93話 「黄昏の港湾都市」
【日本側】
1.玲(男性)
•冷静沈着な探偵・チームリーダー。国内外の調査依頼が増加。
•影班や奈々、アキトたちと協力して事件解決に尽力。
2.奈々
•玲の助手。高度な情報処理・データ解析能力を持つ。
•後日談ではデータ分析部門で指導役。
3.アキト
•現場での追跡と戦闘に長けた警備・調査担当。
•後日談では国内警備会社の特別顧問。
4.リコ
•カメラ・映像記録担当。
•後日談では事件記録をまとめ、調査報告を提出。
5.桐生(桐生ちゃん)
•女性。港湾街での戦闘経験を持つ警備プロジェクトマネージャー。
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【中国側】
6.影班
•成瀬由宇:暗殺・対象把握担当
•桐野詩乃:毒物処理・痕跡消去担当
•安斎柾貴:精神制圧・記録汚染担当
•監視者を封じる作戦で活躍。
7.中国マフィアのボス
•港湾地区での影響力を維持。玲チームと協力し友情を形成。
8.監視者(捕縛された者)
•事件の黒幕的存在。影班とマフィアによって捕縛され、中国の司法に委ねられる。
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【その他】
•港湾街や空港での一般関係者や目撃者は描写の中に登場するが、主要人物としては上記8名が中心。
【関西国際空港・貨物エリア/深夜・GW初日/午前0時30分】
夜風が湿った潮の匂いを運ぶ。広大な滑走路の先、貨物ターミナルの灯りが点々と浮かび、暗闇に反射して淡く光る。
アキトはコンテナ群の影に目を凝らし、低くつぶやいた。
「……静かすぎるな」
手袋越しに拳を握りしめ、彼はゆっくりと周囲を見渡す。鋭い視線が、わずかな動きも逃さない。
リコは小型カメラを握りしめ、息を呑む。指先に汗がにじむのを感じながら、目だけでアキトの動きを追った。
「……ここ、本当に誰もいないの……?」
桐生は腕で目を庇い、遠くに浮かぶコンテナの影を凝視する。
「……いや、気配はある……ただ、正体が見えない」
奈々の低い声がイヤホン越しに響く。
「監視者、移動中……こちらの動き、把握している可能性あり」
玲は前方を見据えたまま、冷静に指示を飛ばす。
「影班、左右に分かれろ。リコ、常にカメラで記録。アキト、俺の合図まで動くな」
コンテナ群の影が、夜の静寂をわずかに揺らす。港湾の夜風に混ざった潮の香りが、緊張感を一層際立たせる。
夜風が湿った潮の匂いを運び、広大な貨物ターミナルをかすめていく。
照明に照らされたコンテナ群の隙間で、黒い影がゆらりと揺れた。
桐生は片腕で目を庇い、闇の動きを追った。
冷えた夜気が肌を刺す。だがそれ以上に――あの気配が重くのしかかる。
リコが小型カメラを握りしめ、緊張に息を呑んだ。
「……な、なんか……動いた気がする」
声は小さくても、この静けさでは妙に響く。
桐生は息を整え、低く言った。
「落ち着いて。……視線を感じる。あそこよ」
コンテナの隙間に、確かに影が揺れる。
やはりいる――桐生の直感は外れなかった。
リコがファインダーを覗き込み、思わず声を上げる。
「っ……! い、いた! 桐生ちゃん、いたよ!」
桐生は視線を逸らさず、冷静に返す。
「慌てないで。……必ず正体を暴く」
湿った風が吹き抜け、貨物エリアの鉄骨を鳴らす。
鼓動が強く耳に響く。
次に影が動いた瞬間――桐生は逃さないと心に誓った。
イヤホンの奥から、奈々の低い声が静かに響いた。
「……動いたわね。クレーンの稼働は囮。影は南側のコンテナ群に移動中。気を抜かないで」
