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第10話 見えない光

主要メンバー(チーム)

1.玲

•デスクで資料やUSBを整理しつつ、森を見ながら思索。

•事件解決後も冷静沈着で、次の展開を見据える。

2.秋津

•書類を整然と分類し、事件中の冷静さを振り返る。

•記録整理や分析作業に没頭し、安定感を提供。

3.篠原

•腕を組みながら資料や暗号を整理。

•森での裏切り者の存在を思い出し、警戒心と洞察力を発揮。

4.冴木涼

•窓辺で森の遠景を見つめ、USB解析結果を反芻。

•緊迫した事件の記憶を楽しみつつ、次への情報収集も怠らない。

5.美波誠

•山小屋での証拠収集の記憶を思い返しながら、資料整理に集中。

•冷静で丁寧な作業が得意、チームの安定したサポート役。



事件関係者

6.裏切り者

•森での事件中、情報や行動でチームに迷惑をかけた人物。

•警察や玲たちの判断により処遇が決まる。

7.監視者

•森で潜伏してチームを監視していた。

•捕捉されるか、逃亡を続けるかが描写される。



その他

•佐伯(故人)

•事件の中心人物。最後の痕跡や暗号が物語の鍵。

•死の真相や残した証拠がチームの行動と結末を導く。

【時間:午前8時30分】

【場所:玲探偵事務所〈新ペンション型事務所・1階ダイニング兼打ち合わせスペース〉】


朝の光が大きな窓から差し込み、木目のテーブルを照らしていた。

引っ越しを終えたばかりの事務所には、まだ段ボールが隅に積まれている。


篠原はその山を前に腰を伸ばし、苦笑した。

「……なあ、玲さん。本当に探偵事務所っていうより、宿屋にしか見えないんだけど。」


秋津はカウンター越しにマグカップを二つ置き、にやりと笑う。

「宿屋で探偵やるのも悪くないだろ。依頼人が泊まり込みで相談してもおかしくない雰囲気だ。」


玲は壁に掛けた時計を一瞥し、淡々と答える。

「どこに居てもやることは変わらない。――ただし、ここでは騒ぎが外に漏れにくい。それが利点だ。」


篠原は肩をすくめながらカップを受け取り、香りを嗅ぐ。

「まあ、確かに“秘密を抱えた客”が来るにはちょうどいい場所かもな。森に囲まれて、外からは見えにくい。」


秋津は窓の外を見やり、ふと声を落とす。

「……それにしても、まだ静かすぎる。こんなに落ち着いてるのは今だけかもしれんな。」


玲はカップをテーブルに置き、短く返す。

「その通りだ。依頼は必ず来る。問題は――どんな影を連れてくるか、だ。」


静かなロビーに、その言葉が響く。

外では木々の葉がざわめき、まるで新たな波乱を予告しているかのようだった。


玲は事務所の大きな窓際に立ち、ゆっくりとコーヒーを口に含んだ。

苦味と香ばしさが舌の奥に広がる。

ガラス越しに見えるのは、森に囲まれた静かな道。都会の喧騒から離れたこの場所は、まるで時間そのものが遅く流れているかのようだった。


背後から篠原の声が聞こえる。

「なあ、玲さん。やっぱり変な感じだな。引っ越したばかりで落ち着かないせいか……まだ“事務所”って気がしない。」


秋津がソファに深く腰を下ろし、新聞を広げながら応じる。

「まあ、今はまだ“ペンション開業しました”って雰囲気だな。客室がいくつもあって、打ち合わせよりも宿泊の匂いが強い。」


玲は視線を窓の外から離さず、淡々と返した。

「環境はどうでもいい。問題はここで何を成すか、だ。」


一瞬、室内に沈黙が落ちる。

篠原はカップを持ち上げ、わざと軽く笑った。

「……まあ、そのうち依頼人も来るさ。こんな静かな朝が続くとは思えないし。」


秋津は新聞を折り畳み、テーブルに置いた。

「むしろ、静けさが長引く方が不気味だな。」


玲はゆっくりとカップを置き、窓の外に目を細めた。

森の奥で、風が木々をざわめかせている。

それはまるで、新しい事件の足音を告げているかのようだった。


玲は窓辺に立ち、残りのコーヒーを口に含んだ。

そのとき、視界の端に“違和感”が滑り込む。


森の道に、一台の黒いセダンが音もなく停まっていた。

外装は磨き上げられ、不自然なほど目立たない。だが、その存在感は周囲の景色から浮き上がっていた。


玲の瞳が細められる。

「……来たか。」


篠原が振り向き、怪訝そうに眉をひそめる。

「え? 誰か来たんですか?」


秋津が新聞を畳み、立ち上がって窓へ歩み寄る。

「……ああ、確かに。だが、客にしちゃ様子がおかしいな。降りてくる気配がない。」


窓越しに三人の視線が黒い車を捉える。

運転席のシルエットは不鮮明で、サングラスらしき光だけがちらりと反射した。


篠原が声を潜める。

「まさか、監視……?」


玲は短く首を横に振り、冷ややかな口調で答えた。

「断定は早い。だが、この沈黙は……普通の訪問者ではないな。」


数秒後、車のヘッドライトが一度だけ点滅した。

まるで合図のように。


玲は窓から離れ、ジャケットを手に取った。

「――外に出る。様子を確かめよう。」


室内の空気が一気に緊張に包まれる。

新たな環境での静かな朝は、思いもよらぬ影の訪れによって破られたのだった。


【時間:午前9時18分】

【場所:玲探偵事務所〈新ペンション型事務所・前庭〉】


玲がジャケットを羽織り、扉を開けて外へ出る。

冷えた空気が頬を打ち、森の奥から鳥の声が遠く響いた。


黒いセダンはまだそこにあった。

だが、玲が二歩、三歩と近づいた瞬間――エンジンが静かに唸りを上げ、車は滑るように走り出す。


「待て!」

篠原が駆け出そうとしたが、玲の手がそれを制した。


セダンは追いかける間もなく道の先で姿を消した。

残されたのは、事務所のポストに差し込まれた一通の封筒だけだった。


秋津が拾い上げ、怪訝な顔で差し出す。

「……これか。ずいぶん露骨な真似をする。」


玲は封を破り、中身を取り出した。

白い便箋に記されたのは、ただ一文。


「次は、森の奥を見ろ」


篠原が息を呑む。

「……脅しか、誘導か。」


玲は紙を折り畳み、淡々と呟いた。

「挑発だ。――こちらの反応を試している。」


秋津が肩をすくめ、笑みを消す。

「新しい事務所、初日からこれかよ。歓迎されてないな。」


玲はポストに視線を戻し、低く言い切った。

「歓迎など期待していない。だが――来るべきものが来たな。」


静寂に包まれた森の中、わずかな風が封筒を揺らした。

それは、新たな事件の幕開けを告げる合図のように思えた。


【時間:午前9時25分】

【場所:玲探偵事務所前・森の入口】


玲はその光景に目を細め、心の奥に微かな緊張感と新たな期待が芽生えるのを感じた。

挑発と警告の入り混じる封筒の一文――「次は、森の奥を見ろ」。


篠原が眉を寄せ、落ち着かぬ声で問う。

「どうする? 放っておくって選択肢もあるだろ。」


玲は短く首を振り、ポケットに封筒を収めた。

「いや。ここで動かねば、奴らの意図を見逃す。……森へ行くぞ。」


秋津が軽く肩をすくめ、足元のスニーカーを確かめる。

「ったく、引っ越し初日にハイキングか。嫌いじゃないけどな。」


三人は事務所を背にし、森の小径へ足を踏み入れた。

木々が生い茂り、差し込む光がまだら模様を作る。鳥の声は遠ざかり、代わりに葉擦れの音だけが近くに迫ってくる。


篠原が辺りを警戒しながら低く呟く。

「……妙に静かだな。普通なら獣の気配があってもいいはずなのに。」


玲は無言のまま歩を進める。

やがて、小径の脇に人工的なものがちらりと覗いた。


秋津が立ち止まり、目を凝らす。

「……あれは、杭か?」


