83話 黒傘 ―ルートマスターの牙―
登場人物紹介
探偵事務所・調査チーム
•玲:冷静沈着な探偵。事件の全体像を見渡す能力に長け、チームの指揮をとる。
•朱音:玲の妹的存在。直感が鋭く、事件現場の視覚的情報をスケッチすることで真相解明に貢献する。
•奈々(なな):玲の助手。情報解析や暗号解読を得意とする、理知的なスペシャリスト。
ルートマスター・潜入担当
•アキト:元ルートマスター。潜入・変装の達人で、情報収集と爆弾解除などの現場実務を担当。
•川崎ユウタ:記憶の証人。過去の事件の核心に関わり、チームに重要な証言をもたらす少年。
影班(警察特殊部隊)
•成瀬由宇:暗殺・制圧担当。冷静かつ高い戦闘能力を持つ。
•桐野詩乃:痕跡消去・毒物処理担当。精密な作業と隠密行動に長ける。
•安斎柾貴:精神制圧・監視担当。状況判断力に優れ、作戦全体を統括する。
報道・情報担当
•藤堂:港湾や都市の事件を追う報道スペシャリスト。冷静かつ迅速な情報発信でチームを支援。
•リコ:SNSや現場速報で情報を拡散する、若き情報アクティブ担当。
犯罪者・黒幕
•久遠直哉:港湾事件と都市爆破未遂事件を仕組んだ黒幕。冷静で計画的な人物。
冒頭
【2025年・6月某日 午後10時12分/玲探偵事務所】
港事件から、ちょうど一週間。
初夏の湿った夜風が、わずかに開けた窓から入り込み、事務所の古いブラインドをかすかに揺らしていた。
机に向かっていた玲のノートパソコンが、小さな通知音を立てる。
静まり返った室内では、その音だけがやけに大きく響いた。
画面に表示された送信者名に、玲は一瞬だけ目を細める。
──ミナト。
添付ファイル名は無機質な英数字の羅列。
だが件名だけが、短く、鋭く、否応なく視線を引き寄せた。
「黒傘は捕まった──だが牙は残る」
玲は深く息を吸い、マウスをクリックする。
画面に展開されたのは、暗号化された物流マップだった。
複数の都市名が淡く表示されている。
羽津、津羅、湾岸区画──どれも、今回の事件で一度は浮上した名だ。
だが、その中でひとつだけ。
東都。
そこだけが、他とは違う濃い赤で強調されていた。
背後で足音がする。
振り返る前に、朱音の声が近づいてきた。
「……まだ、終わってない顔してる」
湯気の立つコーヒーカップが、静かに机の端へ置かれる。
玲は短くうなずきながらも、画面から目を離さなかった。
「港は、ひとまず平気だ」
それだけ答え、指先でタッチパッドをなぞる。
マップ上の赤い線が、ゆっくりと点滅した。
まるで──
次の場所を、告げるかのように。
プロローグ
【2025年・20時12分/玲探偵事務所】
机の上には、工具箱とノートパソコン、そして黒い作業服一式が並べられていた。
室内には初夏特有の湿った空気がこもり、換気扇の低い音だけが一定のリズムを刻んでいる。
アキトは黙ったまま手を動かし、作業員用ヘルメットの内側に小型カメラを仕込んでいった。
指先の動きは無駄がなく、何度も同じ作業を繰り返してきた者特有の確かさがある。
その脇で、玲と奈々はノートパソコンの画面を睨んでいた。
画面いっぱいに表示されているのは、暗号化された物流マップ。港湾部から内陸へ伸びる線が、いくつも複雑に絡み合っている。
「出たよ、港の赤ルート」
奈々がキーボードを叩く手を止め、画面を拡大する。
東都工業地帯から延びる一本の物流ライン。
そこには倉庫番号、時刻コード、そして密輸貨物を示すと思しき英数字が無造作に並んでいた。
「……やっぱり、港だけじゃ終わってなかったか」
玲は静かに頷き、画面の赤いラインを目で追う。
点滅するカーソルが、今夜の動きを示すように脈打っていた。
「動きは今夜だな」
アキトは作業服の袖を通し、胸ポケットに偽造の作業員IDカードを差し込む。
布の擦れる音が、部屋の静けさを一瞬だけ破った。
「俺の“ルートマスター”の権限は、まだ生きてる」
低く抑えた声で言いながら、ヘルメットを手に取る。
「内部の作業員として潜り込む。現場の回線と、動いてる“牙”の正体を探る」
朱音が机の端から不安げにアキトを見つめた。
玲はその視線に気づき、首を横に振る。