桐生は息を飲む。奈々の声音は、どこか氷の刃のように鋭い。
だが不思議と、心が落ち着く。
「奈々……見えてるの?」
思わず口にした言葉は、風に溶けるようにかすれた。
奈々は即座に返す。
「監視カメラをハイジャックしてる。角度は不十分だけど、動きのパターンは掴めた」
桐生は影の先を見据えながら、唇を噛んだ。
――やはり、気配は間違いじゃなかった。
奈々の解析が、その感覚を裏付けてくれる。
「……桐生ちゃん、こっちからどうする?」リコが震え声で尋ねる。
桐生はイヤホンを軽く押さえ、視線を前に固定した。
「奈々。正面突破でいい?」
短い沈黙のあと、奈々の冷ややかな声が答える。
「――いいえ。敵は誘ってる。こちらが焦れば飲み込まれる。……桐生、あなたが鍵になる」
その言葉に、胸の奥で鼓動が強く打ち鳴らされる。
冷たい夜風の中で、奈々の声がなおさら重く響いた。
【港湾街・中国/深夜・午前2時12分】
監視者の背は、貨物車の影に消えていった。重たい鉄の扉が軋む音と共に、黒い影は滑走路沿いの倉庫街へと逃げ去る。
桐生はわずかに遅れて追いすがるが、視界にはもう影はなかった。
残されたのは、湿った砂地に深々と刻まれた足跡と、光を受けて鈍く反射する金属片。
散乱した破片は、まるでここに「置き土産」を残すかのようだった。
「……行ったか」
アキトが低く吐き捨てるように言う。声には苛立ちが滲んでいた。
リコは肩で息をしながら、カメラを胸に抱きしめるように握った。
「……なんで、あんなに速いの……人間の動きじゃない」
玲は黙って膝を折り、地面の破片を拾い上げた。
掌に乗せると、それは何かのタグの一部だった。黒ずんだ文字がかすかに残り、海風に吹かれてきらりと光る。
「貨物の管理タグ……破られてるな」玲の声は冷たく、しかし確信を含んでいた。
桐生はその横顔を見つめ、心の中で呟く。
――やっぱり、ただの逃走じゃない。私たちに、追わせてる。
奈々の声がイヤホン越しに割り込んだ。
「倉庫街に入ったわ。動線は二つ、北の桟橋か、東の封鎖区画。どちらにしても……あの監視者は、待ってる」
一瞬、沈黙が降りた。
海風が、ひやりと頬を撫でる。
玲は短く息を吐き、視線を前へ向けた。
「……追う。けどいいか、これは罠だ。全員、気を抜くな」
桐生は小さく頷いた。
足跡は続いている。だが、その先にあるのはただの倉庫ではない――そう直感していた。
【港湾街・中国/深夜・午前2時14分】
鉄のきしむ音が、湿った夜気を裂いた。
頭上で貨物クレーンが稼働し、巨大なコンテナが宙に浮かび上がる。影は揺れ、街灯の明かりが地面を不気味に照らし出す。
「っ……!」
アキトは反射的に身を低くした。コンクリートの冷たさが膝に伝わる。鋭い視線は、クレーンの稼働先――吊り下げられたコンテナの行き先を射抜いていた。
「……わざと動かしてるな」
低く絞り出すような声。アキトの言葉に、リコが小さく息を呑む。
桐生もまた、思わず足を止めていた。
――まるで、私たちをあぶり出すために。
コンテナは、きしむ鎖を鳴らしながらゆっくりと降ろされていく。
その動きは単なる荷役作業には見えなかった。監視者の意図――罠の気配が濃厚に漂っている。
玲の声が冷ややかに響いた。
「……位置を変えろ。アキト、あの影の動線を読むんだ」
アキトは短く頷き、目を細める。
闇の中、コンテナの下に走る影のわずかな乱れを見逃さなかった。
「……いた。まだ、そこにいる」
彼の声に、場の空気が一段と張り詰めた。
沈黙を裂くように、玲の声がイヤホン越しに低く響いた。