近づくと、木の根元に打ち込まれた鉄杭。その先端には、赤い布切れが結ばれていた。

まるで“ここを辿れ”と告げる目印のように。


玲は布を指先でつまみ、じっと見つめた。

「――案内だな。誰かが我々を奥へと誘っている。」


篠原は不安げに辺りを見渡す。

「罠の可能性は?」


玲は静かに答える。

「それでも行く。挑発に応じるかどうかで、次の一手を読ませないためにな。」


三人は再び足を進めた。

森の奥、赤布の道しるべがどこへ導くのか――

その先に待つのは、真実か、あるいはさらなる影か。


【時間:午前10時15分】

【場所:玲探偵事務所〈ロビー〉】


秋津が机の上に整然と資料を並べながら、満足げに言う。

「よし、これで最低限の準備は整った。新しい事務所の初仕事……悪くないスタートだ。」


篠原が苦笑して腕を組む。

「何が悪くないだよ。歓迎の手紙一枚で森に行く羽目になったんだぞ。」


玲は窓の外へ目を向け、静かに応じた。

「準備を整えるのは悪いことではない。だが――現場に足を運ばなければ真実は見えない。」


三人は再び森の小径を進んだ。

赤い布切れの目印は途切れ途切れに続き、やがて開けた一角へと導いていた。


――そこには、異様な光景が広がっていた。


黒く焦げた土の匂いが鼻を突く。

木々の一部は焼け焦げ、地面には何かを燃やした跡がまだ新しく残っていた。


篠原が息を呑み、低くつぶやく。

「……火をつけた形跡か。誰が、何のために……?」


秋津がしゃがみ込み、焼け跡の中から金属片を拾い上げる。

「見ろ、これ……鍵の一部か? いや、南京錠の破片だ。」


さらにその傍らには、布製のバッグが半分炭化した状態で転がっていた。

中からのぞくのは、焦げて破れた紙片。


玲は膝をつき、その一片を拾い上げる。

そこには、かろうじて読める文字が残っていた。


「……見つけられるものなら、見つけてみろ」


篠原の顔色が変わる。

「これ……完全に挑発じゃないか。」


玲は紙をじっと見つめ、低く呟いた。

「挑発……そして、警告だ。だが――逃げ場を残している。まだ“次”がある。」


森の静寂が、かえって不気味さを増していく。

焼け跡、破片、血痕のような赤黒い染み……その一つ一つが、未知の事件の扉を開こうとしていた。


【時間:午前10時43分】

【場所:森の奥・焼け跡の現場】


篠原が腕を組んで呟く。

「……誰かを狙った跡にしか見えないな。」


秋津は焦げたバッグを注意深く探り、中から黒く煤けた小さなカードケースを取り出した。

金属の縁が熱で歪み、表面は煤で覆われている。だが、中の一枚だけ、かろうじて判別できた。


玲がそれを受け取り、指先でそっと煤を拭う。

現れたのは、一枚の名刺。

印刷は焼け落ちかけていたが、中央に刻まれた名前だけが読み取れた。


「佐伯 俊哉」


篠原が顔をしかめる。

「佐伯……あの記者の?」


秋津が小さくうなずく。

「そうだ。フリーの調査記者。企業不正や失踪事件を追ってたはずだ。玲さんとも何度か情報のやり取りしてただろ。」


玲の目が細くなる。

「……確かに。半年ほど前、彼は“消された事故記事”の話を持ち込んできた。」


名刺の端には、血のような赤黒い染みが広がっていた。

ただの煤ではなく、乾いた血液にしか見えなかった。


篠原が思わず声を潜める。

「つまり……ここで佐伯が襲われた、ってことか。」


玲は名刺を見つめながら、低く答えた。

「断定はできない。だが――痕跡は彼を示している。」


秋津が空を仰ぎ、険しい声を漏らす。

「なるほどな……最初の依頼人は、もう決まってたってわけだ。」


森を渡る風が焼け跡を揺らし、灰が舞い上がる。

そこに刻まれた名は、静かな挑発と共に玲たちを次なる渦へと引き込もうとしていた。


【時間:午前11時02分】

【場所:玲探偵事務所〈二階・ラウンジ〉】


冴木涼は、窓辺に立ち、笑いながら外の景色に視線を向けた。

森の奥での発見を持ち帰った玲たちを迎えるように、その笑みはどこか皮肉めいている。


「――佐伯俊哉か。あいつは簡単にくたばるタマじゃない。」


篠原がいら立ったようにテーブルを叩く。

「でも、あの名刺は……血の跡まで残ってたんだぞ。普通なら……」


冴木は振り返り、肩をすくめて言った。

「“普通”ならな。だが、佐伯は記者だ。追い詰められても、自分の足で逃げる奴だ。

少なくとも――まだ生きてる可能性は高い。」


玲は名刺を机に置き、目を閉じて思案に沈む。

「……生きているなら、どこかに隠れているはずだ。もしくは、助けを求めて痕跡を残した。」


秋津が地図を広げ、森の周辺を指でなぞる。

「このあたりに古い山小屋がいくつかある。廃材置き場もあったはずだ。もし逃げて潜伏してるなら、その辺りだな。」


篠原がうなずきながらも、不安を隠せずに口を開く。

「……でも、もし奴らに先回りされてたら?」


玲はゆっくりと目を開け、淡々と答えた。

「ならば、佐伯は囮にされている。――それでも確かめねばならない。」


冴木が小さく笑みを浮かべ、低く言った。

「いいじゃないか。死んでるか生きてるか……真実を見つけるのが探偵の仕事だろ。」


その言葉に、事務所の空気がさらに張り詰めていった。

佐伯の安否を巡る調査は、彼らにとって最初の本格的な追跡となる。


【時間:午前11時45分】

【場所:玲探偵事務所〈二階・作戦室〉】


美波誠が新たに加わったメンバーとして、机の上に置かれた書類を丁寧に手に取り、落ち着いた声で言った。


「まずは森のさらに奥だ。山小屋周辺で佐伯の痕跡を探すのが先決だろう。痕跡の種類から、彼が最後に通った経路や避難場所が推測できる。」


秋津が地図を指でなぞりながら言った。

「ここからだな。廃材置き場や小屋のあたりを中心に探索すればいい。」


篠原が腕を組み、眉を寄せる。

「でも、もし奴らが先に手を回していたら……?」


冴木涼がにやりと笑った。

「そういう時は、痕跡を追うだけじゃなく、佐伯が最後に接触した人物も確認する必要があるな。新聞社の仲間や情報屋だ。」


玲が窓の外を見つめ、決意を固めるように呟く。

「森の奥と佐伯の接触者。二方向で追えば、逃げ道も確実に絞れる。」


美波が書類を閉じ、静かにまとめる。

「では、二手に分かれる。森の奥へは私と秋津、篠原が向かう。佐伯の接触者は玲さん、冴木さんに任せよう。」


篠原が小さくうなずき、準備を始める。

「了解。装備は万全に。」


冴木も肩にかけたバッグを調整し、軽く笑った。

「なら、俺たちは情報ルートから追い込むとしようか。」


玲は全員の顔を順に見渡し、静かに頷いた。

「――よし。今日から、この新しい事務所での初仕事だ。手を抜かずに、確実に佐伯の居場所を見つける。」


事務所の空気は引き締まり、森の奥に向けて出発する準備が整った。


【時間:午後2時15分】

【場所:佐伯の新聞社オフィス】


玲と冴木が、佐伯の最後の接触者の一人である情報屋・久保田と対面していた。

事務所の奥、薄暗い応接室のソファに座る久保田が、手にした封筒を握りしめたまま顔を伏せる。


「……兄が亡くなりました。」

その言葉は、静かな部屋に深い衝撃として落ちた。


冴木が軽く息を吐き、眉をひそめる。

「……亡くなった? それは、どういう……」


久保田はゆっくりと顔を上げ、声を震わせながらも続ける。

「昨日の夜、森の奥で……。警察の発表はまだされていませんが、間違いありません。」


玲はソファに沈む情報屋の姿を一瞥し、思考を整理する。

(……これで、佐伯の行方だけでなく、背後の何者かの動きも、ますます見えてきたかもしれない。)


