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ホトトギス

作者: 柳原史弥

 むかしむかしのことでございます。アシハラノナカツクニという国に、鳴かないホトトギスがおったそうな。

 アシハラノナカツクニで一番尊いミカドというお方は、そのホトトギスは一体どんな鳴き声をしているのだろう、と気になって夜も眠れず、何も手につかなくなってしまいました。何としてもホトトギスの鳴き声が聞きたくなったミカドは、三人の家来を呼び出しました。


 ミカドは、一の家来のキッポウシに、「ホトトギスを鳴かせることができたら褒美をとらそう」と言いました。

 キッポウシは考えます。

(そうだ! そんなホトトギスはいっそ殺してしまえばいいのだ! そうすれば、ミカドもぐっすりと眠れるようになるに違いない)

「さあ、どのようにして鳴かすのじゃ? キッポウシよ」

「これを使います」

 そう言ってキッポウシは、種子島という、彼愛用の銃を取り出して、ホトトギスに向けて発砲しました。

 ホトトギスは間一髪で、その凶弾を避けました。キッポウシはすかさず次弾発射の準備にとりかかりました。そこにミカドの怒声が浴びせかけられました。

「このうつけが! 今殺そうとしたな? 殺してしまっては鳴き声が聴けぬではないか! 失格じゃ!」

 キッポウシは何も言い返せず、「是非もなし」とつぶやいて、家に帰ってしまいました。

 

 次にミカドは、ニの家来のトウキチロウに、「ホトトギスを鳴かせることができたら、キッポウシの倍の褒美をとらそう」と言いました。

 トウキチロウは考えます。

(そうだ! 金の力を使って鳴かせればいいのだ! ふふふ、これで褒美はいただきだ!)

「さあ、どのようにして鳴かすのじゃ? トウキチロウよ」

「これを使います」

 そう言ってトウキチロウは、手に持っていた大きな袋から、天正大判という金を一枚取り出して、ホトトギスに「これで鳴いてはくれぬか?」と言いました。

 ホトトギスは天正大判には見向きもしないで、自分の羽の手入れを始めました。それならば、とトウキチロウはもう一枚天正大判を取り出しました。そこにミカドの怒声が浴びせかけられました。

「このハゲネズミが! 金で誰かの心を動かして良いのはわしだけじゃ! 失格じゃ!」

 トウキチロウは何も言い返せず、「難波のことは夢のまた夢……」と言って、家に帰ってしまいました。


 次にミカドは、三の家来のタケチヨに、「ホトトギスを鳴かせることができたら、トウキチロウの倍の褒美をとらそう」と言いました。キッポウシの四倍の褒美がもらえるということです。

 タケチヨは考えます。

(さて、待つとするかのう)

「さあ、どのようにして鳴かすのじゃ? タケチヨよ」

「鳴くまで待ちまする」

「ほう……待つ、とな?」

「はい。キッポウシ殿とトウキチロウ殿は忍耐がたりなかったのです。鳴かぬなら、鳴くまで待てばよいのです」

 タケチヨはそう言うと、大きな石に腰かけ、どっしりと構えました。

 しかし、一時間経っても、二時間経ってもホトトギスは鳴きません。そしてついには、五時間が経ってしまいました。

「この狸が!」

 眠ってしまっていたタケチヨは、辺りに響き渡ったミカドの怒声で飛び起きました。

「わしが起きているのに眠ってしまうとは言語道断! 失格じゃ!」

 タケチヨは、眠たそうな目をこすりながら、「人の一生は重き荷を負うて遠き道を往くが如し」と言って、家に帰ってしまいました。


「三人ともだめか……もう家来はおらぬし、あきらめるしかないのかのう……」

 ミカドは溜息をつき、続けてホトトギスに向かって言いました。

「鳴いてはくれぬのか? ホトトギスよ」

 するとホトトギスは、一瞬ミカドと目を合わせたかと思うと、素早い身のこなしでその場からいなくなってしまいました。

「ああ!」

 ミカドは先程よりも深い溜息をついて、うなだれてしまいました。

 それからしばらくミカドは溜息を何度も何度もつきました。

「はあ……」

 ミカドが何度目かの溜息をついた時、ガサリ、と叢の中で音がしました。

「何奴じゃ!」

「恐れながら、私ならばホトトギスを鳴かすことができまする」

 そう言って叢の中から姿を現したのは、とてもみすぼらしい男でした。

 本来ならみすぼらしい男はミカドと話をすることもできないでしょう。しかし、ミカドは男を側近くまで呼び寄せました。男がホトトギスを鳴かすことができると言ったことが、ミカドの心を捉えたのです。

