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19話 記憶の迷宮と光の行方

玲探偵事務所チーム

れい

•冷静沈着な探偵。複雑な心理トリックや密室事件の解明を得意とする。

•過去の事件で救えなかった者の記憶を抱えつつ、チームを指揮。

•橘 奈々(たちばな なな)

•情報分析と現場支援のエキスパート。端末操作とタイムライン解析が得意。

•チーム内では冷静な判断力と柔軟な行動力で重要な役割を果たす。

霧島きりしま

•現場での警戒と防御担当。鋭い観察力と判断力を持つ。

•玲の推理を補佐しつつ、危険時には先回りして防御行動をとる。

榊原さかきばら

•データ解析と端末操作のスペシャリスト。暗号解析やログ追跡を担当。

冴木さえき

•記録分析・ログ比較のエキスパート。過去データから矛盾を炙り出す。

伏見ふしみ 陽介ようすけ

•情報解析・データベース管理担当。記憶再生やプロジェクトの追跡も行う。

御影みかげ 冬馬とうま

•記憶ダイブや脳波解析を担当。深層意識や心理的誘導の調査に強い。

伊吹いぶき けい

•記憶再生装置・センサー類の操作担当。御影と連携し、罠回避をサポート。

青柳あおやぎ

•心理戦分析担当。記憶や心理誘導の危険性を即座に評価。

九条くじょう まこと

•精神干渉分析官。抹消された記憶や心理操作の影響を評価。

氷室ひむろ かえで

•過去事件の関連性や証拠の因果関係を専門に調査。

水城みずき 真司しんじ

•銃撃軌道や物理的トラップ解析のスペシャリスト。精密な現場分析を行う。

立花たちば 京介きょうすけ

•金融・暗号解析のスペシャリスト。資金の流れや隠された計画を解明。

高嶺たかみね 結衣ゆい

•証言分析・心理戦担当。記憶や証言の矛盾点を見抜く。

藤堂とうどう さとし

•密室構造解析のスペシャリスト。建築・舞台設営の知識を活かし、現場の謎を解く。



事件関係者・重要人物

透子せな とうこ

•記憶操作の被害者で、事件解決の鍵を握る。

•玲たちのサポートにより、記憶迷宮を突破し真実に辿り着く。

志乃かたせ しの

•過去に記憶を抹消された人物。研究プロジェクトに関わっていた。

•最終的に北辰ファイル公開により、自らの真実を取り戻す。

風間かざま 京吾きょうご

•過去の研究者。子供に本を読み聞かせる場面が記録されている。

神代かみしろ れん

•過去の研究者。風間京吾と共に記録に残る存在。

桐嶋きりしま

•他者の記憶が一時的に移植された人物。心理的・物理的罠の関与が見られる。

片瀬かたせ 志乃しの

•倫理監査補佐として、事件解明に関連する深層記録の鍵を握る。

日時:2025年10月3日・午後3時15分

場所:玲探偵事務所・執務室


玲たちが事務所の大テーブルで静かに資料整理をしている。モニターには先日の事件のまとめ資料が映されていた。


突然、テレビから赤い字幕とともにニュース速報が流れる。


「速報です。東京湾岸で連続殺人事件が発生。被害者は──」


その声に昌代が手元のポテトチップスをつまみながら、軽く顔を上げて呟く。

「あらまあ、連続殺人事件? 怖いわぁ。」


玲は冷静に画面を見つめ、静かに返す。

「そうですねぇ。」


その冷静な声とは裏腹に、玲の思考はすでに複雑に絡み合った情報の中で動き始めていた。

密室、遠隔操作、そして“記憶操作”の影──

新たな事件の匂いが、事務所の空気に微かに混ざり込む。


奈々が横で眉をひそめ、タブレットを手に言う。

「玲、今度はどこから手をつけるの?」


玲は視線をテレビに戻し、短く答えた。

「まず、被害者の共通点と現場の情報からですね。」


窓の外では、午後の柔らかな日差しが室内に差し込み、静かな緊張をさらに際立たせていた。


日時:2025年10月3日・午後3時20分

場所:玲探偵事務所・執務室


テレビのニュース速報を背に、玲は大きく息をつき、ホワイトボード代わりの端末に資料を映す。


「今回の事件、表面的には連続殺人に見える。だが、過去のケースと照合すれば、遠隔操作や内部情報の干渉の可能性もある。」


チームの顔を一つずつ見渡す。

「霧島、現場検証担当だ。まずは被害現場周辺の環境データを収集してくれ。」

霧島は即座に頷き、手帳を持ち替える。


「奈々、被害者の財務と通話履歴の解析を始める。送金経路と通信ログから手がかりを抽出だ。」

奈々はタブレットを操作しながら、少し笑みを浮かべる。

「了解、玲。」


「冴木、端末の監視とログ差分を確認。外部干渉の痕跡を見逃すな。」

冴木は複数のモニターを前に淡々と頷く。


「榊原、暗号化されている通信やデータの解析は君に任せる。突破口を見つけたら即報告だ。」

榊原は眼鏡越しに端末を見つめ、手元の解析機器に指を置いた。


凛も静かに頷く。

「私は心理干渉や目撃者対応を担当します。情報の矛盾を洗い出して、チームにフィードバックします。」


玲は端末に残された現場資料を指でなぞりながら、短く告げる。

「それぞれの役割を遂行しつつ、連絡はリアルタイムで。今回は時間との勝負だ。」


チームは一瞬の沈黙の後、それぞれの準備に取りかかる。

玲は静かに端末を見つめ、頭の中で全体のシナリオを組み立て始めた。


日時:2025年10月3日・午後4時10分

場所:東京郊外・廃工場跡


玲たちは黒塗りの車で現場へと到着した。周囲は静まり返り、落ち葉がかすかに舞う音だけが響く。


「……静かすぎるな」霧島が低く呟き、目を細める。


奈々がタブレットを確認しながら、目を皿のようにして周囲を見回す。

「被害者はここで倒れていた……らしい。写真と証言だけど、状況が不自然すぎる。」


冴木は車から降り、モニターを取り出す。

「外部からの監視カメラには、事件当時の異常は映っていない。侵入者の痕跡もなし。……密室か。」


榊原が眉を寄せ、端末を操作しながら小声で言う。

「信号のログに不自然なラグがある……遠隔操作された可能性が高い。」


凛は現場の入り口を見据え、冷静な声で告げる。

「被害者の動線と現場状況が一致しない。誰かが意図的に演出した、密室の構造だ。」


玲は深く息を吸い、端末に映る現場図を指でなぞる。

「皆、気を抜くな。この静寂は――叫びの前触れだ。」


その言葉が響き渡るかのように、廃工場内の空気が冷たく震えた。

足音一つない中、玲たちはゆっくりと建物の奥へ進む。


廊下の奥、鉄扉の前に立つと、奈々が小さく息を呑む。

「……あの部屋だ。異常だらけ……」


霧島が腕組みをして慎重に観察する。

「壁、床、窓、すべて無傷。でも、何かが隠されている。」


玲は静かに目を細め、心の中で推理を巡らせる。

「ここから先が本当の戦いだ……」


沈黙の中、廃工場は彼らの一歩一歩に応えるかのように、冷たい空気を震わせていた。


玲たちは薄暗い倉庫に足を踏み入れ、静かに周囲を観察していた。霧島が手元のライトを動かすと、壁の一部に微かな段差が浮かび上がる。


「……これは、通常の建築ではありえない痕跡だ」


そう呟いたのは、閉鎖空間解析のスペシャリスト、霧島だ。指先で段差をなぞり、壁面を軽く叩く。音の反響から、そこに薄い扉が隠されていることが判明した。


玲は静かに頷き、他のメンバーに視線を送りながら、探索の指示を出す。


時間:午前10時45分

場所:東京都内・廃工場内部


壁の隅に目を凝らすと、無造作に血で描かれた幾何学的な図形が浮かび上がる。玲は眉をひそめ、その図形を指でなぞりながら考え込む。


「……これは単なる装飾ではない。明確な意味を持つ符号だ」


そう言ったのは、幾何学的符号解析のスペシャリスト、篠宮だ。篠宮はスケッチブックを取り出し、図形の比率や角度を測りながら解析を始める。


「この角度と線の比率、古典暗号の一種に似ています。犯人は、何かを伝えようとしている可能性があります」


玲は端末を手に取り、篠宮の解析結果を確認しながら、次の行動の指示を考えた。


時間:午前10時50分

場所:東京都内・廃工場内部


奈々が壁の幾何学的図形を見つめ、思わず息を呑んだ。


「……こ、こんなものまで……」


彼女の声には驚きと戦慄が入り混じる。篠宮が冷静に解析を続ける中、奈々は視線をそらさずに図形の細部を観察した。


「玲……これは、一体どういう意味なの……?」


玲は端末の画面をスクロールし、既に集めたデータと照合しながら答える。


「まだ確定はできない。でも、この符号は間違いなく、犯人が残した『手掛かり』だ」


奈々は深く息を吸い込み、覚悟を決めたように頷いた。


時間:午前10時55分

場所:東京都内・廃工場内部


玲は壁の幾何学的図形から視線を上げ、現場全体を慎重に見渡した。


床のわずかな擦れ跡、天井の配線の不自然な曲がり、そして奥の隠し扉。


「ここは……何かが仕組まれている」


冷静な声の中に、わずかな緊張が漂う。奈々が玲の横で端末を操作し、篠宮は双眼鏡で廊下の影を確認した。


玲は一歩ずつ、足元の痕跡を確認しながら進む。


「全員、慎重にな。何があっても油断はできない」


時間:午前11時05分

場所:東京都内・廃工場内部


榊原が床に膝をつき、微細な痕跡を指先で丁寧になぞる。


「……これは普通の人間の歩行痕じゃない。速度も、圧力も、明らかに異なる。」


篠宮が横で双眼鏡を覗き込み、奈々が端末のデータを拡大して確認する。


玲はその光景をじっと見つめながら、全体の構造と痕跡の位置関係を頭の中で整理していた。


「痕跡のパターンから、侵入者は二通りのルートを想定して動いている……確認するぞ」


時間:午前11時20分

場所:東京都内・廃工場内部


玲は遺体の傍らに跪き、被害者の手元に視線を止める。


薄く血で刻まれた文字列が、無造作に残されていた。


「……これはダイイングメッセージだな。急ごう、解読の手掛かりになる。」


奈々が息を呑み、榊原が端末を取り出して文字の輪郭や筆圧を解析する。


玲はその場で短くメモを取り、脳内で犯行手順とメッセージの意図を照合し始めた。


時間:午後2時

場所:玲探偵事務所・作戦室


事務所に戻った玲たちは、ホワイトボードの前に集まった。


玲は現場で得た情報を慎重に並べながら、線を引き、矢印を加える。

「ダイイングメッセージの文字列、壁の幾何学模様、床の微細な痕跡……これらは無関係ではない。」


榊原が端末を操作し、文字や模様のデジタル解析結果を投影する。

「血痕の筆圧と幾何学パターンに相関が見えます。偶然ではありません。」


奈々が資料をめくりながら付け加える。

「つまり、被害者は最後の力を振り絞って、何かを伝えようとしていたってこと?」


玲は静かに頷き、ホワイトボードに太い線で『隠された意図』と書き加えた。

「そうだ。我々が今解読しなければ、真実は闇に埋もれる。」


時間:午後2時15分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲はホワイトボードに新たな線を引きながら、整理した項目を書き込む。

•異常な犯行現場の整然さ:混乱や衝動的な痕跡が全くない。

•象徴的な図形と記号:意味不明な記号が、意図的に配置されている。

•メッセージの存在:被害者の遺品に隠された暗号。

•過去との共通点:未解決事件と類似するパターン。


奈々が指差しながら呟く。

「……整理すると、被害者は最後まで何かを伝えたかったってことね。」


玲は冷静に頷き、ホワイトボードの中心に太く『隠された意図』と記す。

「この痕跡の一つひとつに、我々が解くべき意味が込められている。」


時間:午後2時30分

場所:玲探偵事務所・作戦室


霧島が資料をめくりながら低く呟く。

「過去の事件と今回の現場……符号の配置パターンが一致している。単なる偶然じゃない。」


奈々が顔を上げ、端末の画面を霧島に向ける。

「確かに。符号の位置や線の繋がりを解析すると、同じ人物の手口が透けて見えるわ。」


玲はホワイトボードの前に立ち、両手でマーカーを握る。

「この一致点を軸に仮説を組み立てる。全ての痕跡が、我々に何かを伝えようとしている。」


時間:午後2時45分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲は静かにペンを走らせ、ホワイトボードに新たな線と文字を書き加える。

「被害者の遺留品と現場の符号は、単なる混乱の産物ではない。意図的に配置され、我々に何かを示している。」


奈々が横から画面を覗き込み、眉をひそめる。

「なるほど……これは暗号化されたメッセージの可能性もあるわね。」


榊原は端末を操作しながら補足する。

「符号の幾何学的パターンから、送信元や操作の痕跡を逆算することもできる。」


霧島は資料を整理しながら頷く。

「つまり、犯人は我々に『見せたいもの』を計算して置いたということか……。」


時間:午後2時50分

場所:玲探偵事務所・作戦室(ホワイトボード前)


霧島が最後の資料をホワイトボードに貼り終えると、玲はゆっくりとペンを取り、太いストロークで一語を刻んだ。


『挑戦状——次に狙われるのは、我々かもしれない』


書かれた文字が黒く乾いた線となって室内に沈み、短い静寂が落ちる。

奈々が息を呑み、目を見開いて言った。


「え……本当に、こう書いてあったの?」


玲は紙片を手に取り、そこに走られていた同じ一行を指でなぞる。紙には血の跡かインクのにじみか、判別のつかない微細な痕が残っていた。


「現場で見つかった。被害者が残すには不自然な場所に置かれていたんだ。」榊原が端末の解析結果を示す。

「筆跡は意図的な揺らぎがある。可視化すれば同一者の可能性が高い。」


凛が冷ややかに、しかし鋭く口を開く。

「挑発だ。相手は我々の反応を確かめたい。けれど、反応しなければ彼らの勝ちだわ。」


霧島は拳を軽く握り締め、低く呟いた。

「相手が誰であれ、狙いが俺たちに向くなら、先に動くしかない。」


冴木は画面のログをスクロールしながら淡々と付け加える。

「まずはこの『挑戦状』の伝播経路を洗う。誰が、いつ、どこで置いたのか。そこが突破口になる。」


玲はホワイトボードの文字をじっと見つめ、短く頷いた。

「ならば、受けて立とう。監視を強化し、仮説を立て、次の一手を封じる。準備はいいか。」


全員が小さく合図を返す。

黒い文字列が告げる脅威は、ただの脅しで終わらない──そんな気配が、事務所を静かに満たしていた。


時間:午後3時15分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲はホワイトボードの前に立ち、現場で得られた資料を再び並べ直した。

「壁の図形、遺体の位置、残された指紋……全てが無関係ではない」と、低く呟く。


奈々がタブレットを操作しながら報告する。

「被害者の手元から、この小型データチップが出てきました。解析すると、直近の通話履歴とメールの暗号化パケットが残っています。」


榊原が端末に向かい、解析を開始する。

「この暗号化は独自のアルゴリズム。通常の解読手順では解けない……だが、再帰的ハッシュの解析で、発信元と受信タイミングを特定可能だ。」


霧島は資料をめくりながら眉をひそめた。

「それと、現場の壁に残された微細な摩擦痕。高速度で何かが通過した痕跡と一致する。通常の侵入手段では考えにくい。」


凛が冷静に口を開く。

「つまり、外部からの操作か、あるいは誰かが現場を遠隔でコントロールした可能性が高いわね。密室の再現性も説明がつく。」


玲はペンを握り、ホワイトボードに線を引いた。

「整理するとこうだ。現場の整然さは偶然ではなく、意図的な配置。暗号化データは次の行動への布石。摩擦痕は犯人が現場を制御した痕跡。そして、全てが一連のメッセージとして我々に届いている。」


奈々が息を呑む。

「……つまり、被害者も犯人も、私たちに“伝えたい何か”があったってこと?」


玲は短く頷いた。

「そうだ。だが、それを読み解くには、我々の推理力とチームワークが試される。手がかりは微細だが、全てが意味を持つ。」


霧島は拳を軽く握り、視線を鋭くする。

「ならば、全ての可能性を潰しながら進む。次の動きは、奴らの想定外にする。」


玲は深く息を吸い、ホワイトボードに残る線をじっと見つめた。

微かな手がかりが、事件の核心へと静かに導く──その予感が、室内を張り詰めた空気で満たしていた。


時間:午後3時45分

場所:玲探偵事務所・作戦室


榊原が端末から視線を上げ、低く呟いた。


「……この暗号、ただの情報じゃない。犯人が我々に『動かし方』を教えているようなものだ。」


奈々が眉をひそめる。

「動かし方……って、つまりどういうこと?」


榊原は端末画面の波形を指差しながら答える。

「タイムスタンプのズレ、暗号パケットの順序……これらを正確に解析すれば、現場で起きたことの再現が可能になる。犯人は意図的にヒントを残している。」


霧島が腕を組み、静かに言う。

「……やはり、ただの殺人じゃない。これは、我々を試すための仕掛けだ。」


玲はペンを握り、ホワイトボードの線をさらに整理した。

「よし、次のステップはこのパターンの再現と、潜在的な罠の解析だ。榊原、君の解析が鍵になる。」


榊原は短く頷き、再び端末に集中する。

微細な数字の羅列と波形が、密室事件の謎を解く道筋を静かに示していた。


時間:午後3時50分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲はわずかに目を細め、静かに頷いた。


「なるほど……こういうことか。」


奈々が端末を操作しながら訊ねる。

「なるほどって……どういう意味?」


玲はホワイトボードの線を指さし、冷静に説明する。

「犯人が意図的に残した痕跡のパターンだ。これを追えば、密室の構造と遠隔操作の手口、双方を同時に解明できる。」


榊原が小さく息を吐き、解析デバイスに視線を戻す。

「……全てが論理的に繋がる。乱数のように見えたパケットも、一定の規則に従っている。」


霧島は腕を組んだまま頷く。

「ならば、我々の進むべき方向は明確だ。罠を避け、犯人を突き止める。」


玲は再びペンを取り、ホワイトボードに新たな矢印と数字を加えた。

その瞬間、作戦室には静かな覚悟と、緊張感が満ちていった。


時間:午後4時10分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲はホワイトボードの前でペンを回しながら、静かに言葉を発した。


「ここまでの手がかりを整理すると、犯人は単なる偶発的な行動ではなく、計画的に我々を誘導している。」


奈々が眉を寄せ、端末の画面を覗き込む。

「計画的……つまり、全部仕組まれてるってこと?」


玲はうなずきながら、矢印と数字で結ばれた図を指さす。

「その通り。密室の矛盾、音声のメタデータ、弾道の軌跡――全てが一つの論理に従って配置されている。」


榊原が端末を操作しながら付け加える。

「これを解析すれば、遠隔操作の手口と犯人の意図を同時に可視化できる。」


霧島が手帳を閉じ、低く言った。

「ならば、我々が次に取るべき手は明確だな。」


玲はペンを軽く机に置き、深く息を吸った。

「よし……全員、準備を整えろ。これからが本番だ。」


作戦室には、緊張と覚悟が静かに張り詰めた。


時間:午後4時15分

場所:玲探偵事務所・作戦室


事務所の空気が僅かに張り詰める。


奈々が端末のスクリーンを指でなぞりながら、少し息を飲む。

「玲……次、何から手を付けるの?」


玲はホワイトボードを見つめ、線と数字の絡み合いを目で追う。

「まず、現場で得たデータを再構築する。その上で、犯人が設計した論理の穴を突く。」


榊原が低く呟いた。

「情報の流れを可視化すれば、遠隔操作のタイミングも読み取れる……。」


霧島は腕を組み、端末の画面を凝視する。

「油断は禁物だ。向こうもこちらの動きを監視している可能性がある。」


玲は軽く頷き、机に置かれた模型を指さす。

「各自、役割を再確認せよ。全ての手掛かりを結合させれば、必ず次の一手が見えてくる。」


静寂の中、全員の呼吸だけがわずかに響く。

緊張感が、事務所全体に静かに染み渡っていた。


時間:午後4時18分

場所:玲探偵事務所・作戦室


奈々は端末を操作しながら、冷静に分析を始めた。

「現場の監視カメラ映像と通信ログを照合すると、侵入者はドアや窓からではなく、内部システムを経由していた可能性が高いわ」


玲は端末の画面を覗き込み、指でホワイトボード上の線をなぞる。

「つまり、犯人は物理的な侵入ではなく、遠隔操作による制御を前提に動いている。通信のタイムスタンプと弾道解析も組み合わせれば、完全な行動モデルが作れる」


霧島は資料を手にし、眉間に皺を寄せる。

「ログの隙間を見逃さなければ、次に狙われる場所も予測できるかもしれない……」


榊原は端末のコードを確認しながら小さく呟いた。

「暗号化通信の一部に微細な変動がある。これを突けば、遠隔制御の中枢にアクセスできる可能性がある」


玲は短く息を吐き、全員を見渡す。

「各自、手掛かりを統合する。時間の無駄は許されない。すべての解析結果を結合し、次の一手を明確にする」


事務所には、端末のキー音と紙をめくる音だけが響き、緊張が静かに張り詰めていた。


時間:午後4時25分

場所:玲探偵事務所・作戦室


霧島が机の上に身を乗り出した。

資料を指先で押さえ、低くしかし熱を帯びた声で言う。


「玲、この図形……血痕の配置と、被害者の体の向き。偶然じゃない。これは“示されている”。犯人は、次の行動を俺たちに告げているんだ」


奈々が顔を上げる。

「挑発、ってこと?」


霧島は強く頷き、さらに声を落とした。

「いや……もっと直接的だ。あの幾何学模様は古い暗号の一種だ。実際に解けば、次の犯行現場の候補が浮かび上がるはずだ」


その場の空気が一層張り詰める。

玲は視線を霧島に移し、冷静な声で返した。

「なるほど……犯人は“我々に読ませる”前提で仕掛けているわけですね」


ペンがホワイトボードに走り、玲の手で新たに記された文字が浮かぶ。

『犯人の暗号化メッセージ → 次の現場』


霧島の瞳には、緊張と闘志が混じり合っていた。


時間:午後4時32分

場所:玲探偵事務所・作戦室


榊原は資料に目を通しながら、静かに口を開いた。

「この図形……霧島の言うとおり、ただの模様じゃない。数学的に見れば、座標変換の痕跡がある。三角関数を使った符号化だな」


奈々が眉をひそめる。

「つまり、あの図形自体が“地図”になってるってこと?」


榊原は短く息を吐き、机に資料を叩きつけるように置いた。

「座標を展開すれば、特定の地点が浮かび上がるはずだ。問題は――解読のために“もう一つの鍵”が必要になるってことだ」


霧島が険しい顔で尋ねる。

「もう一つの鍵?」


榊原は冷静な声で答える。

「被害者が残したダイイングメッセージ。あれが補助鍵になっている。

二つを組み合わせなければ、犯人が示す“次の現場”は割り出せない」


室内の視線が、自然と玲に集まった。

玲は沈黙のまま資料とホワイトボードを見比べ、鋭い視線を走らせていた。


時間:午後4時45分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲はホワイトボードに新たな線を引き、静かに思索を深めていた。

