極めし技
「はっはっ! ……うりゃあ!」
額に汗が滲み出る。
「まだ……!」
木を足で蹴っていきながら、木に登っていく。
「はあああ!!」
空中で切った丸太が地面に落ちた。
「クッソー!! まだ粗い!!」
丸太の断面を見ながら、雁斗は言葉を荒げた。
「うるさいぞ。こそこそと戻ってきたと思ったら、破材と格闘しやがって。何をそんなにカリカリしてるんだ?」
迅がコーヒーを飲みながらやって来た。
「こんのーおおおクソ親父いいい!! どうして治癒術のことを黙ってた」
「……なんだよ、教えてほしかったのか? 言ってくれれば教えてやったぞ」
迅はコーヒーを飲み干した。
「治癒術にはコツが要る。いくらなんでも即日会得なんか無理だ。とにかく家に入れ」
「……おう」
雁斗と迅は家に入った。
「……成る程な……斬牙君がなあ……」
迅はコーヒーを飲む。
「アイツ、希少だなんて言ってなかった。それが……あんな凄え炎を」
雁斗が手に持っているカップを振るわす。
「……幼なじみで同い年の友達に差をつけられて焦ってるんだな」
「そんなんじゃ……ねえよ」
雁斗はコーヒーを飲み干すと、ヘアバンドで髪を上げた。
「ほーん、気合い充分か?」
「頼む親父! 俺、抹殺斬を完成させたいんだ! 治癒術を会得したいんだ!」
「本気なんだな?」
「冗談じゃねえよ」
「分かった。付いてこい」
迅は地下室に向かった。
「地下室? なんでだ」
雁斗も地下室に向かった。
※ ※ ※
「雁斗さん、戻ってこないな~」
甲多が心配そうに窓を覗く。
「なーに……親父さんに教えを請いに言ったんだろうさ。心配いらないよ」
斬牙は出された朝食を食べ終わると、テレビを観る。
「甲多。多分、暫くは雁斗の奴は戻ってこないよ。信じて待ってやれ」
「うん。信じて待つよ」
甲多は自分の朝食を食べた。
※ ※ ※
「ぐはあああ!!!!」
雁斗が壁に叩きつけられた。
「おいおい、今の抹殺斬は俺の半分の威力だぞ? 半分で悲鳴を挙げるなよ」
「このクソ親父いいい!! 殺す気か!?」
雁斗の身体から血が流れ出る。
「こっちに来い、治してやる」
「……もうちっとだ」
雁斗は迅に傷を治される。
「まだまだだ。俺の全力の抹殺斬を受け止めてから偉そうな口を利け」
「いまの言葉、覚えとけよ……親父」
雁斗が抹殺器を構える。
「いくぞ、雁斗」
(いい目をしやがる。厄介な息子だな……俺に似て)
迅の口元が一瞬緩むが、振りかざされた刃は強力な一撃を生んだ。
※ ※ ※
一ヶ月後。
「甲多!」
「うん!」
甲多がクナイを飛ばした。
「ガウゥゥゥ」
冷獣に突き刺さったクナイが抜けて落ちてしまう。
「どうして!?」
「刺すのが駄目なら斬るだけだ!」
斬牙が長剣で冷獣を斬る。
「ガウゥゥゥ?」
「……燃えろ!」
「ガアァァァ!」
冷獣が燃えだす。
「……こいつでとどめだ!」
斬牙が冷獣を斬りつける。
「ガウゥゥゥッ」
冷獣の体が炎を吸収する。
「なんだと!?」
「ガアァァァ!」
冷獣が口から炎を出した。
「マジか!?」
斬牙が剣で防ごうとするが、炎の勢いに堪らず避けてしまう。
「このままじゃ炎が!!」
甲多が追い付こうとするが間に合わない。
「抹殺斬!」
「ガアァァァ!!」
放たれていた炎がかき消され、冷獣も倒れた。
「だらしねえな? 斬牙。自分の技には責任持てよ」
「雁斗!?」
「雁斗さん! 戻ってきたの!」
「待たせて悪かったな、甲多」
「ううん! お帰りなさい!」
「ただいま、だ」
雁斗が抹殺器をリストバンドに戻すと、甲多と斬牙の傷を癒す。
「治癒術も会得したのか!?」
「驚くなよ。会得していて当然なんだろ?」
「一ヶ月で抹殺斬を仕上げて、さらに治癒術を会得して……だいぶ無茶したはずだ」
「どっかの誰かさんが、発破を掛けたからな」
雁斗が嫌味っぽく言う。
「悪かったよ……別に悪気はなかった。……なあ、炎はどうやって消したんだ?」
「話を変えすぎだ。まあ、気になるのも無理ねえか。簡単な話だ、酸素がなけりゃ炎は燃えないから……それを断ち切ったまでだ」
(たった一撃の抹殺斬で!?)
「斬牙さん、帰ろう!」
「そうだな」
(ふっ……やっぱり凄いよ、雁斗)
「雁斗さんも帰るよ!」
「おう!」
雁斗は満面の笑みを浮かべながら歩き出した。




