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96話 静かな街で、真実は足音を立てる

【登場人物紹介】


れい

冷静沈着な探偵。

感情を表に出さず、事実と観察のみを信じて行動する。

変装や女装も任務の一部と割り切る徹底したプロフェッショナルで、

「真実は必ず記録に残る」が信条。


アキト

変装・潜入のスペシャリスト。

学生、配達員、店員、管理人など、状況に応じて自在に姿を変える。

飄々とした態度と男口調が特徴だが、任務への集中力は極めて高い。

事件の節目に“ふらっと現れる”存在。


奈々(なな)

情報処理・解析担当。

映像、GPS、通信ログを統合し、決定的な証拠へと昇華させる。

理知的で冷静だが、チームへの信頼は揺るがない。


御子柴理央みこしば りお

分析・記録専門のスペシャリスト。

感情を排した論理的思考で、事件の構造そのものを解体する。

裏方に徹するが、真相解明の精度を支える要。


佐藤優子さとう ゆうこ

愛犬モカを失い、玲に依頼を持ち込んだ女性。

穏やかな性格だが、守る存在のためには迷わず行動する芯の強さを持つ。


モカ

優子の愛犬。

事件のきっかけとなった存在であり、

人の悪意と善意の両方を静かに映し出す象徴的な存在。

冒頭


【時間:10月下旬・17時40分ごろ】

【場所:東京郊外・住宅街から公園へ続く並木道】


秋の夕暮れが街路樹の隙間を縫うように差し込み、橙色の光が歩道を柔らかく染めていた。

風に煽られた落ち葉が、かさり、かさりと音を立てて舞う。


佐藤優子は、右手にリードを握りしめながら歩いていた。

足元では、茶色の小さな犬――モカが落ち葉を踏みしめる感触を楽しむように、軽やかに跳ね回っている。


「モカ、そんなに急がないの。もう少しで公園なんだから」


優子は少し困ったように笑い、歩調を緩めた。

仕事帰りのこの散歩は、一日の中で唯一、心がほどける時間だった。


その時だった。


ふと、手に伝わるはずの重みが消えた。


「……?」


優子は足を止め、反射的に視線を落とす。

そこにあるはずの、小さな背中がない。


「……モカ?」


名前を呼ぶ声が、夕暮れの空気に吸い込まれる。

返事はなかった。


胸の奥が、ひやりと冷える。


「モカ……? 冗談でしょ……」


慌てて周囲を見渡す。

住宅街はいつも通り静かで、遠くから子供の笑い声がかすかに聞こえるだけだ。

公園の入り口も見えるが、そこにもモカの姿はない。


「まさか……」


優子はリードを強く握り直し、駆け出した。


【時間:同日・17時45分】

【場所:近隣住宅街】


「すみません!」


通りがかった年配の男性に声をかける。


「この辺で、小さな犬を見ませんでしたか? 茶色で、首輪は赤で……」


男性は首を横に振った。


「いやぁ、見てないなぁ……」


別の家の前で立ち話をしていた主婦にも声をかける。


「犬……? ごめんなさい、気づかなかったわ」


答えはどこでも同じだった。


優子の胸に、焦りがじわじわと広がっていく。

足元を見ると、落ち葉の上に微かに残る小さな足跡があった。


「……モカ」


その跡を辿るが、角を曲がった先で、不意に途切れている。


「どうして……」


喉が詰まり、声が震えた。


【時間:同日・17時55分】

【場所:公園入口付近】


公園の入り口に立ち尽くし、優子は深く息を吸った。

夕暮れはすでに群青へと変わり始め、街灯がぽつぽつと灯り始めている。


「警察に……届けるしか、ないのかな……」


そう呟きながら、ポケットからスマートフォンを取り出す。

画面に映る連絡先を指でスクロールし、ある名前の前で指が止まった。


――玲。


以前、別件で相談したことのある探偵。

冷静で、余計なことは言わないが、確実に事実を掴む人物だった。


「……今は、それしかない」


優子は震える指で通話ボタンを押した。


数回の呼び出し音の後、落ち着いた低い声が耳に届く。


「玲探偵事務所です」


「……玲さん……」


声が掠れる。


「どうしましたか」


「お願い……助けてください……」


優子は唇を噛みしめ、言葉を絞り出した。