ペン先が白いボードを走るたび、現場で拾った断片が少しずつ繋がっていく。


「……この図形、そして被害者の残した暗号。二つを重ねると、ただの幾何学的模様じゃなくなる。

座標が浮かび上がり、時間と場所を指定している」


奈々がモニターに視線を移しながら問いかける。

「じゃあ、犯人はわざと私たちに場所を伝えたってこと?」


玲は短く頷き、赤い線をぐっと強く引いた。

「そうだ。これは“挑発”だ。そして――“次の犯行予告”でもある」


霧島が鋭い目を向ける。

「……つまり、もうすぐ起きる事件の現場が特定できるってわけだな」


玲はペンを止め、深く息を吐いた。

「だが注意しろ。これは罠でもある。犯人は我々を誘い込もうとしている」


その場の空気が、さらに重く張り詰めていった。


時間:午後4時50分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲はホワイトボードの前に立ち、静かにペンを走らせた。

赤、青、黒のマーカーを使い分け、情報を整理していく。ボードには大きく三つの項目が書き込まれる。



✔ 犯人は我々の動向を把握している可能性がある

(監視・通信傍受・行動パターン解析)


✔ 事件現場の配置には暗号的な意味が隠されている

(幾何学模様・座標・時刻指定)


✔ 被害者は過去の共通の出来事と関連している可能性がある

(未解決事件・旧人脈・隠蔽された記録)



奈々が椅子に浅く腰かけ、画面に目を走らせながら呟く。

「玲……この三つ、全部が繋がってる感じがする。単発の事件じゃないね。」


玲は静かに頷き、ペンを握る手に力を込める。

「そうだ。これは偶然じゃない。計算された“仕組まれた舞台”だ。」


霧島が腕を組み、重い声で付け加えた。

「犯人は俺たちの一手先を読んでいる……そういうことか。」


ホワイトボードの文字が、室内の張り詰めた空気の中で、不気味に浮かび上がっていた。


時間:午後5時05分

場所:玲探偵事務所・作戦室


張り詰めた空気の中、ホワイトボードには鋭い文字が並んでいた。

奈々も霧島も榊原も、深刻な顔で考え込んでいる。


そんな時、テーブルの端で静かに座っていた昌代が、カサッとポテトチップスの袋を鳴らした。

一枚を口に運びながら、何気ない調子でぽつりと呟く。


「そういえばねぇ……この前、湖畔の古い教会で鐘の音がしたのよ。あそこ、もう誰も使ってないはずなのに。」


一瞬、室内の空気が止まった。


玲がペンを止め、ゆっくりと昌代の方へ視線を向ける。

奈々も顔を上げ、端末を握る手が固まった。


「……湖畔の教会、ですか。」玲の声は低く、だが確信を帯びていた。


まるで何でもない世間話のように放たれた昌代の一言が、事件の新たな鍵を開ける音に聞こえた。


時間:午後5時07分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲はホワイトボードの前で止まったまま、昌代の言葉を頭の中で繰り返した。

「湖畔の教会……鐘の音……」


表情は変わらない。だが、ほんのわずかに眉が動き、瞳が鋭く揺れる。


静かにペンを指先で回しながら、玲は深く思考に沈んでいく。

(使われていないはずの教会で鐘が鳴る……偶然ではない。あの“図形”と響きがリンクする可能性がある……)


奈々が息を呑み、霧島と榊原が視線を交わした。


玲はしばし沈黙した後、ホワイトボードにゆっくりと新しい文字を書き加える。


『湖畔の教会 → 新たな手がかり』


その文字を見つめながら、玲の思考はさらに深く事件の核心へと潜っていった。


時間:午後5時15分

場所:玲探偵事務所・作戦室


「……ちょっと待って!」

奈々の声が緊張を帯びて響いた。彼女の指が端末の画面を素早くなぞる。


「現場周辺の通信ログを洗い直してたんだけど、変なパケットが見つかったの。定期的に発信されてて……しかも、発信元が湖畔の教会になってる。」


モニターに浮かび上がったのは、規則正しく並んだ時刻と座標データ。まるで心臓の鼓動のように、一定のリズムで信号が打ち出されていた。


玲はすぐに立ち上がり、ホワイトボードに目を移す。

「……図形、鐘の音、そして発信信号。全部、教会に繋がる。」


榊原が驚いたように端末を覗き込み、霧島は腕を組みながら低く唸る。

奈々はわずかに唇を噛み、玲を見やった。


「玲……これ、間違いなく“何かを隠してる”よ。」


玲は無言で頷き、ホワイトボードに新たな文字を書き込んだ。


『湖畔の教会 → 発信源 → 次の舞台』


時間:午後5時30分

場所:玲探偵事務所・作戦室


静かな決意が、事務所の空気を引き締めていた。

誰も軽口を叩かず、ただ画面に浮かぶ座標を凝視している。


榊原が低く言う。

「確かに発信元は……湖畔の教会。間違いない。」


霧島が資料を閉じ、ゆっくりと顔を上げる。

「事件の“中心”にしては、あまりにも象徴的すぎるな。」


奈々が椅子から勢いよく立ち上がる。

「じゃあ決まりだね。次はそこに行くしかない。」


玲はしばし沈黙した後、ホワイトボードに新たな一文を書き込んだ。


『湖畔の教会——次なる対峙の地』


その文字を見つめながら、玲は短く告げる。

「行こう。必ず答えがある。」


事務所の空気は一層引き締まり、全員の視線が一点に集まっていた。


時間:午後5時35分

場所:玲探偵事務所・作戦室


霧島が低く呟いた。

「湖畔の教会……まるで、誰かが舞台を用意して待っているみたいだな。」


その声には、警戒と不吉な直感が入り混じっていた。


奈々が眉をひそめる。

「罠ってこと?」


霧島は答えず、ただ窓の外の暮れゆく空を見つめ続けた。

沈黙が場を包む中、玲の眼差しだけが鋭くホワイトボードの文字を射抜いていた。


時間:午後5時37分

場所:玲探偵事務所・作戦室


その瞬間、事務所の扉がゆっくりと開いた。

低く響く声とともに、長身の男が静かに歩み寄る。


「遅くなったな……」


彼の名は藤堂聡——密室構造解析のスペシャリスト。

整った姿勢と冷静な眼差しは、ただそこにいるだけで空気を張り詰めさせた。


玲は顔を上げ、無言で頷く。

榊原が端末から目を離さず、淡々と状況を報告する。

「解析結果を持参してくれたのか……藤堂さん」


藤堂は軽く微笑み、資料ケースをテーブルに置いた。

「これで、密室の謎も少しは見えてくるはずだ。」


霧島も視線を送る。

「頼むぞ、藤堂。今回の事件は一筋縄じゃない。」


事務所の空気が、さらなる緊張感で引き締まった。


時間:午後5時40分

場所:玲探偵事務所・作戦室


藤堂聡は資料ケースを開き、設計図や模型写真を指でなぞりながら説明する。


✔ 藤堂 聡(密室構造解析)

▶ 「この事件の鍵は ‘殺害の方法’ じゃない。空間の使い方だ。密室は単なる演出なのか、それとも本当に閉ざされたものなのか?」


玲はその言葉を聞き、ペンを手にホワイトボードに線を引く。

榊原が端末を操作しつつ、冷静にデータを補足する。

霧島は腕を組み、藤堂の解析に耳を傾けた。


室内には、静かな決意と緊張感が混ざり合う空気が漂っていた。


時間:翌日・午前9時

場所:湖畔の廃教会・事件現場


薄曇りの空の下、玲たちは立入禁止テープ越しに現場を見つめる。


榊原が慎重に端末を取り出し、現場の寸法や構造をスキャン。

霧島は目を細め、壁や床の痕跡を一つひとつ確認していく。

奈々はモニターを操作し、過去の解析データと現場を照合する。


玲は静かに現場を見渡し、声を潜めてつぶやいた。

「……密室の演出か、巧妙な罠か。」


その言葉に、チーム全員が息をひそめ、最初の異常を探し始めた。


時間:翌日・午前10時30分

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


玲たちは現場の扉をそっと開け、静かに足を踏み入れる。

鉄の匂いが空気を支配し、床には微かに血の跡が光を反射していた。


榊原が懐中電灯を手に、床の痕跡や家具の配置を慎重に確認する。

霧島は壁際に沿って進み、被害者の位置と侵入経路の可能性を探る。

奈々は端末で監視カメラや過去の通報記録と照合し、異常点を洗い出す。


玲は静かに周囲を見渡し、ホワイトボードに描いた仮説と現場を重ね合わせる。

「この密室——ただ閉ざされているだけじゃない。何か、仕組まれている」

彼の声は低く、しかし確固たる決意を帯びていた。


時間:翌日・午前10時45分

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


水城 真司が慎重に床を踏みしめ、弾痕の位置を確認する。

「この弾痕……奇妙だな。狙いが ‘殺害’ ではなく、何かを ‘示す’ ためのものかもしれない。」

彼の言葉に、チーム全員が視線を集める。


榊原がタブレットを掲げ、弾丸の飛来角度と減速係数を解析する。

霧島は壁際に沿って進み、弾痕の方向と家具の配置を照合する。

奈々は端末上で監視映像と時間軸を同期させ、矛盾点を洗い出す。


玲は静かに模型を取り出し、部屋の構造を再現。

「弾丸の軌道は意図的に設定されている……ただの殺意ではなく、‘メッセージ’だ」

その言葉は、室内の緊張感をさらに引き締めた。


時間:翌日・午前11時10分

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


藤堂 聡が壁に軽く手を打ち、耳を澄ませる。

「この壁、内部に空洞がある……ただの石膏ではない。何かが隠されている可能性が高い」

彼の言葉に、水城や榊原が端末のデータを再確認する。


玲は模型の壁部分を指でなぞりながら考える。

「密室の演出……この空洞が鍵か。弾道や侵入経路の謎も、ここから説明がつく」


奈々が端末で壁内部のセンサー情報を解析し、霧島は床の振動パターンを確認。

静まり返った室内に、緊張した呼吸だけが響く。


時間:翌日・午前11時25分

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


立花 京介が遺留品の書類や小物を一つずつ慎重に確認し、眉をひそめる。

「これは……単なる生活品ではない。配置の仕方からして、誰かに意図を伝えようとしている形跡がある」


藤堂が壁の空洞を指差し、静かに補足する。

「水城の分析と照らし合わせると、この遺留品の位置は弾道の示す方向と一致する。つまり、密室の謎は犯人のメッセージでもある」


玲は模型と現場を交互に見比べ、ゆっくりと息を吐いた。

「なるほど……密室は演出で、真実はここに隠されていたのか」


奈々が端末を操作し、遺留品のメタデータや座標をリアルタイムで解析する。

静かな室内に、推理の熱が静かに満ちていった。


時間:翌日・午前11時35分

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


立花 京介はノートパソコンを前に座り、画面に表示された口座履歴を指でなぞる。

「被害者の口座、事件前に不審な送金がある。金の流れは嘘をつかない。この事件は単なる殺人ではなく、計画の一部だ」


藤堂 聡が壁の構造と照らし合わせて頷く。

「密室の演出、弾道の指し示す方向、そして金の動き。すべてが意図的に組まれている」


水城 真司が手元のデータを確認しながら、低く呟く。

「銃撃の角度と遺留品の位置、そして金の流れ……これがすべて繋がるなら、犯人の真の目的が浮かび上がる」


玲は模型と資料を慎重に見比べ、端末の解析結果に目を走らせる。

「なるほど……密室の謎も、資金の流れも、犯人の意図を明かす手掛かりだったか」


奈々が端末で情報を整理しながら、冷静に言う。

「このまま解析を進めれば、犯人の計画全体像に迫れるわね」


事務所から運び込んだ解析ブースの静寂の中、チームはひとつの答えに向けて確実に歩を進めていた。


時間:翌日・午前11時45分

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


部屋の隅で、高嶺 結衣が携帯型レコーダーを操作し、証言記録を再生する。

スピーカーから流れる証人の声は、ところどころ不自然に途切れ、肝心な箇所が抜け落ちている。


結衣は微かに眉をひそめ、冷静な声で言った。


高嶺 結衣(心理戦・証言分析)