その声音は氷のように冷ややかで、しかし迷いのない鋭さを帯びていた。
「アキト、影の流れを追え。リコ、記録は止めるな。……桐生、左側の遮蔽物へ回り込んで監視者の退路を塞げ」
的確に投げられた指示は、戦場に響く号令のようだった。
その声を聞いた瞬間、それぞれの身体は迷いなく動き出す。
「了解!」
アキトが短く返し、闇に身を溶かす。
リコは肩を強張らせながらも、小型カメラを構え直した。
「……わ、わかってるって!」
震える声の奥に、決意が宿る。
桐生は軽く息を整え、鋭く頷く。
「こっちは任せて」
長い髪を翻しながら、音を殺して影に駆けた。
――玲の指示は、ただの命令ではない。
そこには仲間を信じ切る確信があった。
その冷徹な響きが、逆に彼らの胸を熱くする。
暗闇に潜む「監視者」へと、包囲の輪が静かに狭まっていった。
【港湾街・中国/深夜・午前2時20分】
桐生は、貨物クレーンの影を背に、腕を組みながら目を細めた。
視線は逃走した監視者の残した足跡と、散らばった破片へ向けられている。
「……あの動き。素人じゃないね」
低く、吐き出すような声。
桐生は任務の中で幾度も裏社会の影を目にしてきた。
その眼差しは、相手の癖や残した痕跡の細部にまで敏感に反応する。
今夜の監視者もまた、ただの小物ではないことを直感で見抜いていた。
「――油断したら、逆に狩られる」
吐息混じりの呟きは、誰に向けたものでもない。
しかし、耳にした仲間には、重く冷たい現実を突きつける響きとなった。
玲は横目で桐生を見やり、小さく頷く。
その仕草は無言の同意だった。
闇の奥に潜む「監視者」の影は、ただの敵ではなく
彼らを試す冷酷な狩人の気配を放っていた。
リコは両手で頬を押さえ、椅子の上でじたばたと揺れる。
「ひぃ~、怖すぎるってばぁ……!」
奈々はモニターに手を伸ばし、素早くデータを呼び出す。
「よし、これで監視経路が確認できる……」
【港湾街・中国/深夜】
影班の成瀬が低く囁く。
「監視者、倉庫群に逃げ込んだ……慎重に。」
玲は前を向いたまま、冷ややかに指示を飛ばす。
「桐生、右手ルート。アキト、左手。リコは後方支援。」
桐生は腕を組み、影の動きを見つめながら呟く。
「……奴、確実にこちらを誘導してるわね。」
アキトが鋭い目でコンテナの隙間を見渡す。
「気を抜くな。いつ動き出してもおかしくない。」
リコは小型カメラを握りしめ、声を震わせる。
「……こんな広さ、一瞬で見失いそう……」
玲は静かに息を整え、再び指示を繰り返す。
「全員、足音を殺して前進。監視者を追跡する。」
アキトが思わず叫ぶ。
「そっちだ!あいつ、右手のコンテナへ逃げた!」
桐生が即座に振り向き、影の動きを追う。
「了解、全員気をつけて!」
リコはカメラを握りしめ、息を呑む。
「やっぱり、奴、想像以上に早い……」
玲は冷静に指示を続ける。
「分散せずに追跡。監視者を逃がすな。」
アキトが叫ぶ。
「くそっ、罠か!」
桐生が眉をひそめ、低く呟く。
「やっぱり……速いわね、あの監視者。」
リコが息を呑む。
「もう、見えなくなった……!」
玲は無言で唇を引き締め、次の指示を出す。
「足跡を追え。荷物の破片も見逃すな。」
【中国・上海港湾街/深夜】
玲は冷ややかな声で紙片を見つめ、暗号と手掛かりを読み解く。
「この配置……ここに意味がある。荷物の搬出ルート、そして次の集合場所も暗示している。」
桐生が隣で腕を組み、呟く。
「玲、今回の監視者、ただ者じゃないわね……。」
奈々がモニターを操作しながら低く告げる。
「情報を突き合わせれば、逃走経路が絞れます。」
リコは小型カメラを握りしめ、緊張で息を呑む。