「モカが……私の犬が、いなくなっちゃったんです……」


電話口の向こうで、わずかな沈黙があった。


「……落ち着いてください。最後に確認できた場所と時間を教えてください」


その声は静かで、しかし確かな強さを帯びていた。


風に乗って、落ち葉がひらりと舞い、優子の肩に落ちる。

秋の夕暮れは、いつの間にか、いつもとは違う不安な色を街全体に滲ませていた。


そして――

この小さな喪失が、新たな調査の始まりになることを、

まだ優子は知らなかった。


【時間:10月下旬・午前8時15分】

【場所:東京郊外・佐藤優子宅前】


秋の冷たい風が住宅街を吹き抜け、街路樹の枝を揺らした。

乾いた落ち葉が舞い上がり、アスファルトの上でかさり、と音を立てる。


玲は優子の家の前に立ち、コートの襟を立てながら周囲に視線を走らせていた。

通勤に向かう人影がまばらに通り過ぎるだけで、街はまだ朝の静けさに包まれている。


「おはようございます、優子さん」


低く落ち着いた声でそう告げると、玄関先に立つ優子は小さく頭を下げた。

目の下には薄く影があり、一睡もできなかったことが容易に分かる。


「……おはようございます。すみません、こんな朝早くから」


「いえ。状況が状況ですから」


玲は一歩だけ距離を詰め、優子の表情を確かめるように見た。


「昨日のことを、もう一度詳しく聞かせてください。散歩の時間、場所、モカがいなくなった瞬間まで」


優子は唇を噛みしめ、ゆっくりと頷いた。


「昨日は……夕方の五時半ごろです。いつもの並木道を通って、公園へ行く途中でした」

「モカは、落ち葉の上を走り回っていて……ほんの一瞬、目を離したんです」


声が震え、優子は胸元で手を握りしめる。


「気づいたら、リードが軽くなっていて……名前を呼んでも、どこにも……」


玲は頷きながら、静かに問いを重ねる。


「その後、どこを探しましたか」

「公園の中です。ベンチの下、遊具の影、トイレの裏も……全部」

「でも、見つからなくて……」


玲は手帳を開き、短くメモを取った。


「足跡や、毛、物音など……普段と違う点はありましたか」


優子は少し考え込み、視線を落とす。


「……足跡、です。落ち葉の上に、モカのものじゃない気がする足跡が少しだけ……」

「でも、人のものなのか、犬なのか……自信はありません」


【時間:同日・午前8時35分】

【場所:公園沿いの散歩道】


二人は並んで歩き、公園へと向かった。

朝日が木々の隙間から斜めに差し込み、落ち葉の赤や黄を淡く照らしている。


玲は歩幅を落とし、地面に視線を落としたまま慎重に進んだ。

落ち葉の重なり方、踏み荒らされた跡、土の柔らかさ。


「……ここですね」


玲は足を止め、しゃがみ込む。


「モカの足跡は、ここまで続いています」

「その先で……不自然に消えている」


優子は息を呑み、口元を押さえた。


「消えてる……?」


「ええ。走り去った形跡ではありません」


玲は落ち葉の上を指先で軽く払う。


「抱えられて移動した可能性が高い。小型犬ですからね」


「そんな……誰かが、連れて行ったってことですか……」


声がかすれ、優子の目が潤む。


玲は立ち上がり、周囲を見渡した。


「公園の出入口、防犯カメラの位置、近隣の動線……確認することは多い」

「それと――」


玲の視線が、公園の向かいに建つ一軒の家へ向く。

玄関先で新聞を取る、隣人の小林亮の姿が一瞬見えた。


「小林さん、でしたね」

「昨日の行動について、少し矛盾があります」


優子は不安そうにその方向を見る。


「亮さんが……?」


「断定はしません。ただ、確認は必要です」


玲は穏やかだが揺るぎない声で続けた。


「必ず見つけます。モカがどこに行ったのか、誰が関わっているのか」

「そのために、私がいます」


優子は小さく頷いた。

胸の奥に渦巻いていた不安の中に、ほんのわずかな希望が灯る。


モカはまだ、この街のどこかにいる。

そう信じられる理由が、今は確かに、ここにあった。


【時間:10月下旬・午前10時20分】

【場所:東京郊外・ペットショップ「ハッピーテイルズ」店内】


ガラス扉が軽い音を立てて開き、甘いシャンプーと乾いたペットフードの匂いが鼻をくすぐった。