沈黙が数秒流れる。窓の外、風に揺れる木々の影が部屋の床に走る。

玲は静かに立ち上がり、決意を固めた。

「分かった。まずは現場と関係者を確認する。手遅れになる前に、すべてを洗い出す。」


【時間:午後3時10分】

【場所:森の奥・山道沿い】


玲は目を細め、静かに椅子に深く腰を沈めた。

情報屋の言葉が脳裏を何度も往復する。

「……兄が亡くなりました。」


短い沈黙の後、玲は立ち上がり、声を落として告げた。

「準備はいいか。森の奥、山小屋まで急ぐ。」


冴木と篠原、秋津、美波たちはすぐさま装備を整え、事務所を出た。

外の空気はひんやりとして、薄く霧が立ち込めている。

黒い車が事務所前を無言で去ったときの、微かな嫌な予感が、再び胸に蘇る。


森の小径を踏みしめるたび、枯葉がかすかに音を立てた。

秋津が手に持つ懐中電灯の光が、焼け跡のように黒ずんだ地面や、捨てられた荷物の影を浮かび上がらせる。

篠原が腕を組み、低い声で呟く。

「……誰かがここを通った痕跡だな。」


さらに奥へ進むと、血のように赤黒い跡が土に染み込んでいる。

玲は足を止め、地面を凝視した。

「この痕跡……間違いなく、佐伯に関係している。」


美波が書類を手に、落ち着いた声で指示を出す。

「山小屋は、この道の先です。道中の痕跡も見逃さず、慎重に。」


霧に包まれた森の奥で、風がざわめき、遠くで小動物の悲鳴のような音が響いた。

誰もが互いに目配せし、警戒を強める。

森の静寂が、まるで何者かの視線を潜ませているかのようだ。


玲は胸の奥で決意を固め、足を前に踏み出した。

「……どんな真実が待っていようとも、見届ける。」


森の奥、山小屋への道はまだ長く、危険が潜んでいる。

影のように忍び寄る緊張が、チーム全員を包み込んでいた。


【時間:午後3時45分】

【場所:森の奥・山小屋手前】


「警察は事故だと言っています。でも……」

美波の声は森の霧にかき消されそうになりながらも、冷静な決意が滲んでいた。


玲は頷き、静かに前方を見据える。

木々の間から、薄暗い山小屋の屋根がちらりと見えたその瞬間、秋津が立ち止まり、低く息を吐く。

「……扉の周囲、異常だ。」


篠原が懐中電灯で扉を照らすと、木製の扉に赤黒い血痕が残されていた。

乾いた血の痕は、誰かが無理やり中に入った形跡を物語っている。

「誰か……ここで暴力的な争いがあったようだ。」


冴木は顔を歪めず、しかし鋭い視線で周囲を警戒する。

「扉の横の物置も開けられている……誰かが物を探していた痕跡だ。」


美波が静かにメモを取りながら、唇を引き結ぶ。

「痕跡が散乱している……佐伯が何かを隠そうとしたのか、あるいは誰かに追われたのか。」


霧に包まれた森の奥で、風がざわめき、枝が不気味に揺れる。

足音が森の中に吸い込まれるようで、周囲の静けさが異常に際立つ。


玲は息を整え、鋭く目を細める。

「……ここで待っていたのは、偶然じゃない。」


チーム全員が肩を寄せ、慎重に扉に近づく。

手にしたライトの光が、血痕や乱れた物置を照らすたび、緊張が胸に重くのしかかる。


森の奥、山小屋手前。

冷たい空気の中で、誰かの痕跡が彼らを待ち構えている。


【時間:午後3時50分】

【場所:森の奥・山小屋内部】


「でも、何かがおかしいんです。」

美波の声が低く響き、チーム全員の足が止まる。


玲はゆっくりと扉を押し開け、光を差し込ませる。中は薄暗く、埃っぽい空気が重く立ちこめていた。


木製の床には、散乱した書類やノートが無造作に散らばっている。

紙の端が焦げて黒ずんでおり、かすかな煙の匂いが鼻を突いた。

「……火を使った形跡か。」秋津が低く呟く。


さらに奥へ進むと、床に残された赤黒い血痕が、ドアから入ってきた通路を不気味に線を描いている。

篠原は腕を組み、唇を薄く引き結ぶ。

「これは……逃げた跡だな。誰かが急いでここを離れた。」


冴木が棚の上に目をやると、開けられた小箱や倒れたキャビネットがあり、金属や工具が床に散乱していた。

「何か探されていたようだ。あるいは……誰かに探されていた。」


美波が書類を拾い上げ、ページをめくる。新聞記事の切り抜きやメモ、謎の数式や暗号のような書き込みが混在している。

「……これは佐伯が何かを追っていた証拠かもしれません。」


玲はライトを床に落ちた物の間に差し込む。小さな布の破片が血痕に絡まり、微かに赤茶色に染まっていた。

「……最後にここにいた人物は、この痕跡を残して逃げた。」


森の静寂が窓の外から押し寄せ、床の軋みや紙の擦れる音が恐ろしく響く。

玲は深く息を吸い、鋭く目を光らせる。

「……誰かが、私たちをここに誘ったのかもしれない。」


チーム全員が周囲を見渡し、散乱した痕跡の中に、さらなる手がかりを求めて静かに歩を進める。


森の奥、山小屋内部。

血痕、散乱する書類、焦げた跡──

ここで佐伯の運命の痕跡が、チームを待ち受けていた。


【時間:午後4時10分】

【場所:森の奥・山小屋内部】


玲は山小屋の扉を押し開け、内部を慎重に見渡した。

散乱した書類、焦げた跡、血痕――手がかりは異様なほど生々しく、空気は重かった。


秋津が足元の血痕を指でなぞる。

「……誰かがここで最後の手を打った形跡だ。急いで逃げたか、待ち伏せされていたか。」


篠原は腕を組み、壁に残された傷や扉の開閉跡を観察する。

「痕跡は確実に誰かに結びつく……何か計画的なものを感じるな。」


冴木は窓の外に視線を向け、静まり返った森を確かめる。

「外には誰もいない。監視されているかもしれない。慎重に動こう。」


美波は散乱した書類を手に取り、落ち着いた声で言った。

「時間が限られている。この山小屋に残されたすべての痕跡を洗い出さないと。」


玲は深呼吸をして、チームを見渡した。

「よし、手分けして探索だ。小さな手がかりも見逃すな。」


山小屋に流れる静寂の中、床や棚に散らばる証拠の一つ一つが、刻一刻と迫る緊張をさらに重くしていた。


玲は散乱した書類と血痕を見下ろし、眉をひそめた。

「……事故じゃないと?」


秋津が低く唸る。

「いや、これを見る限り、偶然の事故では説明できない。計画的な何かがある。」


篠原は壁に残る傷跡を指でなぞりながら、慎重に言った。

「誰かがここで最後の手を打った。痕跡は間違いなく人物に結びつく。」


冴木は窓の外を見やり、森の静寂を確かめる。

「監視されている可能性もある。動きには気をつけろ。」


美波は散乱した書類を拾い、冷静に分析を始める。

「この手の書類や荷物の扱い方も不自然です。何か、急いで隠した形跡があります。」


玲は深呼吸してチームを見渡した。

「よし、手分けして痕跡を洗い出す。小さな手がかりも逃すな。」


山小屋の静寂は、ただの森の静けさではなく、迫り来る危険の前触れのように、全員の神経を張り詰めさせた。


沈黙。


玲は深く息を吸い、床に散乱した書類を一枚ずつ手に取りながら視線を巡らせる。血痕は乾きかけ、だがまだ赤黒く光っていた。


秋津は物置の扉を押さえ、慎重に中をのぞき込む。扉の内側には、手のひらほどの血の跡が点々とついている。

「……誰かがここに立ったまま逃げたのか」

彼の声は低く、空気を震わせた。


篠原は壁に残る引っかき傷を指先でなぞり、眉をひそめる。

「この高さ、この角度……大人の手によるものだな。痕跡は一人じゃないかもしれない。」


冴木は窓際に立ち、森の静寂を見つめた。枝がざわめき、遠くで小動物の鳴き声が響く。

「監視されている可能性もある。気配を感じたら即座に撤退だ。」


美波は散乱する書類をひとつずつ整理し、重要そうなものをまとめる。

「これ……新聞社関係のメモや、誰かに渡す予定だった書類です。急に撤収された形跡があります。誰かに急かされた可能性も。」


玲は山小屋の中央に立ち、手袋越しに血痕を触れ、目を細める。

「よし……手分けして探索する。小さな手がかりも見逃すな」


秋津は物置の奥に視線を向ける。焦げた匂いが鼻をつき、微かに煙の痕跡が残っている。

篠原は机の下で何か光るものを見つけ、拾い上げる。それは佐伯の名刺が半分燃えた状態だった。

冴木は窓の外を一瞥し、森の影に潜む不穏な気配に神経を研ぎ澄ます。


沈黙の中で、微かな足音、書類の擦れる音、呼吸のたびに心拍が響く。

全員の感覚が研ぎ澄まされ、山小屋はただの建物ではなく、危険と真実が交錯する舞台となった。


玲は最後にゆっくりと口を開く。

「……時間が迫っている。12時の鐘が鳴る前に、ここで何が起きたのかを掴まなければ」


その言葉に、チームの緊張はさらに高まり、目に見えぬ「何か」が迫る予感が漂う。


【時間:午後4時35分】

【場所:森の奥・山小屋・物置の奥】


「分からない。でも、あの日の兄の表情を思い出すと――怖いんです。」

そう告げた依頼人の言葉が、全員の脳裏に重く響いていた。


秋津が物置の奥を調べていた手を止めた。

「……これを見ろ。」


奥の木箱が半ば崩れ、その裏に隠されるように布の包みが差し込まれていた。埃を払うと、中から小さなノートと黒ずんだ懐中時計が現れる。


篠原が慎重に手袋越しに取り上げ、目を細める。

「時計は……止まっている。針は……11時47分を指しているな。」


冴木が低く息を吐き、周囲を警戒しながら呟く。

「偶然じゃないだろう。“鐘が鳴る前にすべてが終わる”……その言葉と符合する。」


美波はノートを開き、乱雑に書き込まれた文字を追う。

そこには震える筆跡で短く記されていた。


――「見つかった。もう時間がない。」


ページの端に血が滲み、急いで閉じたかのように折れ曲がっている。


玲はノートを見つめ、声を低く落とす。

「……佐伯は最後の瞬間まで何かを追っていた。だが、その“何か”に追いつかれた。」


秋津が時計を握り締める。

「つまり、あの時間――12時の鐘が鳴る前に、佐伯に何かが起きたんだ。」


チーム全員が一瞬沈黙する。

森の外では風が強まり、枝が軋み、不気味な音を奏でる。