「証人は ‘見たはず’ なのに、重要な部分を ‘思い出せない’。 ……記憶が操作されている可能性が高いわ。」


水城 真司が手を止め、結衣の方に視線を向ける。

「記憶操作……つまり、犯人は証人の精神面まで計算に入れている可能性があるってことか」


藤堂 聡が壁を叩きながら小さく息をつく。

「物理的な密室だけじゃなく、 ‘証言’ という証拠の密室も作られている……厄介だな」


玲はホワイトボードに目をやり、静かにペンを走らせる。

「証言の齟齬と記憶の欠落。これも ‘計画’ の一部と考えるべきでしょうね」


奈々が端末にメモを打ち込みながら、冷静に呟いた。

「物理的証拠、資金の流れ、そして証言の改ざん……犯人は三重の防御を築いているわ」


部屋の空気は、次第に張り詰めたものへと変わっていった。


時間:翌日・正午

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


霧島は部屋の隅から隅まで視線を巡らせ、床や壁の痕跡、家具の配置まで丹念に確認する。

微かに息を吐き、低く呟いた。


「……物理的な異常はない。しかし、この空間の配置、そして証言の欠落……全てが計算されているな」


玲が静かに頷き、ホワイトボードに新たな線を引く。

「物理と心理の両方が巧妙に絡み合っている。ここが犯人のトラップの核心ですね」


奈々が端末を操作しながら報告する。

「証言の欠落箇所と、現場の矛盾点を突き合わせると、犯人の意図が見えてきます」


霧島はさらに視線を深く巡らせ、部屋の奥に潜む手がかりを探す。

静寂の中、張り詰めた緊張感が空間を支配していた。


時間:翌日・正午

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


玲はホワイトボードの前に立ち、ペンを握りしめたまま鋭い視線で全員を見渡す。

「これからの手順は明確です。証拠と証言を総合して、犯人の狙いを論理的に割り出す」


榊原が端末を操作しながら、解析結果を提示する。

奈々は慎重にデータを確認し、霧島は部屋の隅で状況を把握する。


玲の視線が一つ一つの表情を追い、静かな緊張感が室内を包む。

「この空間の矛盾と記憶の欠落……全てが繋がった時、答えは自ずと見えてくる」


ホワイトボードにはすでに、現場の図と証言のタイムライン、矛盾箇所が整理されていた。


時間:翌日・正午

場所:市内某所・薄暗いアパートの一室


こうして、玲を中心に集まったスペシャリストたちは、現場と向き合い、資料と証言、痕跡を丹念に照合した。

榊原は端末で暗号解析を続け、奈々は監視データを精査し、霧島は現場全体の構造を冷静に観察する。


ホワイトボードには、証拠の写真、タイムライン、そして浮かび上がった矛盾点が整然と並ぶ。

玲はペンを握り、全員に短く告げた。

「この矛盾の解釈が、次の行動の鍵になる。慎重に進めよう」


薄暗い室内に張り詰めた緊張感の中、チームの歩みは静かに、しかし確実に、事件の核心へと迫っていった——。


時間:翌日・午後2時

場所:玲探偵事務所・会議室


玲がホワイトボードに貼り出したのは、これまでの被害者たちのリストだった。

氏名、年齢、職業、事件発生日時——簡潔にまとめられた情報の下には、それぞれの現場写真と目撃証言の抜粋が付されている。


玲は静かに視線を巡らせ、ホワイトボードの前に立つスペシャリストたちを見渡した。

「ここから見えるのは、単なる偶然ではない、連鎖のパターンだ」


榊原が端末で過去の金融データを重ね合わせ、奈々は監視映像のタイムスタンプを照合する。

霧島は壁や窓の痕跡に目を走らせ、細部の矛盾を探る。


緊張感の漂う会議室で、玲の指示を受け、チームは静かに、しかし着実に、事件の全体像を浮かび上がらせていった——。


時間:翌日・午後2時30分

場所:玲探偵事務所・会議室


藤堂が眉をひそめ、ホワイトボードに近づいた。

「被害者のリストを見ただけでは見えないが……空間の使い方に妙な共通点があるな」


彼は指で事件現場の図面をなぞりながら続ける。

「扉や窓の位置、家具の配置、天井の高さ——この密室の演出には、明らかに意図がある。単純な閉鎖では説明できない。」


玲は頷き、ホワイトボードの中央に大きく線を引いた。

「つまり、犯人は現場そのものをメッセージとして使っている……」


榊原や奈々も端末を操作しながら、その視線を藤堂に合わせる。

静かな会議室に、事件解明への新たな手がかりがひそやかに浮かび上がった。


時間:翌日・午後2時45分

場所:玲探偵事務所・会議室


玲はペンを指先で転がしながら、無言のまま分析を続けた。

彼の視線はホワイトボードに貼られた被害者リストと現場図面を往復し、脳内で瞬時に情報を組み合わせている。


「犯行現場ごとの共通点……扉の位置、弾痕の角度、家具の配置……これらは偶然じゃない」

榊原が端末を操作しながら低く呟く。


藤堂は静かに頷き、指先で壁の図面をなぞる。

「密室の演出だけでなく、現場そのものが犯人からの暗号になっている……。」


奈々も端末を睨み、情報の相関関係を整理していく。

室内の静寂は、緊張と集中の空気で一層張り詰めていた。


時間:翌日・午後3時10分

場所:玲探偵事務所・会議室


水城がモニターの前に立ち、第二の事件現場の映像を再生する。

画面には薄暗いアパートの一室が映し出され、床に散らばる紙片や家具の位置が鮮明に見える。


「この弾痕……第一現場と同じく、ただの殺害目的じゃない。」

水城は眉をひそめ、銃撃軌道を示すラインをモニター上でなぞる。

「誰かに ‘何かを伝える’ 意図があるように見える。」


藤堂が壁の構造図を確認しながら頷く。

「密室の演出と現場の配置……これが一つのメッセージとして機能しているのかもしれない。」


玲はペンを握ったまま無言で分析を続け、チームの視線は全員、画面とホワイトボードに釘付けになった。

室内に漂うのは、冷静ながらも鋭い推理の緊張感だった。


時間:翌日・午後3時20分

場所:玲探偵事務所・会議室


玲は水城の言葉に頷き、ホワイトボードに新たな線を引いた。

線は、第一現場と第二現場の共通点を結ぶ形で引かれ、弾道や遺留品、不可解な痕跡を繋いでいく。


「この線が示すのは、単なる偶然じゃない……連続する意図だ。」

玲は低くつぶやき、視線を一つひとつのデータに走らせる。

霧島と藤堂も無言で見守りながら、それぞれの専門視点で情報を頭に組み込んでいく。


部屋の空気はさらに引き締まり、解析と推理の集中が全員を包み込んでいた。


時間:翌日・午後3時45分

場所:玲探偵事務所・会議室


立花はモニターの前で静かに数式と暗号を解析していた。

指先がキーボードを滑り、画面上の数字や記号が次々と意味を帯びていく。


「被害者の資金移動に隠されたパターン……これを解けば、犯人の意図が浮かび上がるはずだ」

立花はつぶやき、解析結果をホワイトボード上のラインや注釈と照合する。


霧島が背後から覗き込み、藤堂も構造解析データと重ね合わせながら、全体像を頭の中で組み立てる。

玲はその様子を見つめ、次の指示を考えながら、静かに息を整えた。


時間:翌日・午後3時50分

場所:玲探偵事務所・会議室


立花の呟きに、玲の目が細く鋭く光った。

まるで数字や記号の羅列の奥に潜む真実を、一瞬で見抜いたかのように。


「……なるほど、犯人は資金の流れだけでなく、現場の配置まで意図的に操作している」

玲は低く、だが確信に満ちた声で言った。

その言葉に、部屋の空気が一瞬引き締まる。


奈々が端末を操作しながら視線を玲に向け、霧島や藤堂も静かに頷く。

全員が、次に取るべき行動を頭の中で整理し始めた。


時間:翌日・午後4時10分

場所:玲探偵事務所・会議室


高嶺は無言のまま、証言データを再生し続けた。

スクリーンには現場の再現映像がスローで映し出され、微細な動きや人物の挙動が克明に確認できる。


「……やはり、記憶の改変が絡んでいるな」

低く呟く声が、部屋の静寂に溶ける。


玲はペンを握りしめ、ホワイトボードの線を見つめる。

「証言と物理証拠の齟齬を突けば、犯人の思惑を暴ける」

その言葉に、奈々や霧島も頷き、解析の精度を高めるための準備に取りかかる。


時間:翌日・午後4時40分

場所:玲探偵事務所・会議室


玲はホワイトボードの前で最後の線を書き込み、ペンを静かに置いた。

そこには、各現場の痕跡、送金記録、弾道解析、証言データ、そして記憶操作の疑念まで、全ての情報が整理され、複雑に絡み合った真相の輪郭が浮かび上がっていた。


「……これで全てだ」

玲の低い声が、静かな室内に響く。

チームメンバーは息を呑み、ホワイトボードに描かれた膨大な情報の中から、次の一手を思案していた。


霧島は腕を組み、ホワイトボードを見つめながら低く唸った。

「……なるほど、ここまで精緻に組み立てられていたとは……」


その声には驚きと共に、解き明かしたことへの静かな畏怖が混じっていた。

玲は霧島の表情をちらりと見やり、静かに頷く。


奈々は端末を操作し、スクリーンに事件のタイムラインを映し出した。

「ここから犯行が始まって、各地点で何が起きたのか、時系列で整理したわ」


玲はスクリーンを見つめ、指でいくつかのポイントをなぞりながら、分析を続ける。


時間:翌日・午後4時55分

場所:玲探偵事務所・会議室


玲はスクリーンのタイムラインをじっと見つめ、目を細める。

「この時系列……偶然ではない。警告としての意図も、同時に暴露の痕跡も見える」


霧島が眉を寄せ、低く唸る。

奈々は端末を操作しながら、玲の指摘を補足する。

「つまり、犯人は私たちに意図を伝えつつ、自分の存在も明らかにしている、と……」


時間:翌日・午後5時02分

場所:玲探偵事務所・会議室


その瞬間、霧島の端末が微かに振動した。

画面には淡く光る文字が浮かぶ。


『次は “正午”、そして “白の空間”』


玲は瞬時に眉をひそめ、静かに口を開いた。

「……正午、白の空間か。標的はそこに現れる可能性が高い」


奈々が端末を凝視し、声を落として言う。

「わかった……先手を打たないと」


霧島は端末を握り直し、低く唸るように呟いた。

「またしても、犯人は我々を誘導している……」


時間:翌日・午後5時05分

場所:玲探偵事務所・会議室


霧島の端末に表示された警告を見た藤堂が、即座に立ち上がる。

「白の空間……建築的に考えれば、自然光や白壁で囲まれた空間、あるいはホワイトルームの可能性が高い。狙われる場所の候補は絞れそうだ」


玲はペンを持ったまま頷き、短く指示を出す。

「奈々、周辺の監視データをすぐに照合。霧島、警戒を最大にして現場に先回りしろ」


藤堂は深く息を吐き、冷静な声で続ける。

「犯人はおそらく、空間の特性を利用して我々の行動を制御しようとしている……細心の注意が必要だ」


室内には、緊張感と静かな決意が張り詰める。


時間:翌日・午後5時12分

場所:玲探偵事務所・会議室


水城がモニターから目を離し、立ち上がる。

「この白の空間、ただの部屋じゃない。光の反射や壁の配置が、弾道や視線の解析に直接影響する。密室の演出にも利用できる設計だ」


藤堂が頷き、さらに補足する。

「構造的な情報を正確に把握しなければ、こちらの動きも制限される。犯人は空間そのものをトリックとして利用している可能性がある」


玲はペンを握りしめ、ホワイトボードに白い空間の概略図を描きながら指示を出す。

「篠宮、霧島、監視と先回りを徹底。奈々、水城とともに光と反射のデータを再確認しろ」


事務所内には、緊張感と慎重な戦略の空気が充満する。


時間:翌日・午後5時45分

場所:湖畔・廃工場 第4現場


玲は全員を見渡し、小さく頷いた。

「ここが、第4の現場だ。周囲を確認して、安全を確保しつつ侵入する」


霧島が慎重に足元を確かめながら言う。

「不自然な痕跡が複数ある。無闇に動くと証拠を壊しかねない」


篠宮が端末を操作し、建物の内部構造をスクリーンに映す。

「光の反射や通路の角度も解析済み。玲、指示を」


奈々がタブレットを覗き込みながら、低く報告する。

「不審な電波反応あり。犯人の遠隔制御がまだ残っている可能性が高い」


玲は静かに頷き、ペンを握ったままホワイトボード代わりの端末を前に戦略を描き出す。

「慎重に。だが、迷ってはいけない。全員、動きを連携させろ」


湖畔の冷たい風が吹き抜け、チームの緊張をさらに引き締めた。


時間:2025年10月4日・正午

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


――現場、通称“白の空間”。


壁も天井も床も、無機質な白で統一され、光を反射して目が眩むほどだった。玲は深く息を吸い込み、周囲を見渡す。


霧島が静かに呟く。

「全てが真っ白……異常な統一感だ。証拠の痕跡も残しにくい」


篠宮が端末を操作し、内部の構造図を確認する。

「光の反射を解析した。狙撃や監視カメラの死角はこの通り」


奈々がタブレットを覗き込み、警告を出す。

「遠隔制御の痕跡あり。犯人が内部に仕掛けた可能性が高い」


玲は静かにホワイトボード代わりの端末を開き、ペンを走らせた。

「ここが鍵だ。全員、注意を怠るな」


湖畔の冷たい風が窓の隙間から差し込み、チームの緊張感をさらに引き締めた。


時間:2025年10月4日・正午

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


藤堂は壁際まで歩み寄り、指先で軽く叩く。

「音の反響からして、この壁の内部に空洞がある。単なる装飾ではないな」


玲が端末で壁の振動データを確認しながら答える。

「なるほど……ここが犯人の隠し通路か、もしくは仕掛けの核心かもしれない」


霧島が腕を組み、冷静に状況を観察する。

「慎重に動かないと、罠がある可能性も高い」


篠宮が端末で光学センサーを起動させ、白い空間をスキャンする。

「反射率から見ても、表面だけで隠すことは難しい。内部構造が鍵だ」


玲は短く頷き、チームに声をかける。

「全員、分担して解析を進めろ。少しの見落としも許されない」


湖畔の冷たい風が吹き込み、白い空間の異様な静けさが、さらに緊迫感を高めていた。


時間:2025年10月4日・正午10分後

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


水城は床に跪き、ルミノール反応を確認する。

「ここか……血痕は既に拭われているが、反応は微かに残っている」


藤堂が壁際から視線を落とし、静かに言う。

「なるほど、表面には見えない痕跡か。隠された動線を示している可能性が高い」


玲は端末を手に取り、反応点の座標をマッピングする。

「この位置関係から推測すると、犯人は確実に通った。密室の構造を逆算できる」


霧島が低く唸る。

「この空間……ただの密室ではなく、完全なコントロール下にあるな」


篠宮は光学センサーとルミノール反応を照合し、慎重に報告する。

「床面と壁面の隙間、そしてこの血痕の軌跡……犯人が通ったルートはほぼ特定できそうです」


玲は全員を見渡し、短く指示する。

「各自、証拠の記録を取りつつ、次の侵入経路を想定しろ。油断は禁物だ」


湖畔の冷たい光が差し込む「白の空間」に、緊張の静寂が漂った。


時間:2025年10月4日・正午15分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


高嶺は静かに耳を澄ませ、周囲の音の違和感を探った。

「微妙な空調音の変化……床のきしみのリズムも不自然だ」


藤堂が横で頷きながら指摘する。

「構造上、この音の偏りは誰かが意図的に通路を設計した痕跡だ。足音や空気の流れで動線を操作している」


水城はルミノール反応と床面の異常を照合する。

「音と痕跡を組み合わせれば、犯人の侵入経路はほぼ推定できる」


玲はホワイトボードに図を追加しながら、低く言った。

「全員、微細な違和感も見逃すな。次の行動はここから導き出す」


篠宮は光学センサーを操作し、床と壁の振動データを記録する。

「異常のパターンは確定。侵入の痕跡はここからここまで……」


「白の空間」に張り詰めた緊張。玲たちの視線と耳は、微かな異常を逃さない。


時間:2025年10月4日・正午20分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


玲は部屋の中心に立ち、静かに周囲を一周するように歩いた。

目線は床や壁、天井のわずかな凹凸や光の反射にまで及ぶ。


「構造上の不自然な線や影を確認……この空間には、意図的に人の動線を制御する設計がある」


藤堂が傍らで計測器を手に、玲の動きを追いながら小声で言う。

「その通りです。中心点からの距離と角度を測れば、侵入経路や配置の意図が見えてくる」


水城は床の痕跡に目を凝らし、ルミノール反応と照合する。

「この軌跡、射撃軌道とも一致……犯人は空間を完全に把握している」


玲は再び中心に立ち止まり、息を整えた。

「全員、動線と痕跡の整合性を最終確認する。ここから先は、慎重に進む」


空間に張り詰めた緊張感が、全員の神経を一層研ぎ澄ませる。


時間:2025年10月4日・正午25分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


藤堂は膝をつき、慎重に工具を取り出す。

その手つきは熟練そのもので、床板の隙間に差し込み、微かな抵抗を感じながら少しずつ持ち上げた。


玲は目を細め、動線や痕跡と照らし合わせながら監視する。

「慎重に。下には何があるか分からない。予測不能な罠の可能性も考慮する」


水城が床のルミノール反応を再確認し、床下の空間を示す。

「ここに射撃や移動の痕跡が集中している……隠された通路か、犯人の足跡の可能性」


霧島は静かに周囲を警戒し、影から不意の侵入者を監視する。

「動くなら今だ、慎重に行け」


床板がわずかに浮き、下から冷たい空気が漏れる。

玲は息を整え、次の一手を静かに指示する。


時間:2025年10月4日・正午30分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


玲は机の上に置かれた小型の録音装置を手に取り、慎重に再生ボタンを押した。

静かなクリック音とともに、かすかな雑音の後、透子の声がゆっくりと響く。


「……もしこれを聞いているなら、あなたたちは正しい道を歩いているはず……でも、時間はあまり残されていない……」


奈々が端末の画面を覗き込み、声のメタデータと波形を解析する。

「座標が入ってる……次の現場はここ。間違いない」


藤堂が床下の隙間に目を向け、声の方向と空間構造を照合する。

「音響的には、この録音は密閉された空間の奥から拾われている……通路の奥に何かがある」


玲は深く息を吸い、全員に静かに告げる。

「皆、準備はいいか。次に進む」


その声に、事務所の空気のように張り詰めた緊張が、湖畔の廃工場にも流れ込む。


時間:2025年10月4日・正午32分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


玲が再生ボタンを押すと、短い電子音の後に透子の声が届く。


「……急いで……」


その一言だけで、室内には重い沈黙が漂った。

奈々が端末を睨み、波形を拡大する。

「……音声には残響が残ってる。この部屋の奥からだ」


藤堂が壁際で耳を澄ませ、微細な振動を確認する。

「床下、もしくは隠し通路の可能性が高い」


玲はゆっくり息を吐き、全員に短く告げた。

「動くぞ。慎重に」


沈黙の中、湖畔の廃工場は次の瞬間、緊迫の舞台へと変わろうとしていた。


時間:2025年10月4日・正午35分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


水城が床に跪き、ルミノール反応を確認しながら低く呟いた。

「……この痕跡、協会の儀式用施設と一致する……」


霧島が眉をひそめ、周囲を見渡す。

「まさか、こんな場所に……」


玲は微かに目を細め、ホワイトボードの過去データと照合する。

「これで事件の意図がさらに浮かび上がる。犯人は単なる殺意では動いていない」


奈々が端末を操作し、反応座標を追跡する。

「残響の位置も、この施設内に集中してる……間違いない」


湖畔の廃工場に、さらなる謎と緊迫が静かに広がっていった。


時間:2025年10月4日・正午45分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


玲は静かに頷き、ホワイトボードに新たな線を引いた。

「座標と痕跡、すべてを繋げれば……次の動きが見えてくる」


藤堂が壁際から小さく息を漏らす。

「なるほど……空間の使い方が犯人の意図を示しているのか」


水城は床に残る微細な痕跡を指差しながら確認する。

「銃撃軌道も、単なる攻撃ではなく、配置のサインだ」


奈々が端末をスクロールし、時間軸を表示する。

「このタイムスタンプの連続性……犯人の動きを完全に把握できる」


玲は線を引き終えると、全員に視線を向けた。

「これで、密室の謎と犯人の計画を一気に解き明かせる」


室内には、冷静な緊張感だけが静かに漂っていた。


時間:2025年10月4日・正午50分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


玲は深く息をつき、ホワイトボードから視線を外した。

藤堂、水城、奈々――各々の専門知識が結集し、不可解だった「白の空間」の構造と意味が少しずつ姿を現している。


霧島が静かに端末をしまい、低く呟く。

「……やはり、次の一手は我々に委ねられているようだな」


玲はゆっくりと頷き、目の奥に決意を宿した。

「この事件の真相、そして透子を取り戻す。手を抜くことは許されない」


こうして玲たちは、さらなる真実へと歩を進めた。

湖面に反射する光が、微かに彼らの影を揺らす。


静寂の中で、次の戦いの気配だけが、静かに広がっていった。


時間:2025年10月4日・午後1時05分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


伏見陽介は壁に描かれた微細な図形を食い入るように見つめる。

その線の角度、交差点の微妙な位置……凡人には意味のない乱雑な落書きに見えるかもしれないが、彼の目には意図が浮かび上がる。


「……これは単なる装飾じゃないな。犯人の意図が隠されている」

低く呟き、指先で図形の一部をなぞる。


玲が横で静かに観察する。

「その線と弾道解析の結果を照合すれば、犯行時の動線が見えるかもしれない」


伏見は頷き、さらに図形をスキャンするように目を走らせた。

湖畔の静寂に、微かな緊張が張り詰める。


時間:2025年10月4日・午後1時12分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


玲はホワイトボードに素早く図を描き始めた。

壁に残された微細な図形、弾道の軌道、被害者の配置……それらを結びつける線が、彼の手元で次第に全体像を浮かび上がらせる。


「ここだ。犯人の動線と、痕跡の残し方は完全に計算されている」

玲の声は冷静だが、そこには鋭い緊張感が宿る。


チーム全員の視線がホワイトボードに注がれる。

榊原は端末のデータと照合し、奈々はタイムラインをスクリーンに映す。

霧島は眉を寄せ、藤堂は図形の角度を再確認する。


玲は一息つき、最後の線を引く。

「これで全体のパターンが見えた。次の行動を決めよう」


湖畔の廃工場に、静かな決意が満ちた。


時間:2025年10月4日・午後1時25分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


九条は資料を丁寧にめくり、画面に映るログや通話記録を指でなぞりながら静かに言葉を重ねた。


「……この通信のタイムスタンプと、現場に残された痕跡が完全に一致している。犯人は遠隔操作で時間差を計算して行動している」


玲はホワイトボードから目を離さず、九条の指摘を受け止める。

霧島は眉をひそめ、藤堂は壁の図形を再確認し、チーム全員の意識が一つに集まる瞬間だった。


「なるほど……犯人の行動パターンは予測可能だ。次は、このタイミングを逆手に取る」

玲の声は低く、しかし確かな決意が宿っていた。


時間:2025年10月4日・午後1時42分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


氷室楓はホワイトボードの端に立ち、新たな線を慎重に引いた。

その線は、これまでの現場データと通話記録、弾道解析の結果を結ぶものだった。


「ここをこう繋げれば、犯人の潜伏経路が見えてくるはずです」

楓の声は落ち着いており、しかし線を引く手には確かな緊張が感じられた。


玲は彼女の動作をじっと見つめ、短く頷く。

霧島も背後で資料を確認しながら、次の行動の予測を重ねる。


空気は静まり返り、チーム全員の思考が一つの解に向かって収束していった。


時間:2025年10月4日・午後1時45分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


玲は白い部屋の中央に立ち、鋭い目で周囲を見渡す。

床、壁、天井、そしてわずかに残る痕跡の一つひとつを、理路整然と頭の中で整理していく。


「手掛かりは必ずある……」

彼の低い呟きが、部屋の静寂に溶け込む。


氷室楓は横でホワイトボードの線を整え、次の分析の準備を進める。

霧島も机の資料に目を落とし、周囲の異常に気を配る。


この瞬間、チーム全員の思考が、一点の真実に向かって集中していた。


時間:2025年10月4日・午後1時47分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


奈々が端末を睨み、唇を噛む。

画面には膨大なデータと、不可解な座標や暗号が次々と表示されていた。


「……やっぱり、何か隠されてる……」

彼女の小さな声が、静まり返った部屋の中でかすかに響く。


玲はその横顔をちらりと見やり、軽く眉をひそめる。

「焦るな、奈々。まず整理だ。」


奈々は深呼吸し、指先で端末の操作を再開する。

湖畔の光が差し込む白い部屋に、緊張と集中が張り詰めていた。


時間:2025年10月4日・午後1時50分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


水城が拳を握りしめ、険しい表情で低く呟いた。


「……協会の手が、ここまで伸びていたとはな……」


玲は無言で頷き、端末とホワイトボードのデータを交互に確認する。

奈々も息を整え、再びスクリーンに目を戻す。

緊迫した空気の中、湖畔の光だけが白い部屋を淡く照らしていた。


時間:2025年10月4日・午後1時55分

場所:湖畔・廃工場 内部「白の空間」


玲はホワイトボードに力強くペンを走らせ、次々と矢印と文字を書き込んだ。


「ここが全ての分岐点だ……」


端末の解析結果、現場の痕跡、過去の事件との関連性——

すべてを一つに繋ぎ、玲は事件の構造を可視化していく。

奈々や水城、藤堂も視線を注ぎ、次の行動を待つ静かな緊張が室内に張り詰めていた。


時間:2025年10月4日・午後2時03分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」隣接の制御室


その瞬間、橘透のイヤーピースが微かに震え、低く鋭い警告音が響いた。

「……次の部屋です」


玲は眉をひそめ、全員の視線を集める。

「準備はいいか。油断はできない」


霧島と藤堂は慎重に入口を確認し、水城は床の異常を点検する。

奈々は端末を手に、解析データをスクロールしながら警戒を緩めない。


静寂の中、チームは次の部屋へと一歩を踏み出した——。


時間:2025年10月4日・午後2時05分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」隣接の制御室


藤堂が壁の一角に耳を当て、慎重に叩く。

「……ここか。内部構造に異常がある」


玲は低く息を吐き、部屋の奥を見つめる。そこには、鉄の処女(ヴァージニアの箱)がひっそりと置かれ、底部から赤黒い液体が滲み出していた。


水城が膝をつき、床の血痕を分析する。

「血の流れが……自然なものじゃない。誰かを閉じ込めた痕跡だ」


奈々は端末を操作しながら報告する。

「センサー反応と過去のログを照合すると、この部屋は完全に遠隔監視されている」


霧島は部屋の四隅を見渡し、静かに呟く。

「……警戒レベル最大だな。下手に近づけば誘導される」


玲はホワイトボードに新たな線を引き、チームに短く告げる。

「慎重に。目的は救出だ。攻撃は最小限に留める」


緊張が張り詰める中、チームは次の一手を検討する——。


時間:2025年10月4日・午後2時08分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」隣接・制御室内


玲は一度、皆の顔をゆっくりと見渡した。

服の襟元に付けた小さなマイクが微かに重く脈打つ。外から差し込む昼光は、白い壁面に冷たく反射していた。深く息を吸い込む――その胸の動きが、静寂を切り裂く合図のように感じられる。


「行くぞ。準備はいいか?」

玲の声は低く、しかし確固たる決意に満ちていた。全員が短く頷く。藤堂は工具箱を堅く握り、霧島は銃口を伏せて脇に抱え、奈々は端末の画面を最後に確認した。


藤堂が膝をつき、工具を慎重に鉄の蓋の縁に差し込む。金属と金属が擦れる小さな音が、白い部屋に鮮烈に響いた。ルミノールの反応で示された血痕の位置と、床下へ伸びる微かな振動パターンを照合しながら、彼は少しずつ力をかける。


「気をつけろ。封が外れた瞬間に何が起きるか分からない。」藤堂の囁きに、霧島が返す。

「遮蔽と反射は把握した。音響トラップはないはずだが……万が一に備える。」


工具が音を立てる。ねじ止めされた留め具が一つ、また一つと外れていき、隙間から冷たい空気と、金属独特の臭み、それからかすかな人の匂いが溢れ出した。奈々が端末の録音レベルを上げる。榊原はその匂いを嗅ぎ取り、僅かに顔をしかめる。


蓋が完全に外れる直前、藤堂は両手で蓋を押さえ、皆に視線を配る。

「一気に開ける。怯まずに、慌てずに。」

玲は応じ、わずかにうなずいた。


蓋が持ち上がり、内部が露わになる――中は予想よりも狭く、暗く、そして湿っていた。底部の奥からはまだ赤黒い液体がゆっくりと滲んでいる。だが、最初に目が吸い寄せられたのは、人ではなかった。狭い箱の中に、何枚かの紙片と小さな金属片、そして布切れに包まれた小箱が整然と並んでいた。布は血で濡れ、鮮やかな赤が白い背景に対して不気味に映える。


「人は――いないのか?」霧島の声が震える。誰も即答しない。奈々が双眼鏡を取り、紙片の文字を読み上げる。波状文字、幾何学模様の断片、そして、かすれた手書きの短文――