店内には明るい照明が灯り、ガラスケースの中で小型犬たちが静かに丸くなっている。


玲はさりげなく視線を巡らせながら、一歩中へ踏み出した。

隣には緊張した面持ちの優子、そしてタブレットを抱えた理央が続く。


その少し離れた場所で、店員風の制服に身を包んだアキトがいた。

名札を胸につけ、棚の商品を整えるふりをしながら、柔らかな笑みを浮かべている。


「……いらっしゃいませ」


低く抑えた声で挨拶しつつ、アキトは視線だけで玲に合図を送った。

店内に他の客は二人ほど。会話に夢中で、こちらには注意を払っていない。


優子はガラスケースの前で足を止め、小さく息を呑んだ。


「……似てる子、いますね。モカと同じくらいの大きさで……」


「ええ。でも、モカではありません」


玲は即答し、値札に目を向ける。


「……理央、これを見てください」


理央はタブレットを操作しながら、ケースの表示を読み上げた。


「トイプードル、マルチーズ、チワワ……」

「価格帯が不自然ですね。特定の犬種だけ、相場より明らかに高い」


「どれくらい?」


優子が不安そうに問いかける。


「通常の倍から、場合によっては三倍近いです」

「しかも、血統書の有無や月齢に関係なく、です」


そのやり取りを聞きながら、アキトは棚の影から静かに割り込む。


「……最近、その犬種だけ、やたら“問い合わせ”が多いんですよ」


あくまで店員の口調で、軽く肩をすくめる。


「即金で引き取る人も多くて。詳しい説明を求めない」

「“今すぐ欲しい”って言う人ばかりです」


玲の視線が、アキトの方へわずかに鋭く向く。


「……出所は?」


アキトは商品棚を整えながら、声を落とした。


「表向きはブリーダー経由。でも――」

「入荷記録、数が合わない時がある」


理央がすぐに反応する。


「つまり、正式な流通ルート以外から犬が入ってきている可能性が高い」


「……盗難犬、ですか」


優子の声が震える。


玲は一度、優子の方を見てから、ゆっくりと頷いた。


「可能性は高いですね。特に小型で、人懐っこい犬」

「連れ去りやすく、すぐに“商品”になる」


店内の奥で、店主らしき男が電話をしているのが見えた。

アキトはその背中に一瞬だけ視線を走らせ、玲に小さく頷く。


「……奥のバックヤード。鍵付きです」

「防音もされてる。生体管理用って名目だけど……怪しい」


理央はタブレットを閉じ、短く息を吐いた。


「ここ、黒ですね」

「モカがここを経由している可能性、かなり高いです」


優子は胸の前で手を強く握りしめた。


「……モカ、ここに……?」


玲は静かな声で言った。


「まだ断定はできません」

「ですが、線は確実につながりました」


アキトは再び店員の笑顔に戻り、通路の向こうへ歩き出す。


「少し時間を稼ぎます」

「その間に、できるだけ情報を集めましょう」


ガラスケースの中で、小さな犬がきゅっと鳴いた。

その声に、優子は一瞬だけ目を伏せ、そして強く顔を上げた。


真実は、この店の奥にある。

玲たちは、確信を胸に、次の一手へと踏み込もうとしていた。


【時間:10月下旬・午後9時45分】

【場所:東京郊外・倉庫街裏路地】


夜の街灯が、路地一面に散った落ち葉を鈍いオレンジ色に染めていた。

風が吹くたび、乾いた葉が靴元を掠め、かさりと小さな音を立てる。


アキトは配達員風の制服に身を包み、肩に小さな段ボール箱を担いで歩いていた。

背中はわずかに丸め、歩幅は一定。急ぎすぎず、遅すぎず。

どこにでもいる夜間配送員そのものだ。


「……この時間帯なら、不自然じゃないな」


独り言は、低く喉の奥で消える。

彼の視線は前方の倉庫群ではなく、その上――外壁に取り付けられた監視カメラへと向けられていた。


倉庫の入口付近には二基のカメラ。

一つは正面、もう一つは斜め上から通路全体を見下ろしている。


アキトは歩きながら、さりげなく足元の水たまりを避けた。

その反射に映るカメラの角度を、一瞬で読み取る。


「……死角、あったな」


倉庫の壁際、積み上げられた空のパレット。

そこにできたわずかな影の帯。

人が一人、数秒だけ立ち止まっても映らない位置。