「ほ、本当に鳴かすことができるのか?」

 ミカドは少し興奮した様子で男に言いました。

 男はミカドとは対照的に冷静な様子で、静かに「はい」と答えました。するとミカドはさらに興奮した様子になって言いました。

「おお! まことか? ならば、タケチヨの倍、いや……十倍の褒美をやろうぞ!」

 キッポウシの四十倍の褒美が貰えるということです。

「十倍……これは気を抜けませぬな」

「そうじゃろう? さあ、どのようにして鳴かすのじゃ?」

「ホトトギスを説得してまいりまする。きっかり一分後、ホトトギスはミカドの前で鳴きまする」

 そう言うと男は、ホトトギスを説得しに行きました。

「説得……とな? ふーむ、とりあえず待ってみようかのう」

 待つこと一分。ホトトギスがミカドの前に現れました。

 そして……


 ほーほけきょ


 とそれはそれは大層美しい声で鳴きました。

「おお! 鳴いた! ついにホトトギスが鳴いたぞ!」

 ミカドは大層喜び、その場で激しく腰を振って踊り始めました。

「……ド!」

「ひゃっふぉう!」

 ミカドの腰の動きは激しさを増します。

「……カド!」

「いやっはぁぁ!」

 決めポーズ。ミカドは恍惚とした表情をしています。

「ミカド!」

「ん? おお、そちか」

 ようやく自分が呼ばれていることに気付いたミカドは、いつの間にか戻ってきていたみすぼらしい男の方に視線を移しました。

「おや? またホトトギスがいなくなってしまったのか?」

「はい。ミカドが素晴らしい踊りを踊っている間に、去っていきました。それよりもミカド、ホトトギスは鳴きましたでございましょう?」

「うむ。よくやったぞ。誉めてつかわそう。ほれ、あれが褒美じゃ」

 そう言ってミカドが指差した先には、目もくらむような金銀財宝が山のように積まれていました。


 一人の男が、雲で月が隠れてしまった闇の中をテクテクと歩いています。

 その前に、あの鳴かないホトトギスが現れました。

「良い月じゃ。のう、ハンゾウ……」

 男は、空を見上げながら言いました。

「まことに」

 ホトトギスは、男と同じように空を見上げながら言いました。

「もう、変化を解いても良いぞ」

 ドロン、と怪しげな音がしたかと思うと、ホトトギスの姿が、先程ミカドから褒美をもらったみすぼらしい男に変わりました。

「その姿も、もう良い。いつもの姿に戻れ」

 再び、ドロン、という怪しげな音がしたかと思うと、みすぼらしい男は全身黒装束の男に変わりました。黒装束の男は、もう一人の男の前にひざまづき、「お役目、果たしましてござりまする」と言いました。

「うむ、大儀であった。それにしても、うまくいったな」

「はい。さすがは殿のたてられた計画にござりまする」

「何、大したことはない。私はミカドの性格なぞ知り尽くしておるからな。ミカドを思い通りに動かすことなぞ造作もないことよ。それに……ハンゾウ、お前の変化があればこそよ。まこと、天晴れな働きであった。お前は私にはなくてはならぬ存在だ。これからも宜しくたのむぞ」

「もったいなきお言葉。それでは、財宝を城に運び入れてまいりまする」

 そう言うと、黒装束の男はその場を後にしました。

 雲が風で流され、隠れていた月が姿を現しました。

 

 その月の光が照らし出したのは、不適に笑うタケチヨの姿でした。


 

 

 



初投稿です。

文章も、話も、まだまだ未熟ですが何卒ご容赦下さい。


僕の大好きな歴史を題材にしています。僕の中ではこの作品は立派な(?)歴史小説です。途中、かなりくだらない箇所もありますが、そこも含めて楽しんでいただければ幸いです。


では、またお会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
[一言] 鳴かぬなら(私を)泣かせてみせよ ホトトギス 信長の件、「殺してしまえ」 銃を向けて撃った時点で一声『崩御(ホーウホケキョ)』 よく持ち出せましたね、帝の御前で・・・。 でもこういう信長…
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