玲は静かに目を閉じ、深呼吸してから開いた。

「残された時間は少ない。12時が何を意味するのか突き止めるんだ。佐伯が命を懸けて伝えようとしたものを――見つける。」


時計の針は動かないまま、ただ静かに「終わりの時刻」を指し示していた。

そしてチームの胸に、刻一刻と迫る“12時”の影が忍び寄っていた。


【時間:午後4時45分】

【場所:森の奥・山小屋内部】


言葉が途切れ、重い沈黙が再び訪れる。


美波がノートを机に広げ、震える文字を指でなぞった。

「……見てください。この走り書きの横に、奇妙な図が描かれている。」


ページには雑な線で描かれた森の地図。

赤いインクで記された×印が、山小屋から北東へ向かった位置に示されていた。

「隠し場所か……それとも、佐伯が最後にたどり着こうとした場所か。」玲が呟く。


篠原は腕を組み、顔をしかめる。

「ただの記録には見えない。急いで残した“道標”だな。」


そのとき、山小屋の外で――かすかな枝の軋む音。

秋津が即座にライトを消し、低く囁く。

「……外にいる。」


冴木は窓の隙間から森をのぞき、目を細めた。

「気配がある。見張りか……それとも追跡者か。」


沈黙の中、全員の心拍が音を立てるように響く。

美波は落ち着いた声で囁いた。

「……私たちの動きは、すでに知られているかもしれません。」


玲は短く頷き、時計を見やる。

午後4時50分。

「……12時まで、残りは七時間強か。」


篠原が呟く。

「長いようで短い……時計が指していた“11時47分”の意味を考えると、実際に残された猶予はもっと少ないかもしれない。」


再び山小屋の中に緊張が張り詰める。

玲は地図の×印を見つめ、低く言った。

「……ここに向かうしかない。だが外には監視者がいる。突破する覚悟を決めろ。」


外の闇が濃さを増し、迫る“12時”が胸を締め付けていく。

誰もが息を潜め、時の針を意識しながら次の一歩を決断しようとしていた。


【時間:午後5時05分】

【場所:森の奥・山小屋内部 → 森の小道】


小さな沈黙。


玲はノートを机に広げ、指で図をなぞった。

「……やはり線は道じゃない。地形の記号だ。×印は“岩場”を示している可能性がある。」


美波がすぐに頷き、紙にメモを走らせる。

「確かに。森の北東には岩場が一帯あります。佐伯はそこに……」


言葉を遮るように、扉の外で木の枝が折れる鋭い音。

秋津が身を低くして囁いた。

「近い。……三人はいる。」


篠原がドアに耳を押し付け、表情を険しくする。

「息遣いが聞こえる。監視者じゃない……狩りをしている目だ。」


冴木が窓の外に目を走らせ、拳を固く握った。

「……もうすぐだ。迷っている時間はない。」


玲は決断した。

「暗号の全容は解き切れていない……だが×印は進むべき場所を示している。ここに留まれば袋の鼠だ。」


秋津が拳銃を構え、篠原がドアを押さえる。

「突破するんだな?」


玲は短く頷いた。

「森を抜ける。暗号の続きを“走りながら”解くぞ。」


次の瞬間――扉が軋み、外から無言の圧が迫る。

篠原が強く蹴り返し、秋津がドアの隙間に閃光弾を投げ込んだ。

眩い閃光と爆音が夜の森を裂き、怒号と足音が散り散りに広がる。


「今だ、走れ!」玲の声が響く。


美波はノートを抱え、冴木が彼女を守るように先導する。

秋津と篠原は後方をカバーしながら、森の小道へ飛び出した。


冷たい空気の中、枝が顔を叩き、落ち葉が足音を覆い隠す。

暗闇の奥で、×印の示す岩場がまだ見ぬ影となって待っている。


玲は息を整えながら心の中で繰り返した。

「――12時の鐘が鳴る前にすべてが終わる。」


タイムリミットは動き出していた。


【時間:午後6時20分】

【場所:森の奥・北東の岩場】


その一言が、まるで見えない何かを具体化させる呪文のようだった。

――「12時の鐘が鳴る前にすべてが終わる。」


その言葉に導かれるように、チームは森を抜け、北東の岩場へと辿り着いた。

夕暮れの光はほとんど失われ、岩の影が黒い壁のように立ちはだかっている。


秋津が岩肌を照らし、声を潜めた。

「……ここだ。ノートの図と一致する。」


篠原は周囲を警戒しつつ、岩壁に手を触れる。粗い石の感触の中に、指先が違和感に触れた。

「……隙間だ。誰かが意図的に石を組んでいる。」


冴木が岩を押し、秋津と共に力を込める。

ごろり、と鈍い音を立てて石がずれ、その奥に狭い空洞が現れた。


美波が懐中電灯を差し込み、息を飲む。

「……あった。」


中には金属製の小さなケースが収められていた。

古びた南京錠は壊されずに残っている。埃をかぶりながらも、守られてきたことが分かる。


玲が手袋を直し、ケースを静かに取り出した。

「……佐伯が残した最後の痕跡だ。」


ケースを開けると、中には封筒が二通。

一つは黄ばんだ紙に震える字で書かれた佐伯の署名付きの手紙。

もう一つは未開封のまま、誰かに宛てられた封筒。


さらに底には小型のレコーダーが入っていた。

赤いランプは消えていたが、再生ボタンはかすかに擦り減り、何度も押された跡がある。


美波が低く呟く。

「……これが、佐伯が命を懸けて残した“証言”か。」


篠原が時計を確認する。

午後6時30分。

「……12時まで、あと五時間半。」


玲はケースを閉じ、鋭く目を光らせた。

「ここからが本当の始まりだ。佐伯が見た“真実”を暴き出す。」


風が岩場を吹き抜け、森の奥でざわめきを響かせる。

それはまるで、誰かが彼らを待ち構えているかのようだった。


玲はケースを閉じた手をゆっくりと下ろし、目を細めて仲間たちを見渡した。

「……分かった。調査に入る。」


その短い一言に、秋津と篠原の緊張が張り詰める。

美波は手帳を胸に抱え、冴木は周囲の森に鋭い視線を向けた。


玲は古びた小型レコーダーを持ち上げ、指で埃を払い落とす。

「……動くかどうかは分からないが、試す価値はある。」


静寂の中、玲が再生ボタンを押した。


――ザ……ザザッ。

雑音の後、低く掠れた男の声が流れた。


《……もし、この声を誰かが聞いているなら……私はもう無事ではいないだろう。》


美波が息を詰め、秋津が拳を固める。


《事故じゃない。……奴らは最初から仕組んでいた。》

《“鐘”が鳴る前に、全てを運び出す手筈だった。私はそれを止めようとした――》


そこで、声が一瞬途切れ、再びノイズが混じる。

冴木が身を乗り出し、耳を澄ます。


《……信じられるのは、ごくわずかだ。仲間の中にも、裏切り者がいる。》


篠原が低く唸る。

「……仲間の中に、裏切り……?」


《――×印の場所に証拠を隠した。地図の暗号が全てを示す。》

《12時の鐘が鳴る時……奴らは“最後の処分”に動くはずだ。》


声はそこで途切れ、ザ……という雑音だけが残った。


玲はしばらく無言でレコーダーを見つめ、やがて静かに口を開いた。

「……佐伯は確かに、真実を掴んでいた。だが同時に“仲間の裏切り”を警告している。」


秋津が眉をひそめる。

「つまり……俺たちの中に、既に奴らの手が及んでいるかもしれないってことか。」


美波は震える手でノートを閉じ、深呼吸した。

「……残り時間は五時間弱。“最後の処分”が何を意味するのか、急いで突き止めなきゃ。」


玲は夜の森を見据え、低く呟いた。

「――鐘が鳴る前に、すべてを終わらせる。」


その言葉は、再び“呪文”のように空気を震わせた。


【時間:午後7時05分】

【場所:森の奥・岩場からさらに北の小径】


玲はレコーダーを慎重にケースへ戻し、低く言った。

「偶然にしては、言葉が整いすぎている。……佐伯は“鐘が鳴る前”という言い回しに、必ず意味を込めている。」


秋津が肩をすくめる。

「処分、ね……。人間か、証拠か……何を指してるんだ。」


篠原が険しい目で森を見渡す。

「どちらにせよ、奴らが動く前に追い詰めなければ手遅れになる。」


美波は暗号ノートを開き、指で示した。

「地図の線はここで途切れてます。でも、×印からさらに延長すると……北の“廃道”に繋がるんです。」


玲は即座に判断した。

「なら進むしかない。“最後の処分”の答えは、森の奥にある。」


冴木が銃を確かめ、静かに言った。

「先頭は俺が行く。万が一、罠が仕掛けられてたら――」


秋津が被せるように苦笑した。

「その時は二人でまとめて蹴散らしてやる。」


闇に包まれた森の小径を、チームは息を殺して進んでいく。

落ち葉を踏む音すら警戒し、懐中電灯の光は最小限。


風に混じって、どこかから金属が軋むような音が聞こえた。

篠原が立ち止まり、耳を澄ませる。

「……聞こえるか? 鐘じゃない、鉄の扉を開け閉めするような音だ。」


美波が顔を上げた。

「廃道の先に……古い集会所跡があります。もしそこが“処分場”だとしたら――」


玲の目が鋭く光った。

「行くぞ。佐伯の言葉が真実なら、あそこに“最後の処分”の正体が待っている。」


闇の奥、廃道の向こうで再び金属音が鳴り響いた。

それは、まるでチームを呼び寄せる合図のように。


【時間:午後7時40分】

【場所:森の奥・廃道の先にある古い集会所跡】


その微かな震えの奥に、玲は不自然さを感じ取った。

緊張か、恐怖か……いや、それだけではない。まるで、この場に何かを仕組まれていると告げる“予兆”のように。


廃道を抜けた先に、朽ち果てた建物が影のように佇んでいた。

壁はひび割れ、窓は割れ落ち、屋根は崩れかけている。

だが――その荒れ果てた姿の中に、妙な“新しさ”が紛れ込んでいた。


秋津が先に進み、足元の黒ずんだ土を蹴る。

「……見ろ。焼け跡だ。かなり最近の火だ。」


美波がランプで照らすと、床一面に灰が広がっていた。

文字の断片がところどころ残り、判読できる単語が浮かび上がる。


『契約』

『取引』

『名簿』


冴木が低く唸る。

「証拠だな……奴らはここで処分していた。」


篠原が奥の壁に目を留め、声を荒げた。

「……こっちだ。血痕だ!」