アキトはスマートフォンを耳に当て、配送連絡を装って足を止めた。


「ええ、はい。今、現地着きました」

「え? 入口がどこか分からない? ……ああ、倉庫裏ですね」


声色まで完璧に“配達員”。

そのまま自然に一歩、影の帯へと足を踏み入れる。


監視カメラのレンズが、彼の肩をかすめる位置で止まった。

箱の角がカメラの視界を一瞬遮り、その間に、アキトの姿は完全に消える。


「……よし」


小さく息を吐き、段ボールを持ち替える。

箱の中身は空だ。だが、重さも、抱え方も本物にしか見えない。


倉庫裏の非常口。

人感センサーはあるが、夜間は感度が落ちている。


アキトはドアノブに触れる前に、一瞬だけ耳を澄ませた。

遠くでトラックのエンジン音。

風に揺れる鉄板の軋み。


「……今だ」


鍵のない非常口は、想像以上に静かに開いた。

闇が、彼を倉庫の内部へと飲み込んでいく。


監視カメラは、オレンジ色の落ち葉と、誰もいない路地だけを映し続けていた。


【時間:10月下旬・午後11時20分】

【場所:東京郊外・警察署 生活安全課】


夜風がひやりと頬を撫で、警察署前の街路樹から落ちた葉がアスファルトに散らばっていた。

街灯の白い光の下を、アキトと理央は並んで歩いてくる。


アキトの腕の中には、小さな毛布に包まれたモカ。

理央は胸元にタブレットとUSBケースを抱え、何度も周囲を確認していた。


「……大丈夫。もう安全だよ、モカ」


アキトが低く囁くと、モカは小さく鼻を鳴らし、安心したように身を丸める。


自動ドアが開き、警察署のロビーに白い蛍光灯の光が広がった。

夜間対応の静けさの中、足音だけがやけに響く。


「すみません。生活安全課の中川刑事をお願いします」


受付に声をかけると、数分も経たないうちに、奥の扉から一人の男が現れた。

スーツの上にジャケットを羽織り、やや疲れた目元ながらも、鋭い視線を持つ男。


「中川真也です。……話は聞いてます」


中川はまずアキトの腕の中のモカに視線を落とし、わずかに表情を和らげた。


「この子が、行方不明になっていた犬ですね」

「はい。倉庫街の奥で保護しました。衰弱していますが、命に別状はありません」


理央が一歩前に出て、タブレットを差し出す。


「こちらが証拠データです。違法なペット取引の映像、監視カメラの死角を利用した搬入経路、取引リストの一部も含まれています」


中川は無言で受け取り、画面を確認する。

スクロールする指が、途中でぴたりと止まった。


「……これは、思っていたより大きい案件ですね」

「特定の犬種だけを狙った組織的な動きです。今回の件は、その一端だと思われます」


中川は小さく息を吐き、深く頷いた。


「分かりました。こちらで正式に引き継ぎます。犬は動物管理センターと連携して、すぐに医療チェックを」

「ありがとうございます」


その言葉を聞いた瞬間、モカが小さく尻尾を振った。

それを見て、アキトはわずかに口元を緩める。


「よく頑張ったな。もう、怖い思いはしなくていい」


中川は二人を見て、真剣な表情で言った。


「今回の件、あなた方の協力がなければ、表に出なかった。正式な感謝状は後日になりますが……本当に助かりました」

「仕事ですから」

「それに、放っておけなかっただけです」


理央の静かな言葉に、中川は短く笑った。


「……そういう人たちがいるのは、正直ありがたいですね」


警察署の奥へと続く廊下を、担当職員がモカを引き取りに来る。

アキトは毛布越しに、最後にそっと頭を撫でた。


「すぐ、飼い主のところに帰れるよ」


モカは小さく鳴き、名残惜しそうにアキトを見上げる。


自動ドアが再び開き、夜の冷たい空気が流れ込む。

アキトと理央は並んで外に出た。


「……一段落、ですね」

「ええ。でも、ここからは警察の仕事です」


街灯の下、二人の影が長く伸びる。

倉庫街の闇はもう背後に遠ざかり、静かな夜だけが残っていた。


【時間:10月下旬・午後11時45分】

【場所:東京郊外・警察署 生活安全課 待合スペース】


優子は硬い椅子に浅く腰かけ、両手を膝の上で何度も握り直していた。

視線は自動ドアの方へ向いたまま、落ち着きなく揺れている。


(まだ……なのかな。モカ……)


