35話 仕組まれたシナリオ
『仕組まれたシナリオ』登場人物紹介(最新版)
1. 玲
•年齢:29歳
•役割:探偵、玲探偵事務所の代表
•性格・特徴:冷静沈着で洞察力に優れる。過去の事件で得た経験をもとに、物理的証拠だけでなく心理的矛盾や記憶のズレから真実を導き出す。
•関係性:朱音からは「玲お兄ちゃん」と呼ばれ慕われる。奈々からは恋人として「玲」と呼ばれる。沙耶とは戦友のような信頼関係を持つ。
2. 佐々木朱音
•年齢:10歳
•役割:圭介の娘。玲探偵事務所の事件に巻き込まれる。
•性格・特徴:無邪気だが直感が鋭く、絵やスケッチに事件の手がかりを残すことがある。
•呼称:玲のことを会話中のみ「玲お兄ちゃん」と呼ぶ。
3. 橘奈々(たちばな なな)
•年齢:27歳
•役割:玲の助手。情報解析や現場支援を担当。
•性格・特徴:知的で冷静、玲を恋人として支えながらも現場では的確な判断を下す。
•呼称:玲を恋人として「玲」と呼ぶ。
4. 沙耶
•年齢:28歳
•役割:感情的支柱。事件現場の直感や人間観察で真実に迫る。
•性格・特徴:温かさと鋭い洞察力を兼ね備え、チーム内での精神的支え。
5. 佐々木圭介
•年齢:45歳
•役割:朱音の父、過去の事件に深く関わる。
•性格・特徴:過去の記憶に苦しみながらも、家族や仲間を守ろうと奮闘する。
6. 川崎コウタ(かわさき こうた)
•年齢:12歳
•役割:消されたはずの記憶を持つ少年。事件の核心を握る重要人物。
•性格・特徴:静かで内向的だが、記憶の証人として重要な役割を果たす。
7. 柊コウキ(ひいらぎ こうき)
•年齢:15歳
•役割:過去の事件で記憶を封じられた少年。
•性格・特徴:自分の存在意義を探りつつ、玲たちと関わり真相に迫る。
8. 黒沢一誠
•年齢:35歳
•役割:十年前の倉庫事件に関わった重要人物。現場で単独行動を取った過去を持つ。
•性格・特徴:冷静で判断力があり、過去の出来事を背負いながらも真実を追う。
9. 影班メンバー
•成瀬由宇:暗殺実行・対象把握
•桐野詩乃:毒物処理・痕跡消去
•安斎柾貴:精神制圧・記録汚染
•特徴:隠密行動の精鋭チーム。黒川一派の追跡・拘束や証拠解析に関与。
10. 黒川
•年齢:不明
•役割:事件の首謀者の一人。上層部と連携し、偽装事故を計画。
•性格・特徴:権力志向が強く、証拠改ざんや隠蔽を指示。
11. 服部紫
•年齢:27歳
•役割:音波検知器などの技術担当。事件後は機器の保守・日常サポート。
12. 梓紗
•年齢:25歳
•役割:影班サポート、解析補助。
【日時】2025年10月14日 午前10時15分
【場所】東京都郊外・玲探偵事務所
新緑が眩しい森に囲まれた玲探偵事務所。静寂を切り裂くようにドアが開き、刑事・瀬名透子が入室する。手には証拠写真と小型タブレットを握り、軽く頭を下げた。
「失礼します──玲さん、相談したいことがあります」
玲は書類から目を上げず、椅子から立ち上がり、穏やかな微笑みで彼女を招き入れる。
「どうぞ、遠慮なく」
瀬名は深呼吸をひとつして、少し緊張した面持ちで口を開いた。
「先週、都心郊外の住宅地で事件が発生しました。一見すると事故死のようでしたが、現場の状況があまりにも不自然で……」
玲は書類に目を落としつつも、眉を少し寄せ、興味を示した。
「不自然、ですか?」
瀬名は証拠写真を差し出しながら、声を低める。
「はい。例えば、被害者の指紋は消されているはずなのに残っていたり、監視カメラ映像には不自然な編集の痕跡があるんです」
玲はゆっくりと写真を手に取り、沈黙の中で目を通す。その視線は、まるで写真の奥に潜む“真実”を探るかのように鋭い。
「なるほど……物理的証拠だけでは判断が難しいわけですね」玲は静かに言った。
「過去にも、“記憶のズレ”を追うことで事件の真相に辿り着いたことがあります」
瀬名は一歩前に出て、切実な声で訴える。
