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闇夜の真実  作者: ysk
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2話 密室の灯、消ゆ

玲の視点による登場人物紹介

事件の残り香がまだ消えぬロビーで、私はふと思う。彼らはただの名前ではない。彼らの背後に、選択と後悔が交錯する物語がある。

1. 桂木かつらぎ しょう

* 「すべてを手に入れた男。だが、守りたかったものは何だったのか。」

* 45歳、大手IT企業の社長。政財界に影響力を持つ一方、心の奥に孤独を隠していた。

2. 宮島みやじま

* 「完璧な密室を作り上げた男。その冷静さの裏に、燃える激情が潜んでいた。」

* 桂木の元ビジネスパートナー。理想を失ったことで、悲劇の幕が開いた。

3. 警備員A

* 「最初に異変を感じ取った者。恐怖と職務の狭間で揺れる心を隠せなかった。」

* 緊急無線で応援を要請し、真っ先に現場へ駆けつけた勇気ある存在。

4. 警備員B・C

* 「冷静さと慎重さで異常事態に向き合う者たち。だが、彼らの目にも動揺の色があった。」

* 密室の扉を開けるその瞬間、彼らもまた事件の目撃者となった。

5. 相沢あいざわ

* 「事件を目の当たりにし、問いを投げかけた男。答えは出ないと知りつつも。」

* 桂木の人間性に疑問を抱き、事件の本質を見つめ直そうとする存在。

6. れい

* 「私自身。沈黙の探偵。答えを求めるのではなく、問いを深く掘り下げる者。」

* 雨の音に耳を傾けながら、次の謎へと足を踏み出す。


選択の重みと、人間の本質に向き合う物語は、まだ終わらない。

テレビニュース速報——事件発生の報道


【事件速報】


「東京都中央区銀座の高級ホテル『クラウンエグゼクティブ』の最上階スイートルームで殺人事件が発生しました。警察によると、被害者は現場で死亡が確認され、現在、犯行の動機や犯人特定に向けた捜査が進められています。関係者への聴取および現場検証が継続中であり、詳細は追って報告される予定です。」


画面には、ホテルの外観が映し出される。

煌々としたネオンの光の中、警察車両の赤色灯が断続的に明滅していた。


「被害者は桂木翔かつらぎ しょう、45歳。大手IT企業の社長であり、政財界に幅広い人脈を持つ実業家でした。」


「午前0時、最上階のスイートルームにて、鋭く乾いた銃声が響いたとの通報を受け、警察が出動しました。現場では桂木氏が銃撃を受けて倒れており、すでに死亡が確認されています。」


「現時点で、密室状況が確認されており、捜査は難航する可能性があります。」


画面がスタジオへ戻り、キャスターが続ける。

「今後の捜査の進展に注目が集まります。追加の情報が入り次第、お伝えします。」


---


密室殺人——警備員の視点


警備員として異常を察知した瞬間、全身の血流が速くなるのを感じた。


足音が廊下に響く。最上階スイートの扉の前に到達すると、固く施錠されていた。


内側からの鍵。


部屋の中からは何の物音もしない——まるで、その空間が沈黙の中に閉じ込められているかのように。


手を震えながら無線を取り、応援を要請する。

【警備員の無線交信および現場突入】


(廊下を駆ける足音、息が荒い)


警備員A: 「こちら最上階、異常発生!銃声を確認、スイートルーム前に到着!」


警備本部: 「状況を報告せよ。負傷者はいるか?」


警備員A: 「扉は完全に施錠されています。内側からのロック確認。反応なし、物音もなし。」


警備本部: 「応援を要請するか?」


警備員A: (ため息)「…はい、至急応援を要請します。最上階スイート前、緊急対応必要!」


警備本部: 「了解。応援班を直ちに派遣する。位置を維持、慎重に対応せよ。」


警備員A: 「了解…(無線が途切れ気味に)…早く来てくれ…」


(数分後、足音が増え、複数の警備員が駆けつける)


警備員B: 「応援班到着!状況は?」


警備員A: 「内側から施錠され、応答なし。異常な静寂が続いている。」


警備員B: 「了解。特殊キーを準備、慎重に開錠する。」


(解錠作業の微かな金属音)