「これで追い詰められる……?」
玲は紙片を机に置き、鋭い視線でチームを見渡す。
「最終手段を使う。影班、中国マフィアとの接触を指示する。」
奈々が低い声で解析を続ける。
「貨物の動きと監視者の経路を突き合わせました……次の集合ポイントはここです。」
桐生が小さく息を吐きながら、手元の暗闇を睨む。
「玲……これ、やっぱりただの追跡じゃ済まないわね。」
アキトが歯を食いしばり、拳を握る。
「やっと奴の居場所が見えたか……。」
玲は紙片を再確認しながら、静かに指示を出す。
「準備はいいか。影班、中国マフィアとの接触に移る。」
リコは小型カメラを握り直し、緊張で肩を震わせる。
「……はい、行きます。」
玲はわずかに息を吐き、紙片を見つめながら決断する。
「……行く。これ以上、監視者を野放しにはできない。」
桐生が小声で呟く。
「玲……怖くないの?」
玲は冷ややかに視線を前に固定し、答える。
「恐怖は判断の邪魔になる。今は集中するだけだ。」
アキトがうなずき、拳を握りしめる。
「なら、俺たちも全力でついていく。」
リコは小型カメラを握り直し、深く息を吸った。
「……わかりました。行きます。」
暗い倉庫街に、奈々の低い声がイヤホン越しに響く。
「位置を特定した……監視者、あと二分で倉庫Bに入る。」
桐生は影に身を潜めながら呟く。
「……来るわね、ついに。」
玲は紙片を握りしめ、冷ややかに指示を出す。
「アキト、右側のコンテナを警戒。リコは映像を逐一送れ。」
アキトが低く応える。
「了解……動きは見逃さない。」
リコは緊張で声が震える。
「はい……送ります。」
静寂の中、足音や金属が擦れる音がわずかに響き、倉庫街に緊張が張り詰める。
【中国・上海倉庫街/深夜】
北端の倉庫街。監視者は行き止まりに追い詰められ、冷たい夜風に緊張で背筋を震わせていた。前後左右には玲チームと、最終手段として呼び寄せた中国マフィアの精鋭たちが控えている。
玲は低く冷ややかに声を響かせる。
「動くな、これ以上は無駄だ。」
マフィアのリーダー、鋭い目を持つ男がゆっくり前に出る。
「ここで降りるか、それとも……痛みを覚悟するかだ。」
桐生は腕を組み、影に身を隠しながら呟く。
「……見つけたわね、逃げ場はない。」
監視者は震えた声で答える。
「くっ……まだ、俺には……」
アキトが叫ぶ。
「諦めろ!もう終わりだ!」
リコは小型カメラを握りしめ、震える手で映像を送る。
「……全部、見えてます。」
奈々がイヤホン越しに低く冷静に報告する。
「監視者の動き、完全に制御下。逃走経路はゼロ。」
倉庫街の暗闇に、緊張と静寂が張り詰める。監視者の呼吸音だけが響き、ついに逃げられないことを悟る瞬間だった。
リコは手を震わせながらカメラを握り、暗闇の中で監視者を捉えようと必死に狙いを定める。
「……落ち着け、リコ……息を、深く……」
自分に言い聞かせるように、小さな声を漏らす。
桐生が横で冷静に観察し、低く囁く。
「リコ、大丈夫。ゆっくりでいい。しっかり見えてるから。」
アキトが前方の監視者を指差し、声を張る。
「そっちだ! 逃すな!」
リコは手を必死に押さえ、震える指でシャッターを切る。
「……撮れた……!」
カメラ越しに映るのは、追い詰められた監視者の姿。緊張の中、リコの心臓も激しく打っていた。
監視者は後方を振り返り、必死に逃げ道を探す。
「くっ……まだ……!」
だが、アキトと桐生、影班の安斎、そしてマフィアの精鋭たちが周囲を固め、隙を与えない。
安斎が低く冷ややかに声を響かせる。
「動くな。逃げ場はない。」