「だから、玲さんの力が必要なんです。現場を見て、状況を分析してほしい」
玲は端末から目を離さず、ゆっくりと頷いた。
「わかりました。同行しましょう」
窓の外、森の奥から低く微かな雷鳴が響く。玲はその音に耳を傾けながら、静かに呟いた。
「……嵐が、近づいている」
【日時】2025年10月14日 午後9時45分
【場所】森の奥・隠れ家・現場検証
隠れ家の中には、影班のメンバーと玲、奈々、沙耶が集まり、散乱する物証を整理しながら現場検証を行っていた。壁や床には、黒川一派の足跡や微細な物品が残されている。
玲は床に膝をつき、落ちていたスマートデバイスを慎重に手に取る。
「このデバイス、遠隔操作で証拠を削除しようとしていた痕跡がある。電源を落とす前に、データを抽出する必要がある」
奈々は隣で手袋をはめ、床の足跡をルーペで確認する。
「左側は鮮明だけど、右側は部分的に消されているわ。誰かが急いで隠蔽した形跡ね」
沙耶が壁のひび割れを指差す。
「ここにも触れた跡がある。急ぎで作業した様子がわかるわ」
玲は端末の画面に映る解析結果を見つめ、冷静に指示を出した。
「柊夜、梓紗、この壁際の物証を写真に収め、報告書に添付してくれ。黒川たちの動線を特定する」
柊夜が素早く動き、壁沿いにカメラを構える。
梓紗も手早くメモを取り、報告した。
「ここで隠された証拠品の大部分は、赤外線で痕跡が確認できます」
玲は段ボール箱の山を指さした。
「中にも重要資料や暗号化USBが隠されている可能性が高い。順番に確認しよう」
奈々が玲を見上げ、小さな声で言った。
「玲……早く真相を明らかにして、この事件を終わらせましょう」
玲は微かに笑みを浮かべ、端末に手をかける。
「焦らず一つずつ証拠を積み上げる。それが真実への近道だ」
外の森からは夜風に揺れる木々のざわめきだけが届く。隠れ家の中に、静かだが確実な緊張感が漂っていた。
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【日時】2025年10月14日 午後10時12分
【場所】都内郊外・隠れ家現場
USBメモリ、破損したタブレット、湿った紙片が机の上に整然と並べられる。玲は端末を操作し、データ復元ソフトを起動した。
「USBからのデータ復旧、開始……」
奈々がタブレットをスクリーンに映す。
「……あ、動いた。削除されたファイルの痕跡がほとんど残ってる」
沙耶は紙片に目を走らせ、かすれた文字を読み上げる。
「『嘘を突き通せ』……これは現場での指令の証拠ね」
スクリーンには監視映像の編集履歴、削除されたメッセージ、改竄された車両運行データが次々と復元される。
玲はモニターを指差した。
「見ろ……事故死に偽装されたのは、この日時の車両ルートだ。映像は加工され、重要な瞬間がカットされている」
奈々が息を呑む。
「つまり、被害者は最初から狙われていた……」
玲はUSB内の暗号化ファイルを開き、画面に赤い文字が浮かぶのを確認する。
「指令元は黒川直属の上層部。計画的殺人だ……命令は二重に存在していた」
沙耶の手が微かに震える。
「十年前の倉庫事件と同じ手口……黒川たちは内部で分断工作を行い、現場班を混乱させていたのね」
玲は深く息をつき、メンバーに向き直る。
「全貌が明らかになった。現場の矛盾も隠蔽も、すべてデータが証明している。各自、解析を進めろ」
奈々と沙耶は頷き、解析作業に戻った。外の雨音がかすかに窓を叩く中、消された真実を追う静かな戦いが続いた。
【日時】2025年10月14日 午後11時12分
【場所】都内郊外・隠れ家現場
USBとタブレットの解析がほぼ終わった瞬間、玲は低く呟いた。
「よし、動くぞ」
沙耶と奈々は無線で影班に連絡する。
「全ユニット、黒川確保。侵入ルートを封鎖せよ」
柊夜と梓紗は監視映像を遠隔操作で確認し、黒川の所在を正確に特定する。
「対象、廊下左手にいます」梓紗の声は冷静そのものだった。