「朱音、お前は事務所だ。
入ってくる情報をスケッチで整理してくれ。それが一番助かる」
朱音は一瞬だけ唇を噛みしめ、それから小さく頷いた。
アキトは最後にヘルメットを被り、軽く息を吐く。
視線を玲に向け、ほんのわずかに口角を上げた。
「行ってくる。
今夜の――“牙”を折るために」
事務所のドアが静かに閉まり、残された三人の前で、物流マップの赤い線がゆっくりと点滅を続けていた。
【2025年6月某日 22時41分/東都湾岸・第4コンテナヤード】
港特有の湿った風が、錆びた鉄扉を低く鳴らしていた。
アキトは作業員用の制服とヘルメットを身に着け、無言で第4ゲートをくぐる。
周囲にはフォークリフトのエンジン音、鉄板の軋む音、そして港の夜を切り裂くような機械音が絶え間なく響いていた。
「――入った」
イヤーピースに、ごく小さく声を落とす。
返ってきたのは、雑音を抑えた玲の声だった。
『こちら管制。監視カメラの視線、今は南側に寄ってる。動くなら三十秒』
「了解」
アキトは歩調を変えず、荷役用の通路を進む。
視線は足元のライン、だが意識は常に頭上と背後に向けていた。
クレーンの影がゆっくりと地面を横切り、コンテナの番号が白く浮かび上がる。
──B-17、B-18……あった。
目的のコンテナの前で立ち止まり、腰を落とす。
工具袋から端末を取り出し、ロック機構に軽く当てた。
「……やっぱりな。正規の港湾システムじゃない」
指先でコードを走らせると、古いが巧妙に偽装された管理番号が表示される。
その瞬間、耳元で別の声が割り込んだ。
『アキト、そっちのライン……二年前に潰したはずの業者コードが生きてる』
奈々の声だった。
わずかに混じる悔しさと、確信。
「“牙”が残ってた、ってわけだ」
アキトは小さく息を吐き、コンテナの側面に手を当てる。
冷たい鉄の感触が、掌にじんと伝わった。
その時、不意に背後で足音が止まる。
「おい、こんな時間に何してる」
作業灯の下、警備員が一人、訝しげにこちらを見ていた。
アキトは振り返らず、肩越しに答える。
「夜間点検。ルート番号、差し替わってるって上から」
警備員は一瞬言葉に詰まり、端末を確認する。
その隙に、アキトはヘルメットの内側で小型カメラを起動させた。
「……確認した。確かに更新が来てるな」
「でしょ」
ようやく振り返り、軽く会釈する。
その顔には、どこにでもいる港湾作業員の無表情しかなかった。
警備員が離れていくのを確認し、アキトは低く呟く。
「玲、確定だ。このコンテナ、東都ルートの中枢だ」
一拍置いて、玲の声が返る。
『了解。影班を動かす。……アキト』
「ん?」
『無理はするな』
アキトはコンテナの影に身を寄せ、夜の港を見渡した。
無数の灯りが揺れ、何事もない日常の顔をしている。
「今さらだろ。――ルートマスターは、最後まで道を見る」
そう言って、彼は再び指を動かし始めた。
港の闇の奥で、まだ折られていない“牙”の輪郭が、静かに浮かび上がりつつあった。
【2025年・23時18分/東都港湾地区・第七倉庫群】
端末の画面に、転送進捗を示すバーが静かに伸びていく。
夜霧の中、コンテナの隙間を縫うように港の照明が揺れ、遠くで汽笛が低く鳴った。
「……来いよ」
アキトは独り言のように呟き、イヤーピースを指先で軽く押さえる。
微かなノイズの後、玲の声が返ってきた。
『こちら事務所。回線、今つながった』
「予定より早い。内部ログは?」
『倉庫番号A-12とC-03、どちらも“赤ルート”に紐づいてる。今夜、動く』
アキトは視線を上げ、倉庫群の奥を見据えた。
薄暗い通路の先で、作業灯が一瞬だけ点き、すぐに消える。
「……やっぱりな」
端末が小さく振動し、転送完了の表示が出る。
アキトはケーブルを外し、素早く端末をジャケットの内側に滑り込ませた。
そのとき――
砂利を踏む、かすかな足音。
アキトは呼吸を止め、身体をコンテナに密着させる。
二人分。作業員の靴音だが、歩調が妙に揃いすぎている。
「C-03、もう一度確認しろ」
「了解。積み替えは零時だ」
低い声が通り過ぎ、再び闇が戻る。
アキトはゆっくりと息を吐いた。