そのとき、足音が近づいた。

顔を上げた優子の前に現れたのは、中川刑事だった。


「佐藤優子さん」


その腕の中に、小さな毛布に包まれた茶色の影が見えた瞬間、優子の呼吸が止まる。


「……モ、カ……?」


中川は静かに一歩近づき、優子の前にしゃがむ。


「無事に保護されました。少し驚いていますが、命に別状はありません」


その言葉が終わる前に、毛布の中から小さな鳴き声が聞こえた。


「クゥ……」


優子は思わず立ち上がり、震える手で口元を押さえる。


「モカ……! 本当に……モカ……!」


中川がそっとモカを差し出すと、モカは優子の匂いを感じ取ったのか、小さく尻尾を振り、必死に身を乗り出した。


「よかった……本当によかった……!」


優子は膝をつき、涙をこぼしながらモカを抱きしめる。


「怖かったよね……ごめんね、ひとりにして……」


モカは優子の腕の中で落ち着いたように丸くなり、小さく鼻を鳴らした。


中川は少し距離を取り、穏やかな声で続ける。


「これからすぐ、動物管理センターと連携して医療チェックを行います。軽い脱水と疲労は見られますが、適切に処置すれば問題ありません」

「……病院、ですよね?」

「はい。念のためです。今夜中に検査をして、状況次第では明日にはご自宅に戻れるでしょう」


優子は何度も頷き、涙を拭いながら言った。


「お願いします……どんな検査でも……」

「もちろんです。費用や手続きについても、こちらで案内します」


そのやり取りを少し離れた場所から見ていた玲が、静かに近づいてきた。


「優子さん」

「……玲さん……」


優子は涙に濡れたまま、深く頭を下げる。


「ありがとうございます……本当に……」

「モカが戻ってきた。それが一番です」


玲の声は静かだったが、どこか柔らかい。


アキトも壁際から一歩前に出て、軽く手を挙げる。


「この子、最後まで大人しくしてくれましたよ。飼い主の顔を見たら、きっと安心すると思ってました」


モカはその声に反応したように、きゅっと鳴いた。


中川は腕時計を確認し、職員に合図を送る。


「では、これから動物管理センターへ移送します。佐藤さんも同乗できますが、いかがしますか」

「……はい。一緒に行きます」


優子はモカを胸に抱きしめたまま、強く頷いた。


警察署の蛍光灯の下、緊張と不安に満ちていた時間が、ようやくほどけていく。

夜はまだ深いが、優子の腕の中で、モカは確かに“帰る場所”を見つけていた。


【時間:10月下旬・午前1時20分】

【場所:東京郊外・佐藤優子 自宅玄関前】


玄関灯の柔らかな光が、夜露に濡れたアプローチを淡く照らしていた。

優子は鍵を握ったまま扉の前に立ち尽くし、腕の中の温もりを確かめるように、そっと力を込める。


「……帰ってきたね、モカ」


小さな体が胸にぴったりと寄り添い、モカは短く鼻を鳴らした。

その振動が、優子の心臓に直接伝わってくる。


「クゥ……」


「大丈夫だよ。もう、どこにも行かないから」


優子は額をモカの頭にそっと触れさせ、目を閉じた。

冷たい夜気の中で、モカの体温だけが確かに現実を告げている。


警察署での緊張、説明、書類、医療チェック――

そのすべてが遠い出来事のように感じられた。


「……怖かったよね。知らないところに連れて行かれて……」


モカは小さく身じろぎし、優子のコートの内側に鼻先を押し込む。

まるで「ここが一番安全だ」と言うように。


優子の喉がきゅっと詰まり、声が震えた。


「ごめんね……私が、ちゃんと見ていなかったから……」


ぽとり、とモカの背中に涙が落ちる。

だがモカは嫌がることなく、静かに優子の胸元に顔を埋めた。


「……ありがとう。戻ってきてくれて」


夜は深く、周囲の家々はすでに眠りについている。

遠くで車が一台通り過ぎる音だけが、静寂を揺らした。


優子はゆっくりと玄関の鍵を回す。


「さあ、おうちに入ろう。温かいミルクもあるし……あなたのベッドも、ちゃんと待ってる」


扉が開き、室内の明かりが二人を包み込む。

その光の中で、モカは小さく尻尾を振った。


優子は微笑み、もう一度強く抱きしめる。


失われかけた日常は、今、確かに腕の中に戻っていた。


【後日談/21:30・優子の自宅リビング】


リビングの照明は暖色に落とされ、外からは夜風に揺れる木々の音だけがかすかに届いていた。

ソファの上には厚手の毛布が広げられ、優子はその中央に腰を下ろし、膝の上で丸くなったモカを両腕で包み込んでいる。


「……落ち着いたね、モカ」


優子が小さく囁くと、モカは短く鼻を鳴らし、喉の奥でくぐもった音を立てた。

体温がじんわりと伝わり、胸の奥に残っていた緊張がゆっくりと溶けていく。


「本当に……戻ってきてくれてよかった」


その言葉は、誰に聞かせるでもなく、優子自身に言い聞かせるようだった。

視線を落とすと、モカの小さな前足が毛布を掴むように動いている。


「怖かったよね。知らない場所で……」


一瞬、あの夜の記憶が脳裏をよぎる。

落ち葉の舞う道、名前を呼んでも返事のなかった時間、胸を締めつけた不安。