白く崩れた壁に、乾いた赤黒い痕跡が不規則に広がっている。

指でなぞると、まだ薄く鉄の匂いが残っていた。


美波が息を飲み、声を震わせる。

「これ……資料だけじゃない。人も……。」


玲は静かに歩み寄り、焼け跡に膝をついた。

灰の中から、金属の欠片を拾い上げる。

それは半分溶けかけたUSBメモリだった。


「――証拠を焼き尽くそうとしたが、完全には消し切れなかった。」

玲の声は低く、しかし確信を帯びていた。


篠原が時計を見て、短く告げる。

「午後七時四十五分。……鐘が鳴るまであと四時間十五分だ。」


風が吹き抜け、集会所の奥からドアが軋む音が響いた。

まるで、誰かが奥で待っているかのように。


【時間:午後7時50分】

【場所:古い集会所跡・中央の焼け跡付近】


その言葉に、冴木が窓辺から玲を振り返る。

「玲……それ、まだ使えるかもしれん。」


玲は頷き、ポケットから携帯型の簡易解析端末を取り出した。

埃まみれのUSBを差し込むと、小さな画面にノイズ混じりの文字列が走る。


美波が身を乗り出す。

「……読めるんですか?」


「完全ではないが……断片的にな。」

玲は画面をスクロールさせながら、欠けたデータを読み上げた。


『――計画 第十二段階』

『鐘……正午、対象を――』

『処分:名簿の……と関係者』


秋津が眉をひそめる。

「名簿? ……じゃあ燃やされた資料と同じか。」


玲はさらにキーを叩き、映像ファイルの断片を呼び出した。

途切れ途切れに現れた画面には、暗い部屋に集められた数名の人影が映っていた。

声は乱れていたが、ひとつだけはっきり聞き取れた。


《……“鐘”が鳴る時、証拠も人間も、一緒に消える。》


篠原が低く唸る。

「……つまり“最後の処分”ってのは……証拠隠滅と同時に、関係者の抹殺ってことか。」


美波の顔色が青ざめた。

「じゃあ兄は……それを阻止しようとして……。」


玲は画面に映る“人影”を食い入るように見つめ、目を細めた。

「……待て。止めろ。」


映像の一瞬、窓の外の影に照らされた顔があった。

それは間違いなく“この場の誰もが知る人物”の姿に見えた。


秋津が息を呑む。

「……まさか……!」


データはそこで途切れ、画面は暗転した。


玲は静かにUSBを抜き取り、深く息を吐いた。

「……裏切り者の影が、確かに映っていた。」


外の風が窓を揺らし、古い建物が軋む音が、沈黙をさらに重くした。


【時間:午後8時15分】

【場所:古い集会所跡 → 森のさらに奥へ続く獣道】


篠原が焼け跡から拾い上げた半分焦げた資料を手に取り、腕を組んで呟いた。

「……名簿の断片だな。読み取れる名前は三つ……いや、四つか。」


美波がランプを近づける。

「『村瀬』『川原』『佐伯』……そして、もう一つはかすれて……『秋…』?」


その瞬間、沈黙が落ちた。

秋津が表情を強張らせ、口元を歪める。

「……俺の名前か? いや、ありふれてる名字だろう。」


冴木がじっと秋津を見据える。

「だが、映像に映っていた影……似ていたのは確かだ。」


秋津は苛立ったように吐き捨てる。

「映像は断片的だったろ。証拠になんかならねえ。……それよりも“名簿の残り”を追う方が先決だ。」


篠原は低い声で言った。

「……確かに。だが“裏切り者”がいると佐伯は警告していた。ここから先、誰も疑いを免れない。」


緊張した空気が、重く張り詰める。


玲が一歩前に出て、皆を見渡した。

「――疑念に呑まれるな。真実は必ず“行動”に現れる。俺たちが進めば、答えも見える。」


玲の声に押されるように、全員が動き出す。


森の奥、獣道を進むと、湿った土の匂いと共に風が吹き抜けた。

その風の先には、廃墟とは違う人工的な気配が漂っていた。


美波が息を呑む。

「……古い避難用のトンネルがあります。この先……名簿の人物がそこに関係しているかも。」


玲は短く頷き、時計を確認する。

午後8時30分。残り3時間半。


「――行くぞ。“鐘”が鳴る前に、必ず真実を掴む。」


森の闇がさらに濃くなり、疑念と使命感を背負った一行を飲み込んでいった。


【時間:午後8時45分】

【場所:森の奥・古い避難用トンネル入口】


玲はデスクへ戻り、手元の資料に目を落とす。

「……なるほど、名簿の人物はここに関係している可能性が高い。」


篠原がランプを揺らしながら、トンネルの暗がりを覗き込む。

「足跡があります。古いものと新しいものが混ざっている……誰かが最近入った形跡だ。」


美波が慎重に歩みを進め、コンクリートの壁に沿って進む。

「……あっ、荷物があります。こぼれた書類も。」


冴木が素早く確認する。紙切れには名前やメモが書かれており、名簿の人物たちの痕跡を追える証拠だ。

「これは……佐伯が最後に残した警告の手がかりだ。」


秋津は肩を落とし、ゆっくりと息をつく。

「……俺のこと、疑っただろう。すまない。だが、俺は裏切ってなどいない。」


玲は微かに頷き、冷静に答える。

「確認できた。行動と証拠が示す通り、秋津は疑いを持たれる必要はない。」


森の闇に包まれたトンネルの奥、散乱する荷物や微かな血痕が、事件の真実へと導く道筋を示していた。

玲は資料と現場の証拠を照合しながら、次の一手を考える。


「……進む。名簿の人物、そして佐伯の最後の痕跡を見つけるために。」


一行は慎重に、しかし確実な足取りで暗いトンネルの奥へと歩みを進めた。

森の奥に残る不気味な静けさが、彼らの緊張をさらに引き締めていた。


【時間:午後9時05分】

【場所:森の奥・避難用トンネル内部】


冴木が窓際で軽く笑いながら、外の闇を見つめる。

「ふふ……やっと動き出したみたいですね。」


一方、玲たちはトンネルの奥へ慎重に進む。壁に沿って散乱する荷物、擦り切れた紙切れ、そして微かな血痕が続く。

秋津が低く呟く。

「名簿の人物……確かに、誰かがここを通った形跡だ。」


篠原が懐中電灯の光で奥を照らすと、壁際の小さな空間に古びた箱が隠されているのを見つけた。美波が手を伸ばして蓋を開けると、中には佐伯の遺留品が整然と収められていた。古いノート、鍵、USBメモリ——どれも事件の核心に繋がる証拠だ。


玲は手に取ったUSBメモリを確認し、低くつぶやく。

「これが……佐伯の最後の手がかりか。」


美波がノートを広げ、ページにびっしり書き込まれた暗号やメモを指さす。

「名簿の人物との接触記録、そして最後の警告……12時までに何かが起きる、ということですね。」


冴木が窓際から振り返り、軽く笑みを浮かべる。

「タイムリミットが近いですね。楽しみになってきました。」


玲は資料と現場の痕跡を重ね、冷静に決意を固める。

「……進む。名簿の人物、そして佐伯の残した真実に辿り着くまで、止まらない。」


森の静寂とトンネルの暗闇の中、チームの緊張感は一層高まっていた。

決定的な証拠が示す方向――それは、12時までの刻一刻の追跡を意味していた。


【時間:午後9時12分】

【場所:森の奥・避難用トンネル内部】


その時——。


美波が手にした佐伯のUSBメモリが微かに震えた。玲は瞬間的に周囲の音に意識を集中させる。かすかな枝の折れる音、遠くで木の葉が擦れる音——トンネル内には誰かの存在を示す微かな気配が漂っていた。


篠原が低く腕を組み直す。

「……誰か、監視してますね。」


秋津が懐中電灯を壁に沿って慎重に揺らす。光に反射した何か、古い荷物の影の奥に微かな動きが見えた。

冴木は窓際から笑みを消し、冷ややかに言う。

「裏切り者がいる可能性もあります。焦らず、一歩ずつ。」


玲はノートと遺留品を抱え、静かに前へ進む。胸の奥に微かな戦慄が走る——佐伯の残した警告、12時までに全てが終わるという言葉が、頭の中で反響していた。


突然、トンネル奥の影が一瞬動いた。美波が反射的に身を低くし、篠原が声を潜める。

「……出て来い。」玲の低く硬い声が闇に吸い込まれる。


しばらくの沈黙。だが次の瞬間、細い光の線がチームの前方に浮かび上がる——誰かが懐中電灯を持ち、こちらを探している。監視者か、裏切り者か——判断はまだつかない。


玲は深呼吸し、冷静に手を伸ばす。

「全員、動きを止めるな。敵の正体を確かめるまでは……。」


森とトンネルの暗闇に、張り詰めた空気が満ちる。チームは12時までの時間を意識しながら、一歩一歩慎重に前進するしかなかった。


「コン……」


微かな足音が、静寂を引き裂いた。玲は瞬間的に身体を低くし、周囲を見渡す。影が、トンネル奥の壁に沿って揺れている——監視者だ。


篠原が低く息を吐き、懐中電灯を握り直す。

「玲、行きます。」


玲は頷き、チームに小さなジェスチャーで合図する。美波はUSBメモリを胸元で握り、冴木は窓際で光を操り影を作る。トンネルの暗闇が一瞬、戦場に変わった。


影が突如、前方から飛び出す。冷たい瞳が光に反射する。玲は静かに声をかける。

「待て。逃げても意味はない。」


だが影は動きを止めない——動作の一瞬に、篠原が反応し、軽く肩を突く。影がバランスを崩した瞬間、美波が前に出てUSBを確保。


「これが最後の手掛かり……」美波の声は冷静だが、胸中は緊張で震えていた。


影が振り返り、低い声で呟く。

「……君たちは、ここまでか。」


玲はゆっくりと一歩踏み出す。

「君も知っているだろう、佐伯の意思を。俺たちはその真実を守る。」


心理戦の間合いが、森の静寂の中で張り詰める。影は迷い、一瞬だけ立ち止まる。その隙に篠原が前に出て、影の動きを封じる。冴木が光を遮り、視界を奪う。


そして——チームは一斉に動いた。


影は抵抗するが、チームの連携と冷静な判断により、最小限の接触で押さえ込まれる。美波がUSBメモリをしっかり抱え、玲が影の背後に立つ。


「遺留品、確保。」


森の奥、トンネル内に静寂が戻る。だがチームの呼吸は乱れ、12時までのタイムリミットが頭をよぎる。決定的な遺留品を手に入れた今、次にすべきは——佐伯の暗号と最後の警告を解読することだった。


