追い掛けて
「待ちやがれ!」
「おい雁斗。このまま馬鹿正直に追っても追い付けないぞ!」
雁斗と斬牙は十字路で立ち止まる。
「お前は別方向から追うんだ」
斬牙はそのまま真っ直ぐ追い掛ける。
「とはいっても」
雁斗は辺りを見る。
「都合よく、登れる場所なんかねえか」
※ ※ ※
「いつまで続くかな」
「お前が止まるまでだ」
「抹殺師は窮屈だな。いや、暇なのか?」
白い物体はさらに加速する。
「逃がすか!」
斬牙が瞬時に短剣を投げる。
しかし、短剣は簡単に跳ね返ってしまった。
「跳ね返しただと!?」
「刺して動きを止めようとしたか? 無駄な足掻きだ」
「ちっ」
斬牙は段差を見つけると、足掛かりに使って塀に登る。
「なめるなよ!」
塀から屋根へと飛び移ると、屋根つたいに追っていく。
「よくもまあ……しつこいよ」
白い物体からビー玉が撃たれ、斬牙が走っていた屋根に穴が空いた。
「シャレにならないな」
「お前が屋根を駆けるなら、駆ける屋根を無くすだけだ!」
(ビー玉とはいえあの数は)
「はああ!」
放たれたビー玉が風で落ちる。
「誰だ!?」
「屋根にビー玉を飛ばす奴に名乗る気ないよ!」
「甲多!」
斬牙が屋根から降りる。
「雁斗さんから聞いて来たんだよ」
「助かる。あれは飛べる上に速く厄介でな」
「乗り物っぽいから乗り込んじゃえば?」
「雁斗が声と物体は別と言ったから真っ先に思い付いたが、動きに追い付けないんだ」
「……追い付けば良いんだよね?」
甲多は構える。
「斬牙さん。走ってジャンプして!」
「お、おう?」
斬牙は戸惑いながらも走り出す。
「立ち止まったと思えば走ってくるとは。抹殺師は面倒だな。いや……馬鹿なのか」
「ゴチャゴチャと! 喋るかビー玉飛ばすしか能がないのかよ!」
斬牙がジャンプする。
(身体が……浮く!?)
「なに!? 乗っただと!」
「開け!」
斬牙は短剣を突き刺す。
「フン!」
熱を帯びた短剣が、白い物体を溶かしていく。
「抹殺師が!」
白い物体が加速する。
「邪魔する」
斬牙は白い物体の中に入った。
(案外、中は狭いんだな)
白い物体の中は薄暗く、階段や扉も無い、広いフロアがあった。
「出てこい。でなければ全て燃やし尽くす」
斬牙が叫ぶが応答はない。
(さっきまでのベラベラはどこいった?)
歩いていくと、無数のスイッチがある。
「どれかが動力源のスイッチなのか?」
スイッチを適当に触っていく。
「あーあああ!!」
斬牙は混乱する。
「こんなん解るか!」
拳でゴツンッとスイッチを押した。
「なんだ? このやかましいの」
「雁斗、いつの間に?」
「甲多に飛ばしてもらったんだが……」
「どうした?」
「へー。なんかドキドキするわね」
「美加、どうして!?」
「そんな驚かなくてもいいじゃない? 斬牙君」
美加はニコニコしている。
「……俺と甲多で説得したんだけど、美加が退かなくてな」
「なによ! あたしが居ると迷惑なわけ」
美加は腰に手を当てる。
「危険な目に遭うかも知れないんだぞ!?」
「その時は斬牙君と雁斗君が守ってくれるでしょ?」
「簡単に言ってくれるなあ」
斬牙は説得を諦めた。
「ねえ。なんか音しない?」
「来たのかよ!? 甲多」
「ごめんね雁斗さん。でも美加も付いて行っちゃったし、僕も見守りたいし」
「よくは分からんが、叩いたら鳴り出した」
「余計なことをしやがったよ斬牙」
「本当にその通りだよ。抹殺師!」
スピーカーから声がする。
「お前、一体何処にいやがる!」
「残念だがソイツにはボクは乗ってない」
「お前が遠隔操作してんのか!」
「だったらなんだ?」
「こそこそしてねえで出てきやがれ!」
「ボクは外がキライでね。会いたければ来るがいい!」
「なに?」
【カエリマス】
「大人しく乗っていろ。会いたければな」
いきなり物体が強く揺れ、雁斗達は体勢を崩したり、壁にぶつかったりする。
「いたたたた」
「甲多!?」
「まだ足が痛むや」
「どうなるのよ!?」
【ワープ ダ コノヤロー】
「……ワープだと!?」
斬牙は立ち上がると、スイッチをいじる。
「会わせるとか言いつつ、殺されるのは御免だ」
「バカやろ! もういじんな斬牙!」
「……すまん……」
【トウチャク】
「着いたの?」
「どうだろう」
「甲多、頼むわ」
美加が甲多の風で浮いて物体から出た。
「どう美加?」
「…………うそ!?」
「甲多。俺達も頼む」
雁斗と斬牙も物体から出る。
「よっと」
甲多も風を起こしながら出る。
「……ここ……って!!」
甲多から汗が噴き出す。
「まんまとハメられたか!」
斬牙は手で日差しを遮る。
「やってくれんじゃねえか!」
雁斗は意を決して、目の前に広がる砂漠に降り立った。