「見たものを語るな。次はもっと白くなる。」


榊原が小さく吐き捨てるように言った。

「これは、挑発だ。誰かの囮か、あるいは……告発のために残された“証拠”だろう。」


玲はゆっくりと箱の縁に手を置き、冷たい指先で布をめくる。中から見覚えのある金属製のキーホルダーが出てきた。その刻印は、かつて透子が身に着けていたものと、微かに似ていた。胸の奥がぎゅりと引き締まる。


「すぐに記録しろ。写真、座標、指紋、すべてだ。持ち帰って解析する。」玲の声に、誰も反論しない。全員が慌ただしく動き出す――だが、その動きの先には、救出でも完結でもない、さらなる謎と、挑戦が待ち受けていることを、皆が無言のうちに悟っていた。


時間:2025年10月4日・午後2時15分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女内部


鉄の処女の蓋が完全に持ち上がり、内部の陰影が視界に広がる。

玲はゆっくりと息を整え、全員の視線を順に確認した。霧島は銃口をわずかに下げながらも、身構えは解かない。奈々は端末を操作しつつ、微かに眉をひそめている。藤堂は工具を手に、隙間から慎重に内部を覗き込む。


玲が一歩踏み出す。


「皆、気を引き締めろ……目の前に、新たな扉が開かれた。」


その言葉と同時に、鉄の処女の底部奥に設けられた小さな開口部が明らかになる。薄暗い光がその奥を微かに照らし、まるで誰かが内部から導くかのように誘っていた。


榊原が手を差し伸べ、扉の縁を触れると、冷たい金属が指先にずっしりと重く感じられる。


「この奥には……何があるんだ?」霧島が低く呟く。


玲はゆっくりと首を振り、皆の表情を確認する。

「まだ分からない。しかし確かなのは――ここが事件の核心に迫る“入口”であることだ。」


奈々が端末を操作しながら小さく息を吐く。

「……さあ、行くぞ、玲。」


全員がわずかに身を引き締め、慎重に奥へと歩を進める。鉄の処女の奥に続く暗い通路、その先には誰も予想できない真実が待ち受けている――。


玲が静かに新たな扉に手をかけた瞬間、空気は一変した。


時間:2025年10月4日・午後2時17分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女奥の部屋


扉を押し開けた瞬間、玲たちは息を呑んだ。

そこに広がっていたのは、ただの部屋ではなく――整然と並ぶモニター群と制御機器、そして壁一面に描かれた奇怪な幾何学模様の“作戦指令室”だった。


藤堂が壁際まで歩み寄り、慎重に観察する。

「……これは単なる殺人現場ではない。誰かがここで、全てを管理していた証拠だ。」


水城が床の線を指差す。

「弾痕も、隠された通路も……すべて、この部屋から遠隔操作されていた可能性がある。」


霧島が重い声で呟く。

「……なるほど。密室は演出に過ぎなかったのか。」


玲は静かに中央に立ち、鋭い目で全体を見渡す。

「皆、集中する。ここで手に入る情報が、事件解明の最終ピースになる。」


奈々は端末を操作しながら、画面に映る数値と座標を追いかける。

「……玲、この部屋、完全に監視と制御用に設計されてる。」


玲は深く息を吸い、ゆっくりと頷いた。

「よし……ここから全ての答えを引き出す。」


その瞬間、部屋の奥で微かに電子音が響き渡り、全員の緊張感が一気に高まった。


時間:2025年10月4日・午後2時25分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女奥の秘密室


玲たちが踏み入ったその部屋は、ただの制御室では終わらなかった。壁一面には黒く塗られた幾何学模様が広がり、中央の祭壇のような場所には、かつて未解決に終わった事件「漆黒の儀式」を思わせる痕跡が残されていた。


藤堂が慎重に床を叩き、微細な反響を確認する。

「……この部屋、ただの密室ではない。意図的に空間全体が封じ込められている。」


水城が低く呟く。

「弾痕、血痕……そしてこの黒塗りの図形。これは……黒魔法の儀式の痕跡だ。」


高嶺が耳を澄ませ、かすかな空気の震えを感知する。

「この空間……音や振動さえも計算されて配置されている。誰かが精神的に追い詰めるために設計した可能性があるわ。」


霧島が腕を組みながら、静かに視線を巡らせる。

「つまり、この場所自体が一つの『武器』として使われた……。」


玲はホワイトボードを思い浮かべながら、ゆっくりと声を発する。

「皆、気を抜くな。ここで起きたことは偶然ではない。この『漆黒の儀式』の痕跡が、今回の事件の全ての鍵だ。」


奈々が端末のスクリーンに指を滑らせ、座標と過去の事件データを重ねる。

「……玲、このパターン、過去の失踪事件とも完全に一致してる。」


玲は深く息を吸い、鋭い目で部屋全体を見渡す。

「よし……ここから全てを解き明かす。」


部屋に微かに漂う冷気と、黒い模様の威圧感が、チーム全員の背筋を凍らせた。


時間:2025年10月4日・午後2時33分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女奥の秘密室


橘 透は部屋の奥に立ち、イヤーピースに指先を当てた。微かな風切り音のようなノイズが彼の耳に届く。


「……この部屋、音が死んでいるのに、周波数だけが動いてる。」


彼は端末を起動し、スペクトラム・アナライザーにデータを流し込む。画面には通常ではあり得ない極細の波形が描かれ、一定の周期で強弱を繰り返していた。


「玲、聞こえますか? ここ……何かが“発信”してる。周波数は極端に細い帯域、0.8Hz刻みで変調している……。」


玲が素早く透を振り返る。

「発信源はどこ?」


透は周囲の壁を見渡し、ゆっくりと指先を床に向けた。

「下層構造だ。床下か、祭壇の直下……ここに隠されている。」


藤堂がその言葉に即座に反応し、工具を取り出して床の合わせ目を探る。

水城は祭壇周辺の血痕と弾痕を調べながら、顔をしかめて呟く。

「儀式の痕跡だけじゃなく、まだ“何か”が動いてるってことか……。」


奈々が端末に複数の波形を重ね、端末越しに小さく息を呑む。

「玲……これ、暗号化された信号かもしれない。しかも“誰か”が今も送ってる。」


玲は全員を見渡し、低い声で言った。

「……ここが“漆黒の儀式”の現場だとすれば、単なる過去の痕跡じゃない。まだ儀式が“生きている”可能性がある。」


部屋の空気が一瞬、重く沈んだ。透の指先に伝わる周波数の振動が、まるで心臓の鼓動のようにリズムを刻んでいた。


時間:2025年10月4日・午後2時37分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女奥の秘密室


玲は透の報告を聞き、眉をひそめる。


「……この感覚、どこかで……」


言葉を飲み込み、目を細めると、頭の奥に鮮明な映像が浮かぶ。

かつて未解決のまま、記録からも“消された”はずの事件——『無響室連続変死事件』だ。


霧島が横からそっと近づき、低い声で確認する。

「その事件……確か、室内の音波だけが消失していたやつですね。被害者は皆、室内で発声できなくなった後に死亡……」


透は端末のスペクトラムを見つめ、眉を寄せる。

「これ……まさか、同じ手法がここにも仕掛けられているのか……? 低周波で意識や身体反応を操作するタイプの装置……」


水城が床に手を置き、祭壇の構造を触りながら呟く。

「音波だけじゃない。振動も微細に変化している。被害者の死因も、単純な外傷じゃない可能性が高い。」


玲はゆっくりと息を吐き、ホワイトボードに新たな線を描き加える。

「つまり、ここで起きた“漆黒の儀式”と無響室事件には、同一の制御原理が隠されている……。過去の因縁が、また現実に牙を剥こうとしているんだ。」


部屋の奥底から、微かな振動が再び全員の体に伝わる。

そして、誰も声を発せない重苦しい沈黙が、秘密室を包み込んだ。


時間:2025年10月4日・午後2時42分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女奥の秘密室


伏見陽介は壁に刻まれた微細な記号を指先でなぞり、慎重に目を凝らす。

「……この配列……古典的な錬金術符号と現代暗号が混ざっている」


玲が近づき、眉をひそめて覗き込む。

「ただの飾りじゃない。意図的に配置されたメッセージだ……過去の事件と同じ手法だ」


橘透が微細な周波数計を手に、記号と音波の相関を解析する。

「記号ごとに共鳴周波数が異なる……まるで、空間自体が情報を伝えようとしているかのようだ」


霧島が静かに唸る。

「……過去の“無響室連続変死事件”の手口と完全に一致する。犯人は、我々の解析を試しているのかもしれない」


玲はホワイトボードに線を引きながら、鋭い目で全員を見渡す。

「記号、振動、音波――すべてが繋がる。この部屋の秘密を解き明かせば、犯人の狙いが浮かび上がるはずだ」


部屋に漂う緊張感と、壁に刻まれた暗号的な図形が、さらなる謎の入口を示していた。


時間:2025年10月4日・午後2時45分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女奥の秘密室


伏見陽介は壁に刻まれた複雑な模様を凝視し、息を呑んだ。

「……このパターン、間違いない……」


彼は指先で模様の一部をなぞりながら、低く呟く。

「数年前の“カタコンベの幾何学殺人”で見た記号と、酷似している……あの時と同じだ」


その言葉に、室内の空気がさらに張り詰める。

玲がゆっくりと歩み寄り、記号の全体像を視線で追いながら短く答えた。

「犯人は“あの事件”を知っている……いや、あの事件そのものを再現しようとしているのかもしれない」


橘透が周波数計を見つめ、読み取った数値を即座にメモに書き込む。

「符号化された音波データまで一致してる……偶然じゃない」


霧島が腕を組み、鋭い眼差しを壁に向ける。

「カタコンベ事件は未解決のままだった……もし同一犯、もしくは模倣犯なら、次の動きはさらに危険だ」


玲は無言のまま、ホワイトボードに新たな線を引いた。

模様と記号は、過去の闇から伸びてきた“手”のように、現在の事件を締め上げていた。


時間:2025年10月4日・午後2時55分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女奥の秘密室


九条誠は机の上に広げられた資料を静かに確認しながら、過去の事件記録と照合した。

「……この符号、事件発生日も手口も一致している。模倣どころか、意図的な再現だ」


伏見陽介が視線を九条に向ける。

「つまり、犯人は過去の事件の詳細を知ったうえで、この現場を設計した可能性が高い、と?」


九条は頷き、眉間にわずかな皺を寄せる。

「ええ。この手の連鎖的犯行は、ただの偶然では説明できない。犯人は過去の被害者や現場の情報を意図的に利用している」


玲がホワイトボードの線を指でなぞりながら、静かに言葉を継いだ。

「過去と現在、二つの事件が重なる場所——それが次のターゲットになる。つまり、我々は時間と場所の連鎖を読む必要がある」


橘透が端末の周波数解析画面を確認し、微かに眉を上げた。

「音波のパターンも過去と同じ……警告か、誘導か……どちらにしても、次の瞬間が勝負だ」


霧島が低く唸るように言った。

「これ以上、犯人の意図を先送りにするわけにはいかない……行動を決める時だ」


静寂の中、チーム全員の視線が玲に集まった。

彼の決断ひとつで、この“漆黒の儀式”の連鎖を断ち切ることができる——。


時間:2025年10月4日・午後3時10分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・鉄の処女奥の秘密室