監視者はわずかに足を踏み出すが、すぐにマフィアの一人が鋭く制止する。
「お前のゲームはここまでだ。」
リコは息を呑み、カメラ越しにその瞬間を捉える。
「……捕まった……」
監視者の肩が沈み込み、完全に力を失う。暗い倉庫街に、静寂と勝利の緊張が広がった。
港湾の夜景を背に、玲チームは監視者を確保し、次の行動へ備える。
監視者は後方を振り返り、必死に逃げ道を探す。
「くっ……まだ……!」
だが、アキトと桐生、影班の安斎、そしてマフィアの精鋭たちが周囲を固め、隙を与えない。
マフィアのボスが低く響く声で言った(中国語)
「这是你的最后机会!」
(読み:Zhè shì nǐ de zuìhòu jīhuì — これがお前の最後だ)
監視者はわずかに足を踏み出すが、すぐにマフィアの一人が鋭く制止する。
「お前のゲームはここまでだ。」
リコは息を呑み、カメラ越しにその瞬間を捉える。
「……捕まった……」
監視者の肩が沈み込み、完全に力を失う。暗い倉庫街に、静寂と勝利の緊張が広がった。
【中国・上海港湾街/深夜】
夜風に潮の香りが混ざる港湾街。コンテナの影が月明かりに長く伸び、戦いの余韻を静かに残していた。
玲は肩の力を抜き、夜空を見上げる。奈々が低い声で解析結果を確認し、アキトと桐生は互いに安堵の視線を交わす。リコはまだ震える手でカメラを握りしめ、記録された映像を確認した。
遠くから、マフィアのボスが玲の前に歩み出る。低く響く中国語で言った。
「谢谢……你的帮忙。」
(読み:Xièxiè… nǐ de bāngmáng — ありがとう……君の助けに)
そして最後に、カタコトの日本語で、
「ありがとう、友よ。」
玲は軽く会釈を返す。港湾街に静かな夜風が流れ、事件は幕を閉じた。
リコが小さくつぶやく。
「……終わったんですね……」
アキトが笑みを浮かべて言う。
「そうだな。長い夜だった。」
桐生は腕を組み、遠くの灯りを見つめながら、静かに言った。
「でも、これで少しは眠れる……かもね。」
夜の上海港湾街は、再び静けさを取り戻した。
【日本・関西国際空港付近/昼過ぎ】
アキト
昼の光が貨物エリアに差し込み、滑走路の向こう側には淡い青空が広がっていた。アキトは制服姿の若い警備員たちを前に立ち、低く声を落として話す。
「皆、油断は禁物だ。港湾で見たものを忘れるな。危険はいつも、静かに近づいてくる。」
若手の一人が手帳にメモを取りながら尋ねた。
「アキトさん、あの夜の追跡、どうやって冷静でいられたんですか?」
アキトは少し微笑み、視線を遠くのコンテナ群に向ける。
「冷静…か。それは、状況を見極めることだ。目の前の影に惑わされず、全体を俯瞰する。そうすれば、自然と体も動く。」
その後、アキトは隊員たちとともにエリア内の訓練を開始する。貨物車の影や滑走路沿いの歩行経路を確認しながら、港湾での追跡の再現を指示する。
「この通路、覚えておけ。ここで判断を誤れば、全てが危険になる。」
アキトの言葉には、夜の港湾街での経験が色濃く滲んでいた。訓練を見守る若手たちは、その背中から学ぶことが多いことを理解していた。
•リコ
【日本・大阪市内/午後】
リコは小さなオフィスのデスクに向かい、手元のノートパソコンで映像を整理していた。カメラで撮影した港湾街での追跡映像や、影班の動き、監視者の動向を一つ一つ確認する。
「…ここを少しスローにして、あの動きを強調しよう。」
彼女は映像に注釈を入れながら、声に出して独り言のようにつぶやく。
「玲さん、あの瞬間の判断…本当にすごかったな…。」
完成した映像ファイルを整理し、報告書としてまとめる。メールの送信画面を開き、玲に送信ボタンを押す前に深呼吸する。