玲はUSBを手に、静かに立ち上がる。

「行こう。次の手掛かりは、あの暗号だ。」


森の奥、時計の針は刻一刻と12時に迫っていた。


【時間:午後9時45分】

【場所:森の奥・トンネル出口付近】


森の奥に戻ったチームは、一度呼吸を整える。USBメモリは美波の手の中で冷たく光り、しかし確かな重みを感じさせた。


玲は慎重にデスク代わりの丸太に腰を下ろし、パソコンを立ち上げる。

「この一打が、すべてを動かす。」


微かな沈黙のあと、冴木が手早くケーブルを接続し、USB内の断片的データを再生する。画面に佐伯の声が途切れ途切れに響く。


「……12時……森の……×印……」


篠原が眉をひそめ、資料を照らしながらノートにメモを取る。秋津は暗号のパターンを解析し、USB内の映像やファイル名と突き合わせる。


「ここ……文字と数字の組み合わせ……偶然じゃない。」美波が静かに呟く。


玲は画面に映る数字列を指でなぞる。

「×印の場所……ここだ。」


画面に表示された座標と、佐伯が残した手書きの暗号ノートを照合する。微かな震えと共に、チームの目に焦点が合う。


「行くぞ。」玲の声には、間隔を置いた呼吸のように控えめだが揺るぎない意思が宿る。


森の暗闇を抜け、チームは静かに“最後の場所”へと向かう。

木々のざわめきが、彼らの足音に共鳴する。


USBが示す座標——そこには佐伯の遺した最後の痕跡が待っているはずだった。12時の鐘が刻一刻と迫る中、チームは息をひそめ、森を進む。


静かな森の奥。夜の闇に包まれた先に、決定的な真実が待ち構えていた。

【時間:午後11時58分】

【場所:森の奥・岩場の隠し空間】


森の道が急に開け、チームの前に×印の岩場が現れる。

霧に包まれた岩の隙間には、かすかに黒ずんだ跡が散在していた。倒れた枝、焦げた小片、そして……乾いた血の痕。


玲は足を止め、ゆっくりと視線を巡らせる。

「……ここだ。」


暗号の座標と一致した岩場の奥に、古びた木箱が半ば土に埋もれるように置かれている。

美波が慎重に箱を開くと、中には破れかけの書類と、佐伯の手書きで埋め尽くされたノート、そして小型の録音デバイスがあった。


玲は録音デバイスを再生する。

途切れ途切れの佐伯の声が、森の静寂を割った。


「……裏切り……誰も信じるな……最後はここ……」


冴木が書類を広げる。名簿にあった人物の行動履歴と現場の痕跡、そしてUSBに残された暗号が、すべて一本の線で結ばれていた。

篠原は言葉少なに、息を飲む。

「……これは……計画的な……」


暗号が示す真相——佐伯は自らの死を偽装し、裏切り者に気づかれる前に証拠を隠したのだ。

その隠し場所に残されたメッセージは、単なる警告ではなく、「最後の真実」を後に残すための指針だった。


森の闇に、12時の鐘が遠くから響く。

玲は深く息をつき、チームに視線を巡らせた。

「ここまで来た。全ては、あと一歩だ。」


しかし、その瞬間——岩場の陰から微かな足音が響く。

監視者か、あるいは……裏切り者か。

静寂の森の中、緊張は一気に最高潮に達した。


USBと暗号が導いた衝撃の真相——

それは、佐伯の死の真実と、チームを待ち受ける新たな危機を示していた。

【時間:午後11時59分】

【場所:森の奥・岩場の隠し空間】


森の闇の中、かすかな足音が近づく。

玲は瞬時に立ち上がり、手元のライトで岩場を照らす。


「……そこにいるのは誰だ?」

玲の声は冷静だが、胸の奥で微かな緊張が波打つ。


闇の影から一人の人物が現れた。黒い服装に身を包み、顔は影に隠れている。

「……ここまで辿り着くとはな」

低く、挑発的な声。監視者だ。


冴木がUSBを握りしめ、篠原は資料を広げ、秋津と美波は周囲を警戒する。

静寂の中、短い心理戦が始まった——


「佐伯の死の真相、君も知りたいだろう?」

監視者が軽く微笑む。

「君たちが知れば、次は君たちが危険に晒される」


玲は一歩前に出る。

「私たちは危険でも真実を追う。佐伯の意志を無駄にはしない」


その瞬間、監視者が岩場に置かれた木箱に手を伸ばす。

秋津が咄嗟に飛びかかり、短い格闘が始まる。

冴木と篠原は監視者の動きを封じるために協力し、互いに視線で連携を取る。


一瞬の隙をつき、美波が木箱を抱き上げ後方へ下がる。

監視者はそれを追うが、玲が鋭く指示を出す。

「左側の岩陰へ回れ、追い込め!」


短い攻防の末、監視者は諦めるように立ち去り、森の闇に消えた。


木箱の中身を確認すると、佐伯の遺留品——手書きノート、USBメモリ、破損した資料——がすべて揃っている。

USBには、佐伯が最後まで隠し続けた証拠映像と暗号化された情報が残されていた。


玲は深く息をつき、チームを見渡す。

「これで……佐伯の死の真実に近づいた」


しかし、森の静寂の奥に新たな気配が残る。

誰かが、まだ監視している——もしくは、裏切り者がまだ潜んでいる——その予感が、チームを緊張の渦に引き戻す。


佐伯の死の真実——それは、計画された事故ではなく、巧妙に仕組まれた陰謀だった。

そして、回収した証拠は、チームを次の危機へと導く鍵となる。

【時間:午前0時15分】

【場所:ペンション型事務所・解析室】


玲はデスクのUSBを前に、眉間にわずかな皺を寄せた。

「ここからだ……誰が裏切り、誰が佐伯を――」


そのとき、事務所のドアが静かに開き、新たな人物が現れた。


「お待たせしました。解析を担当する、美堂です」


30代前半、冷静沈着な雰囲気の美堂誠びどう まことは、ハードウェアとソフトの両面に精通したスペシャリスト。デスクに近づくと、手際よくUSBを自分の専用端末に接続した。


