一撃の重さなら上だぞ」
「はっ!」
「それに、たまには肩の力を抜かないと……」
「へ!?」
斬牙が前に体勢を崩す。
「……かえってピンチになっちゃうぞ?」
迅は斬牙を足で押し返すと、刀の峰で長剣を落とさせた。
「痛!」
腕を押さえる斬牙の首に、迅の刀が迫った。
「本番だったら死んでたかもよ」
口調は変えず、迅が注意した。
「は……はい」
(親父さんの言う通りだ。組手じゃなければ殺されていた!)
「惜しかったね、斬牙さん。見てるだけで僕の手汗が凄いや!」
「いや。完全に俺が劣っていた……惜しくなんかなかったさ」
「そうそう。そうやって己の弱さを認めたうえで、諦めずに高みを目指せばいい」
「はい!」
「よしよし。子供が簡単に諦めたら大人はつまらないからねえ」
迅はコーヒーを飲むと甲多を見る。
「迅さん?」
「甲多君も諦めちゃ駄目だよ」
「僕が?」
「甲多君の力は、まだまだ眠ってると思うんだよ。だから眠りから起こしてあげないと」
「どうやって起こすんですか?」
「一番の近道は実戦だね。折角だし、手伝ってあげよう!」
「迅さんが!?」
「遠慮なんて要らないよ。さあ、かかってきな!」
「わ、分かりました! それじゃあ……遠慮なく!」
甲多がリストバンドをクナイに変えて突撃した。