「よし、提出…これでみんなの努力がきちんと伝わるはず。」
パソコンの画面に送信完了の表示が浮かぶと、リコはほっと肩の力を抜き、窓の外の街並みを見つめる。
「次に何が起きても、これで少しは役に立てる…はず。」
•桐生(桐生ちゃん)
【日本・大阪市内/昼間】
桐生は会議室の窓際で資料を広げ、チームメンバーに説明していた。暗い港湾街での緊迫した戦闘経験が評価され、警備関連のプロジェクトマネージャーとして抜擢されたのだ。
「この動線と警備配置の最適化が、現場の安全を左右します。」
部下たちの視線が桐生に注がれる。腕を組み、落ち着いた声で続ける。
「もし何か問題が起きたら、現場での判断が全てです。私もあの夜の経験を活かして、全力でサポートします。」
会議が終わり、窓の外に広がる港を見つめながら、桐生ちゃんは小さく呟いた。
「…あの夜があったから、今の私があるんだね。」
【日本・玲チーム拠点・午後】
•玲
玲はデスクに座り、複数のモニターを前に冷静に書類を整理していた。今回の中国での追跡・制圧作戦が評価され、国内外からの調査依頼が増えている。
「次の依頼は、海外の企業絡みか…手早く整理してチームに指示を出す必要があるな。」
奈々が横から報告する。
「玲さん、中国の件でチーム全員、かなり刺激を受けてます。次回も頼りにされますね。」
玲は軽く息を吐き、視線をモニターから外して窓の外を見やる。
「評価されることは悪くない。しかし、油断は禁物だ。準備を怠らなければ、どんな現場でも対応できる。」
デスクに置かれたコーヒーカップに手を伸ばしながら、玲は静かに呟いた。
「チーム全員、今回の経験を忘れずに…次に備えよう。」
•奈々
【日本・奈々の勤務先オフィス/昼過ぎ】
奈々は大型モニターに映る複雑なデータ群を前に、若手解析スタッフに説明していた。
「ここでの注意点は、データの微細な矛盾も見逃さないこと。ちょっとした差異が、全体の結論を大きく変えるんだ。」
若手スタッフがうなずきながら質問する。
「奈々さん、この手法を応用すれば、他の案件でも効率的に分析できますか?」
奈々は淡々と答える。
「もちろん。ただし、分析は数字だけじゃなく、状況や人間の動きも読むこと。データは最後の判断材料に過ぎない。」
窓から差し込む午後の光に顔を照らされながら、奈々は一息つく。
「私の経験が役立つなら、それで十分だ。」
スタッフたちは静かに頷き、奈々の指導の下、解析作業に戻った。
【中国・上海港湾街/午前】
影班
成瀬はコンテナ群の間を歩きながら、仲間たちに低い声で指示を出す。
「桐野、周囲の警備状況を再確認。安斎、後方ルートを抑えろ。」
桐野は手袋をはめ直し、淡々と答える。
「了解。視界内の全てをカバー済み。」
安斎は肩越しに軽く頷き、静かに背後の路地を監視する。
「問題なし。異常は確認できない。」
桐生ちゃん(桐生)は軽く笑みを浮かべ、仲間に声をかける。
「さすが、チームの連携は完璧ね。あの時の経験が生きてるわ。」
成瀬は短く返す。
「評価は後でいい。まずは任務を確実にこなすことが大事だ。」
港湾街に朝の光が差し込み、影班は次の任務に備えて静かに動き始めた。
•中国マフィアのボス
【中国・上海港湾街/午後】
マフィアのボスは自らの事務所の窓越しに港湾街を見下ろしていた。
「今回の件、君たちのおかげで無事に片がついた。」
玲は丁寧に頭を下げ、冷静に答える。
「こちらこそ、協力に感謝します。」
ボスは一瞬、真剣な表情から柔らかい笑みへ変える。
「謝謝、友よ。」
玲は少し驚きながらも微笑む。