「映像、暗号、物理痕跡……全て解析します。誰も見落としていません」

冴木が軽く頷き、篠原と秋津はそれぞれ資料を手渡す。美波もメモを差し出す。


美堂の指がキーボードを素早く叩くと、スクリーンには佐伯の動きや名簿関係者の接触履歴、残された物理痕跡が次々と可視化される。


「……この動線、誰かが故意に操作しています。物理的痕跡とデジタル証拠が完全に一致しない」

美堂の声には冷徹さがあり、しかし確かな信頼感が伴っていた。


玲が息を吐く。

「裏切り者……だとしたら、監視者の背後にいる人物は誰だ?」


「データから解析すると、少なくとも名簿の一部の人物が内部情報を外部に流しています」

美堂はスクリーンに赤いハイライトを入れ、怪しい人物の接触履歴を表示する。

「この人物が佐伯の死の前後に動いている。動機と手口が一致すれば、ほぼ間違いなく真犯人です」


秋津が資料を覗き込み、指を差す。

「ここの記録……確かに不自然。あの人物が最も接触している時間帯が、佐伯の最期と重なる」


玲は決意を固める。

「よし……これで潜伏先はほぼ特定できる。行くぞ」


冴木が窓際で軽く笑った。

「いよいよ、真相に迫るときが来たようだな」


美堂は解析端末を閉じ、静かに頷く。

「この情報をもとに、12時間以内に裏切り者と真犯人の正体を突き止められるはずです」


チームは深呼吸を一度だけし、事務所の外へ歩を進めた。

闇に包まれた森の奥で、彼らを待つのは――まだ見ぬ裏切り者と、佐伯の死の真相だった。

【時間:午前0時45分】

【場所:森の奥・潜伏先の小屋】


チームは暗闇の森を静かに進む。枝葉を踏む音も最小限に抑え、月明かりだけを頼りに足を運ぶ。


玲は先頭で立ち止まり、耳を澄ませる。

「動きはあるか……?」


冴木が低い声で答えた。

「小屋の中……人影が見える」


秋津は手元の赤外線スコープを確認する。

「一人……だが警戒している。裏切り者だろう」


美堂は端末を再確認し、解析結果を手早く復唱する。

「この人物が佐伯の死に最も関与している。名簿の情報も操作していた可能性が高い」


篠原が腕を組んで呟く。

「全員、無理に飛び込むな。心理戦で揺さぶれるかもしれない」


玲は深呼吸を一度し、静かに小屋の扉を押す。


コン……


扉がわずかに軋み、内部で気配が動く。

潜伏者の声が低く響いた。

「誰だ……?」


冴木が窓際から身を乗り出し、冷静に応答する。

「ここまで追ってきた。隠し通せると思ったか」


小屋内部、薄暗い光の中で、潜伏者は一瞬ためらい、次の瞬間、背後に隠したナイフをちらりと見せる。


玲は微動だにせず、視線を鋭く向ける。

「あなたが裏切り者……佐伯の死に関与した人物だな」


潜伏者は苦笑混じりに答えた。

「わかるのか……。計画は完璧だと思ったのに」


心理戦が短く交わされる。互いの目線が揺さぶり、呼吸の一瞬の乱れを探る。


美堂は端末を操作しながら、潜伏者の行動履歴と物理証拠を画面に投影する。

「動きを封じれば、隙は生まれる。慎重に」


秋津が静かに距離を詰め、冴木と篠原が左右から包囲。

潜伏者は小さく後退するも、隠しナイフを手放さない。


玲は声を低く、確信を込めて告げた。

「もう逃げられない。佐伯の遺留品と証拠は全て押さえた。抵抗は無駄だ」


その言葉に、潜伏者の肩が微かに震え、遂にナイフを地面に落とす。

緊張が解け、短い格闘と心理戦を経て、チームは決定的証拠を手に入れた。


玲は深く息を吐き、視線を仲間に向ける。

「これで、真犯人の特定が可能になった」


冴木が窓の外を睨み、低く笑う。

「だが……まだ油断はできない。森には他にも何か潜んでいるかもしれない」


美堂は解析端末を再確認し、静かに頷く。

「今から、この証拠をもとに裏切り者の正体と動機を完全に突き止めます」


森の闇に包まれた小屋の中で、チームは勝利の確信を胸に、新たな危機に備える。

【時間:午前1時15分】

【場所:森の潜伏先・小屋内】


玲が回収したUSBメモリを手に取り、解析端末に差し込む。画面に断片的な映像と音声が再生される。


佐伯の声が静かに響く。

「……もしこれを見ているなら、僕はもう助からない。だが、真実は伝えなければならない」


チームの視線が画面に集中する。


美堂が解析結果を即座に整理しながら説明する。

「映像から、佐伯は最後まで調査を続けていました。裏で動く組織の名簿と資金の流れを掴んだ瞬間、命を狙われた……」


篠原が資料を広げ、ナイフを手放した裏切り者を見据える。

「君は……なぜ佐伯を……?」


潜伏者は肩をすくめ、苦い笑みを浮かべる。

「正直に言えば、金や地位のため……ではない。僕は、佐伯が暴こうとしていた“組織の真実”に巻き込まれたくなかっただけだ」

「……つまり、自分を守るために兄を犠牲にした?」冴木が吐き捨てるように言う。

「そう……でも、最終的には止められなかった。計画は失敗した」


玲は静かに頷き、画面に目を戻す。

「佐伯の死は偶然の事故ではない。小屋で燃やされた資料、血痕、名簿の操作……全てが計画的だった。だが、君の自我が最後に裏切り者を止めた。だから証拠は残った」


美堂が解析画面を拡大する。

「そして、このUSBに残されたデータから、真犯人の正体も明らかになりました……」


画面には、佐伯が最後に接触していた人物――新聞社仲間の一人の姿と、彼が裏で組織を操作していた証拠が映し出される。

「真犯人は……情報を握り、佐伯を追い詰めたこの男です。裏切り者は手先に過ぎなかった」


秋津が拳を握りしめ、窓の外を睨む。

「森にはまだ油断できない連中がいる……だが、これで佐伯の死の真相には辿り着けた」


冴木が窓辺から微笑む。

「佐伯は最期まで真実を残していた。俺たちがそれを回収した――これが勝利の証だ」


玲は深く息を吐き、チーム全員を見渡す。

「この勝利の確信を胸に、残された問題も全て解決する。佐伯の死を無駄にしないために」


小屋の中に静かな安堵が広がる。森の闇はまだ深いが、チームの目には決意と希望の光が宿っていた。

【時間:午前1時45分】

【場所:森の奥・廃屋付近】


森の闇に包まれた小道を、玲を先頭にチームが静かに進む。月明かりが木々の間から零れ、影が揺れる。


玲が低く呟く。

「真犯人はこの先にいる。油断はできない」


篠原がナイフを軽く握り、秋津が背後から周囲を警戒する。

冴木は窓辺からの監視で培った経験を生かし、森の音を探る。


遠くに廃屋が見え、そこに明かりが揺れていた。チームは息を潜め、音を立てずに近づく。


美波が端末を操作し、位置を特定。

「中にいます。準備はいいですか?」


玲は静かに頷き、チームに指示を出す。

「三方向から包囲。相手を逃がすな」


廃屋の扉を開けると、真犯人は驚きもせずに立っていた。冷ややかな笑みを浮かべる。

「来ると思ったよ。君たちが来るのを、ずっと待っていた」


篠原が前に出る。

「佐伯を殺した理由を言え」


真犯人は肩をすくめ、軽く笑う。

「理由? 欲望と恐怖さ。組織の秘密に触れる者は、犠牲になる運命だっただけだ」


玲は冷静に状況を分析する。

「あなた一人で全てを操ったつもりかもしれないが、証拠は揃っている」


冴木が一歩踏み出し、USBの解析結果を手に見せる。

「佐伯の最後の記録、名簿、資金の流れ……全てあなたを指している」


真犯人の表情が一瞬硬直する。その隙に、篠原と秋津が連携して真犯人の動きを封じる。


小さな格闘の末、真犯人は拘束される。息を荒げながらも、玲は冷静に言う。

「これで全ての謎は解けた。佐伯の死も、裏切り者も、もう終わりだ」


チームは深呼吸し、互いに目を合わせる。森の闇の中に、決意と希望の光が確かに宿っていた。


美波が端末を閉じ、微笑む。

「佐伯も、これで安心できるでしょう」


冴木が窓辺に立ち、遠くの森を見つめる。

「まだ油断はできないが、少なくとも今日は勝利だ」


玲はチーム全員を見渡し、静かに微笑む。

「ここからは、真犯人の法的処置と組織の解体だ。俺たちはまだ終わらないが、勝利は確かだ」


森の奥で、チームは一瞬の安堵と達成感を味わう。闇は深いが、希望は確実に彼らの胸に灯っていた。

【時間:午前2時30分】

【場所:森の奥・廃屋跡】


真犯人を拘束し、警察に引き渡したあと、チームは静かに森を後にする。月光に照らされた小道を歩きながら、玲は端末に残る佐伯の記録を確認する。


秋津が背中を丸め、呟く。

「裏切り者はどうなるんですか……」


篠原が深く息をつき、答える。

「警察の取り調べで真相は明らかになる。だが、彼が何を守ろうとしたかも、知る必要がある」


美波が手元の資料を広げる。

「佐伯の残した名簿、暗号、メールの断片……整理すれば、事件の全体像がはっきり見えてきます」


冴木は窓の外の森を見つめながら、冷静に言う。

「裏切り者の情報はすべて押さえた。これで組織の残党も追える」


玲は端末の画面を指でなぞり、佐伯の最後のメッセージを再生する。

「——これが、佐伯の意志だ。全てを明らかにし、真実を残す。俺たちはそれを受け継ぐ」


朱音箱の時まだ居ないが、玲は静かに心の中で誓う。

「彼の記録は、誰にも消されない。次に何が来ても、俺たちは対応できる」


森の暗がりの中、チームは一瞬だけ立ち止まり、互いに目を合わせる。疲労はあるが、決意と希望が確かに宿っている。


秋津が静かに言う。

「これで……少しは前に進めますね」


玲は端末を閉じ、山道を下る。

「まだ終わりじゃない。だが、今日の勝利は確かに俺たちのものだ」


森を抜けると、遠くの街の灯りがぼんやりと揺れる。佐伯の記録は安全に整理され、裏切り者も拘束された。チームは静かに、しかし確かな手応えとともに、次の一歩を踏み出す準備を整えた。

【時間:午前4時】

【場所:ペンション型事務所】


森での緊迫した追跡と真犯人との対峙を終え、チームは静かにペンションへ戻った。夜明け前の冷たい空気が、建物の温もりをいっそう際立たせる。


玲は玄関でコートを脱ぎながら、窓の外に広がる森を見やる。

「戻ってきた……一応、ひと段落だな」


秋津は資料を手に廊下を歩きながら、声を落としてつぶやく。

「裏切り者の処遇、佐伯の記録……まだ整理すべきことは山ほどありますね」


篠原は机に向かい、USBメモリや書類を慎重に並べる。

「解析作業はここからが本番です。事件の全体像を完全に把握するには、時間が必要だ」


冴木は窓際で静かに立ち、朝の光に差し込まれる森の緑を見つめる。

「今日の成果は確かにあった……だが、次が来る可能性もある。油断はできない」


美波は資料を整理しながら、落ち着いた声で言う。

「佐伯の名簿や暗号も、ここで安全に保管できます。分析すれば、今後の手がかりになるでしょう」


玲は椅子に腰を下ろし、深く息をつく。

「一区切りはついた。だが、俺たちがやるべきことはまだ終わっていない。これからだ」


チームは静かに頷き、互いの存在を確認する。

外はまだ薄暗いが、ペンション内には温かな灯りがともり、疲れた体と心を包む。


朱音箱はまだ到着していないが、玲の視線は確かに未来を見据えていた。

事件の余波は残るが、チームは一歩ずつ、慎重に、しかし確実に次の局面へ進む準備を整えている。


日時:2025年10月12日 午後4時15分/場所:ペンション型事務所・玲のデスク


玲はデスクに向かい、回収した資料やUSBの整理を黙々と進めていた。机上には事件の全記録が整然と並べられ、過去の混乱が静かに整理されていく。


窓の外に目をやると、森の緑が午後の光に揺れ、事件解決の余韻を柔らかく包む。玲は深く息をつき、心の中で一度だけ目を閉じた。緊張と疲労がゆっくりとほどけ、静かな達成感が胸に広がる。


「これで……一区切りだな」と、低く呟く。事件の真実を追い続けた日々は、まだ記憶の奥に残るけれど、今は静かに整理の時間。次に何が待っていようとも、玲の瞳は決意を失わず、希望の光をたたえていた。


日時:2025年10月12日 午後4時30分/場所:ペンション型事務所・秋津の書斎スペース


秋津は机の上に広げられた書類を、丁寧に整然と分類していた。事件中の冷静さを振り返りながら、彼の指先は迷うことなく資料を仕分けていく。


「判断を誤らなかった……いや、誤れなかったな」


小さく呟き、秋津は一枚一枚に目を通す。緊迫した森での追跡、監視者との対峙、佐伯の遺留品の発見……すべての瞬間が、書類の山に静かに刻まれているようだった。


整然と並ぶ書類を眺め、秋津は冷静さと慎重さが、いかに事件解決に寄与したかを噛み締める。外の森を眺めれば、まだ風に揺れる木々が事件の残響をそっと映し出しているように思えた。


日時:2025年10月12日 午後4時45分/場所:ペンション型事務所・篠原の作業スペース


篠原は腕を組み、机の上に広げられた資料や暗号をじっと見つめていた。森で出会った裏切り者の影、名簿の人物との微妙な駆け引き……その一つひとつが頭の中で反芻される。


「……あの時、間一髪だったな」


低く呟き、篠原は資料に目を落とす。暗号の断片、佐伯の遺留品の情報、監視者の痕跡……すべてが整理されつつも、心のどこかには警戒心が残っている。


外の森を窓越しに見やり、静かに息をつく。事件は終わったが、裏切り者の存在が彼に、冷静さと慎重さの必要性を改めて教えていた。


日時:2025年10月12日 午後5時10分/場所:ペンション型事務所・窓辺


冴木涼は窓辺に座り、遠くに広がる森の緑をぼんやりと見つめていた。手元にはUSBの解析結果が並び、事件中に得られた断片的な情報が頭の中で整理されている。


「偶然なんて、やっぱりないな……」


小さく呟き、彼は画面に目を落とす。解析から浮かび上がった真相の輪郭、裏切り者の痕跡、佐伯の最後の行動……それぞれが鮮明に思い出され、冴木の表情には微かな笑みと冷静な達成感が混じっていた。