そのとき――

玄関の方から、控えめなノック音が響いた。


コン、コン。


優子は一瞬だけ身を強張らせたが、すぐに心当たりに気づき、静かに立ち上がる。


「……はい」


ドアを少しだけ開けると、廊下の灯りの中に、見覚えのある男の姿があった。


「こんばんは。もう落ち着きました?」


ラフなジャケット姿のアキトが、声を抑えて微笑んでいる。


「アキトさん……こんな時間に」

「様子確認です。無理に顔出すつもりはなかったんですけど」


優子はドアをもう少し開け、小さく頷いた。


「大丈夫です。モカも……ほら」


リビングの方を示すと、アキトは一歩だけ中を覗き、ソファの上の光景を確認する。

毛布、静かな照明、そして優子の膝の上で眠るモカ。


「……いい顔してますね」


「はい。さっきまで、ずっと私から離れなくて」


優子は照れたように微笑む。


「動物管理センターと病院、どちらも問題なしでした。しばらくは様子見ですけど、後遺症もなさそうです」

「ありがとうございます……本当に、皆さんのおかげです」


優子は深く頭を下げた。


「玲さんにも、他の方にも……」

「気にしないでください。俺たちは、戻る道を繋いだだけです」


アキトはそう言って、軽く肩をすくめる。


「それに――この子が、ちゃんと帰る場所を覚えてた。それが一番です」


その言葉に、優子の目が少し潤んだ。


「……もう二度と、ひとりにはしません」


アキトは静かに頷き、玄関へと踵を返す。


「それなら安心ですね。じゃ、俺はこれで」

「はい。本当にありがとうございました」


「何かあったら、また連絡してください。玲探偵事務所は、いつでも開いてますから」


ドアが静かに閉まり、足音が遠ざかっていく。


再びリビングに戻ると、モカがわずかに身じろぎし、優子の指に鼻先を擦りつけた。


「……おやすみ、モカ」


毛布を掛け直し、優子はそっと背中を撫でる。

穏やかな呼吸音が重なり、夜は静かに更けていった。


失われかけた日常は、確かにここに戻ってきていた。


【後日談/23:40・玲探偵事務所】


夜の静けさが街を包み込み、通りを走る車の音も途切れがちになる時間帯。

玲探偵事務所の一室だけが、デスクライトの白い光に切り取られたように浮かび上がっていた。


デスクの上には、きちんと分類された書類の束。

依頼概要、調査経過、証拠写真、映像データの一覧――

玲は背筋を伸ばしたまま椅子に座り、無駄のない手つきでペンを走らせていた。


「……これで一件、完全に終わりだな」


小さく呟き、最終ページに署名を入れる。

インクが乾くのを待つ間、玲はふと視線を窓へ向けた。

ガラス越しに見える街灯の光が、雨上がりの路面に淡く反射している。


そのとき――

事務所のドアが、ノックもなく静かに開いた。


「まだ起きてると思いました」


軽い声とともに現れたのは、コートを肩に掛けたアキトだった。

手には紙コップ。湯気がわずかに立ち上っている。


「……鍵は?」

「開いてましたよ。さすがに不用心じゃないですか?」


アキトはそう言いながら、玲のデスク脇に紙コップを置く。


「コーヒーです。ブラック」

「気が利くな」


玲はペンを置き、コップを手に取った。

一口含むと、微かに眉が緩む。


「優子さんの件、無事に片付きましたね」

「ああ。犬も依頼人も、ちゃんと元の場所に戻った」


玲は静かに答え、書類の端を揃える。


「こういう依頼は嫌いじゃない。派手さはないが、後味がいい」

「玲さんらしいですね」


アキトはデスクの向かいに腰掛け、軽く肩を回す。


「それにしても……今回は平和でしたよ。銃も追跡もなし」

「たまにはいい。毎回命のやり取りをする必要はない」


玲は窓の外に目を向けたまま言う。


「人の不安を取り除く。それも探偵の仕事だ」

「……確かに」


一瞬の沈黙。

時計の秒針の音だけが、静かな室内に刻まれる。


アキトはふと、柔らかく笑った。


「でも、玲さん。こうして一人で残って書類整理してる姿を見ると……」

「何だ」

「探偵って職業、似合いすぎてて怖いですね」


玲は小さく鼻を鳴らす。


「褒め言葉として受け取っておこう」

「もちろんです」


アキトは立ち上がり、ドアへ向かう。


「じゃ、俺は先に戻ります。あまり無理しないでください」

「お前もな」


ドアが閉まり、再び事務所は静寂に包まれた。


玲はコーヒーを飲み干し、最後の書類をファイルに収める。

デスクライトを落とす前、もう一度だけ窓の外を見た。


――今日も、誰かの日常は守られた。


その事実を胸に、玲は静かに灯りを消した。


午後三時十二分。

御子柴理央の研究室。


ブラインド越しの陽光が、白い机の端を斜めに切り取っていた。

無機質な室内には、モニターの駆動音とキーボードを叩く乾いた音だけが淡々と響いている。


理央は椅子に深く腰掛け、三つ並んだモニターを順に確認していた。

画面には、押収データの解析結果と、時系列に整理されたログが表示されている。


「……よし。欠損なし。証拠能力も問題ないな」