九条の頭に浮かんだのは、『深紅の誘拐事件』――数年前、未解決のまま終わった失踪事件だ。


「……この手口、符号の位置、時間帯……全てが『深紅の誘拐事件』に似ている」


伏見が資料を覗き込み、眉をひそめる。

「つまり、犯人は過去の事件の模倣だけじゃなく、時間の間隔や場所の選定まで計算している……?」


九条は頷き、低く呟く。

「ええ。過去の事件が示すパターンを、今の事件に組み込んでいる。単なる偶然では説明できない」


玲がホワイトボードに目を向け、線を指でなぞりながら冷静に言った。

「過去と現在を繋ぐ『連鎖の法則』を把握できれば、次の現場を予測できる。重要なのは、次に狙われる時間と場所だ」


橘透は端末の周波数解析画面を注視し、微かに息をつく。

「警告の周波数パターンも同じだ……。犯人は、過去の犠牲者の声を使って、我々を誘導している」


霧島が低く声を落とす。

「これ以上待っている余裕はない。行動に移すしかない……」


玲は全員を見渡し、深く頷く。

「よし、次の一手を決める。全員、準備はいいか?」


空気が張り詰め、湖畔の廃工場に緊張が走る。

この瞬間、チームは『深紅の誘拐事件』と結びつく次の現場へと足を踏み入れる覚悟を固めた。


時間:2025年10月4日・午後3時15分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


奈々が小さく眉をひそめ、玲に問いかける。

「ねえ、玲……その『深紅の誘拐事件』って、どんな事件だったの?」


玲は少し息を吐き、ホワイトボードから目を離さずに答える。

「数年前、ある未成年者が忽然と姿を消した事件だ。現場には血痕や手がかりがほとんどなく、犯人の痕跡も極めて少なかった」


伏見が資料を指さしながら補足する。

「被害者の部屋には謎の幾何学模様が残されていた。それも、犯人の残した意図的なサインだったと考えられている」


奈々は唇を噛み、じっと資料を眺める。

「じゃあ……今回の事件も、同じような手口で、計画的にやられてるってこと?」


九条が静かに頷き、重みのある声で言った。

「その通りだ。過去の事件と同じパターン、同じ符号……犯人は我々を試している」


霧島が低く息を吐く。

「簡単に考えていい相手じゃない。全てが過去の事件とリンクしている以上、油断はできない」


玲は冷静に、しかし鋭い眼差しで皆を見渡した。

「理解したな。今回の事件は過去の連鎖を利用した挑戦状だ。次の行動を慎重に決める必要がある」


奈々は小さくうなずき、気を引き締める。

「……わかった。玲、私もついていく」


湖畔の廃工場に、静かだが確かな緊張感が満ちる。

チームは、過去と現在を繋ぐ『深紅の誘拐事件』の影に立ち向かう覚悟を再確認した。


時間:2025年10月4日・午後3時30分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


氷室 楓がゆっくり一歩前に踏み出し、低く声を漏らす。

「……もしかすると、今回の事件の関係者、過去の事件に何らかの形で関わっていた人物かもしれません」


玲は眉をひそめ、ホワイトボードから目を上げて氷室を見つめる。

「どういう根拠だ?」


氷室は資料を指さしながら続けた。

「被害現場の幾何学模様や暗号、そして犯行手口……過去の『深紅の誘拐事件』や『カタコンベの幾何学殺人』と共通する特徴が多すぎます。偶然とは思えません」


奈々が驚きの声を上げる。

「え……ってことは、前の事件の関係者が、また同じ手口で……?」


伏見が資料を整理しつつ補足する。

「可能性は高い。過去の事件の記録を辿れば、犯人の手がかりや動機も浮かび上がるはずです」


霧島は腕を組み、静かに唸る。

「ふむ……だが、関係者がまだ動いているとすれば、次の一手をどう読むかが勝負になるな」


玲は深く息を吐き、ホワイトボードに新たな線を引く。

「わかった。まずは過去の事件の関係者リストを洗い直す。氷室、君はその分析を頼む」


氷室は軽く頷き、資料に集中する。

湖畔の廃工場に、過去と現在を繋ぐ新たな手がかりの緊張感が静かに漂った。


時間:2025年10月4日・午後3時50分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


氷室 楓の言葉は、玲の胸に深く突き刺さった。

「……この事件、もしかすると“記憶喪失の目撃者”が関わっているかもしれません」


玲は一瞬、沈黙した。目の前のホワイトボードに貼られた写真や資料の数々が、まるで意味を持って語りかけてくるかのようだった。


奈々が眉をひそめ、問いかける。

「記憶喪失の目撃者……って、どういうこと?」


伏見 陽介が資料を広げながら説明する。

「目撃者は事件を直接見ているはずなのに、記憶が欠落している。犯人が何らかの手段で記憶を操作した可能性が高い」


霧島が低く唸る。

「なるほど……犯人は、ただ物理的に犯行を隠すだけじゃない。精神や記憶をも操る相手だということか」


玲はホワイトボードにペンを置き、深く息を吸う。

「わかった。氷室、君は目撃者の行動履歴と記憶痕跡を洗い直してくれ。奈々、全ての現場データを再照合する。伏見は暗号と証拠のタイムライン整理だ」


静寂が広がる秘密室に、玲の指示が静かに響き渡る。

目の前の「記憶喪失の目撃者」が、事件解明への新たな鍵となる——。


時間:2025年10月4日・午後3時55分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


玲はペンを握りしめ、ホワイトボードの中央に力強く一言を書き込んだ。


『記憶は欺ける——だが、真実は消せない』


その文字は静かな部屋の空気を震わせ、チーム全員の視線を集めた。

奈々が息をのむ。

「……玲、これって……」


玲は視線を資料に落とし、短く答える。

「すべての手がかりは、記憶の中にある。目撃者の欠落も、逆に我々の武器になる」


伏見 陽介が小さく頷き、氷室 楓も静かにペン先を止めた。

霧島は腕を組みながら、深い沈黙の中で次の一手を考えている。


その瞬間、秘密室の空気は、緊張と確信が入り混じった張り詰めた状態に変わった——。


時間:2025年10月4日・午後4時10分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


玲はホワイトボードにペンを走らせ、力強く新たな一行を加えた。


『記憶誘導装置=事件の鍵』


奈々が目を見開き、端末を操作しながら問いかける。

「……玲、これってつまり、目撃者の記憶操作も全部、装置が関係してるってこと?」


玲は短く頷き、静かに言葉を重ねる。

「そうだ。操作された記憶も、残された微細な痕跡は必ずある。その痕跡を辿れば、犯人の意図も暴ける」


伏見 陽介が壁の記号を指差し、眉をひそめる。

「つまり、この装置を解明すれば、過去の未解決事件も繋がる可能性がある、ということか……」


霧島は腕を組み、低く唸る。

「……なるほど、だから現場に残された謎の痕跡や暗号が、単なるパズルじゃなく、誘導装置の証拠になっているわけか」


静かな秘密室の中、玲の言葉がチームの意識を一つにした——。


時間:2025年10月4日・午後4時12分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


その瞬間、重厚な金属音が室内に響いた。

扉がゆっくりと閉まり、外界との繋がりが断たれる。


奈々が思わず息をのむ。

「……え、閉まった? 外に出られないの?」


玲は静かに振り返り、落ち着いた声で言う。

「焦るな。状況は予想内だ。こうなることも計算に入れている」


伏見 陽介が壁に刻まれた記号を再び指でなぞりながら呟く。

「閉ざされた空間で、この装置の痕跡をどう解析するか……勝負どころだな」


霧島が腕を組み、冷静に状況を見つめる。

「これまでの証拠と照らし合わせれば、密室の謎も、記憶誘導装置の仕組みも解けるはずだ」


密閉された室内に、チームの静かな決意だけが響き渡る——。


時間:2025年10月4日・午後4時15分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


奈々は手元の端末を見つめ、画面に浮かぶ微細な信号を追いながら低く呟いた。

「……これは、あの周波数……消えた記録と同じパターンね……」


玲が端末に視線を落とし、眉をひそめる。

「解析値は合致している。これは偶然じゃない」


伏見が壁の記号を指差し、口を開く。

「この符号と信号の組み合わせ……間違いなく、仕掛けられたメッセージだ」


霧島が静かに息を吐く。

「密室も、誘導装置も、すべてここに結びついている……」


室内の静寂の中で、奈々の呟きが、真相へ向かう糸口となった。


──それが、あの未解決事件の記憶かもしれない。


時間:2025年10月4日・午後4時20分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


霧島が拳をぎゅっと握り締め、床の冷たさを指先に感じながら低く呟く。

「……くそ、ここまで巧妙に仕組まれていたのか……」


玲は静かに彼の横顔を見据え、冷静な声で応える。

「焦るな。全ては数字と証拠が物語っている。順序立てて解析すれば、必ず解ける」


奈々は端末の画面に視線を戻し、信号の変化を追う。

「霧島さん、落ち着いて……でも確かに、仕掛けは相当複雑ね」


霧島は拳を軽く緩め、深く息を吐く。だが、瞳の奥には決意の炎が揺らめいていた。


時間:2025年10月4日・午後4時23分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


玲は一歩、中央に進み出て、ゆっくりと周囲を見渡した。

壁に刻まれた記号、閉じられた扉、鉄の匂い。沈黙が場を支配する。


その静寂を切り裂くように、玲の低く落ち着いた声が響いた。


「……ここは、ただの密室じゃない。記憶を封じ、意志をねじ曲げるための“舞台”だ」


彼の声は冷たくも確信に満ち、仲間たちの背筋を粛然と伸ばさせた。


時間:2025年10月4日・午後4時24分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


玲は壁に残された幾何学模様と、床に滲む血の軌跡を鋭く見据えた。

端末の光に照らされた彼の瞳は、氷のように冷たい。


「……この事件は、ただの殺人ではない。」


低く響いたその言葉に、場の空気がさらに重くなる。

玲はホワイトボード用の携帯パネルを取り出し、ゆっくりと線を描き加える。


「象徴的な配置、過去との符合、そして“記憶誘導装置”……」

彼の声は淡々としていたが、聞く者すべてに背筋を冷たくさせた。


「これは、意志を奪い、記憶を利用するための——計画犯罪だ。」


霧島が拳を強く握り、奈々は無意識に息を呑む。

ただの殺人では終わらない、その恐怖が全員を包み込んでいた。


――玲の言葉は、この場にいる誰もが逃げられない「真実」の入口だった。


時間:2025年10月4日・午後4時32分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


——最初に気づいたのは、空気の密度だった。

静まり返った空間に、微かな重圧のようなものが漂っていた。


玲は片膝を床に着き、指先で床面の血痕をなぞる。

わずかな沈み込み、乾ききらぬ鉄の匂い。

その感触に、彼の頭の中で幾つもの点が線となって繋がっていく。


「……犯人は、極めて計画的だ。」

玲の声は淡々としていたが、そこに揺るぎはなかった。


彼はホワイトボード用の携帯パネルを掲げ、順に書き記していく。


玲の推理・犯人像の輪郭

•現場構築に異常な精度がある

 → 建築、または舞台設営に精通している。

•記憶誘導装置を使用

 → 高度な心理操作技術と機材知識を持つ。

•犠牲者の選定に共通性

 → 「過去の儀式事件」に関わった者を狙っている。

•犯行動機は衝動ではなく「証明」

 → 自らの理論や信念を示すため。

•我々の動きを把握

 → 内部情報、もしくは監視網を確保している。


玲はゆっくりと立ち上がり、全員を見渡した。

「犯人は、ただの殺人者ではない。」


冷ややかな視線の奥で、彼の瞳がかすかに揺らめく。


「……“儀式の証人”を一人ずつ消し去り、最後に残った者に真実を突きつけるつもりだ。」


その声は、部屋に響く鉄の冷たさと同化するようだった。


時間:2025年10月4日・午後4時47分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


ホワイトボードに記された文字が、まるで生き物のように重くのしかかる。

その瞬間——玲の胸の奥で、不意に心臓が不規則な鼓動を刻み始めた。


ドクン……ドク、ドクン……。


呼吸は一定を保っているはずなのに、心臓だけが異様なリズムを刻む。

冷たい汗が額を伝い、指先に僅かな震えが走る。


奈々が異変を察し、端末を握り締めたまま玲に目を向ける。

「……玲?」


玲は返答せず、ただホワイトボードの「犯人像」の文字を見据えていた。

その眼差しは鋭く、しかしその奥には、見えない圧迫に抗うかのような苦痛が滲んでいた。


時間:2025年10月4日・午後4時48分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


「玲!」


橘 透が即座に反応した。イヤーピースを外し、玲の肩に手を置く。

玲の顔は蒼白で、視線はホワイトボードの一点に縫い付けられたように動かない。


心臓の鼓動はさらに乱れ、呼吸のリズムさえ不規則に乱れていく。

その様子は、まるで見えない圧迫に抗おうとする者の苦痛そのものだった。


橘は素早く周囲を確認し、低い声で叫ぶ。

「何かが仕掛けられてる! 心理的か、それとも機械的か……! 凛、干渉を探れ!」


玲の額には冷や汗が浮かび、喉から抑えきれない呼吸音が漏れる。

それでも、彼の眼差しだけは決して揺るがず、ホワイトボードの「犯人像」の文字を射抜いていた。


——まるで、その奥にある真実そのものと格闘しているかのように。


時間:2025年10月4日・午後4時50分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


「……ッ!」


霧島が低く唸り、即座に防御姿勢を取った。

鋭い視線が部屋の隅々を走り、見えない攻撃の気配を探る。

背中を壁に預け、片腕は玲を庇うように前へと差し出されていた。


玲はなおもホワイトボードの前で、苦悶に顔を歪めていた。

その瞳には恐怖ではなく、ただ一点、「真実そのもの」と格闘する意志だけが宿っている。


「……まだだ。ここで倒れるわけには……いかない……」


喉を焼くような息の合間に、かすれた声が漏れる。

圧迫に抗いながら、玲の指先はなおも震えながらホワイトボードへ伸びていた。


——その姿に、霧島は一瞬だけ息を呑む。

玲は、現場の“真実”と直に衝突している。

それは肉体を蝕むほどの負荷を伴う「知覚の戦い」だった。


霧島の目がさらに鋭くなる。

「……見えない敵、か。なら、俺が玲を守る」


彼の声は低く硬く、張り詰めた空気の中で一線を引くように響いた。


時間:2025年10月4日・午後4時52分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


——だが、遅かった。


玲の身体はすでに限界を超えていた。

視界の端が白く滲み、耳の奥では不規則な鼓動と共に「何か別の音」が混じり始めていた。


現場そのものに刻まれた“真実”が、直接玲の意識を抉り取っていく。

それは推理でも推測でもなく、証拠を超えて迫ってくる――

「この部屋の空間そのものが証言している真実」だった。


ホワイトボードに掻き殴られた言葉が、視界の中で滲み、歪む。

「……記憶誘導……儀式……被害者は……」

声にならない声が漏れ、膝がわずかに折れる。


霧島が前へ踏み出すが、玲は震える手をかざし、制した。


「……触れるな……今、ここで……見なきゃいけない……」


その表情は苦悶と同時に、揺るぎない決意を浮かべていた。

玲は、いままさに――“現場の真実”と直に衝突している。


時間:2025年10月4日・午後4時54分

場所:湖畔・廃工場「白の空間」・秘密室内


次の瞬間、透子の周囲の空間が微かに軋み、

まるで水面に石を投げ込んだかのように空気が揺らいだ。


——“記憶の映像”が浮かび上がる。


それは誰かの過去の断片。

儀式の灯りに照らされた黒い祭壇、並べられた白布の上の影、そして仮面を被った人物たちのざわめき。

その中に、被害者の顔が確かに存在していた。


玲の呼吸が乱れる。

心臓の鼓動はもはや耳鳴りと同化し、視界に映るのは現実と幻影の境界線。


「……これが……“現場の真実”……」


玲は膝をつきながらも、必死に目を逸らさない。

眼前に広がる映像は、過去の儀式そのもの。

そしてその記憶の中心には——犯人の“輪郭”が浮かび上がろうとしていた。


透子の声が震える。

「玲さん……その映像、あなたの意識に直接……!」


しかし玲は答えない。

彼は今、ただひとりで“現場の真実”と直に衝突していた。


——そして、その衝突が導くのは 犯人の正体の断片 か、それとも 玲自身の崩壊 か。


時間:2025年10月4日・午後5時12分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


——暗い資料室。


わずかな灯りが棚の隙間から漏れ、ほこりに混じった空気が淀んでいた。

その中心で、玲は壁にもたれかかり、意識をかき乱されるように頭を押さえ込む。


「……っ……見える……犯人の……輪郭……」


声はかすれ、呼吸は荒い。

彼の瞳には確かに、“仮面を被った男”の影が映っていた。

だが映像は断片的で、鮮明にしようとすればするほど、玲自身の意識が崩壊していく。


「玲!」

奈々が駆け寄り、端末を即座に同期させる。

「脳波が乱れてる。このままじゃ危ないよ!」


霧島は玲の肩を強く掴み、まるで地に引き戻すように叫んだ。

「戻れ! お前がここで倒れたら、真実は闇に消える!」


藤堂が即座に周囲の扉を確認し、閉鎖の仕組みを解析しながら低く言う。

「この部屋自体が“精神誘導”の仕掛けだ……玲が飲み込まれるのも当然だ」


玲の視界は白く揺らぎ、意識が崩れ落ちそうになる。

しかしその寸前、彼はかろうじて言葉を吐き出した。


「……犯人は……“記録を操る者”……舞台を……設計した……」


その言葉を最後に、玲の身体はがくりと傾く。

奈々がすぐに支え、霧島も同時に補助して床に倒れ込むのを防いだ。


高嶺が焦りを押し殺しながら言う。

「玲が見たのは……犯人の“仮面”の記憶。だがそれ以上を掴むには……」


——資料室の奥、封じられた古い箱が微かに震えた。

まるでそこに、犯人の本当の正体を示す“記録”が眠っているかのように。


時間:2025年10月4日・午後5時15分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


玲の身体がぐらりと傾いた瞬間、奈々が素早く腕を差し伸べ、彼を支えた。

「玲、しっかりして!」


霧島も横から手を添え、玲の姿勢を安定させる。資料棚や端末に倒れ込まないよう、二人が必死に支えた。


玲は一瞬目を閉じ、かすかに息を整える。視界に揺れる資料室の光と影が、現場の異様さを一層際立たせる。


「……透子……」

玲の声は弱々しくも、確かな決意を帯びていた。


奈々は肩越しに玲を見つめ、端末を操作しながら言った。

「玲、大丈夫。私たちがついてる。透子の声も聞こえてるし、迷わず進もう」


玲は短く息を吐き、周囲を見渡す。仲間の存在が、意識を引き戻す支えとなった。

そして、資料や端末に映る情報を一つずつ確認し、再び思考を巡らせ始める。

「……記憶の映像、解析……犯人の輪郭……」


静寂の中で、玲の鋭い視線が復活し、資料室の空気が再び張り詰めた。


時間:2025年10月4日・午後5時30分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


伏見陽介が端末に向かい、壁に残された記号と過去の事件データを照合していた。

「このパターン……以前の儀式事件と一致する部分がある。犯人は過去の事件を踏まえて計画を練っている」


玲は深く息を吐き、意識を完全に取り戻した。目に宿る鋭さは以前にも増しており、周囲の空気が一変する。

「透子の声……座標と連動している。罠は複数の層に分かれている……」


奈々が玲の横で端末を操作しながら、心配そうに言う。

「玲、無理しないで。罠が複雑すぎるよ」


玲は端末の画面を見つめ、静かに指示を出す。

「伏見、過去の記号と現場の配置を重ね合わせろ。霧島、篠宮、俺の指示に従いながら周囲の監視点を確認。奈々、透子の声をリアルタイムで分析してくれ」


伏見がすぐに解析を開始し、壁の符号や床の微細な傷跡をデジタルマップに反映させる。

「なるほど……この配置だと、次の部屋の床には圧力感知式の罠が仕掛けられている」


玲は手元の資料を指差し、仲間に告げた。

「罠の作動条件はここに書かれた座標の組み合わせだ。透子の声の微かな音程変化が作動信号になっている」


奈々が端末の解析結果を読み上げる。

「玲、次の扉の右側の床に圧力がかかると即座に施錠されるわ。回避ルートはここ……」


玲はゆっくり頷き、仲間たちに向かって低く言った。

「よし、動くぞ。全員、慎重に」


一歩ずつ床を踏みしめ、透子の声を頼りに罠の位置を確認する玲たち。微細な音程の変化を頼りに、次の部屋への安全なルートを見極める。


伏見が解析マップに線を引き、罠の範囲を仲間に示す。

「ここを踏めば反応、ここは安全……」


霧島と篠宮が前方を警戒し、玲と奈々が後方で透子の声を監視する。全員が一体となり、精密に動く。


そして、玲は壁に残された最後の符号を見上げ、静かに言った。

「これで、犯人の罠は完全に把握できた……突破可能だ」


資料室に張り詰めた緊張感の中、玲の指示で仲間たちは正確に動き、罠を次々と回避していく。

暗闇の中、透子の声が微かに導きとなり、玲はついに犯人の計画を見破った——。


時間:2025年10月4日・午後5時45分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


透子の声が、端末越しにかすかに震えて届く。


「……こ、ここは……危ない……」


奈々が顔を上げ、心配そうに玲を見る。

「玲、声が……震えてる。これ、罠のせい?」


玲は端末に耳を傾け、微細な音の変化を解析する。

「大丈夫、透子。声の震えは罠の心理圧力によるものだ。君は落ち着いて、指示に従ってくれ」


伏見陽介がデジタルマップを操作し、床の圧力感知ラインを示す。

「ここが危険ゾーンだ。透子の声の震えが反応信号と連動している可能性がある」


玲は短く息を吐き、仲間に告げた。

「霧島、篠宮、床のルートを慎重に確認。奈々、透子の声を頼りに微調整して」


奈々が端末の解析結果を読み上げる。

「玲、右手前の床に圧力反応。声の震えが信号のタイミングと完全に一致してる……」


玲は仲間たちを見渡し、決意を固める。

「分かった。この声の震えを指標にして、罠を回避する。透子、あと少しだ、落ち着いて」


透子の声はまだかすれているが、玲たちの冷静な指示と端末の解析が彼女を導く。

一歩ずつ床を踏み、玲たちは微細な音の変化を頼りに安全なルートを進む。


透子の声が震えながらも、確かな希望を帯びて聞こえる——

「……わかった、進む……」


玲は小さく頷き、仲間たちとともに、罠の網目をかいくぐりながら、犯人の計画を完全に見破る瞬間へと歩を進める。


時間:2025年10月4日・午後5時50分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


玲の声は低く、しかし確固たる響きを持っていた。


「透子、声を頼りに進め。冷静に、慌てるな」


透子のかすれた声が応える。

「……はい……でも、怖い……」


奈々が端末の解析を確認しながら小声でつぶやく。

「玲……声が落ち着いてるから、透子もついてこれる……」


玲は仲間を見渡し、指示を的確に出す。

「霧島、篠宮、前方の圧力感知を再確認。伏見、微細な音の変化を監視しろ」


伏見陽介は画面上で床の危険箇所をマーキングし、玲に報告する。

「右手前、微弱な振動あり。透子の声の震えと完全に連動」


玲の声は低く響きながらも、仲間に安心感を与えた。

「よし、この声の変化を基準にして進め。透子、恐怖に負けずに」


透子は震える声で小さく頷き、玲の指示に従って一歩ずつ進む。

玲の低く確かな声が、闇の中で唯一の道標となり、罠をかいくぐる光となった。


時間:2025年10月4日・午後5時52分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


玲は静かに言葉を選んだ。

「透子、君の声が頼りだ。焦らず、順番に進め」


透子は唇を噛み、微かに震える声で応える。

「……わかった……でも怖い……」


奈々が横で端末を確認しながら小さく励ます。

「透子、玲が冷静だから大丈夫……私たちもついてる」


玲は仲間に目を向け、低く的確に指示を出す。

「霧島、篠宮、圧力感知を再確認。伏見、微細振動の監視を続けろ」


伏見陽介は端末画面にマーキングし、静かに報告する。

「右手前、微弱振動を検知。透子の声の変化と同期してます」


玲は深く息を吐き、静かに続けた。

「よし、この声の変化を基準に進む。透子、恐怖に負けるな」


透子は唇を噛み締め、一歩ずつ前へ進む。

玲の冷静な声が、闇の中で唯一の道標となり、仲間たちを導いた。


時間:2025年10月4日・午後5時55分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


その言葉が、透子の胸に深く刺さる。

「本当の私を信じて……」


透子の瞳に一瞬の覚悟が宿り、微かに震える手で端末を操作する。

「……わかりました、玲」


玲は冷静に指示を続ける。

「罠の配置を想定して動く。奈々、榊原、俺の指示に従って支援を」


伏見陽介がモニターに注視し、微細振動を追跡する。

「左側の床が弱くなっています。こちらのルートを選べば安全です」


透子は息を整え、指示通りに足を進める。

壁際に潜むトラップの圧力板を慎重に回避しながら、玲の声に合わせて動く。


霧島と篠宮も、透子を囲むように慎重に前進。

玲は目を細め、まるで全体を俯瞰するかのように状況を見守る。

「その調子だ……冷静に、次の段階へ」


透子の背中に力が漲り、恐怖を乗り越える一歩が生まれる。

玲の言葉が、闇の中で唯一の光となり、罠の迷宮を突破する道を照らした。


時間:2025年10月4日・午後6時05分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


玲は静かに歩み寄り、透子の肩にそっと手を置いた。

その温もりは、緊張と恐怖に包まれた透子の心を、わずかに落ち着かせる。


「怖がらなくていい、透子。君の本当の声を聞かせてくれ」


透子は目を伏せ、唇をかすかに震わせながら言った。

「……私は……ずっと、見られていた。操られていた。でも……もう逃げない」


玲は頷き、優しい声で返す。

「君が真実を語るその瞬間が、すべてを変える。誰の指示でも、誰の意図でもない、君自身の意思だ」


その言葉に透子の瞳が揺らぎ、長い間封じ込められていた記憶が少しずつ解けていく。

彼女の手は小さく震えながらも、玲の手に触れることで力を得た。


「これで、君の真実が、俺たちの道を開く」

玲の声は低く、しかし確固たる響きを持っていた。


透子の胸に、ようやく一筋の光が差し込む。

過去の束縛も、操作されてきた記憶も、今は玲の言葉と意思の前では無力だった。


時間:2025年10月4日・午後6時05分

場所:湖畔・廃工場地下・暗い資料室


玲は静かに歩み寄り、透子の肩にそっと手を置いた。

その温もりは、緊張と恐怖に包まれた透子の心を、わずかに落ち着かせる。


「怖がらなくていい、透子。君の本当の声を聞かせてくれ」


透子は目を伏せ、唇をかすかに震わせながら言った。

「……私は……ずっと、見られていた。操られていた。でも……もう逃げない」


玲は頷き、優しい声で返す。

「君が真実を語るその瞬間が、すべてを変える。誰の指示でも、誰の意図でもない、君自身の意思だ」


透子の目に涙がにじみ、光を帯びる。

その涙は恐怖と不安の重さを物語りながらも、同時に解放への第一歩を示していた。

彼女の手は小さく震えながらも、玲の手に触れることで力を得た。


「これで、君の真実が、俺たちの道を開く」

玲の声は低く、しかし確固たる響きを持っていた。


透子の胸に、ようやく一筋の光が差し込む。

過去の束縛も、操作されてきた記憶も、今は玲の言葉と意思の前では無力だった。


玲は少しだけ微笑んで言った。

「透子、よく耐えたな。もう一人じゃない。」


透子は小さく息を吐き、震える手をそっと玲に重ねる。

「玲……ありがとう……」

その声はかすかに震えていたが、以前の恐怖と違い、自分の意思が宿っていた。


玲は頷き、静かに言葉を重ねる。

「さあ、これからは一緒に進もう。君の本当の力で、この迷宮を抜け出すんだ」


透子の目に涙が溢れる。

だが、その涙はもはや恐怖のものではなく、解放と決意の証だった。


日時:2025年10月3日・午後3時15分

場所:湖畔の廃工場・地下制御室


透子は深く息を吸い、震える手を握りしめた。

玲はその手元を見据え、短く指示する。

「左のセンサーを遮断する。透子、タイミングは私の声に合わせろ」


透子は頷き、微かな声で応える。

「わかった……」


二人の呼吸が同期する。玲の低く落ち着いた声に合わせ、透子は素早く操作パネルに触れる。

赤い警告ランプが一瞬点滅するが、次の瞬間には静寂が戻った。


玲は慎重に前へ進み、壁際のワイヤーを目で追う。

透子は端末を操作し、最後のトラップを無効化する。


──静寂。

罠は完全に回避され、目の前の扉はゆっくりと開いた。


玲は透子の肩を軽く叩き、短く言った。

「よくやった、透子。君の判断があったからだ」


透子は微笑み、わずかに涙を拭った。

「玲……ありがとう。これで、もう怖くない」


二人の視線が交わり、互いの信頼と決意がその場に静かに満ちた。


日時:2025年10月3日・午後3時18分

場所:湖畔の廃工場・地下制御室


その瞬間、橘は端末に指を叩きつけるようにして命令を入力した。

キーボードのタッチ音が部屋に響き、緊張感をさらに高める。


「全アクセス権限を一時停止……これでトラップは解除されるはず」


玲は橘の背後から端末の画面を確認し、冷静に指示を出す。

「透子、次の操作は橘の指示通りに動かして。慌てるな」


透子は頷き、深呼吸してから手を動かす。

端末の警告ランプが一度点滅したが、やがて静かに消えた。


玲の視線が扉の方に移り、全員の動きを確認する。

罠は完全に封じられ、脱出への道筋が開かれた瞬間だった。


日時:2025年10月3日・午後3時22分

場所:湖畔の廃工場・地下制御室から地上へ


音が一気に吸い込まれ、透子を包んでいた淡い光が消えた。

静寂の中、玲は一歩踏み出し、透子の肩に手を置く。

「大丈夫、もう安全だ」


透子は小さく頷き、震えていた手をしっかりと握りしめる。

橘が端末を閉じ、周囲の状況を確認する。

「制御系統は完全にロックアウト。追跡もされない」


霧島と篠宮が先頭に立ち、地下通路を抜ける。

床のひんやりとした感触、壁の冷たさを感じながらも、全員の足取りは確実だ。


玲は振り返り、全員の動きを確認する。

「慎重に。階段の途中で足元を確認しながら」


光が差し込む地上への出口が見えた瞬間、チーム全員の表情がほっと緩む。

透子は玲の隣で深く息を吐き、橘は端末を手に、周囲の安全を再確認する。


最後の段差を降りきり、湖畔の外に出たとき、秋の冷たい風が彼らを迎えた。

光と影の対比の中、玲は全員に視線を向ける。

「全員、無事だな」


透子は小さく笑みを浮かべ、玲の手を握り返した。

霧島は拳を緩め、篠宮は背中を伸ばす。

橘は静かに端末を仕舞い、チーム全員の安堵を見守った。


湖面には、夕暮れの光が揺らめく。

長く続いた緊張の時間が、ようやく解かれた瞬間だった。


日時:2025年10月3日・午後3時25分

場所:湖畔の廃工場・屋外、脱出直後


透子はその場に膝をつき、深く息を吐いた。

彼女の目は、かすかな恐怖と決意が入り混じった光を宿している。


「……03番が覚醒する時、05番もまた再起動する」


玲は透子の肩に手を置き、静かに耳を傾ける。

橘が端末を握りしめ、眉間にしわを寄せたまま言った。

「そのメッセージ、ただ事じゃないな……」


霧島と篠宮は互いに視線を交わし、慎重に周囲を見渡す。

湖面に反射する夕陽が、彼らの影を長く引き伸ばしていた。


透子は膝をついたまま、震える手で地面を押さえ、やっと口を開いた。

「……でも、今は……安全……」


玲は微かに頷き、彼女を支えながら周囲に目を巡らせた。

チーム全員、緊張の糸を解きつつも、次なる事態に備える覚悟を胸に刻む。


日時:2025年10月3日・午後3時40分

場所:湖畔の廃工場・脱出後の安全地点


伏見陽介が端末を手に取り、微かに眉を寄せながら呟く。

「……これ、ただの偶然じゃないな。『記憶の外側』から、自分自身に残した警告だ……」


玲は湖面に映る夕陽を見つめながら、短く息を吐く。

「つまり、俺たちが知っていること以上の何かが、既に仕組まれているということか」


透子は震える声で答える。

「……その“何か”が、私を――、私たちを狙っているの?」


橘は端末を握りしめ、確信を込めて言った。

「間違いない。あの暗号はまだ完全には解読されていない……。次の行動を誤れば、すぐに罠が発動する」


霧島は拳を握り、冷静に周囲を警戒する。

「……だったら、まずは情報の整理だ。敵の手の内を把握してから動く」


玲は深く頷き、チーム全員に視線を巡らせた。

「よし。次の作戦は、“記憶の外側”を解析する。俺たち自身が、誰かに仕組まれた罠を先回りして解くんだ」


透子は小さく息を整え、玲の隣で静かに頷く。

「……分かった。玲、私も力になる」


湖畔に吹く風が、彼らの決意を静かに包み込み、次なる謎への幕開けを告げていた。


日時:2025年10月4日・午前11時

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲は再び透子に視線を向ける。

「透子、君の声や行動パターン――あの罠が反応した理由を正確に把握する必要がある」


透子は手元の端末を握りしめ、微かに震える手を落ち着かせながら答える。

「……分かる。さっきの信号、私の記憶パターンに引っかかっていたのね」


伏見陽介がスクリーンに映し出されたデータを指差す。

「敵は、単なる物理的な罠だけじゃない。『心理的誘導』の仕掛けを同時に設置している。つまり、俺たちの行動や判断そのものを操作しようとしている」


霧島が腕を組み、冷静に分析する。

「物理トリックと心理トリックの複合だな。これを無効化するには、先回りして全ての変数を管理するしかない」


奈々が端末を操作しながら言った。

「それって……一歩間違えれば、また誰かが犠牲になるってこと?」


玲は深く息を吸い、静かに答える。

「その通りだ。でも、罠の仕組みを理解すれば、次は必ず回避できる。敵は“記憶の外側”を利用して、俺たちを追い詰めようとしている――だが、俺たちはその外側から逆に罠を読む」