「……牙は、まだ生きてるな」
イヤーピースに向かって、小さく告げる。
「玲。動くぞ。倉庫C-03、零時前に押さえる」
『了解。影班、港外周に回した。無理はするな』
「それは無理な相談だ」
わずかに口角を上げ、アキトはヘルメットの位置を直した。
再び歩き出すその背中を、港の照明が淡く照らす。
静かな港の夜は、まだ終わらない。
【2025年・午後10時30分・港湾コンテナヤード作戦室】
玲は指をボードに置き、点滅する赤い印をなぞる。
「ここが今夜の重点ポイントだ。監視カメラは二重になっているが、光ファイバー経由でアキトが内部から回線を押さえている」
奈々がタブレットを操作しながら報告する。
「監視カメラの死角を確認済みです。搬入ルートも整理済み。作業員の交代スケジュールも突き止めました」
安斎は腕を組み、低くつぶやく。
「動きはほぼ予定通りか……あとはアキトの手腕次第だな」
詩乃は冷静にマップを眺め、指先で微細な線をなぞる。
「煙幕や障害物は事前に確認済み。侵入時の視覚妨害は十分だ」
玲は深く息をつき、全員を見渡す。
「各自、持ち場を徹底しろ。失敗は許されない。港の“牙”は今夜折る」
朱音が小さく呟く。
「アキトさん……無事でいて」
玲は彼女に目配せだけして、再び作戦ボードに視線を戻した。
「行動はすぐだ。各自、準備完了を報告せよ」
【2025年・午後11時05分・港湾コンテナヤード】
アキトは暗がりに身を潜め、ヘルメットの内側の小型カメラで男たちの動きを確認する。
「……予定通り、封印を解除している」彼の耳元で、玲の低い声が無線越しに響く。
「そのまま追跡しろ。動きがあれば即報告」
一人の作業員が封印シールを破り、金属のカチリという音が静寂に混ざる。
アキトは息を潜め、微動だにせずカメラで撮影を続ける。
「……シールを剥がした。コンテナ内部を確認中」
背後の鉄板がわずかに軋み、アキトは咄嗟に身を低くする。
「落ち着け……焦るな。手順通りだ」
無線から玲の声が再び届く。
「内部の信号回線を押さえたらすぐに離脱。作業員には気づかれるな」
アキトは静かに頷き、コンテナの脇に設置された光ファイバー端末を慎重に操作し始めた。
「データ転送開始……これで内部通信の全履歴を取得できる」
【2025年・午後11時12分・港湾コンテナヤード】
アキトは黒いケースを抱え、背後の霧と煙の隙間から視線を巡らせる。
「……周囲は静かだ。まだ気づかれていない」
端末ラックの前で、再び指先が小さく震くことなく動く。
「セキュリティ解除完了。アクセス権限も問題なし」
厚い紙束を開き、記録された貨物番号や出入り履歴を素早く目で追う。
「なるほど……赤ルート、全貨物の流れが一目でわかる」
無線で玲の声が届く。
「確認できたらすぐに撤退。港の混乱が長引く前に安全地帯へ」
アキトはケースをしっかり抱え、端末を再度チェックする。
「データ取得完了。撤収準備――無駄な動きは避ける」
港の潮風が鉄扉の隙間から吹き込み、紙束の匂いと混ざって鼻をかすめる。
アキトは目を細め、静かに倉庫の出口へ向かって歩き出した。
【2025年・午後11時15分・港湾コンテナヤード】
由宇が煙の中を低く身をかがめながら進む。
「詩乃、効果は十分だ」
煙の壁がコンテナ群の間を満たし、作業員たちは慌てて周囲を見回す。
「煙で視界を奪われた……これで動きが鈍るはずだ」詩乃は無線越しに告げる。
アキトは煙の隙間を縫いながら、端末と紙束を抱え前進する。
「視覚遮断完了、行動開始」
安斎は影から慎重に周囲を監視し、無線で玲に状況を報告する。
「全員、位置を維持。侵入経路を確保した」
煙の匂いと潮の香りが混ざる港湾の夜。
短い沈黙の後、影班の動きは静かに、しかし確実に進行していった。
【2025年・午後11時16分・港湾コンテナヤード】
アキトは防水バッグを肩に担ぎ、低く身をかがめてコンテナの影に隠れる。
「端末データは確保……次は出口まで抜ける」
由宇が無線越しに応える。
「了解、南側ゲートに抜けるルートを確保する」
詩乃は煙幕の中で周囲を警戒しつつ、コンテナの隙間から手を差し伸べる。
「出口までは安全……だが、後続には注意」
