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01.僕がアベルになった理由~帰省~

視点を変えた続編。

時間軸は同じですが、ここからはアベル視点での物語です。

本編では書けなかったことも書いていきたいと思います!

 あ!この匂い!早く!!早く行かなきゃ!パパ!早く!玄関に行きたいの!

 前足を、しゃがんでいるパパの腕にかけて、抱っこをせがむ。

「なんだー?柑梨。もっとおやつがほしいのか?」

 違うよ!早く下に行こうよ!

 僕は、わん!と一声吠えて、その場でくるりと回る。

「ん?おやつじゃないのか?じゃあ、だっこするか?」

 そう!それ!早く早く!

 僕はパパに近付き、再び前足を上げた。パパは、僕を抱きかかえて階段を降りてくれた。

 下ろして!下ろしてー!!

 階段を降り終わった瞬間、僕はパパの腕の中でバタバタともがいて脱出を試みる。はやくはやくはやくー!

「おっと、暴れると危ないぞ。なるほど……賢太が着いたのか。ほら、行ってこい!」

 パパに優しく下ろされた僕は、一目散に匂いのする方向に向かう。

 カチャカチャカチャカチャ。

 僕の足音が響く。匂いのする方に行きたいのに、今度はガラス戸が僕を阻む。

 どいてよ!邪魔だよ!あけてよ!

 カリカリカリカリカリ……

 僕は後ろ足で立ち上がり、戸を開けてほしくて無我夢中に前足の爪で扉を引っかいてアピールする。

 もー!!あと少しなのに!

 その時……

 からからからから……

 邪魔者のガラス戸が開き、すり抜けた先。

 賢太!!会いたかった!!ねぇ、どこ行ってたの?おかえり!!やったやったー!賢太だー!!

 お客さんの存在にも気づかず、僕は必死で賢太に体当たりした。僕の体当たりではびくともしない賢太。昔は小さかったのに。

「柑梨、ただいま!目が見えてないのに、ちゃんと分かってえらいぞ!」

 賢太は僕を抱き上げ、ほめてくれた。

 そんなの当たり前だよ。賢太がいなくて寂しかったんだもん。もうどこにも行かないでよー!!

 たくさんの幸せを伝えたくて、夢中で賢太の頬をなめた。

「わぁー!柑梨ちゃんだー!めっちゃかわいいー!!」

 知らない声が聞こえた。

 びっくりした!

 その声とともに、賢太が僕を床に下ろした。知らない匂いだ。誰だ?敵?味方?んー……賢太とは仲良さそうな気がする。

「急になでると怖がるから、手を出して、匂いをかがせてあげて?」

 そうだそうだー匂いかがせてー!そしたらどんな人か分かるからー!

 その声の後、賢太よりも小さい手が、僕の鼻先に近付いてきたみたいだ。だんだん匂いが近付いてきた。

 恐る恐るにおいをかいで、はっとした。

 んん!?いい匂いがする!

 その匂いは、半分賢太のにおいがした。あと半分は、優しくていい人の匂い。このお姉ちゃん、好き。

 そう思ったら、僕はついついその手をなめていた。

「わ、なめてくれた!」

 だって、お姉ちゃんいい人でしょ。賢太のこと大好きで、僕のことも大好き!だからお姉ちゃん好き!

「こんなところで、立ち話をしていたら暑いから、どうぞ中に入って!」

 お母さんが言った。今日はいい日だね。みんなお家にいる!

 お母さんの言葉を聞いて、みんながおうちに入ってきた。僕も涼しいところに一緒に行く。

 僕のハウスがあるお部屋では、あかりちゃんがテレビを見ていた。テレビって、知らない人の声はするのに匂いはしないんだよ。変なの。

 あかりちゃんは、賢太より格上だと僕は思う。だって、あかりちゃんは強いんだもん。

 僕の目がまだ見えた時、あかりちゃんは小さかったけど、大きくなってからはよく僕のこと守ってくれるんだ。どこかにぶつかりそうになった時に僕の名前を呼んでくれたり、だっこしてくれたり。

 それにね、賢太が大学生になってから寂しかった僕とたくさん遊んでくれたんだ。いつも優しいから、あかりちゃんは僕のお姉ちゃん。賢太は……泣き虫!僕が守ってあげないとだめなんだ。

「そうだ……ベランダから帰ってきたばっかりだけど、少し柑梨と遊んでみる?」

 え!?もう1回遊べるの?やった!さっきは賢太帰ってきたから、おかえりしたかったけど、本当はもっと遊びたかったんだ!

「え、いいの?」

 いい匂いのお姉ちゃんの声が弾んだ。お姉ちゃんも僕と遊びたいのかな?

 なんだか、勝手に尻尾が動いちゃう。

「父さん、いいよね?」

 賢太がお父さんに話しかけるから、僕もお父さんにご機嫌を伺いに行く。

 お父さん、いい?僕も行きたい!