透子はゆっくり頷き、決意を固める。

「……玲、私も一緒に考える。絶対に、次は罠にかからない」


橘は端末を操作し、警戒信号をモニターに表示させた。

「敵のトリックは複数層。信号の微細な変化も見逃すな。これは、単なる準備作業じゃない。次の一手を決める重要な局面だ」


玲は再びホワイトボードの前に立ち、チーム全員を見渡す。

「よし、全員理解したな。次の作戦は、敵の心理誘導と物理トリックを同時に解析し、先回りする。これが成功すれば、透子を完全に守りつつ、敵の罠を封じ込められる」


部屋には静かな緊張が漂い、玲たちは全員の視線を交わしながら、次なる行動の開始を待った。


日時:2025年10月4日・午前11時30分

場所:玲探偵事務所・作戦室


透子はゆっくりと顔を上げ、意識を集中させる。

「来る……何かが、私たちの思考に干渉してくる」


橘透が端末のグラフを指で追いながら低く呟く。

「信号の変動だ……敵は微細な音波と光のフラッシュで心理誘導を試みている」


奈々が画面をスクロールさせ、データを確認する。

「心理誘導のパターンは過去の罠と酷似してる。罠が刺激する順番を逆算すれば、先手が打てる」


霧島が短く息を吐き、手元の装置を調整する。

「光と音の同期を解除。全員、目と耳を信号の変化に集中させろ」


玲はホワイトボードの前に立ち、手元のタブレットを透子の端末とリンクさせる。

「透子、君の記憶の反応パターンをリアルタイムで解析する。信号が届く前に動きを予測する」


微細なフラッシュが室内を一瞬照らし、低周波音が鳴る。

透子は瞬間的に身体を硬直させるが、玲が落ち着いた声で指示を飛ばす。

「橘、音波フィルタを最大に。奈々、パターン反転! 霧島、光源を遮断!」


瞬間、室内の光と音は遮断され、心理誘導トリックは無効化される。

透子の呼吸が整い、肩の力が抜けた。

「……成功した、何も……私の判断は揺らがなかった」


玲は静かに頷き、チーム全員を見渡す。

「これで敵は、我々の思考に直接介入できない。次の局面に進める」


伏見陽介が画面を確認し、淡々と報告する。

「信号の履歴を見る限り、心理誘導は完全に回避された。被害はゼロだ」


霧島は拳を緩め、微かに笑みを見せる。

「さすがだ……玲の指示と透子の協力がなければ、危なかった」


透子は玲に微笑み返し、手元の端末を握りしめた。

「……次は絶対、私も罠にかからない」


玲は静かに、しかし確かな手応えを感じながら言った。

「全員、集中を切らすな。この経験を活かして、次の動きを確実に仕留める」


室内には、静かだが確かな決意の空気が満ちていた。


日時:2025年10月4日・午前11時45分

場所:玲探偵事務所・作戦室


玲は静かに頷き、短く言った。

「よし、今回の心理誘導は回避できた。だが、油断はできない」


奈々が端末の画面を凝視する。

「どういうこと? もうこれで安全なんじゃないの?」


玲はペンを手に取り、ホワイトボードに新たな線を引きながら説明する。

「敵はこの回避を想定している可能性が高い。今回の誘導は、次の仕掛けのための予行演習に過ぎない」


橘透がモニターを操作し、信号履歴を再確認する。

「確かに、パターンには不自然な余白がある。次の段階が準備されている兆候だ」


霧島が腕を組み、低く呟く。

「なるほど……心理誘導を使って、我々の反応を観察していると」


玲は冷静に視線を巡らせ、決意を込めて言った。

「次の罠は、今回よりも複雑で巧妙になる。全員、意識と行動を最大限に同期させる必要がある」


透子は握りしめた端末を見つめ、静かに頷く。

「……分かった、私も前回以上に集中する」


玲はホワイトボードを眺め、短く息を吐いた。

「敵の仕掛けは、我々の“心理と記憶の隙間”を狙う。次の一手を見誤ると、致命的になる」


室内には、静かだが張り詰めた緊張と決意の空気が漂った。

回避の安堵の陰で、すでに次の戦いが動き出していた。


日時:2025年10月4日・午後0時15分

場所:玲探偵事務所・作戦室


その言葉を発しながら、玲の心は過去の事件へと引き戻されていた。


「次の仕掛けは……心理誘導だけではない」玲は低く呟く。

奈々が眉をひそめる。

「え? どういうこと?」


玲はホワイトボードに線を引きながら説明する。

「敵は我々の記憶操作を組み合わせた罠を仕込むだろう。つまり、目に見える現実と、頭の中で再生される記憶の両方を混同させる。行動を誘導し、誤認させるための複合心理トリックだ」


橘透が端末を操作し、信号ログを表示する。

「具体的には、複数の音声や映像信号を混ぜ、過去の記憶の一部を再現させる。対象はその場で迷い、行動を誤るように誘導される」


霧島が拳を握り、低く唸る。

「つまり、物理的な罠ではなく、脳内の“記憶空間”を利用したトリックだと……」


玲は深く息を吸い、冷静に続ける。

「さらに、被害者の選定や現場の配置には、我々の過去の行動パターンが織り込まれている。つまり敵は、我々の心理的傾向を完全に把握している」


透子が震える声で訊ねる。

「じゃあ……私たちはどう動けば……?」


玲は短く息を吐き、全員を見渡した。

「我々は情報の同期を最優先する。端末・視覚・聴覚の全てを共有し、誤認を防ぐ。敵は心理と記憶の隙間を狙うから、チーム全員で意識を一点に集中させるしかない」


室内に静寂が張り詰める。

次の仕掛けは、単なる殺害や物理的罠ではない。心理操作、記憶操作、そして過去の行動パターンを絡めた高度な複合トリック――それが敵の本当の狙いだった。


玲はホワイトボードを見つめ、短くつぶやいた。

「次は、我々の“意識”そのものが戦場だ……」


日時:2025年10月6日・午後3時30分

場所:湖畔の廃工場・内部構造室


薄暗い湖畔の廃工場。錆びた鉄骨の隙間に冷たい風が吹き込む。

玲たちは全員、静かに足を踏み入れる。


「お前は何を守りたい?」──突如、透子の耳元に低く響く声。

音は誰のものでもなく、空間全体に反響していた。


橘透が端末を確認する。

「この周波数……複数のスピーカーが遠隔制御されてる。記憶を直接刺激してるぞ」


霧島が前に出て、防御姿勢を取る。

「つまり、あの声は……敵が我々の記憶を誘導して、心理的に揺さぶろうとしているのか」


薄暗い通路の奥、光と影が入り混じり、過去の事件の記憶が幻影のように映し出される。

奈々が端末で信号を解析しながら叫ぶ。

「幻影が動いてる! 過去の現場が目の前にあるみたいだ!」


玲は落ち着いて皆に告げる。

「視覚、聴覚、そして記憶。三つの刺激を同時に操作している。混乱しても、一瞬たりとも独断で動くな。全員で情報を共有する」


透子の視界に、幼い頃の自分が湖畔に立つ幻影が映る。

「……あれ……私……?」

心臓が早鐘のように打ち、息が乱れる。敵は過去の記憶を利用して、彼女の意思を揺さぶろうとしていたのだ。


伏見陽介が即座に分析する。

「幻覚の位置と周波数パターンを把握。各自、スクリーンのデータを確認しながら動け。リアルタイムで視覚・聴覚を同期すれば、錯覚は無効化できる」


玲は静かに透子に歩み寄る。

「君の記憶は君自身のものだ。敵に操作されるな」

透子は深く息を吸い、震える手を握りしめる。


チーム全員が端末を連動させ、音声信号と映像の同期を解除。

幻影が次第に薄れ、過去の映像が現実の光景に置き換わる。


「よし、完全に同期解除。これで、敵の心理トリックは通用しない」奈々が力強く報告する。


玲は微かに頷き、低く呟く。

「敵は心理の迷路を仕掛けてきた。しかし、我々の信頼と連携こそが、唯一の脱出口だ」


その瞬間、廃工場の奥から、微かに機械音が響く。

敵はまだ観察を続けている。だが、チームは既に罠の本質を理解していた。


玲の目には、仲間の顔が冷静に揃う。

「次は、物理的な罠かもしれない。しかし、心理の迷宮は突破した」


湖畔の廃工場に、緊張と静寂が共存する。

敵の次なる手を予測しながら、玲たちはゆっくりと前へ進んだ。


日時:2025年10月6日・午後3時45分

場所:湖畔の廃工場・中央ホール


桐嶋が目を閉じ、微かな息を整える。

玲の呼吸も浅くなり、心臓が早鐘のように打つ。


「——もし、また同じ過ちを繰り返してしまったら」

その不安が、胸の奥で静かに芽を出す。


ホールの床に仕掛けられた圧力センサーが光を反射する。

橘透が端末を操作しながら声を上げる。

「床に微細な圧力トラップ。片足でも踏めば警報が鳴る。心理的に焦らせる設計だ」


霧島が壁沿いに身を低くして移動する。

「敵は心理トリックと物理トラップを組み合わせて、精神的な混乱を最大化しようとしている……」


玲は全員を見渡し、短く指示を出す。

「端末で圧力の安全地帯を可視化する。幻覚や音声に惑わされるな。心理トラップを無効化してから、物理的な移動を開始する」


高嶺結衣が微細な音を拾い、耳を澄ませる。

「床の振動と空気の流れ……ここを通れば罠を回避できる」


玲は透子に視線を向ける。

「君の記憶に引きずられるな。過去はここでは関係ない」

透子は手を握りしめ、短く頷く。


全員が端末を駆使してトラップの安全ルートを表示させる。

圧力トラップを踏まないように歩幅を調整し、幻影や誘導音の同期を解除する。

床下のセンサーが一瞬赤く点滅するが、奈々が操作した同期解除信号が作動し、トラップは無効化される。


玲は低く息をつき、ホールの中央まで進む。

「心理も物理も突破した。次は——敵の観察範囲を越えるだけだ」


橘透が端末を叩きつけるように操作し、全員の位置を連動。

幻影が消え、冷たい鉄骨の影が現実に戻る。

湖畔の廃工場に、静寂と緊張が張り詰める。


玲の目に、仲間たちの冷静な視線が揃う。

「敵の二重トラップ——心理と物理の迷宮は、突破した」


その瞬間、外壁の隙間から微かな振動が伝わる。

まだ、敵はこの空間を完全には明け渡していなかった。

玲は深く息を吸い込み、仲間の肩越しにホールの奥を見据えた。

「次は、最終局面だ」


日時:2025年10月6日・午後3時50分

場所:湖畔の廃工場・中央ホール


玲は胸の奥に手を当て、微かに眉をひそめる。

廃工場の冷たい空気が肌を刺す中、彼の意識は一瞬、過去へと引き戻された。


——かつて救えなかった誰かの顔。

その記憶が、まるで今ここにいるかのように鮮明に浮かぶ。


「……あの時、俺は――」


静寂の中、玲の指先が微かに震える。

仲間たちはその動揺に気づきつつも、言葉を発さず、背中で支える。


透子のかすかな呼吸。

奈々の鋭い目つき。

霧島の冷静な防御姿勢。

全員の存在が、玲に現実への足場を与える。


玲は深く息を吸い込み、胸に浮かんだ顔を意識の奥底に沈める。

「過去は変えられない。だが、今は——」

彼は力強く視線を前方に戻す。

「今、守るべきものがある」


橘透が端末を操作し、幻影や心理誘導の無効化を確認する。

玲は仲間の動きを統合し、廃工場の奥へ進む。

胸に残る痛みを糧に、彼は再び、敵の罠に立ち向かう覚悟を固めた。


湖畔の廃工場に、かつての過去と、守るべき現実が重なり合う。

玲の瞳は、迷いなく次の一歩を捉えていた。


日時:2025年10月6日・午後3時55分

場所:湖畔の廃工場・中央ホール


桐嶋の表情がかすかに歪み、額に浮かぶ汗が一筋、頬を伝った。

玲はその変化に目をとめつつも、自身の胸に浮かんだ過去の顔に意識を引き戻される。


——かつて救えなかった誰かの姿。

その記憶が、今ここで迫りくる敵の「物理トラップ」と「心理トラップ」の二重構造をより鋭く意識させる。


「……また、同じ過ちを……」

玲の呼吸が浅くなり、わずかに震えた。


透子は玲の手元を見つめ、声を震わせながらも短く告げる。

「玲……落ち着いて。大丈夫、私たちがいる」


奈々は端末の画面を睨み、冷静にトラップ解除の手順を進める。

霧島は鋭い視線で周囲を警戒し、仲間たちの背中を守る。


玲は深く息を吸い込み、胸の痛みを力に変えた。

「過去は変えられない。だが、今、守るべきものがある」


彼の瞳に迷いはなかった。

桐嶋も一瞬、視線を玲に向け、共に戦う覚悟を固める。

湖畔の廃工場で、チーム全員の決意が静かに交錯した。


日時:2025年10月6日・午後3時57分

場所:湖畔の廃工場・中央ホール


玲の心臓が跳ねた。

空気が微かにざわめき、耳鳴りのような音が辺りに満ちる。


——敵の心理誘導トリックが、今、発動したのだ。


壁のライトが不規則に点滅し、ホール中央の空間に影が歪む。

スクリーンには過去の事件現場の映像が断片的に映し出され、玲たちの意識を混乱させる。


「……これは……記憶操作……!」透子の声がかすれる。


奈々は端末に指を走らせ、スクリーン映像の解析を始める。

霧島は鋭い視線で周囲の異常を確認し、防御態勢を取った。

桐嶋は額の汗をぬぐいながら、仲間の動きを確認する。


玲は一瞬、胸にかつて救えなかった人物の姿を思い浮かべる。

その痛みを心に刻みながら、冷静に心理トリックの構造を分析する。


「これは……敵が我々の恐怖と不安を誘導しているだけだ」

玲の低く確固たる声が、混乱の中で響き渡った。


彼は心臓の鼓動を抑え、仲間に短く告げる。

「透子、落ち着いて。全員、指示に従え」


薄暗い廃工場の中央で、玲たちは敵の仕掛ける心理迷路に立ち向かう――。


日時:2025年10月6日・午後4時02分

場所:湖畔の廃工場・中央ホール


玲の声は、過去の自分へ向けた叫びでもあった。

「恐れるな……見極めろ!」


透子の震える手がわずかに止まる。奈々が端末を操作し、映像の断片を一つずつ解析して提示する。

霧島は影の動きを正確に読み取り、通路の安全を確保。桐嶋は仲間の背後を固め、警戒を緩めない。


玲は深く息を吸い、心理誘導のパターンを見極めた。

壁のライトの点滅、映像の断片、床下からの振動――全てが敵の意図的な錯覚演出だ。


「焦るな。影と光、音の歪みに惑わされるな」

玲の低く確かな声が、混乱の中で仲間たちを落ち着かせる。


透子が小さく頷き、玲の指示に従いながら安全な位置へ移動。

奈々の解析で表示された経路を頼りに、霧島と桐嶋が前後から護衛する。


心理トリックの中心――スクリーン前の空間――を通過する瞬間、玲は過去の失敗を思い返す。

だが、今の玲は違った。冷静な観察力と仲間との連携で、敵の誘導を正確に読み切っていた。


そして、全員が安全地帯に到達する。

廃工場の空間に緊張が張り詰めたまま、だが、心理トリックは完全に回避されていた。


玲はわずかに肩の力を抜き、透子を見つめる。

「よく踏みとどまった……これで、罠は切り抜けられた」


透子は息を整え、涙をこぼしながらも小さく微笑む。

奈々が端末を確認し、全システムの異常信号が消えていることを告げる。


敵の心理誘導トリックは、玲たちの冷静さと連携によって、完全に無力化された。


日時:2025年10月6日・午後4時05分

場所:湖畔の廃工場・中央ホール


桐嶋の瞳がゆっくりと開く。

「行くぞ」


廃工場の床には、巧妙に仕掛けられた物理トラップが点在していた。圧力センサー、落下式の鉄格子、微細なワイヤー。すべてが、心理トリックと連動し、通過者の動きを監視する構造になっている。