安斎は遠くの監視カメラの位置をスコープで確認し、淡々と報告する。
「死角は確保済み。侵入者は未発見」
港湾夜景の霧に包まれた暗闇の中、影班の三人とアキトは、静かに、しかし確実に目的地へと進んでいった。
【2025年・午後11時20分・港湾コンテナヤード前】
藤堂はカメラに向かって落ち着いた声で告げる。
「視聴者の皆さん、現在、港湾コンテナヤードで緊急対応が行われています。詳しい状況はまだ確認中ですが、当局は即時撤去と安全確保を進めています」
背後では赤色灯が霧に滲み、警察車両や作業員のシルエットがかすかに揺れている。
「港湾内の出入りは規制され、作業員の安全が最優先されています。続報が入り次第、随時お伝えします」
藤堂の視線は冷静だが、その目には現場の緊迫感が反射していた。
「皆さん、くれぐれも不要不急の接近は避けてください」
【2025年・】
港の朝は、昨日までの喧騒が嘘だったかのように静かだった。
波が岸壁を穏やかに打ち、クレーンは規則正しく動き、作業員の声が淡く響く。
影班の由宇、詩乃、安斎は、それぞれの装備を片付けながら、港を見渡す。
「無事に終わったな」由宇が低く呟く。
「計画も、ルートも、これで完全に封鎖された」詩乃は淡々と答える。
安斎は双眼鏡を下ろし、海面の光を眺める。「もう誰も手を出せない」
アキトは港を背に、夜明けの光に照らされる街を見下ろす。
「これで、牙は折れた……」
玲は港湾倉庫で押さえた資料と端末を整理し、朱音と共に事務所へ戻る。
「港も都市も、これで安全ね」朱音が微笑む。
「うん、もう心配はいらない」玲も笑みを返す。
藤堂はスタジオで最後の原稿を閉じ、モニターに映る港と都市の映像をじっと見つめる。
「報道も一段落だ。完全に解決……」
港と都市、そして事務所。それぞれの場所で、事件は静かに幕を下ろした。
人々の表情には安堵と小さな誇りが残り、街はまた日常を取り戻していった。
【エピローグ 2025年】
港湾コンテナヤードから戻った影班と玲たちは、深夜の事務所に静かに集まっていた。
机の上には、アキトが港から持ち帰った厚い取引台帳と、港湾会社の裏契約書が整然と広げられている。
玲が書類の山を指でなぞりながら低く呟く。「全てのルート、全ての取引……繋がったわ」
由宇は背もたれに寄りかかり、腕を組んで書類を見下ろす。「裏で暗躍していた連中も、もう逃げられない」
詩乃は無言で資料を写真に収め、デジタルデータとして暗号化する。
安斎はモニターに映る港湾地図に赤いマーカーを置き、最後のチェックを済ませる。
アキトは窓際に立ち、夜風に当たりながら言った。「牙は折れた……だが、警戒は続く」
朱音がそっと近づき、コーヒーを差し出す。「でも、もう港も街も、守られたんでしょ?」
玲は画面から目を離さず、静かに頷いた。「ええ、これで本当に一段落……」
窓の外、港のライトが穏やかに光を反射し、都市の街灯もまた日常を取り戻していた。
静けさの中、事件は完全に幕を閉じた。
しかし、それぞれの心には、まだ見えない影と記憶の余韻が残っている。
アキトが背を伸ばし、深く息を吐く。「……さて、次はどこだ?」
玲は淡く微笑み、画面越しに港と都市を見渡した。
事件の記録は閉じられたが、物語はここからも静かに続いていく。
【後日談】
【後日談 2025年・玲】
玲はデスクに向かい、指先で淡々と報告書を打ち込んでいた。
窓の外から差し込む初夏の柔らかな日差しが、古いブラインドを通して事務所の中を穏やかに照らす。
机の端には、重々しい警察の封蝋が押された封筒が置かれていた。
彼女は封筒にそっと手を伸ばし、指先で封を解く。中には港事件の最終調書と、未公開の証拠写真が収められていた。
「……やはり、最後まで確認しなければならない」
そう呟き、玲はスクリーンに表示される事件のログと、アキトたちの報告を照合し始める。
窓の外では港のクレーンが穏やかに動き、遠くの波音が静かに響く。
事件は終わったはずだが、玲の目にはまだ、記録と記憶の中で揺れる影が映っていた。
【後日談 2025年・アキト】
ガレージの薄暗い空間に、工具のカチリという音だけが静かに響く。
