2000で埋め尽くされた生活
2000なんて奇妙で怖い。
そう、思わないかい?
「おめでとうございます!!」
廃れた美術館に足を踏み入れると同時に、クラッカーやシンバルの音、しゃがれた男の声が美術館内に鳴り響いた。
俺は一瞬、何が起こったのか理解が出来なかった。
すると、クラッカーとシンバルを持ったしゃがれた声の男が、
「おめでとうございます!あなたは、当美術館観覧者数2000人目でございます!」
そしてまた、乾いたクラッカーの破裂音が鳴り響いた。
「2000人目・・・ですか・・・」
「はい!当美術館2000人を突破した記念として、今日あなたの生活すべてを2000で埋め尽くします」
「2000で・・・・埋め尽くす・・・ですか・・・?」
よく分からない記念品だ、と思っていると、しゃがれた声の男は僕に歩み寄り、
「では、今日はこれで閉館とさせてもらいます。それではよい2000の1日を・・・」
「え?ちょ・・・!え・・・!は・・・い!?」
しゃがれた声の男は俺を外へ追い出すと、早々と美術館の扉を閉めてしまった。
「2000で埋め尽くされた生活って・・・・なんなんだよ・・・・はぁ」
いつ建てられたのかも分からない、ツタで生い茂った奇妙な美術館。
スタッフが1名しかいない美術館。
そんな美術館に出会った俺の今日という日はその名の通り、
"2000"で埋め尽くされることになった。
今の時刻を確認しようと右腕につけた腕時計を見ると、8時00分、秒針は外れて腕時計の中で横たわっている。
空は真昼なのに時計は8時00分を指している。
「・・・8時って・・・朝の8時な分けないだろ。この腕時計壊れたのかな・・・」
この時計は長年愛用していたもので今日の朝までは正常に動いていた。
「なのに・・・なんで急に壊れるかなぁ・・・」
仕方なく携帯で時間を確認する。
時刻は11時23分と表示されていた。
「よし、もうすぐで12時だし、昼飯でも食べに行くか」
腕時計はまだ、8時00分を指したままだ。
昼食は近くのレストラン『ロンドン』で済ますことに決めた。
店に入ると、今日はキャンペーン中のようで席が満席状態だった。
「くそ~なんでキャンペーン中なんだよ・・・ったく・・・・」
席が空くのを待っている間、レストラン『ロンドン』のチラシを見ていると、
『2/15 本日、2000名限定で全品2000円!』
と、でかでかと載っていた。
「全品2000円って高くないか?なのに・・・、なんでこんな人がいるんだ・・・?」
席に座って食事をしている客達は皆、裕福な感じではなく、普通の人たちだ。
「なんで全品2000円に・・・ん?」
そのときふと、さっきの美術館に居たしゃがれた声の男の言葉を思い出した。
「2000で埋め尽くされた生活・・・」
まさかと疑ったが、更にある事に気づく。
「さっきの・・・腕時計!!」
右手の腕時計に目をやる。
「これ・・・、午前8時じゃなくて・・・、・・・午後20時00分・・・・・、2000・・・」
額から汗が頬へとつたう。
「2000で・・・・埋め尽くされた生活・・・・」
レストランのスタッフが俺を呼ぶ。
「すみません、大変長らくお待たせしました。2000名限定全品2000円のキャンペーン、あなたが・・・」
「最後の2000人目ですよ」
周りの音が消えた。
いや、消えたのではなく正しく言うと、俺が同様しているだけだ。
隣ではレストランのスタッフが「すみません、2000名に達しましたので本日のキャンペーンは終了さしてもらいます」と頭を下げている。
しかし俺にその声届くはずもなく、ひたすらしゃがれた男の声の言葉が頭の中で、こだまする。
『今日あなたの生活すべてを2000で埋め尽くします』
たらこスパゲッティを食べたが、気分は上がらない。
別に嫌いというわけではないが、モヤモヤが大きくなる。
幽霊を見たときや、知ってはいけないようなことを知ったときのようだ。
「2000で埋め尽くされた生活・・・・」
2000に恐怖を抱いているのではなく、あのしゃがれた声の男に恐怖に似た気持ちを抱いていた。
「とりあえず・・・、買い物を済まして家に帰ろう」
レストランを後にし、近くのスーパーマーケットに入る。
しかし、店は2000人という客と2000円もする商品、2000種類もある商品で、既にいっぱいだった。
「のぁっ!・・・ちくしょ~」
スーパーから足早に出る。
「今はどこのスーパーも無理そうだ・・・」
もうあきらめて帰ろうとしたとき、
「ん?2000円の商品・・・?ってことは・・・・!!」
大手電気ショップから大荷物を抱えて俺は出てきた。
「いやぁ~まさか家電やPCなんかも2000円だったなんて!得したぁ~!」
大手電気ショップを後にした俺は更に町を歩き回った。
いつもの町の風景なのに、どこか違う。
姿・形はいつもの町。
だけれど、そこはいつもの知っている町ではない。
「これが・・・、2000で埋め尽くされた生活・・・かぁ・・・」
もう、2000で埋め尽くされた生活に悪い気はしなかった。
寧ろ、2000で埋め尽くされた生活を楽しんでいた。
午後20時00分しか指さない腕時計、2000人という客と2000円もする商品、2000種類もある商品、2000名限定全品2000円のキャンペーン、まだまだ2000はある。
2000円の眼鏡をした男、2000人の観光客、2000の・・・
公園のベンチに座って、頭の中で今日出会った2000のものを思い浮かべているときだった。
目の前にいた男が、俺を、刺した。
腹部を一箇所一突きだった。
腹から血が零れ落ちる。
頭がクラクラする。
男は殺意に満ちた目で俺を見下ろす。
精一杯の力で男の足を掴んだが、蹴られて跳ね除けられた。
俺は後悔をした。
家に普通に帰っていれば、刺されるはずも無かった。
もう一度家に帰って、好きなテレビ番組を見たい。
今日から始まる新ドラマは面白そうだった。
多分、ここで殺されたのは2000で埋め尽くされた生活と関係はないだろう・・・。
そこで俺は意識を失った。
それから2000秒後、公園を走っていた老夫婦によって救急車で搬送されたが、18時に病院に着いたその2時間後。
俺は、脱獄2000回目の殺人鬼の2000人目の被害者となり、午後20時00分に息を引き取った。
「おめでとうございます!」
古びた図書館に足を踏み入れると同時に、クラッカーやシンバルの音、しゃがれた声の男の声が図書館内に鳴り響いた。
私は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
すると、クラッカーとシンバルを持ったしゃがれた声の男が、
「おめでとうございます!あなたは、当図書館観覧者数1000人目でございます!記念として・・・」
「今日あなたの生活すべてを1000で埋め尽くします」
-END-
"2000で埋め尽くされた生活"を読んで下さりありがとうございます。
普通の一般の高校生がゴロゴロしていて思いついた小説なので、ゴロゴロしながら読んでください。
2000で埋め尽くされた生活は奇妙で楽しそうですが、僕は個人的には好きではありません。
いろんな数字があったほうが楽しいですし、20時00分しか指さない腕時計なんか役に立ちませんから。