外の森の静けさを感じながらも、心の奥では次の可能性に目を光らせる冴木涼の姿がそこにあった。


日時:2025年10月12日 午後4時30分/場所:ペンション型事務所・書斎スペース


美波誠は山小屋での証拠収集を思い返しながら、机の上に広げた資料を整然と整理していた。紙の書類、USB、写真……事件中に集めた情報をひとつずつ確認し、必要な部分をデジタルデータにまとめていく。


「あの時、少しでも手を抜いていたら……」


小さく呟き、指先で証拠を並べ替える。冷静で落ち着いた仕草の中に、事件を終わらせた安堵と、これからの対策に向けた確かな覚悟がにじむ。


窓の外では夕暮れの森が静かに色づき、山小屋での緊迫した時間がまるで遠い記憶のように静まっていった。


日時:2025年10月13日 午前10時/場所:ペンション型事務所・会議室


チームが集まる会議室の机の上には、回収した証拠と解析結果の資料が整然と並んでいる。


玲は静かに口を開いた。

「今回の事件で判明した裏切り者は……佐々木俊也です。警察と協議の上、法的な処遇が決まります。」


秋津が軽く頷きながら資料を整理し、篠原は腕を組んで窓の外を見つめる。

「森での行動もすべて把握されていたわけか……」

冴木涼は窓際から遠景を眺め、情報の整合性を確認する。


美波も静かに資料に目を落とし、裏切り者の動機や関与の全容を再確認していた。


「これで、事件は一段落ですね……」玲の声には、決意と安堵が入り混じっていた。


窓の外の森は静かに佇み、事件の余波を静かに見守るかのようだった。


日時:2025年10月13日 午前11時/場所:ペンション型事務所・屋外周辺


森での緊迫の追跡劇の末、監視者としてチームを尾行していた人物――小倉智也――の行方が明らかになる。


秋津が資料を片手に説明する。

「小倉智也は森での潜伏中に一度捕捉されましたが、混乱の中で一時的に逃走。しかし、警察の連携により最終的には拘束されています。」


篠原が腕を組み、冷静に付け加える。

「彼の行動は完全に追跡されていた。潜伏の末の失敗ですね。」


冴木涼は窓から森を見つめながら、

「偶然ではなく、計画的な尾行だった。USBや資料の解析で彼の動機も大方見えてきた。」


美波誠も資料整理を続けつつ、

「これで森での監視行動も全容が把握できました。チームとしての安全も確保されます。」


玲はデスクに戻り、静かに資料を眺めながら呟く。

「裏切り者も監視者も、この森に振り回された。でも、ここで全て終わったわけではない。これからの準備が必要だ。」


窓の外、静まり返った森の木々の間に、かすかな緊張の余韻が残っていた。


日時:2025年10月15日 午前10時/場所:ペンション型事務所・デスク周辺


玲はデスクに向かい、回収した資料やUSBの整理を進める。

冴木涼は隣で解析用の端末を操作し、佐伯の暗号や断片的データをデジタル化して保存。


秋津は書類を整然と分類しながら、事件中の冷静さを振り返る。

篠原も資料や暗号の整理を行い、森での裏切り者の存在を思い出して慎重な表情を浮かべる。

美波誠は山小屋での証拠収集を振り返りつつ、ファイルの整理を続ける。


玲が資料をまとめながら、静かに呟く。

「これで全ての証拠は整理できた。暗号もUSBも、解析結果と一緒に保存されている。」


冴木涼が窓の外を見つめて言う。

「佐伯の痕跡も、裏切り者や監視者の情報も、ここに集約された。これで今後の追跡や調査がスムーズに進む。」


秋津が頷きながら付け加える。

「チームとしての強みはこうして積み重ねた情報の正確さ。森での緊迫を無駄にしないためにも、全ての資料をデジタル化して保存しておく必要があります。」


篠原もデータを確認しながら言う。

「裏切り者の動機も、真犯人の手口も、ここに記録されている。これ以上の誤解や危険は避けられるはずだ。」


ペンションの静かなデスクルームに、チーム全員の確かな意思と未来への準備が漂っていた。


玲はデスクに向かい、回収した資料やUSBの整理を進める。

冴木涼は隣で解析用の端末を操作し、佐伯の暗号や断片的データをデジタル化して保存。


秋津は書類を整然と分類しながら、事件中の冷静さを振り返る。

篠原も資料や暗号の整理を行い、森での裏切り者の存在を思い出して慎重な表情を浮かべる。

美波誠は山小屋での証拠収集を振り返りつつ、ファイルの整理を続ける。


玲が資料をまとめながら、静かに呟く。

「これで全ての証拠は整理できた。暗号もUSBも、解析結果と一緒に保存されている。」


冴木涼が窓の外を見つめて言う。

「佐伯の痕跡も、裏切り者や監視者の情報も、ここに集約された。これで今後の追跡や調査がスムーズに進む。」


秋津が頷きながら付け加える。

「チームとしての強みはこうして積み重ねた情報の正確さ。森での緊迫を無駄にしないためにも、全ての資料をデジタル化して保存しておく必要があります。」


篠原もデータを確認しながら言う。

「裏切り者の動機も、真犯人の手口も、ここに記録されている。これ以上の誤解や危険は避けられるはずだ。」


窓の外の森を見つめる玲の目には、次なる事件への覚悟と確かな希望が宿る。

森での経験は、チームの結束と信頼をさらに強化し、これから訪れる新たな挑戦への準備となっていた。


玲はデスクに向かい、回収した資料やUSBの整理を進める。

冴木涼は隣で解析用の端末を操作し、佐伯の暗号や断片的データをデジタル化して保存。


秋津は書類を整然と分類しながら、事件中の冷静さを振り返る。

篠原も資料や暗号の整理を行い、森での裏切り者の存在を思い出して慎重な表情を浮かべる。

美波誠は山小屋での証拠収集を振り返りつつ、ファイルの整理を続ける。


玲が資料をまとめながら、静かに呟く。

「これで全ての証拠は整理できた。暗号もUSBも、解析結果と一緒に保存されている。」


冴木涼が窓の外を見つめて言う。

「佐伯の痕跡も、裏切り者や監視者の情報も、ここに集約された。これで今後の追跡や調査がスムーズに進む。」


秋津が頷きながら付け加える。

「チームとしての強みはこうして積み重ねた情報の正確さ。森での緊迫を無駄にしないためにも、全ての資料をデジタル化して保存しておく必要があります。」


篠原もデータを確認しながら言う。

「裏切り者の動機も、真犯人の手口も、ここに記録されている。これ以上の誤解や危険は避けられるはずだ。」


一呼吸置き、メンバー全員が森での緊迫した体験と決定的証拠回収の興奮を思い返す。

それぞれが、自分の役割と成長を実感し、互いの信頼を再確認する。

森での経験は、チームの結束をさらに強め、これから訪れる新たな挑戦への準備となっていた。


玲は静かに窓の外の森を見つめ、心の奥に確かな希望の光を宿す。


玲は窓際に立ち、静かに森の遠景を眺める。

朝の柔らかな光が部屋に差し込み、窓越しに揺れる木々の影がデスク周辺に落ちる。


秋津は机に向かい、回収した資料を整然と分類しながら、事件中の冷静さや自分の判断を振り返る。

篠原は腕を組み、資料や暗号の整理を進めつつ、森での裏切り者の存在を思い起こして慎重な表情を浮かべる。


静かな時間が流れる中、冴木涼は窓際で端末を操作し、USBの解析結果を丁寧に確認。

美波誠は山小屋での証拠収集を思い返しながら、資料整理に没頭していた。


この控えめながら確かな動きの中に、事件が一区切りしたという達成感と、次への静かな覚悟が漂う。

森での緊迫した日々は記憶の奥に刻まれ、チームの結束と信頼を強めたまま、今は静寂の中で次の挑戦に備える。


玲が再び窓の外を見つめ、深呼吸すると、緊張の糸がゆるみ、微かに希望の光が胸に灯る。

日時:事件解決から数日後/場所:事務所・新聞やニュース、オンライン記事を眺める場面


玲はデスクの片隅でコーヒーを啜りながら、並べられた新聞やタブレットの画面を見つめた。

•新聞紙面では、森での不可解な事件が「巧妙に仕組まれた事故の真相を暴いた探偵チーム」として大きく報じられ、チームの名前は匿名ながらも称賛されていた。

•オンライン記事やSNSでは、「裏切り者と真犯人を追い詰め、証拠を回収した手腕に感嘆する声」が上がり、推理力とチームワークへの高評価が並ぶ。

•一方で、一部には「危険な森の潜入や監視者との対峙は現実的ではない」と冷静な意見も見られ、事件の裏側を想像させる好奇心が読者に残る。


秋津は書類整理の手を止め、新聞の見出しに目を通す。

篠原は腕を組み、記事の内容を眉間に寄せながら確認し、チームの活動が世間にどう受け止められているかを静かに分析する。


冴木涼は画面越しにコメント欄を眺め、匿名の賞賛や意見に微かに笑みを漏らす。

美波誠もまた、証拠整理の手を止め、事件の影響が社会に波及していることを実感していた。


玲は窓の外に目を向け、森の静けさを思い出す。世間の注目は、彼らが直面した緊迫の現場とは異なる。しかし、チームの中で育まれた信頼と成長こそが、外の評判よりも何倍も確かな財産であると、玲は静かに噛みしめた。

件名: 「覚えているか」

本文:


チームのみなさん


俺のことは覚えているだろう。あの森の夜のことを。

誰も気づかないうちに、真実は少しずつ隠されていく。

でも、忘れてはいけない。俺が知っていることは、まだ消えていない。


見えない光が、まだ導くかもしれない。

受け取るかどうかはあなたたち次第だ。


ー 裏切り者

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