アキトは油まみれの手をタオルで拭いながら、慎重に最後のパーツをバイクに取り付けた。
壁際の作業机には、港で押収したハッキング用端末や、解析用のケーブルが無造作に置かれている。
「……使う日はもう来ないか」
独り言のように呟き、アキトはヘルメットを手に取り、バイクの横に立つ。
夜の街に淡く光る街灯の下、静かにアクセルを回すと、機械音が夜風に溶けていった。
事件の喧騒は遠く、彼の背後にはただ、計画と記憶だけが残っていた。
【後日談 2025年・影班】
夕焼けが海を茜色に染め、波間に赤い光の筋が揺れている。
岸壁に腰掛けた由宇は、静かに釣竿を握っていたが、その瞳は潮風に揺れる波面ではなく、遠くの影を鋭く見据えている。
詩乃は近くのコンテナに腰掛け、手袋を外して爪先の汚れを払う。
「今日の潮は穏やかね」と小声で呟くが、耳は常に周囲の音を捕らえている。
安斎は少し離れた場所でスマートフォンを操作し、港湾の動きをデジタルマップで確認する。
「平和に見えるが、何かが潜んでいる……」
小さくそうつぶやき、夜の海風に混ざるサイレンの余韻を聞き取る。
その時、影班の背後に軽やかな足音。
アキトが作業服姿で現れ、二人の目が一瞬交わる。
「ふふ、港も都市も、まだ油断はできないな」
由宇が微かに笑みを浮かべ、釣竿を置いてアキトに近づく。
海の色が暮れに変わる中、影班の影はゆっくりと岸壁に溶け込んでいった。
【藤堂 後日談 2025年】
夜のニュースが終わり、スタジオの照明が一つずつ静かに落とされていく。
薄暗くなった部屋の中、藤堂は机の上の原稿用紙をきちんと揃え、ゆっくりと片付け始めた。
モニターには港や都市の夜景が小さく映り込み、事件の余韻が静かに残っている。
背後から足音。
アキトがふらっと現れ、軽く手を挙げる。
「終わったはずの仕事、まだ残ってるみたいだな」
藤堂は微かに笑みを浮かべ、目を閉じて深く息を吐く。
「油断できる日なんて、まだ来ないのかもしれないね」
アキトは肩をすくめ、窓の外に広がる街の光を眺める。
二人の影がスタジオの片隅で静かに重なる――夜は、まだ続いている。
【朱音 後日談 2025年】
朱音は静かにソファに腰掛け、膝の上に広げたスケッチブックに最後の一筆を加えた。
絵の中の港は、夜の静けさに包まれ、穏やかな灯りがぽつぽつと灯っている。
大きなクレーンも動きを止め、まるで長い戦いのあとにやっと訪れた安息を象徴しているかのようだった。
背後から静かな気配。
アキトがふらっと現れ、肩越しに絵を覗き込む。
「いい仕上がりだな」
朱音は微かに笑みを返し、鉛筆を置く。
「港も、もう少しだけ平和になったみたい」
アキトは窓の外の水面に目を向け、夜風を受けて肩をすくめる。
二人の間に、言葉にしなくても通じ合う静かな余韻が流れていた。
藤堂のあとがき(2025年)
この事件を取材して、改めて思ったことがあります。ニュースは単なる「事実の報告」ではありません。目の前の出来事の裏にある背景、人間の思惑、そして危険と隣り合わせの現場――それを読み解くことで初めて、私たちは「何が起きたのか」を伝えられるのです。
港湾での爆破未遂、都市での連動事件――目に見える騒動の背後には、ルートマスターと呼ばれる者、そして影班や潜入スペシャリストの冷静な行動がありました。彼らの存在があって初めて、被害は最小限に抑えられた。
報道は現場に立つ私の目と耳だけでは成り立ちません。信頼できる情報提供者、現場で命をかけるスペシャリストたち、そして読者や視聴者の存在があって、初めて「伝えること」の意味が生まれる。
今回、港湾から都市まで、複数の場所で展開した事件を追いながら、私はその重要さを痛感しました。そして、この一連の取材を通して、私はニュースの力、そして人の行動がどれほど現実を変えられるかを再確認できました。
私の報道は、これで終わりではありません。現場で見た光景、聞いた声、手にした資料――それらを記録し続けることが、私の使命です。読者の皆さんには、冷静に、しかし決して無関心ではなく、事件の背景に目を向けてほしいと願っています。
藤堂