 僕のかわいさにお父さんはメロメロだから、僕の期待した姿を見て、

「行ってきてやれ」

 って言ってくれた。

 やった!嬉しい!!尻尾がいっぱい動いてしまう。賢太にだっこをせがむと、大きな腕で持ち上げて抱きかかえてくれた。賢太がいるという安心感が僕を包んだ。

 階段を上がった先の部屋に賢太が僕を下ろしてくれたから、慎重に窓まで近寄る。窓を開けてくれる音がして、外の新鮮な匂いが僕の鼻をくすぐる。そして、僕の見えない暗闇の世界にも、光が差し込む。光だけはまだ少しだけ分かるんだよ。

 ぴょんっといつものように窓の桟を飛び越えてベランダに出る。

 いつものベランダだけど、賢太がいるだけでいつもと違う感じがした。賢太と遊べるの、久しぶりだー!

「柑梨、いくよ!レディー……」

 はやる気持ちを抑えて、出た指示に従って賢太の体の周りをくるりと回り、お座りをする。お座りをする場所はもう、匂いと感覚頼みだ。ボールが投げられた音がして、走り出したい気持ちを抑えてお座りを続ける。

「GO!」

 出発の合図が聞こえた。その瞬間、僕は走り出す。

 ベランダの距離はだいたい覚えている。さっきボールが弾んだ音がしたのはこっちだから、こっち!もう少ししたらごちんってする壁だから、ここからは歩いてボールの匂いを辿る!あ、あった!!

 僕はボールを探して、今度は賢太の匂いがするところに戻った。

「え、え、すご!」

 いい匂いのするお姉ちゃんは僕のことほめてくれてるみたい!僕、すごいでしょ!

 賢太の手が下りてくる感覚がしたから、賢太の手にちゃんと乗るようにボールを置いた。

 どう?僕上手でしょ!

「柑梨、いい子!」

 賢太が僕の名前を呼んで、たくさんなでてほめてくれた。賢太になでられると、ついつい賢太に体を寄せて寄りかかってしまう。もっとほめてー!もっとなでてー!

「じゃあ、お座りね。」

 え、もう終わり?もっとなでなでしてほしかったな……

 なんて思いながら、指示通りにちゃんとお座りする僕。賢太は僕の弟だから、ちゃんと言うこと聞いてあげないと泣いちゃうもんね。

 お手とおかわり、ハイタッチ、伏せ、一連の決まったコマンドをやりきった僕。これは、おりこうすぎておやつをくれちゃうんじゃないですか?

 賢太は、おやつを用意してくれて、

「よし」

 の合図を出してくれた。うまっ!!このために生きてると言っても過言ではない。僕はチーズのおやつが大好きなんだ。

「えー!!何この子。おりこうでかわいすぎる。」

 そうでしょ?いい匂いのお姉ちゃんも、僕と遊びたいんじゃないの?

「でしょ?我が家のアイドル。柑梨だよ。いろはも遊んであげてよ。」

 このお姉ちゃんの名前、いろはっていうんだね。賢太の大事な人なんだろうな。

「私が投げたら取ってきてくれないよー」

 そんなことないよ!投げてみてよ!いろはの匂いがついたボールも、僕はちゃんと探せるよ!

「そんなこと絶対ないから大丈夫!やってみて!」

 という、賢太の言葉。その通りだ!はやくはやくはやくー!

 ボールを追いかけたくてたまらない僕は、尻尾をたくさん振っていろはの近くに行く。

「柑梨ちゃん、よろしくね!」

 遊んでくれるみたい!嬉しいな!いろはの「レディー」という言葉で、今度はいろはの周りをくるんと回ってからお座りをした。

「あーもう……おりこう……かわいい……ねぇ、賢太君、もうおやつあげたい……かわいすぎて無理。」

 おやつ、というワードに反応してしまった僕。くれてもいいよ!期待のまなざしで見たが、賢太に阻まれた。ちぇっ。

 いろはが投げてくれたボールがバウンドする音が聞こえた。今度はあっちだね!

「柑梨ちゃん、GO!」

 あっちの方向に向かって走るとある!いつものボールについた、いろはの優しい匂いを探した。壁際に近づくと、一度立ち止まって周囲の匂いをかぐ。

 あった!

 ボールをくわえて、いろはの元に帰る。差し出してきた手にそっとボールを乗せた。

「あーおりこう!!かわいい!!世界一かわいい!!」

 そうでしょ?もっとほめて!!僕頑張ったでしょ!

 なでてくれる優しい手と、賢太より高い声が心地よくて、ついついいろはにも寄りかかっちゃった。顔を寄せると、すごくいい匂いがした。

 やっぱりいろは、好き。

 いろはは、上手にできたね、とたくさんほめてくれて、僕にチーズをくれた。いつもは1回持ってくると、チーズ1つしかくれないのに、なぜかいろはは3つもくれた。たくさん食べられて幸せー!

 いつもよりたくさん遊んでもらって大満足の僕は、帰りも賢太に抱っこされて階段をくだった。

 あーのどかわいたー!暑いー!疲れたー!

 下ろしてもらったあとは、たくさんお水を飲んで、あかりちゃんの隣で丸くなった。

 せっかく賢太といろはが来てるからもっと一緒にいたいけど、あかりちゃんがなでてくれるのが気持ちいい。

 起きてないと、遊んでもらえないのに、僕のまぶたは言うことを聞いてくれないみたい。

 耳の後ろをあかりちゃんが優しくなでてくれた。だめだ。何にも考えられないや……おやすみなさい。

 僕は眠気に抗うことを諦めて、夢の世界に沈んでいった。

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