独り言のように呟いた直後、背後でドアが軽くノックされた。


「開いてる」


振り返らずに言うと、気の抜けた足音とともにアキトが入ってくる。


「相変わらず無機質な部屋だな。生き物の気配がしない」


「研究室に感情は要らない。必要なのは結果だけだ」


理央は視線をモニターから外さず、淡々と答える。


アキトは机の端に腰を預け、画面を覗き込んだ。

「それが例の件の最終データ?」


「ああ。違法取引の流れ、関係者の通信履歴、倉庫の入退室ログ。全部繋がった」


「完璧主義だな」


「逃げ道を残す理由がない」


理央はキーボードから手を離し、ようやくアキトを見る。

その視線は冷静で、揺らぎがない。


「今回の犯行は偶発じゃない。犬種を絞った需要先、転売ルート、管理体制。最初から設計されてた」


「だから、あそこまで徹底してたわけか」


「感情で動く連中ほど、証拠を軽視する。だが今回は違う。だから、こちらも徹底した」


アキトは小さく息を吐いた。

「……結果的に、助かった命もあった」


「結果論だがな」


理央は一瞬だけ視線を落とし、すぐに元に戻す。


「だが、無意味ではない。事実が残り、責任が明確になる。それで十分だ」


沈黙が落ちる。

ブラインドの隙間から、風に揺れる木々の影が壁に映った。


「で、用件はそれだけか?」


理央が静かに問う。


アキトは肩をすくめ、軽く笑った。

「いや、顔出しただけ。あと、玲が“あとでデータの最終版を共有してくれ”って」


「了解。整理が終わり次第送る」


「相変わらずだな」


「職務だからな」


理央は再びモニターに向き直り、キーボードを叩き始める。


「……用がなければ、もう戻れ」


「はいはい。邪魔したな」


ドアが閉まる音がして、研究室は再び静寂に包まれた。


理央は画面に映る最終報告書を確認し、わずかに頷く。


「……これで終わりだ」


淡々としたその声には、感情の揺れはない。

だが確かに、救われた結果だけが、データとしてそこに残っていた。


【午後十四時三十分/駅前のカフェ】


午後の柔らかな陽射しが大きなガラス窓を通して差し込み、通りを行き交う人々の影が床にゆっくりと流れていた。

カフェの中には静かなジャズが流れ、コーヒー豆を挽く音と食器の触れ合う音が心地よく混ざっている。


窓際の席に、アキトは一人腰を下ろしていた。

学生風のパーカーにジーンズという、どこにでもいそうな格好。

目の前のカップから立ち上る、ほのかに苦いコーヒーの香りを鼻で感じながら、彼は外の景色をぼんやりと眺めていた。


「……平和、だな」


小さく呟き、コーヒーに口をつける。

熱さと苦味が舌に残り、自然と息を吐いた。


つい数日前まで、夜の倉庫街やホテル街、張り詰めた空気の中を歩いていたとは思えない。

今はただ、午後の光の中に溶け込む“普通の男”だ。


「配達員、学生、店員、カップル……次は何だ?」


独り言のように呟き、苦笑する。


「変装のレパートリーばっか増えてくな。履歴書に書けねぇのが残念だ」


カウンターの奥で店員がグラスを拭く音がする。

隣の席では、学生らしい二人組が課題の話をして笑っていた。


その声を聞きながら、アキトはふっと表情を緩める。


「……でも、まぁ」


カップを両手で包み、窓の外に視線を戻す。


「誰かの“日常”が戻るなら、悪くない仕事だ」


一瞬だけ、優子がモカを抱きしめていた姿が脳裏をよぎる。

安堵で涙ぐんだ顔。

あの光景を思い出すと、胸の奥がわずかに温かくなった。


「俺は裏方でいい」


誰に聞かせるでもなく、静かに言う。


「目立たず、疑われず、溶け込んで……必要な時だけ動く。それが一番楽だ」


そう言ってから、ふとスマートフォンを取り出す。

画面には、玲からの短いメッセージが表示されていた。


『次の案件、近いうちに共有する』


「はいはい。休みは一瞬か」


肩をすくめながらも、口元には僅かな笑みが浮かぶ。


「ま、暇よりはいいか」


アキトは残ったコーヒーを飲み干し、席を立った。

ガラス越しの午後の街に、自分の影が一瞬重なる。


その影はすぐに人波に溶け込み、また一人の“何者でもない男”として、次の場所へと歩き出していった。


【夜二十二時前/山あいのロッジ・佐々木家リビング】


薪ストーブの火がぱちぱちと音を立て、リビングを柔らかな橙色で照らしていた。

外は冷たい夜気に包まれ、窓の外では風が木々を揺らしている。


沙耶はソファに腰を下ろし、温かいマグカップを両手で包み込みながら、隣に座る朱音を見やった。

朱音は毛布を肩まで引き上げ、ストーブの火をじっと見つめている。


「……今日は、静かだね」


沙耶がそう言うと、朱音は小さく頷いた。


「うん。ちょっとだけ、眠い」


そのとき、リビングの入口側で床板がきしむ音がした。

沙耶が顔を上げると、いつの間にかアキトが立っていた。


「お、いい雰囲気だな」


黒のジャケットをラフに羽織り、手をポケットに突っ込んだまま、ふらっとした調子で近づいてくる。

いつもの軽い足取りだが、視線だけは自然に部屋全体を確認していた。


