謎の少年
街灯が無い真夜中の路で男性が踞る。
「来るな! ……来るな!」
「ガウゥゥゥ」
聞き慣れない声が響く。
「来るな!」
男性は声の方向に、持っていた鞄を投げた。
「ガウゥゥゥ」
「頼む……来ないでくれ! 家で家族が帰りを待ってるんだ!」
路に振動が起きる。
「ひぃぃぃ!?」
男性は腕で頭を覆う。
「ガアアアア!!」
「……え!?」
男性は声の感じが変わって聞こえたので、勇気を振り絞り前を向いた。
「これ持って、さっさと行きな」
少年の声がする。
「誰なんだい?」
「今夜の事は忘れるんだ」
そう言って人影は消えていった。
「なんだったんだ……いったい!?」
男性は暫く動けないでいた。
※ ※ ※
「どうしよう~」
子供が、自分の三倍は有るであろう高さの段差を前にしていた。
「あれじゃあ摘めないよ」
子供が腕を組んで考え込む。
「ガウゥゥゥ」
「ん?」
子供は聞き慣れない声が聞こえて、辺りを見渡す。
「猫かな~?」
「ガウゥゥゥ」
「ん? ……猫じゃ……ない?」
子供は、声のした方向を見た。
「ガウゥゥゥ」
「うわあああ!! ……ライオンだあああ!!」
子供は驚いて道を走っていく。
「ガウゥゥゥ!」
「なんで付いてくるんだよ!」
「痛い!」
子供が地面に注意がいかずに、石に躓いて転んでしまう。
「ガウゥゥゥ!」
ライオンが飛び上がる。
「う!?」
子供が腕を前にする。
「ガアアアア!!」
「……え!?」
子供は声が気になり目を開いた。
「血……!? ……なんで血が……」
子供は気を失った。
※ ※ ※
「う……ん」
「お? 気がついたか?」
子供が目を覚ますと、少年の姿が映った。
「君は? ……というか、ここはどこ?」
「大丈夫か?」
少年が訊く。
「君は誰なの? ……ライオンはどうなったの!?」
「その事だが……忘れるんだ」
「そんなの無理だよ!」
「女なんだから、聞き分けよくないと嫌われるぜ?」
「まただ……」
「なにがだ?」
「僕は……僕は……僕は男だあああ!」
「うわ!?」
子供の迫力に圧されて椅子から少年が落ちる。
「あ……ごめんなさい。つい……。そうだよね、名前を聞くときは自分からだよね! 僕の名前は、甲多。……それで……」
甲多が少年をじっと見る。
「はあ……。見た目は金髪の女みたいなのに、中身は頑固なんだな、お前。しゃあない……俺は、雁斗だ」
「それでライオンは?」
「あれは……俺が斬った」
「え!?」
雁斗の言葉に甲多は唖然とする。
「それと、あれはライオンじゃねえ。あれは冷獣だ」
「れいじゅう?」
「ああ。犬とか猫とか身近に居る動物が突然変異したのが冷獣だ。そんで冷獣を退治するのが抹殺師の役目だ」
「まっさつし?」
「あっ……」
雁斗は思わず言ってしまい困る。
「抹殺師ってなんなの?」
「しゃーない……簡潔に言うぞ。冷獣を元の動物に戻すのが抹殺師の役目だ。冷獣は抹殺師以外の攻撃でも死んじまう。だから俺がさっきの奴も斬ったんだよ」
「そう……だったんだ。……とにかく御礼を言うよ、ありがとう雁斗さん!」
「雁斗さん?」
「だって年上だから敬わないと」
「俺、十二だぜ? 多分、歳は変わんないんじゃねえか?」
「えーー! 同い年ぃぃぃ!」
「俺、やっぱり老けてるのか?」
「違うよ! 雁斗さんは大人っぽいんだよ」
「大人っぽいねえ」
雁斗が立ち上がる。
「どこに行くの?」
「いいから、お前は今日のことは忘れて帰るんだ」
「そんなの無理だよ! 冷獣ってやつに追いかけられて気を失って、目が覚めたら紫色の髪の男の子が居るんだよ! ……簡単に忘れられないよ。それと、僕のことは甲多で良いよ!」
「……やっぱりか。それじゃ、一緒に来るか?」
「うん!」
甲多が頷いて、雁斗の家を出た。
※ ※ ※
「それで、どこに行くの?」
「コイツを逃がしにな」
雁斗は段ボールを持った。
「うん?」
甲多が段ボールを開けた。
「にゃー」
「猫だ!」
「実は、コイツは前に、さっき甲多が冷獣に襲われてた場所で見かけたことがあってな。そこまで連れていくのさ」
「そうなんだ」
「あと、お前を送るのも目的だけどな。この辺は森みたいになってるから暗くて、夜行性の動物が活発になることがあって危険だからな」
「ありがとう! 雁斗さん!」
「礼には及ばんさ。んじゃ行くか!」
雁斗と甲多は歩きだした。




