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時間軸

作者: 後藤章倫
掲載日:2025/12/31

 「キノピー、蝉どした?」

「え?蝉ってなんすか?」

「お前、蝉知らんのん?」

「蝉は知ってますがな、どうしたってなんすか?」

「預けたやんけ、川んとこで。そんでお前、胸ポケットに入れたやろ」

「えええ、もろてませんよ」

「じゃ胸ポケット見てみぃ」

するとキノピーの胸ポケットから急に羽音がして、中でワシャワシャ始めた。

「うわ、なに?」

「なにてお前、蝉やろが」

キノピーが胸ポケットを広げると、蝉は勢い良く飛んでいってしまった。

「おーい、逃げてもたやんけ」

「いや、そう言われても」

「アレな、尻の方旨いねんぞ」

「えええ、蝉食べはんの?」

「えええ?逆に、ええええ?お前蝉食うた事無いのん?」

「いや、普通食わんでっしゃろ」

「普通に食うわい。お前アレか、人参キラーイ、ピーマンもニガーイ、お酒はクサーイって好き嫌いばっかする糞餓鬼かぁ?」

 キノピーは蝉が飛んでいった空を眺めた。すると目の前に、白というか透明というかそういう感じのものが見えたと同時に顔にビチャっとかかって、猛烈に悪臭が漂い始めた。

「うわっ」キノピーは思わずそれを手で拭い払う。

頭上の電柱から土鳩が五、六羽飛び立った。

「くっさ、鳩のウンチョ爆弾やんけ」

キノピーは顔も手もグズグズになった。そしてキノピーは思った。

「最悪やん。あり?なんか足元も生温い」

 俺は爆笑した。小汚ない茶色の野良犬がキノピーの足元で片足を上げていた。

 キノピーは、顔も手も足元も心までもグズグズになって帰宅した。


 「あああ、キノピー帰ってもた。ポリンキー、お前どう思う?」

俺は、右肩に乗っているリス猿に話しかけてみた。ポリンキーは俺の頬を触るなどして愛くるしい。

「蝉食いたかったよな?ポリンキー」

ポリンキーはウッキャウッキャしてる。

「そんなら俺らも帰ろか」

 ポリンキーとゆっくり歩いていると、海岸近くの川に何かが遡上しているのが見えた。

「アレって、鰻よな?」

ポリンキーに聞いても、愛くるしい顔で俺を見返すのみだ。かわいいやつ。

 川へ目を向けると、数十匹の鰻が遡上している。川幅はニメートルも無い。ワンチャン上から石で狙えそうだ。

 手頃な石を拾い、鰻の群れを追いかける。ポリンキーは必死に俺にしがみつく。かわいいやつ。

「そんならいくぞ。ウォリャ」

川へ投げ放った石は何かに命中して、それは頭から血を流し川下へ流れて行った。ラッコだった。

「なんでラッコが居んねん?」

ラッコは絶命してはいなかったけど、川を上る気力は無くなっていて川の流れに身を任せ、そのまま海の方へ流れて行った。

「ラッコ、すまん」

 今度こそ鰻を取りたい。そこに落ちていた石は星形をしていて、手に馴染むし投げやすそうだったのだけど、重かった。

「この石、なんでこんなに重いんじゃい」

このくらいの大きさなら片手で持てそうなのに、ようやく両手で抱えれるくらいの重さだ。普段はなんの重さも感じないのに、ポリンキーの体重までがのし掛かっているように思える。でも、鰻食いたいし行くしかない。星形の石を抱えてつつヨロヨロと鰻を追う。

 しめしめ、川の先が一段高くなっていて、落とし込みのところで鰻はウニョウニョしていた。

落とし込みの上まで来て鰻に狙いを定める。

「にしても、この石重いわ。あと、もうラッコとか居らんよな?」

ポリンキーに俺の殺気が伝わったのか、幾分表情が固いように見える。

「これは当たるやろ、そんならウォリャ」

バチャンと水面を石が叩く音がして、石は鰻へ向かった。

 すると石は、あんなに重かったのに川に浮いてしまい、そのまま下へ流れて行った。

「嘘やん?ポリンキーどうなんアレ?」

ポリンキーはちょっと安堵しているみたいだった。

「そうや、キノピーに電話して網持ってきて貰お」

俺はスマートフォンを取り出してキノピーへ電話した。十五回目のコールでようやくキノピーが出た。

「風呂入っとったんすよ、なんすか?」

「ああ、メンゴメンゴ。ちょっと網持ってきてくれん?」

「は?網ってなんすか?」

「えええ、お前網知らんのん?」

「いや、網は分かるけど、持って行くとか」

「川にな、鰻居んのんよ。で、石投げたらラッコに当たってもて、血ぃブワぁぁ出して流れて行って、そんでまた石投げたら、その石重くてな、重かってんけど川に浮いて」

「何言うとるか全然わからんすけど」

「網で鰻掬いたいから網を、も・っ・て・き・て・(はあと)」

そう言うと、キノピーは嫌々みたいな声で返事をした。

 鰻を見ながらキノピーを待っていると、ポリンキーが、「キキキ」と可愛い鳴き声を立てた。

「鰻本当におるんすか?」

不満げな声を出しながら、キノピーが網を片手にやって来た。

 その時俺は、蝉を一匹捕まえていた。

「ほれ、あそこウニウニおるやろが」

「あ、ほんまや」

「そんなら網貸して。つかコレちょっと預かっといて」

「なんすか?」

「蝉」

「俺、蝉とかよう触れんすよ」

「そんなら胸ポケットに入れとけよ」

キノピーの胸ポケットに蝉を入れて、網を受け取り鰻を掬おうとした時に、背後で何かを察知したキノピーの大声がした。


 「時間軸ぅぅぅ」



                    〈了〉




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