「いつ来たの?」

「今。コーヒーの匂いに呼ばれた」


沙耶は思わず小さく笑う。


「相変わらずね」


アキトは朱音に目を向け、少しだけ屈んで視線の高さを合わせた。


「よう、朱音。今日はお疲れさん」

「……アキト」


朱音は安心したように小さく声を出す。

アキトは軽く手を振った。


「もう大丈夫だ。外も中も、変な気配はねぇ」

「そっか……」


そのやり取りを聞きながら、沙耶は胸の奥で張っていたものが、少しずつ緩んでいくのを感じた。


「本当に、ありがとう。あなたがいると、不思議と安心するわ」

「役割分担ってやつだ。俺は“影”担当だからな」


冗談めかして言いながら、アキトはストーブの火に視線をやる。


「それにしても……ここはいい。守る理由が、ちゃんと形になってる」


沙耶はその言葉に、静かに頷いた。


「ええ。この子がいる。それだけで十分よ」


朱音は沙耶の袖をつかみ、そっと体を寄せる。

アキトはそれを見て、少しだけ表情を緩めた。


「……じゃ、俺は長居しねぇ。邪魔すると悪い」


踵を返しながら、最後に一言付け加える。


「何かあったら、すぐ呼べ。今夜は近くにいる」


ドアが静かに閉まり、再びリビングには薪の弾ける音だけが残った。

沙耶はマグカップを口元に運び、朱音の肩を抱く。


「大丈夫。ちゃんと、守られてる」


朱音は小さく頷き、目を閉じた。

橙色の光の中、ロッジには穏やかな夜がゆっくりと降りていった。


橘奈々の後日談


【午後三時過ぎ/玲探偵事務所・執務スペース】


薄曇りの空から差し込む光が、ブラインド越しに事務所の床を淡く照らしていた。

机の上には分厚いファイルが二冊、横には奈々のタブレットとノートPC。静かな室内に、キーボードを叩く軽快な音だけが規則正しく響いている。


奈々は椅子に深く腰をかけ、画面から視線を外さないまま指を走らせていた。

「……よし。映像ログと位置情報、全部噛み合った」


タブレットに表示された時系列グラフを確認し、奈々は小さく息を吐く。

「隙はなし。これなら、誰が見ても一目で分かる」


そのとき、事務所のドアが控えめに開いた。


「よう。集中してるところ、悪いな」


振り向くと、そこにはアキトが立っていた。

黒のパーカーにラフなパンツ、任務の気配を完全に抜いた私服姿で、片手にはコンビニの紙袋を提げている。


奈々は肩越しに一瞥し、すぐ画面に視線を戻した。

「今ちょうど区切り。タイミング、悪くないですよ」


アキトは軽く笑い、空いている机に紙袋を置く。

「差し入れ。甘いのと苦いの、両方ある」


「気が利きすぎです」

奈々はようやくキーボードから手を離し、椅子を回してアキトを見る。

「で、今日は? 珍しく“ふらっと”ですね」


「任務明けの調整日。体より頭が疲れててさ」

アキトは椅子にもたれ、天井を見上げる。

「こういう静かな時間、嫌いじゃない」


奈々はファイルを一冊閉じ、表紙を指で軽く叩いた。

「今回の件、裏の資金ルートもほぼ洗えました。あと一枚、噛ませれば完成です」


「さすが」

アキトは感心したように目を細める。

「玲が見たら、何も言わずに頷くやつだな」


奈々はわずかに笑った。

「それ、褒め言葉として受け取っておきます」


再び雲が流れ、窓の外の光が少しだけ暗くなる。

事務所にはまた、キーボードの音と、紙袋がかすかに鳴る音だけが戻ってきた。


張り詰めた事件の合間にある、束の間の静けさ。

それを邪魔しない距離で、アキトはそこに“ふらっと”存在していた。

佐藤優子のあとがき


事件が終わってから、しばらくの間、私は夜になると同じ夢を見ていました。

落ち葉の積もった道を歩き、名前を呼んでも返事のない静かな公園で、立ち尽くしている夢です。

目が覚めるたび、胸の奥がひやりとして、思わず隣を確かめていました。


でも今は、違います。

足元で丸くなって眠るモカの寝息を聞くたびに、「ちゃんと戻ってきたんだ」と実感できるようになりました。


あの時、もし自分だけで探し続けていたら。

もし「そのうち戻る」と思い込んでいたら。

きっと、結果は違っていたと思います。


玲さんは、多くを語りませんでした。

淡々としていて、少し距離があるようにも見えました。

でも、あの冷静さがあったからこそ、私は感情に飲み込まれずにいられたのだと思います。


アキトさんや奈々さん、理央さんも、まるで当たり前のことのように動いていました。

誰かの「大切なもの」を取り戻すために、静かに、確実に。


この出来事で、私は一つ学びました。

日常は、守ろうとしなければ簡単に壊れてしまうこと。

そして、助けを求めることは、弱さではないということ。


今日もモカと散歩をします。

同じ道、同じ公園。

けれど、見える景色はもう以前とは違います。


静かな街の中で、確かに誰かが、私たちを守ってくれていた。

その事実を胸に刻みながら、私はまた、普通の毎日を歩いていこうと思います。

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