玲は静かに部屋のドアを開き、黒川に告げる。
「黒川、これ以上の抵抗は無意味だ。君の行動はすべて記録されている」
黒川は青ざめ、拳を握りしめるも、影班の圧力に抗えず両手を上げた。
柊夜が忍び寄り、背後から拘束具を手際よく取り出す。
「抵抗は無駄だ」
沙耶は冷静に黒川を見つめる。
「あなたの命令系統は完全に解析されました。隠蔽も改ざんも、もう通用しません」
奈々が端末を操作し、上層部への通報を行う。
「警察および内部監査部門に、すべてのログを送信。隠蔽工作は不可能です」
玲はモニターを見据えたまま指示を出す。
「影班、黒川を拘束したまま本部へ移送。現場班に二重指令の解析資料を全て渡す」
黒川は悔しげに唇を噛む。
「……俺たち、利用されただけだったのか」
玲は静かに見据え、告げた。
「利用される側も、利用する側も、結局は同じ責任を負うことになる」
数時間後、上層部の一部幹部に対しても調査が開始され、解析資料と証拠映像は即座に共有された。
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【日時】2025年10月15日 午前10時
【場所】都内・第三区警察署
黒川を筆頭に、事件関係者は次々と逮捕され、手錠をかけられて警察署へ連行されていく。
玲は現場検証資料と解析結果をもとに、上層部の不正を示す証拠を提出した。
「この改ざんデータと通信履歴が決定的な証拠です。組織内での命令系統の混乱は計画的なものです」
奈々が玲の横で小声で囁く。
「玲……あなたのおかげで、真実が明るみに出たわ」
玲は窓の外の光を見つめ、穏やかに微笑む。
「まだ安心はできない。残党もいるが、ひとつずつ処理していくしかない」
あかねは玲お兄ちゃんの背中を見上げ、無邪気な声でつぶやいた。
「玲お兄ちゃん、みんな捕まったの?」
玲はあかねの頭を撫で、静かに頷く。
「そうだ、あかね。これで少し安心できる」
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【日時】2025年10月16日 午前8時
【場所】佐々木家ロッジ・リビング
外は静かに雨が降っていた。焚き火ストーブに揺れる炎が、木の床と壁に淡く映る。
朱音はスケッチブックを膝に置き、何かを描いている。
「玲お兄ちゃん、見ててね!」
玲はソファに腰掛け、優しく頷く。
「うん、あかねの絵、楽しみにしてるよ」
奈々も隣で微笑み、玲を見つめる。
「玲、今日はこうして静かに過ごせるの、久しぶりね」
沙耶はコーヒーカップを手に取り、柔らかく微笑む。
「少しの間でも、みんなで平和な時間を持てるのは嬉しいわね」
部屋の片隅では服部紫が音波検知器のメンテナンスを行い、梓紗と静かに語らう。
「梓紗、これでしばらく異常振動も察知できるはずだ」
「さすが紫さん……こうしていると、戦いの後の日常が少し安心できるね」
ユウタは静かに一枚の写真を見つめる。
「……みんな、無事でよかった」
朱音が手を止め、そっと覗き込む。
「ユウタくん、その写真……?」
ユウタは微かに笑みを浮かべ、写真を胸に抱く。
「うん、これを見ていると、戦った意味を思い出せるから」
雨音と焚き火の揺らぎが静かにリビングを包み込み、穏やかで温かな時間が流れた。
【日時】2025年11月5日 午前10時
【場所】東京地方裁判所・第3法廷
法廷内は静寂に包まれ、傍聴席には関係者や報道陣が整然と並ぶ。
黒川上層部の数名は、警備に囲まれた被告席に座り、表情は硬く緊張が隠せない。
裁判長の声が響く。
「本日より、東京都郊外における計画的偽装事故事件に関する審理を開廷する。」
検察側は証拠資料の提示を始めた。
USBデータ、タブレット解析結果、監視映像、影班内部通信ログ──順序立てて説明される。
映像では、黒川が現場指示を行い、命令を改ざんさせていた様子が克明に記録されていた。
傍聴席の玲は静かにメモを取りながら裁判の流れを追う。