玲は一歩ずつ周囲を見渡し、仲間に指示を送る。

「透子、左手の壁沿いを。奈々、端末で圧力センサーの状況をモニター。霧島、前方警戒。桐嶋、後方を守れ」


透子は恐る恐る足を運ぶ。足元の床板の微かな反応を奈々が端末で解析し、トラップの安全な経路をリアルタイムで指示する。

霧島は影のように先回りし、落下式鉄格子をワイヤーで固定し、桐嶋が後方から仲間を守る。


玲の視線は床、壁、天井に分散される。微かな振動、光の反射、空気の流れ――全てが敵の罠を示す手がかりだ。


「ゆっくり、無理はするな」

玲の低く落ち着いた声が、チームの動きを統率する。


数分後、全員が物理トラップの密集地帯を通過。わずかなミスも許されない状況で、仲間同士の連携と玲の冷静な判断が、二重構造の罠を完全に無力化した。


廃工場のホールは一瞬、静寂に包まれる。

玲は短く息を吐き、透子の肩に手を置く。

「よく耐えた。これで罠は回避できた」


透子は深く息を吸い、震えた手を握りしめながらも、小さく微笑んだ。

奈々が端末を確認し、全ての物理トラップが解除されたことを知らせる。


こうして、玲たちは心理と物理の二重構造の罠を突破し、次の行動への道筋を確保したのだった。


日時:2025年10月6日・午後4時15分

場所:湖畔の廃工場・隣室


同時刻、伊吹圭と御影冬馬は隣室に陣取り、静かにモニターと脳波センサーを立ち上げた。


「脳波の安定値はどうだ?」伊吹が低く尋ねる。

御影はセンサーの波形を注視しながら答える。

「透子のストレス反応は最小限。心理トリックに惑わされていない。ただし、微細な緊張波が断続的に出ている」


モニターには廃工場内の透子たちの位置と、周囲の物理トラップ状況がリアルタイムで表示される。

「玲の判断と連携が正確でなければ、この反応はすぐに危険域に達するな」伊吹がつぶやく。


御影はさらにデータを解析し、心理誘導トリックの発動タイミングを予測する。

「次の5秒で左側通路に微細な圧力変化が出る。玲、情報を送れ」


無線を通じ、玲の耳に御影の指示が届く。

玲は一瞬、透子と仲間の動きを確認し、声を低く発する。

「透子、左壁沿いをさらに慎重に。奈々、端末で監視継続。霧島、前方警戒を強化」


脳波センサーのデータとモニター情報が、玲たちの判断と完全に同期する。

二重構造の罠を突破する鍵は、現場の感覚と隣室の遠隔サポートの精密な連携にあった。


伊吹と御影は微かな緊張を共有しつつ、透子たちの無事を祈るように画面を見つめた。


日時:2025年10月6日・午後4時17分

場所:湖畔の廃工場・現場および隣室


御影は冷静な表情で短く告げた。

「次のトラップは左通路。物理圧力と心理誘導が同時に作動する」


玲は即座に指示を出す。

「透子、左壁沿いを維持。奈々、端末で圧力センサーの変化をモニター。霧島、前方警戒」


奈々は端末を睨み、迅速にデータを読み解く。

「圧力変化を検知。微調整で壁沿い移動を指示。成功率は95%」


透子は玲の声を頼りに、呼吸を整えながら慎重に進む。

霧島は前方の影を監視し、壁沿いの細かな振動も見逃さない。


御影は脳波センサーを通じ、透子の心理状態をリアルタイムで解析。

「緊張値安定。罠に惑わされていない。玲、左側の小型トリガーも回避可能」


玲は一歩一歩を確認しながら指示を重ねる。

「よし、このまま通路中央まで。次の区画で止まるな」


チームは隣室の情報と現場の感覚を融合させ、複合トラップを完璧に回避した。

微かな緊張の波を乗り越え、透子たちは次の安全地点へと進む。


日時:2025年10月6日・午後4時20分

場所:湖畔の廃工場・隣室


伊吹がモニター越しに補足した。

「玲、次の区画には光学トリガーと音響センサーが組み合わさった二重警戒がある。心理的焦燥を誘うため、幻聴や影の錯覚も発生する可能性が高い」


玲は深く頷き、短く指示を出す。

「透子、足元を意識。奈々、光学と音響のデータをリアルタイム解析。霧島、影の異常を常に報告」


奈々は端末のスクリーンに集中し、光の反射や音の変化を追う。

「センサーの閾値を解析中。幻覚や錯覚は視覚的ノイズとして除外可能」


透子は玲の声を頼りに、慎重に通路を進む。

霧島は影の揺れや微かな床の振動をチェックし、チーム全員に即座に情報を伝える。


伊吹は補足として脳波センサーの解析も続ける。

「全員の緊張値をモニター中。心理誘導に引っかかっている者はなし。玲、このまま進行可能」


玲は微かに息を整え、仲間の情報を統合して次の指示を決定した。

「よし、次のトラップも冷静に突破する。全員、油断するな」


日時:2025年10月6日・午後4時45分

場所:湖畔の廃工場・主作戦区画内


青柳が桐嶋の前に腰を下ろし、低く落ち着いた声で話しかけた。

「桐嶋、落ち着け。焦るな。君の心が揺れれば、敵の思うツボだ」


桐嶋はわずかに息を整え、目を伏せながらも頷く。

青柳の言葉は、単なる慰めではなく、心理誘導トリックに対抗するための冷静さを取り戻させる力を持っていた。


玲は少し離れた位置から状況を見守り、全員に短く指示を出す。

「桐嶋、深呼吸。目の前の情報だけに集中しろ。奈々、透子、異常値は即報告」


奈々は端末に表示されたデータを確認し、透子は桐嶋の肩越しに微かに声をかける。

霧島は警戒を緩めず、周囲の物理トラップを確認する。


青柳は静かに続ける。

「敵は君の恐怖や焦りを利用して、心理誘導を仕掛けている。それを無効化するには、意識を自分に戻すことだ」


桐嶋はゆっくりと目を開き、再び現実に集中する。

玲は全員の動きを再確認し、次の突破口を見据えた。


日時:2025年10月6日・午後4時50分

場所:湖畔の廃工場・主作戦区画内


その言葉が空気を切り裂くように響いた瞬間、桐嶋の瞼が微かに震えた。

脳波モニターの針は跳ね上がり、赤く点滅する。


青柳がすぐに傍に寄り、低く指示を出す。

「落ち着け、桐嶋。君は実験体Cじゃない。君の意識を取り戻すんだ」


玲は隣室のモニターを確認しながら、冷静に状況を整理する。

「脳波が不安定だ。心理誘導トリックが動作している。奈々、透子、桐嶋の反応に注意しろ」


桐嶋は苦しそうに息を整えながらも、青柳の声に呼応するように意識を取り戻す。

モニターの跳ね上がった針は、徐々に落ち着きを取り戻し、数値は安定していく。


御影冬馬は隣でモニターのログを記録し、低く告げる。

「トリックは複合型。物理と心理が同時に作用している。Cが安定すれば突破可能だ」


桐嶋の肩に透子がそっと手を置き、微かに励ます。

その瞬間、湖畔の廃工場に張り巡らされた罠の一部が無効化され、次の行動の道筋が開けた。


日時:2025年10月6日・午後4時53分

場所:湖畔の廃工場・主作戦区画内


御影冬馬の手がモニター上で止まった。

画面には桐嶋の脳波が異常なパターンを示しており、赤い警告ランプが点滅する。


「……C個体が、再び自己防衛モードに入った」御影は低く呟く。


玲は即座に解析を行いながら、全員に指示を飛ばす。

「全員、桐嶋を中心に位置を調整。C個体の心理トリガーを解除するまで、物理トラップに接触するな」


橘透が端末に手を置き、微細な周波数の干渉を開始。

「脳波の揺らぎを補正する。落ち着け……桐嶋」


桐嶋は苦悶の表情を浮かべながらも、徐々に呼吸を整える。

透子がそっと肩に手を置き、静かに声をかける。

「大丈夫……玲も、みんなも、ここにいる」


玲はホワイトボードに短くメモを走らせる。

『C個体:心理誘導+自己防衛モード』

「理解した。これが最後の突破口だ」


緊張感が張り詰めた室内で、チーム全員がC個体・桐嶋の制御回復に集中する。

わずかな時間の遅れが、全員の命運を左右する――。


日時:2025年10月6日・午後5時02分

場所:湖畔の廃工場・主作戦区画内


桐嶋は息を詰まらせ、唇を固く閉ざした。

目の前の光景に、思考の整理が追いつかない様子だった。


「……転送開始。」御影冬馬の冷静な声が静寂を切り裂く。

隣室のモニターには桐嶋の脳波が映し出され、C個体としての覚醒が徐々に解除されていく。


伊吹圭が操作パネルを操作しながら補足する。

「桐嶋の意識は保護されている。強制介入は最小限、転送成功率は高い。」


桐嶋の瞳が微かに揺れ、意識が現実へと戻り始める。

透子も玲の腕にしがみつきながら、その様子を見守る。


橘透が端末の画面に目をやり、全員に声をかける。

「完了まであと十秒。全員、位置を確認して!」


玲は短く頷き、桐嶋を含めた全員の安全を確認する。

チームの呼吸が一つに揃い、緊張のピークが張り詰める。


光の中、桐嶋の意識が徐々に安定していき、転送は無事完了。

「……戻ったか?」玲の低い声に、桐嶋は小さく頷いた。


廃工場の闇に、再び静かな安心が訪れる。


日時:2025年10月6日・午後5時05分

場所:湖畔の廃工場・主作戦区画内


桐嶋の意識が徐々に戻る中、九条誠が静かに背後から口を挟んだ。

「……覚えておけ、今回のC個体の保持者は、完全に移植されたわけじゃない。記憶や反応の一部は、まだ外部に残っている。」


玲は一瞬眉を寄せるが、すぐに冷静に状況を整理する。

透子が不安げに玲の腕に手を添え、橘透が端末を睨みながら操作を続ける。


御影冬馬は短く頷き、脳波モニターを再確認する。

「保持者の残留記憶が干渉しないよう、保護回路を最適化しました。桐嶋の意識は安定しています。」


伊吹圭が補足する。

「ただし、移植された情報の断片はまだ存在している。次の作戦では、この残留部分が鍵になる可能性があります。」


桐嶋はふらつきながらも立ち上がり、深く息をついた。

玲は短く頷き、チーム全員に指示を送る。

「移植された情報の分析は後回しだ。まず全員、安全なルートで脱出しろ。」


日時:2025年10月6日・午後5時12分

場所:湖畔の廃工場・制御ブース前


玲は短く頷き、モニターの光が彼の表情を淡く浮かび上がらせた。

「…桐嶋の中の透子、ではない。今、焦点は“透子の中の桐嶋”だ。」


橘透が端末を操作しながら低く呟く。

「透子の脳波と桐嶋の残留記憶が交錯してる。信号の乱れから、彼女の意識が微妙に干渉を受けている。」


御影冬馬が脳波モニターを凝視し、短く報告する。

「残留記憶のパターンを追跡すれば、罠や誤誘導の予兆が見える。今のうちに解析を始めるべきです。」


伊吹圭が隣で補足する。

「チームは二手に分かれろ。霧島、篠宮は物理的監視と侵入路の確保。奈々、榊原は残留信号の追跡とデータ解析を担当。」


奈々がタブレットを握りしめ、微かに笑う。

「はいはい、玲、指示通りにやるよ。信号の強弱を見れば、敵の仕掛けも見えてくる。」


霧島が低く唸りながら、影のように廃工場内の通路を確認する。

「異常な気配はまだ残っている。慎重に進む。」


玲はホワイトボードに新たな線を引き、チーム全員に視線を巡らせる。

「残留記憶は、敵が次の罠を設置する手がかりになる。見逃すな。」


透子は震える手で玲の腕に触れ、かすかな安心を得る。

「…私、覚えてる。桐嶋のことも…自分のことも。」


伏見陽介が壁に貼られた暗号パターンを指差し、冷静に解析を続ける。

「残留記憶の反応と、壁面の信号パターンが一致している。これは次の部屋の誘導装置に関わる。」


こうして玲たちは、“透子の中の桐嶋”という複雑な謎を手がかりに、チームの連携で次の罠を読み解き、前進することとなった。


日時:2025年10月6日・午後5時45分

場所:湖畔の廃工場・制御ブース内部


御影冬馬がモニターの前で静かに告げた。

「玲、再度ダイブを行う。だが注意しろ。今回は他者の記憶が紛れ込んだ状態での探索になる。」


玲は軽く息を吸い、ゆっくりと頷く。

「わかっている。透子の残留記憶と桐嶋の記憶が混在する。この状態では判断を誤れば罠に嵌る。」


伊吹圭が隣で補足する。

「脳波干渉が強くなる瞬間がある。解析チームは即時フィードバックを用意してくれ。」


橘透が端末を操作しながら信号を確認する。

「残留記憶の重なりで微細なノイズが増幅している。ここを突破するには、玲の直感だけが頼りだ。」


霧島と篠宮は制御ブース周囲で物理的に安全を確保し、低い声で連携を取り合う。

霧島:「何か動いたら即座に知らせろ。」

篠宮:「了解。」


奈々が端末を凝視しながら報告する。

「記憶の混線が再現映像に反映されてる。玲、ここでの一歩は慎重に。」


玲は静かに目を閉じ、呼吸を整えた。

「よし…行く。」


脳内に入り込む瞬間、透子の声と桐嶋の残留記憶が交錯し、周囲の映像が揺らぎ始める。

玲は手を前に伸ばし、混ざり合った記憶の中から必要な手がかりだけを掴む作業を開始した。


御影がモニターを見つめ、冷静に声をかける。

「集中。不要な記憶に引きずられるな。敵はそこに罠を仕込んでいる。」


伏見陽介が壁面の暗号データを解析しながら追加入力。

「記憶の交錯に隠されたパターンを抜き出す。これで次の部屋の誘導を事前に特定できる。」


こうして玲は、他者の記憶が混ざった危険な状態での探索に挑みながら、チームと連携して次の罠の正体に迫っていった。


日時:2025年10月6日・午後5時50分

場所:湖畔の廃工場・制御ブース内部


青柳が透子を見つめ、その瞳に静かに問いかけた。

「君の中に、誰がいるのか…?」


透子は小さく肩を震わせ、口を開こうとするも言葉が詰まる。

その体の奥で、桐嶋の記憶が微かにうごめき、かすかな声となって響いた。


玲はゆっくり目を閉じ、心を集中させる。

「他者の記憶が混ざったこの状態でも、必要な手がかりだけを掴む。」

透子の意識と桐嶋の残留記憶の間で揺れる情報の海を、玲は慎重に整理していく。


橘透が端末の波形を確認しながら声をかける。

「干渉が強まった。玲、ここを誤ると二人の記憶が完全に混ざる。」


御影冬馬が冷静に指示を出す。

「必要な情報だけを抽出せよ。残りは切り捨てろ。」


玲は透子の目を見据え、静かに言葉を紡ぐ。

「君の中の誰か…その声が、僕たちの次の手がかりになる。」


透子は小さく頷き、胸の奥に眠る記憶の断片に意識を向ける。

玲はその断片を手繰り、混ざり合った記憶の中から真実だけを選び取る作業を始めた。


青柳はその様子を見守りながら、低くつぶやく。

「私の中の誰か…君はそれを恐れずに向き合えるのか。」


玲の指先が空中を走り、スクリーン上の記憶映像の断片が次々と整理されていく。

こうして、玲とチームは他者の記憶が混ざった危険な状態での探索を進め、透子を導くための手がかりを手にしていった。


日時:2025年10月6日・午後6時15分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


透子は記憶再演装置の中心に静かに座り、深呼吸を一つ。

薄暗い部屋の中、光のリングが彼女を取り囲み、淡い青白い光がゆらめく。


玲はスクリーンに映し出された断片化された記憶を凝視する。

壁際で端末を操作する橘透が微細な波形の変化を報告する。

「罠の干渉信号…ここが危険領域です。」


御影冬馬は冷静に指示を出す。

「透子の意識を保ちながら、危険な断片を迂回させろ。」


玲は指先でスクリーンの映像をなぞり、微細な断片から罠の位置と発動条件を特定する。

「このルートなら安全だ。透子、君はそこを通る。」


透子は微かに眉を寄せ、揺れる意識の中で玲の声を頼りに進む。

光のリングが瞬時に変化し、精神的な圧迫がかかる。

だが玲は落ち着いた声で導き、彼女の意識を支え続けた。

「焦るな、深呼吸を。君の記憶の道を一歩ずつ進めばいい。」


橘が端末のボタンを押すと、危険領域を示す赤い波形が消え、透子の通過ルートが明確になる。

透子は小さく頷き、玲の言葉に従い、記憶の迷路を慎重に進む。


霧島は背後で警戒を続け、万が一の物理的な罠にも備える。

青柳は透子の精神状態をモニターで確認しながら、静かにサポートする。


玲は記憶の断片を手繰り、過去の痕跡と罠の位置を正確に結びつける。

その瞬間、透子の目が鋭く光り、深層の記憶と現実の空間が完全に同期する。


そして、透子は玲の導きで、危険な断片を回避しつつ記憶迷宮の出口へと歩み出した。

緊迫の中、チーム全員の呼吸が揃い、空間には静かな安堵が広がる。


日時:2025年10月6日・午後6時22分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


モニターには、透子自身の記憶ではない情景が徐々に映し出される。

薄暗い部屋の光が揺らぎ、断片化された“他者の記憶”が入り混じる中、透子の呼吸は乱れ、手が微かに震える。


玲は冷静に画面を凝視し、端末の波形を解析する。

「罠の位置と発動条件を特定した。過去の痕跡と結びつければ安全ルートが見える。」


橘透が端末で信号を操作し、危険領域を示す赤い波形を徐々に消去。

御影冬馬が隣室から、透子の意識状態をモニターで確認しながら指示を送る。

「焦るな、透子。断片化された記憶に惑わされるな。」


透子は玲の声を頼りに、危険な断片を回避しつつ、迷宮の出口へ向かって慎重に歩み出す。

歩幅一つ一つが、微細な罠の回避と同期している。


霧島は背後で警戒を維持し、青柳は精神的サポートに集中する。

伏見陽介も解析画面を見つめ、断片化された映像と現実空間を重ね合わせて、最終的な危険箇所を指示する。


やがて透子は、完全に記憶迷宮を抜け出し、玲の導きとチームのサポートにより、最後の罠の解除に成功する。

モニターの映像は静止し、光のリングが淡く消える。

透子は安堵の息を漏らし、玲は静かに微笑む。


日時:2025年10月6日・午後6時25分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


映像が徐々に鮮明になり、透子の意識が深層に沈み込むと、白衣の研究員たちの中に、かつての仲間──若き日の風間京吾と神代連の姿が浮かび上がった。


透子の瞳が揺れ、彼女の記憶と現実の境界が微かに歪む。

その瞬間、**片瀬志乃(倫理監査補佐)**が静かに現れる。

冷静な声で透子に語りかける。


「この実験には限界と危険が伴う。だが、あなたがここにいる意味は、すべての記録を安全に導くこと──そして、過去の迷宮から脱することにある。」


玲はモニターの前で指を止め、透子に向けて低く声をかける。

「迷わず進め、透子。君の中の断片が示す道を信じろ。」


橘透が端末操作で危険領域を遮断し、御影冬馬は透子の精神状態を綿密に監視する。

伏見陽介は過去映像の断片を解析し、白衣の研究員たちの動きと現場の罠を照合。


透子は深呼吸を一つし、過去の面影に導かれるように慎重に進む。

若き日の風間と神代の姿は、警告と道標の両方として透子の行動を誘導していた。


チームの指示と連携のもと、透子は過去の痕跡と危険な断片を巧みに回避し、記憶迷宮の出口に向かう。

片瀬志乃の静かな声が、彼女の背中を押すかのように響く。


日時:2025年10月6日・午後6時27分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


透子の唇がわずかに動き、かすれた声でぽつりと呟く。


「……あの人たち、子供に本を読んであげてた……風間京吾と神代連……」


その瞬間、モニターに映る映像が微かに揺れる。

白衣の研究員たちの傍で、若き日の京吾と連が笑顔で子供に物語を読んでいる姿が浮かび上がる。

透子の胸に、温かくも切ない記憶が押し寄せる。


玲はそっと透子に声をかける。

「覚えていていい、透子。過去の善意と記憶は、君の力になる。」


橘透は端末の操作を続け、危険領域を隔離する。

御影冬馬は透子の脳波を注意深く監視し、不要な混乱が入らないように調整する。

伏見陽介は映像の断片を解析し、若き日の京吾・連の行動パターンと現場の罠を正確に結び付ける。


透子は震える手を握りしめ、記憶の奥底に残る温かさを頼りに、一歩ずつ迷宮の出口へと進む。

その目に映る光景は、ただの映像ではなく、未来への道標でもあった。


日時:2025年10月6日・午後6時33分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


伊吹圭がモニターの前でふと足を止め、眉をひそめる。

「……待て、これ……」


画面に映る白衣の研究員たちの周囲で、子供の姿が一瞬だけ浮かび上がり、そしてすぐに消えた。

「消された……子供だ……」伊吹の声には思わず震えが混じる。


玲は眉を寄せ、端末の映像を食い入るように見る。

「透子、見えたか?」


透子は目を大きく見開き、かすかな声で答える。

「……ううん、私には……でも確かに、誰かが……」


橘透は端末を操作し、消えた痕跡の時間軸と空間座標を特定しようとする。

御影冬馬は透子の脳波を解析しながら、混線した記憶の影響を最小限に抑える。

伏見陽介は瞬時に映像と過去資料を照合し、消えた子供の存在の正体を推測する。


玲は深く息をつき、短く言葉を発した。

「……あの子は、誰かに記憶ごと消されている。だが、この痕跡は確実に残っている。」


事務所の空気が張り詰め、チーム全員の意識が、一瞬にして“消えた子供”の存在に集中した。


日時:2025年10月6日・午後6時45分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


伏見陽介は即座にラップトップを起動し、チームの目の前で「クロノデータ・リトリーバルシステム」にアクセスする。

「対象は……透子が覚えていない部分、消された記憶に関わる人物の履歴だ」


彼の指がキーボードを素早く叩き、膨大なデータが瞬時に解析されていく。

画面に次々と浮かび上がるログ、送信記録、消去された通話履歴——


伏見が声を潜めて報告する。

「……彼女、子供の頃に所属していた施設の記録に不自然な空白がある。正式な経歴には載っていないはずの‘保護者’や‘指導員’の存在が確認できる」


玲は画面を覗き込み、眉をひそめる。

「つまり、表向きの記録とは別に、もう一つの“事実の軌跡”があるということか……」


橘透が端末の映像を凝視し、淡い光の軌跡を追う。

「……この空間、消された記憶の残骸が物理的痕跡として残ってる。ここから辿れば、消された子供の正体が見えてくるかも」


御影冬馬は透子の脳波と映像データを同期させ、微細な変動を解析。

「記憶の干渉が残っている。慎重に誘導すれば、彼女自身の記憶とクロノデータを照合できる」


玲は短く頷き、チーム全員を見渡す。

「よし、次のステップだ。消された子供の軌跡を完全に再現する。透子、君も覚悟して」


透子は小さく息を吸い、震える手を握りしめた。


日時:2025年10月6日・午後6時50分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


九条誠が画面の隅で静かに眉をひそめ、低くつぶやいた。

「……やはり、記憶は書き換えられている」


透子の瞳が微かに揺れる。彼女の中に浮かぶ断片的な映像は、確かに彼女自身の記憶ではない色彩を帯びていた。

九条は手元のタブレットを操作しながら続ける。

「表向きの記録と、彼女の脳内に残された情報が完全に食い違っている……これは単なる抹消ではなく、意図的な再構築だ」


