誕生
「……う~!」
気絶から目覚めた雁斗にとって、朝日は眩しすぎた。
「……起きよ……」
ぼーっとする意識のなか、雁斗は身体をふらつかせながら階段を降りていく。
「あら。具合はどう?」
「おはよう、おばさん。まだ身体が重いけど、なんとか目覚めは良いみたい」
「それならいいけど。甲多から雁斗君が具合が悪くて寝込んでるって聞かれて心配したのよ?」
「疲れが溜まってただけです。甲多は少々大袈裟なんですよ」
雁斗はキッチンのテーブルに着くと新聞に目を通す。
(昨日の奴等……自首したのか!?)
「この辺りに出没していた通り魔が昨日、自首したみたい。これで夜道も安心だわ~」
「良かったです」
雁斗は相槌をうちながら、家に自分と甲多の母しか居ないことに気付く。
「あの、甲多と斬牙は?」
「雁斗君の家に行ってるわよ? ほら、雁斗君の家の周りって自然豊かでしょう? 近頃は公園で満足に遊べないから楽しいみたい」
「そうなんだ」
(親父のやつ、余計な事をしなきゃいいが)
雁斗は新聞を畳んだ。
※ ※ ※
「へえ~。あのダガーがねぇ」
「ダガーさんが、一緒に戦ってくれれば百人力だよ!」
甲多が迅にダガーの良さを熱弁する。
「えらく甲多に対して柔らかかったな。一体、何をしてダガーを説得したんだ?」
「こればかりは斬牙さんにも内緒だよ」
甲多はいたずらっぽく、口元に人差し指を当てた。
「まあいいか。何はともあれ、ダガーは貴重な戦力になる。でかしたぞ甲多」
「本当だ。まったく……どこかのバカ息子も見習ってほしいね」
そう言うと迅は、マグカップのコーヒーが空になっているのに気付く。
「おじさん! おかわりでしょう?」
螺雨がコーヒーのおかわりを持ってきた。
「おお! 気が利くねぇ~。サンキュー!」
迅が螺雨の頭を撫でた。
「どういたしまして!」
螺雨は上機嫌で家に戻っていく。
「自然に囲まれながら、外の新鮮な空気とコーヒーの香りを楽しむ。おまけに可愛い子供の笑顔付き。これで冷獣が居なければ最高なんだよな~!」
「少しでも早く冷獣を倒せるように、僕達も頑張ります!」
「うんうん。頼もしいねぇー! どこかのバカ息子も見習ってほしいよ」
迅はコーヒーを飲んだ。
※ ※ ※
「今日も良い素材がやって来ましたか」
「ブ~ン」
「ワタクシの血を欲しますか?」
「ブ~ン!」
「いけませんよ。ワタクシの血は高嶺ですから」
「すぐに出してあげましょう。その代わり、ワタクシに協力してくださいよ」
蚊を閉じ込めた容器に、液体が垂らされる。
「さあ、出てきなさい。そんなガラス瓶など割ってしまいなさい!」
「ぶ……ブーン!!」
液体が気体となり、瓶が曇る。そして瓶が割れ、気体が辺りに漏れ出した。
「フフフ……いつ見ても素晴らしいですねえ」
「ガアアアアア!!」
「新しい冷獣の誕生です!!」
「ガアアアアア!!」
部屋に冷獣の雄叫びが響いた。