奈々は隣で手を握り、あかねは小声で「玲お兄ちゃん……」とつぶやきながら、玲の肩に寄り添った。
検察官が立ち上がる。
「被告たちは、内部権力闘争に絡み、影班指揮系統を操作し、無辜の市民を巻き込む殺人を計画しました。証拠は揃っており、言い逃れは不可能です」
黒川の弁護人が反論する。
「被告の一部は上層部の指示に従っただけであり、個人的意図はなかったと主張します」
玲は資料を確認しながら小さく眉を寄せる。
「USBのログや改ざん履歴を見る限り、個人の意思による操作も確実に存在する……」
裁判の後半、目撃証言や影班の証言が提示され、黒川上層部の行動が次々に明らかになっていく。
一つ一つの証拠が、虚偽を突き崩し、真実を法廷に刻む。
午後2時、裁判長が判決文を読み上げる。
「被告たちは計画的殺人、証拠改ざん、職権乱用の罪により有罪と認定する。刑は懲役20年、並びに社会的資格停止とする」
あかねは玲お兄ちゃんに駆け寄り、声を弾ませる。
「玲お兄ちゃん、やっと正しい裁きが下ったね!」
玲は微笑み、あかねの頭をそっと撫でる。
「そうだ、あかね。これで少し安心できる」
奈々もそっと玲の手を握り、静かに頷く。
外では報道陣が法廷の外で結果を伝え、街全体に事件終結の安堵が広がっていた。
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【日時】2025年10月16日 午前8時
【場所】都内・全国紙社会面
朝刊一面には大きな見出しが躍っていた。
「計画的偽装事故事件、全貌解明――黒川一派逮捕、上層部関与も判明」
記事はこう伝える。
都心郊外で発生した“事故死”とされていた事件は、内部の権力闘争に絡んだ計画的殺人であったことが判明。
警察は影班一部指揮系統が上層部の二重命令で混乱させられていたことも明らかにした。
主要関係者の黒川らは逮捕され、今後、司法による責任追及が行われる見込みである。
テレビのニュースでも、キャスターが淡々と事件の経緯を報じる。
映像には、逮捕された黒川らの車両や警察署への連行シーンが映し出されていた。
奈々がそっと玲に囁く。
「玲……あなたのおかげで、ようやく町に安心が戻ったわ」
玲は深く頷き、静かに窓の外の朝陽を見つめる。
朱音は玲の膝に座り、新聞を覗き込みながら小さな声で呟いた。
「玲お兄ちゃん……みんな、ちゃんと捕まったんだね」
玲はあかねの頭を優しく撫でる。
「そうだ、あかね。これで少しは安心できる」
街では事件の真相が公になり、市民たちの間に安堵の空気が広がった。
十年前から続いた謎も、こうして法の裁きによって清算され、真実は光を取り戻した。
【2025年10月14日 午後4時35分】
【佐々木家ロッジ・リビング】
玲の手元に置かれたスマートデバイスが、静かに振動した。画面には「服部紫」からの新着メールの通知が表示されている。
玲は指で画面をタップし、メールを開く。
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件名:音波検知器の状態確認
本文:
「玲、音波検知器のメンテナンスを終えた。現在、異常振動はすべて正常範囲内で問題なし。
戦いの後も、こうして確認するのは重要だからね」
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玲は画面を見つめ、微かに笑みを浮かべた。
「ありがとう、紫。これで少しは安心だ」
隣で奈々が顔を上げ、玲の肩に手を添える。
「玲、こうして仲間からの報告があると、余計に落ち着くわね」
玲は頷き、窓の外の雨音に耳を傾けながら答えた。
「そうだな。戦いは終わったわけじゃない。でも、こうしてひとつずつ確認していくことで、確実に安全を積み上げられる」
朱音はスケッチブックに目を戻し、また静かに描き始めた。
外の雨と焚き火の揺らぎが、ロッジに温かく穏やかな時間を運んでいた。