伏見陽介も画面を注視し、解析結果を補足する。

「消された子供の存在、そしてそれを取り巻く大人たちの軌跡……全てが操作され、透子の記憶に混入している。正しい情報と虚偽情報の境界が極めて曖昧だ」


玲はホワイトボードに視線を戻し、慎重にペンを握った。

「ならば、この混乱の中で真実を掴むには、彼女の断片的な記憶をクロノデータと照合し、重なり合う矛盾を一つずつ解きほぐすしかない……」


透子は唇をかすかに噛み、覚悟を決めたように息を整える。

「……やります、玲さん。私の記憶、ちゃんと取り戻したい」


九条は短く頷き、控えめに付け加える。

「気をつけろ。この過程で彼女の精神に影響が出る可能性がある。断片の中に罠が潜んでいるかもしれない」


室内に静かな緊張が満ちる中、玲とチームは再び透子の深層記憶へとダイブする準備を整えた——。


日時:2025年10月6日・午後7時03分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


玲は小さく息を吐き、冷静な声で口を開いた。

「志乃――まだ名前を持たなかった頃の記憶だ」


透子の瞳が揺れる。モニターには、白衣を着た大人たちに囲まれた小さな少女の姿が映し出される。彼女の動きはぎこちなく、しかし確かに人としての感情が滲んでいた。


伏見陽介が静かに解析を進める。

「この映像は記録に残されていない……外部からは存在を確認できない完全な未公開データだ」


九条誠は低くつぶやく。

「倫理監査補佐としての片瀬志乃……だが、この時点ではまだ“個人”としての輪郭すら与えられていない。外部に操作される前の純粋な記憶だ」


玲はモニターに映る少女の動作、表情の一つひとつを慎重に観察し、言葉を紡ぐ。

「ここに残る感覚、恐怖や孤独……これが彼女の原点だ。透子、君はこの情報を頼りに、何が本物で何が操作されたかを見極めなければならない」


透子は微かに息を整え、手元の装置に手をかける。

「分かりました……私の中の誰かに惑わされず、真実だけを掴みます」


室内の空気は再び張り詰める。玲の冷静な指示の下、チームは“名前を持たぬ少女・志乃の記憶”を手掛かりに、次なる断片への探索を開始した——。


日時:2025年10月6日・午後7時15分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


透子は静かに息を整え、モニターに映る映像を見つめた。

そこに映し出されているのは、まだ名前を持たなかった小さな少女――志乃の姿。


玲が静かに説明する。

「この映像は、志乃が外部の干渉を受ける前の、唯一無二の記憶だ。恐怖も孤独も、そして微かな希望も……全てが残されている」


伏見陽介がモニターを解析する。

「彼女は当時、施設の中で特定の大人たちと接触していた。しかし、その関係性は単なる教育や監督ではない。明確な心理誘導が行われていた痕跡があります」


九条誠は低くつぶやく。

「記憶操作の痕跡はこの時点では未成熟。だがこの段階での体験が、後の志乃の人格や、透子に重なる断片的記憶の基盤になっている」


モニターの中、志乃は机に向かい、本のページを指でなぞる。その動作には、知識への純粋な好奇心が滲む。

玲は目を細め、静かに指摘した。

「ここだ……志乃が最初に『世界の法則』を理解した瞬間。そして同時に、外部の圧力と管理に気付き始めた場所でもある」


透子の目が揺れる。

「……私の中に、この子の感情や恐怖が入り込んでくる……でも、混乱させられない」


玲は短く息を吐き、冷静に言った。

「そうだ。君は彼女の記憶の中を歩き、事実だけを取り出す。感情に惑わされず、罠も見抜くんだ」


室内の空気が再び張り詰める。

志乃の過去の断片――恐怖、孤独、わずかな希望――それらが透子と玲たちを次の謎解きへ導く道標となる。


日時:2025年10月6日・午後7時20分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


モニターに映る幼い志乃は、細く震える声で尋ねた。


「……この世界は、誰が決めているの……? 私、間違っているの……?」


透子は息を整え、微かに声を震わせながら答える。

「志乃……違うよ。あなたが感じたことも、考えたことも、全部正しい。間違ってなんかいない」


玲がすぐそばで静かに補足する。

「彼女の記憶は外部の圧力によってねじ曲げられていた。しかし事実は変わらない。君たちは、その事実を取り出すためにここにいる」


伏見陽介が端末を操作し、過去の資料と映像を照合する。

「心理誘導の痕跡は明確だ。志乃は小さな頃から、外部からの操作を受けていた。しかし彼女の内面には、歪められない真実も残っている」


志乃は小さく肩を震わせ、唇を噛む。

「……本当に、私は自由になれるの……?」


玲は静かに頷き、低い声で答えた。

「うん、必ず。君が本当の自分に触れることができるまで、僕たちが導く」


室内に緊張が張り詰める。

志乃の問い――“この世界の正しさ”――それは、透子と玲たちに課せられた次なる挑戦の合図でもあった。


日時:2025年10月6日・午後7時25分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


玲の表情がわずかに動いた。

彼の鋭い瞳が、モニターの端に映る微かな影を捉える。


「……誰か、見ている」


伏見陽介も反応し、端末のカメラ映像を確認する。

「監視の痕跡が残っている。複数の視点から観察されていた形跡だ」


霧島が低く唸るように言う。

「この部屋にいるのは、我々だけじゃない……か」


透子は微かに息を飲み、志乃の手を握る。

「志乃……大丈夫、玲たちがいる」


玲は静かに頷き、口元にわずかに笑みを浮かべた。

「監視者がいても、恐れる必要はない。見られていることも、計算に入れて動けばいい」


室内の空気は緊張に包まれ、監視者の存在がチーム全員の意識を引き締める。

だが玲の目には、冷静な判断力と決意が光っていた。


日時:2025年10月6日・午後7時27分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


志乃は目を逸らすことなく、玲を見据えた。

その瞳には、恐怖や戸惑いではなく、確かな覚悟と問いかけが宿っている。


玲は微かに息を吸い、静かに言葉を紡ぐ。

「志乃……君の記憶の奥に隠された真実を、今から一緒に見つける」


透子は手を少し強く握り、志乃にそっと視線を合わせる。

「怖くない、私もいる……玲たちも、みんなも」


伏見陽介が端末のログを確認しながら、低く告げた。

「監視者は、過去と今を繋ぐ痕跡を追っている……だが、今のこの部屋に干渉はできない」


霧島が軽くうなずき、拳を握る。

「ならば、俺たちが先に真実を掴むだけだ」


室内に静寂が訪れる。

志乃のまっすぐな視線と、玲の揺るがぬ決意——

二人の間に、沈黙の中で芽生えた信頼が確かに存在していた。


日時:2025年10月6日・午後7時30分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


玲は苦しげに眉を寄せ、目を閉じた。

深呼吸を繰り返すたびに、頭の中で断片化された映像と音声が入り乱れる。

志乃の消された記憶――監視者に書き換えられた過去の痕跡が、鮮明に、しかし矛盾を抱えたまま甦るのだ。


「……ここか……」玲は唇をわずかに震わせ、指先でホワイトボードの模型をなぞる。

彼の脳裏には、志乃の幼少期、消された名前、そして監視者が残した暗号が、一本の線で結ばれていく感覚があった。


透子がそっと玲の肩に手を置き、低く囁く。

「無理しないで……でも、真実は逃げない」


玲は目を開き、深く頷く。

「分かっている……俺たちは、この迷宮を抜け、志乃の記憶を取り戻す」


室内の空気が、一瞬だけ張り詰め、次の一手への緊張が全員に伝わる。


日時:2025年10月6日・午後7時35分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


霧島が端末を握り締め、低く呟く。

「……認識していなかった……」


その声に、室内の緊張がさらに深まる。

誰もが息を潜め、霧島の視線の先を追う。

彼が指差すのは、モニターに映る志乃の過去――意図的に隠されていた監視者の影だった。


奈々が眉をひそめ、端末を素早く操作する。

「……こんな場所まで、手が回っていたのか……」


玲は微かに口を開き、静かに、しかし確固たる声で言った。

「これが、志乃の記憶を封じた“監視の構造”か……」


透子はそっと玲の肩に触れ、視線をモニターに向ける。

「でも、必ず取り戻せる……私たちなら」


玲は頷き、ホワイトボードに新たな線を引く。

「全ての断片を結びつけ、次の罠を封じる」


緊迫の中、チームの全員がそれぞれの専門分野で動き出す。

霧島の言葉が、かえって皆の覚悟を固めた瞬間だった。


日時:2025年10月6日・午後7時40分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


青柳がモニターの前で腕を組み、冷静に補足する。

「この監視者の影……ただの偶然じゃない。志乃の記憶は、意図的に上書きされている。重要な部分だけ、意図的に見落とせるようになっているんだ」


奈々が端末を操作しながら、眉を寄せる。

「つまり、我々が目にしている断片は、全てが“仕掛け”の一部……」


玲は短く息を吐き、ホワイトボードに新たな線を引きながら言った。

「ならば、見えていない部分の存在を前提に動くしかない。断片だけで判断するな……全体を俯瞰し、欠落を補完する」


霧島が低く頷き、拳を握る。

「……これまでの経験が生きるかもしれない。見落としてきたものの全てを、今、取り戻す時だ」


透子は小さく息を吸い、玲の言葉を頼りに心を落ち着ける。

「全て、私の記憶の中にある……でも、私だけじゃない……」


チーム全員の視線が一致し、暗い記憶迷宮の中で、次の一手を決める瞬間が訪れた。


玲はホワイトボードに短く書き加える。

『志乃の記憶=北辰ファイルの最後の鍵』


日時:2025年10月6日・午後7時45分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


透子の指先がモニターの映像を震えるように指し示す。

「ここ……これが、最後の記憶の断片……」


画面には、幼い志乃が一冊の絵本を手に、微笑む姿が映っていた。

しかしその背後には、黒衣の人物たちの影が微かに映り込む。


玲は目を細め、静かに分析する。

「これは単なる記憶ではない。重要な情報が符号化されている。影の位置、角度、周囲の配置……全てが“手がかり”だ」


青柳が端末を操作し、映像の解析を始める。

「志乃の記憶に紛れた他者の痕跡も、ここで特定できる。これが解ければ、犯人の行動パターンも見えてくる」


霧島が静かに呟いた。

「……最後の断片まで来たな。全てを結びつければ、真相の輪郭が浮かぶ」


透子は小さく息を整え、心の奥にある記憶の奥底と向き合う。

「……これで、全部……」


チーム全員の視線がモニターに集中し、最後の断片を手がかりに、真実への一歩が刻まれた瞬間だった。


志乃は静かに反論した。

「私の記憶? 私の中に、そんな大事なものがあるなんて信じられない……。今までただ、自分の仕事をこなしてきただけなのに。」


日時:2025年10月6日・午後7時50分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


伏見陽介はモニターに映し出された膨大なデータをスクロールしながら、低く呟いた。

「……このプロジェクト名……消去されていたはずなのに、記録に残っている」


画面には、かすかに残された文字列が赤く点滅していた。

“PROJECT LUMINESCENCE”——かつて極秘裏に進行していたはずの計画だ。


玲が眉をひそめ、端末の情報を凝視する。

「抹消された情報がここに現れるということは、誰かが意図的に痕跡を残している……。つまり、犯人は我々に何かを知らせようとしている可能性が高い」


霧島が拳を軽く握り締める。

「……まさか、この事件の全貌は、過去のこのプロジェクトと直結しているのか」


透子は小さく息を整え、モニターに映る記憶の断片と画面の赤い文字列を重ね合わせる。

「……このプロジェクト……私の記憶にも、何か関わっていたのね」


青柳が静かに補足する。

「PROJECT LUMINESCENCE……ただの研究名ではない。過去の記憶操作、心理実験、そして密室事件の裏に隠されたすべてが、この名前に結びつく」


チーム全員がその意味を理解し、沈黙の中で次の行動を思案した——。


日時:2025年10月6日・午後7時55分

場所:湖畔の廃工場・記憶再演室


玲はゆっくりと志乃の方へ体を向け、低く、しかし確かな声で語りかけた。

「……志乃、君が関わっていた“PROJECT LUMINESCENCE”のことだ」


志乃は一瞬息を飲み、目を大きく見開いた。

「……どうして……知っているの……?」


玲の瞳は静かに揺れながらも、迷いはなかった。

「君の記憶には封じられていた。それでも残った痕跡を、俺たちは辿ることができる。君を守りながら、この真実を明らかにするために」


透子が小さく肩をすくめ、玲の言葉を受け止める。

「……これが、私たちの知らなかった過去……」


霧島が背後で静かに拳を握る。

「……あのプロジェクト、表向きは終わったはずだ。しかし、今もこうして事件と絡み合っている」


伏見陽介が端末を操作し、プロジェクトの断片情報を画面に表示する。

「心理誘導装置、記憶操作、密室実験……これまでの事件はすべて、ここに繋がる」


玲は志乃に目を向け、さらに低く告げる。

「……君の記憶が鍵だ。この迷宮を抜ければ、犯人の意図も、罠も、全て見えてくる」


部屋の空気が一気に張り詰め、チーム全員が次の行動を静かに覚悟した——。


九条誠がゆっくりと口を開く。

「……玲、志乃に全てを告げるべきかどうか、迷っているのかもしれませんね」


志乃の瞳が揺れる。問いかけるように、しかし声には力がない。

「……全部、話すの……?」


玲はしばらく沈黙し、ホワイトボードの情報を見つめたまま小さく息を吐く。

「……告げることで、迷いも恐怖も生まれる。しかし、封じたままでは真実に辿り着けない」


透子がそっと志乃の手に触れる。

「……怖くても、私たちと一緒なら大丈夫」


九条は軽く頷き、慎重に言葉を重ねる。

「真実は、時に痛みを伴う。しかし、それが未来への道しるべとなる」


玲は再び志乃に視線を向け、静かに決意を告げる。

「……全て話す。君の記憶と、過去の真実を、共に解き明かそう」


志乃は拳を握りしめ、唇の端に微かに笑みを浮かべた。

その瞳には、恐怖ではなく覚悟が宿っている。


玲はその表情を見逃さず、静かに頷く。

「……よし、なら行こう」


透子もすぐそばで小さく息を整え、志乃の肩に手を添える。

「一緒に、出口まで辿り着こう」


九条は軽く肩を叩き、冷静な声で告げる。

「記憶の迷宮は深い。だが、君たちが互いを信じれば、罠も恐れる必要はない」


伏見陽介が端末を操作し、微細な座標と過去の痕跡を同期させる。

「ここから先は、物理的な罠と心理誘導が複合する。慎重に行動を」


霧島が防御姿勢を取り、全員の安全を見据えた。

部屋の空気が一瞬、鋭く張り詰める。


志乃は小さく息を吸い込み、覚悟を胸に、玲たちと共に記憶迷宮の深部へと歩を進めた。


――2025年10月15日・午後3時

研究所跡地、深層記憶解読室。


透子は記憶再生装置の中心に静かに腰を下ろし、深呼吸を一つ。

「……行くわ」


伊吹圭は操作パネルの前に立ち、モニターと脳波センサーを入念に確認する。

「透子、君の意識を保ちながら、断片化した記憶を追う。焦らずに」


玲は端末を手元に置き、透子の深層記憶にアクセスするための暗号化キーを入力。

「迷宮の出口は必ず存在する。君の意識を頼りに罠を回避する」


モニターには徐々に、透子自身のものではない断片的な映像が浮かび上がる。

白衣の研究員、消えた子供たち、未解決事件の痕跡――過去と現在が入り混じる迷宮。


伏見陽介が解析端末を操作し、断片と物理的な罠の位置をリアルタイムでマッピングする。

「危険な記憶断片はここ、物理的な罠はここ……慎重に」


霧島は防御姿勢を取りつつ、部屋の外からサポート。

「異常を感じたら即座に遮断。透子、君の集中が全てだ」


透子の声がかすかに震える。

「……わかってる、怖いけど……でも、逃げない」


玲がそっと手を伸ばし、透子の肩に触れる。

「君の意識を信じる。共に出口へ」


橘透が端末に入力し、装置の制御を微調整。

光と音の刺激が最小限に抑えられ、危険な断片は遮断される。


こうして、透子は玲、伊吹、橘、そしてチーム全員の連携によって、記憶迷宮の最深部を安全に通過し始めた。


時間:2025年10月15日・午後3時15分

場所:研究所跡地・深層記憶解読室


伊吹が操作パネルの前で手を止め、沈黙を切り裂くように声を発した。

「透子、見て! この断片……まだ封じられていた記憶が浮かび上がっている!」


モニターには白衣の研究員たちの姿が重なり合い、かすかな声や動作が断片的に映し出される。

「こ、これは……消されたプロジェクト……」透子の声がかすれる。


伏見陽介が解析端末を叩きながら応答する。

「PROJECT LUMINESCENCEの記録が、完全には抹消されていなかった……これは手がかりになる」


玲は深く息を吸い、静かに頷く。

「この断片を頼りに、迷宮の出口と次の罠の位置を特定する。透子、落ち着いて」


霧島は周囲を警戒しながらも、透子に安心感を送るように言った。

「異常があれば即座に遮断する。君は自分の意識を信じろ」


橘透は端末の制御を微調整し、危険な断片が透子の認知に影響を与えないよう光と音を最適化する。

「これで安全だ……焦らず進め」


透子は深呼吸を一つし、震える手で装置のハンドルを握る。

「……わかった。進む」


こうして、伊吹の指摘により新たな手がかりが明らかになり、透子は玲たちの指示と連携のもと、封印された記憶の断片を安全に探索しながら迷宮の出口へと歩みを進めた。


時間:2025年10月15日・午後3時30分

場所:研究所跡地・深層記憶解読室


モニターに映し出されたのは、冷徹な研究施設内部の映像だった。

無機質な白い壁、規則正しく並ぶ実験台、そして薄暗い通路を行き交う白衣の研究員たち。


透子は息をのむ。

「……ここが、あの時の場所……」


伏見陽介が端末の解析結果を指し示す。

「映像には、過去の操作記録と被験者の反応データが残されている。注意深く見るんだ、透子」


玲はホワイトボードに新たな線を引きながら、低く告げる。

「ここに隠された情報が、君の記憶迷宮を抜ける鍵になる。焦るな」


伊吹が操作パネルを微調整し、映像と音声の同期を完璧にする。

「危険な断片は除去した。君は自分の意識だけに集中して」


透子は深呼吸を繰り返し、覚悟を決める。

「……わかった、進む」


霧島は背後で警戒しつつ、透子に静かに言葉をかける。

「落ち着け。俺たちはいつでも支える」


こうして、透子は玲たちのサポートのもと、冷徹な研究施設の映像の中で、安全に記憶の迷宮を探索し始めた。


時間:2025年10月15日・午後3時45分

場所:研究所跡地・深層記憶解読室


玲がモニターを見つめ、眉をひそめる。

画面には、透子の記憶再生装置に残された断片的な映像が次々と流れ込んでいた。


「……これは想定外だ」

玲の声は低く、しかし緊張感を帯びていた。


伏見陽介が解析端末を操作し、情報の断片を拡大する。

「記憶の中に、他者の残留痕跡が混ざっている……これでは正確な回避が難しい」


伊吹が端末に手を置き、慎重に調整を行う。

「安全領域を確保して、危険な断片を遮断する。玲、指示を」


玲は一瞬目を閉じ、深く息を吸い込む。

「透子、今から俺たちの指示に従って進め。罠は見えている、だが一歩間違えれば記憶が混乱する」


透子は震える手を握りしめ、頷いた。

「……わかった、玲。進む」


その瞬間、事務所の空気が一層張り詰め、玲たちは“記憶の迷宮”と現実の狭間で、慎重に次の手を打ち始めた。


時間:2025年10月15日・午後3時52分

場所:研究所跡地・深層記憶解読室


伊吹が端末に手をかけ、慎重に操作する。

「ニューロメッシュ・インターフェースを再定義する。透子の記憶空間を再編して、安全領域を確保する」


透子は微かに息を整え、椅子に深く腰を下ろす。

「……お願いします」


伏見陽介がデータ解析画面をスクロールし、残留する他者の記憶痕跡を示す。

「ここが危険領域。間違えると、他者の感情や行動が入り込む」


玲は端末を凝視しながら、短く指示する。

「伊吹、慎重に。透子をそのままの状態で誘導する。俺たちは罠の位置を逐一伝える」


伊吹が静かに頷き、ニューロメッシュ・インターフェースを微調整する。

再び記憶迷宮の中で、透子と玲たちの連携が試される緊迫の瞬間が始まった。


時間:2025年10月15日・午後3時57分

場所:研究所跡地・深層記憶解読室


風間京吾の記録音声が静寂を切り裂くように響いた。

「……このプロジェクトは、表に出せない。もし第三者が関与した場合、全員が危険に晒される……」


透子の身体が微かに震える。

「……これは、あの時の……」


玲は眉間に皺を寄せ、音声の内容を即座に分析する。

「過去のプロジェクト記録だ。風間の声が、迷宮内の誘導を指示している」


伊吹が端末を操作し、音声にリンクされた記憶断片を抽出する。

「透子、落ち着いて。声の指示通りに進めば、安全領域にたどり着ける」


伏見がモニターのグラフを指差す。

「罠の起動条件は、音声のタイミングに連動している。今が分岐点だ」


透子は小さく息を吸い、玲と伊吹の指示に従って慎重に歩を進める。

記憶迷宮の中、風間の残した声が道標となり、罠回避への道を照らしていた。

日時・場所


日時:事件解決から数週間後・午前10時

場所:玲探偵事務所



玲が事務所で資料整理をしていると、端末が軽く振動した。

画面には、志乃からのメール通知が表示される。


差出人:片瀬 志乃

件名:お礼と報告


玲は画面をタップし、本文を読む。


「玲さん、そしてチームの皆さんへ

本当にありがとうございました。

あなたたちのおかげで、自分の記憶と向き合う勇気を取り戻せました。

これからは、自分自身の人生を、自分の意思で歩んでいきます。

心から感謝しています。」


玲はメールを閉じ、深く息を吐く。

チームの仲間たちもそれぞれ微笑み、静かな安堵の空気が事務所を包む。


奈々が端末を覗き込み、柔らかく言った。

「玲……よかったですね。」


玲はほんの少しだけ笑みを浮かべ、窓の外に広がる穏やかな空を見つめた。

事件は終わった——けれど、まだ誰かの記憶と真実を守るための戦いは続くのだと、静かに胸に刻む。

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