「…ありがとう。」
ボスは頷き、手元の書類に目を落とす。
「これで我が組織の評判も保たれる。港湾地区での影響力も安泰だ。」
午後の港湾街に、静かな達成感が漂う。ボスと玲の間には、不思議な信頼関係が確かに存在していた。
•監視者(捕縛された者)
【中国・上海港湾街/翌日・午前】
監視者は手錠をかけられ、影班とマフィアに囲まれて立たされていた。
「これで、終わりだ。」
マフィアのボスが低く告げる。
監視者は悔しそうに顔を歪める。
「くっ…まだ…まだやれるのに…!」
成瀬が冷ややかに言い放つ。
「諦めるしかない。国外送還され、君は中国の司法に委ねられる。」
安斎が影から影に視線を走らせながら付け加える。
「抵抗は無意味だ。もう逃げ場はない。」
監視者は拳を握りしめたまま、沈黙する。
桐野が淡々と監視者を指し示す。
「行くぞ。君の最後の舞台は、法の前だ。」
港湾街の朝の光が、彼の暗い影を長く引き伸ばしていた。
【総括・各地/日常復帰】
港湾街や空港での戦いを経て、各人物はそれぞれの場所で役割やスキルを磨きつつ日常に戻る。
•リコの成長
「これからも映像で真実を残す……。」
•桐生の自信
「もうあの夜の港湾街も怖くない。」
•影班と玲チームの信頼関係
玲(男性):「チームの信頼があれば、どんな状況でも動ける。」
•中国マフィアとの淡い友情
マフィアのボス:「ありがとう、友よ。」
こうして、緊迫の追跡劇は幕を閉じ、港湾街の夜風に混ざった潮の香りと共に、物語は静かに余韻を残す。
【日本・玲チーム拠点/昼下がり】
玲はオフィスのデスクに座り、封筒から丁寧に取り出したエアメールを広げる。
紙面には、中国語の文字が整然と並んでいる。ふりがなが振られており、読みやすく工夫されていた。
尊敬 (Zūnjìng / そんけい) 的 (de / てき) 玲,
感谢 (Gǎnxiè / かんしゃ) 你 (nǐ / あなた) 与 (yǔ / と) 我们 (wǒmen / わたしたち) 的 (de / の) 合作 (hézuò / ごうさく)。
在 (Zài / さい) 港湾 (gǎngwān / こうわん) 街 (jiē / がい) 的 (de / の) 行动 (xíngdòng / こうどう) 中 (zhōng / ちゅう),你 (nǐ / あなた) 的 (de / の) 冷静 (lěngjìng / れいせい) 和 (hé / と) 判断 (pànduàn / はんだん) 给 (gěi / あたえた) 我们 (wǒmen / わたしたち) 很 (hěn / とても) 深刻 (shēnkè / しんこく) 的 (de / の) 印象 (yìnxiàng / いんしょう)。
希望 (Xīwàng / きぼう) 我们 (wǒmen / わたしたち) 将来 (jiānglái / しょうらい) 还 (hái / さらに) 能 (néng / できる) 合作 (hézuò / ごうさく)。
谢谢 (Xièxiè / ありがとう),朋友 (péngyǒu / ともよ)。
最後にはカタコトの日本語で「ありがとう、友よ」と書かれていた。
玲は軽く息を吐き、唇の端に微かな笑みを浮かべる。
「……向こうも、あの戦いを覚えていてくれたか。」
デスクの向こう側で奈々が画面を操作しながら顔を上げる。
「どうですか、玲さん?」
「うん……あの港湾街での経験が、確かに無駄じゃなかったと感じさせてくれる。」
玲はメールを胸に近づけ、軽く拳を握る。
「ありがとう、友よ……」
外の窓から差し込む昼光が、彼の背中を柔らかく照らしていた。