警備員C: 「開錠完了。突入準備!」


警備員B: 「いくぞ……!」(扉がゆっくり開く軋む音)


(湿った鉄の匂い、沈黙——そして鮮血が視界に広がる)


警備員A: (息を呑みながら)「……これは……」


警備員C: 「被害者確認!床に血痕、大量出血……反応なし!」


警備員B: 「周囲警戒!部屋内の安全を確認!」


(全員が緊張した沈黙の中、部屋を見回す)


警備員A: (震える声で)「誰も……いない……完全な密室です……」


密室トリックの詳細——宮島の仕掛け


宮島は、事件前日に密室を作るための準備をしていた。


1. 糸を利用した施錠トリック

- 宮島は事前に、ドアノブの隙間から極細のナイロン糸を通し、鍵のサムターンに結びつけた。

- 犯行後、彼は部屋の外から糸を引き、鍵を回して施錠。

- 糸を切断することで、侵入の痕跡を完全に消し去った。

2. ドアチェーンを細工した偽装

- チェーンの金具に極細のワイヤーを仕込み、外側から引いて閉じることができるようにした。

- これにより、警察が到着した際に「内側から施錠された密室」と見せかけることができた。


3. 足跡の操作

- 犯行後、宮島はバルコニーを経由し隣室へと移動。

- 廊下に戻る際、「履き替えた靴」(黒の革靴、かかとに擦り傷があり、薄く泥の跡が残っている)は、宮島が足跡を偽装するために使用したトリックで、密室殺人のアリバイ工作を完成させる重要な要素となった。


---


桂木の回想——彼が守ろうとしたもの


数日前——桂木は、ホテルの窓の外を眺めていた。


「この会社は、俺のすべてだ。」


宮島とともに築いた会社——

理想を持ち、未来を切り開こうとした。


しかし、時が経つにつれ、それはただの「資産」となった。


宮島の反対を押し切り、桂木は事業拡大の決定を下した。

それが、彼の「守るべきもの」だった。


だが、その選択は、宮島にとって人生の喪失だった。


桂木は鍵を握りしめ、最後までそれを確かめていた。

しかし——


銃声が鳴り響いた。

桂木の選択は、その瞬間に終わりを迎えた。


---


事件の終焉——探偵の言葉が密室を崩す


宮島は無言のまま、警官に連行される。


ロビーの隅で、相沢が震える声で呟いた。


「桂木さんは、何を守ろうとしていたんでしょうか。」


玲は答えなかった。


探偵は時に沈黙する——それは、答えを持っているからではなく、答えが存在しないことを知っているからだ。


彼は窓の外を見た。


雨が降っている。まるですべてを洗い流すかのようだ。


事件は終わった。

しかし、探偵の胸には答えのない問いだけが残った。


しかし、答えはまだ残されている——人間の選択、その重み。


玲はコート(黒のロングコート。襟元はしっかりと立てられ、歩くたびに裾がわずかに揺れる)を羽織り、歩き出す。


ポケットの中に、一枚のメモ。


『麻布の美術館で絵画が消えた——密室の中で』


玲はその文字をじっと見つめ、微かに笑う。


「面白くなりそうだな。」

あとがき

この物語を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作が描いたのは、単なる密室殺人事件の謎解きではありません。むしろ「人間の選択」と「その責任」についての問いを投げかける物語でした。


密室という閉ざされた空間は、外界から隔絶されることで、私たちが本質的に直面する孤独や葛藤を象徴しています。その中で人は何を守り、何を犠牲にするのか。桂木と宮島の関係は、信念と欲望、友情と裏切りといった相反する感情が交錯する人間模様でした。


探偵・玲は事件を解決する存在でありながら、すべての答えを持っているわけではありません。事件が解決しても、人間そのものの矛盾や不確かさは残り続けます。そしてその「答えのない問い」こそが、私たちが生きるということの本質なのかもしれません。


選択とは、それ自体が一つの密室です。扉を開ける鍵は、自分自身の内側にしか存在しません。


この物語が、読者の皆さまにとって、心の扉をノックする一冊であったなら幸いです。

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