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22.新たな出会い

 僕は毎日のように、いろはの元へ向かった。母のおかげで日常生活を取り戻したいろはは、以前のようにバイトも始めた。僕の実家にも定期的に顔を出していた。休日になると、母やあかりと出かけることもあった。

 それでも、僕が死んでから恋愛や交友関係に臆病になってしまったように見える。大学生といえば遊び盛りだというのに……あれ以来恋人を作らず、クリスマスが近づくと以前のように毎日のように泣き続けてしまっていた。無理もない。トラウマになって当たり前だ。いろはを置いて死んでしまったことに罪悪感を感じながらも、僕は悪い男だから、いろはが僕を思い続けてくれていることが嬉しくもあった。死後の世界で、ただ見ていることしかできなかったけれど。

 一年、二年、三年……いろはの時間は確実に、進んでいった。大学を卒業して社会人になったいろは。着慣れないスーツを着て出勤していく姿に思わず微笑みがこぼれた。

 新しい世界に出て、新しい出会いがあって、いろはが前に進むきっかけになってくれる人が現れないか、そう思う気持ちが膨らむ。もちろん、僕のことも忘れてほしくないって気持ちもある……。

 でもさ、いろは。もう、いいんだよ。僕のことを背負ってくれなくていい。今も大好きな君に、僕は幸せになってほしいんだ……。僕のことはもう忘れて……。

 

 

 四月、桜が舞い散る景色の中、初出勤に緊張したいろはを空から眺めながら、目を閉じて僕は神に祈る。

 いろはを癒してくれる人があらわれてほしい、彼女がクリスマスに泣くことがもうありませんように、と。

 

 

 社会人になってから、いろはは少し明るくなった。大学ではどうしても、僕との思い出があって苦しさもあったんだろう。知らない人たちに囲まれた新生活だと、『彼氏を亡くした』ということを知っている人もいないので、気遣われて気まずい思いをしたり、興味本位の目で見られたりすることがなくなったから、気持ちが楽になったのかもしれない。はたまた、作り笑いをするのがうまくなったのかもしれない。しかし、やはり明るくなった気がする。毎日ずっと見ているわけじゃないけど、その変化にほっとしている僕がいた。

 それと同時に、いろはに好意を寄せている男の存在を見つけて、嫉妬している僕もいる。応援したいのに悲しくなる……そんな情けない自分が嫌で、いろはの近くにいる時間を少し減らすことにした。でも、いろはのことが大切だから……結末は見届けたい。そう思った。

 二人は仕事帰りにご飯に行ったり、休日に同じ時間を過ごしたりすることが増えていった。いろはの表情がやわらかくなってきたことに喜びながらも、二人の時間を複雑な気持ちで見届けることもあれば、我慢できなくて見ることをやめる時もあった。でも、その男がいろはと一緒にいない時間のこいつもチェックしたが、こいつはいいやつだ。……って、僕はお父さんかよ。いや、天使曰く、ストーカーか。

 

 

 九月、まだ暑く感じるある日、二人は公園のベンチに座ってやきいもを食べていた。

 ……おい、竜司、おまえそろそろ告れよ。おまえの気持ちは分かってんだよ。いろは死ぬほどかわいいだろ。かわいいだけじゃなくて、すげーいい子なんだよ。おまえが……傷を癒してやってくれよ……頼むよ。消えない傷をつけた男が言うことじゃないかもしれないけど……。

 複雑な僕の気持ちが通じたのか、竜司が真剣な顔をしていろはを見る。

「いろはさん。好きです。俺と付き合ってください。」

 よく言った!いろは、これで幸せになれるな。いろはだってこいつのこと、絶対気になってるもんな。胸の奥の痛みに気付かないふりをしながら、僕はいろはの答えを待った。ああ……きっと僕は今、すごい顔をしているんだろうな……。

「え……あれ……なんでだろう……ごめんなさい……。」

 いろはの唇が紡いだ言葉は、僕が思っていたのと違う言葉だった。一人で複雑な感情に終止符を打とうとしていた僕に、驚きと罪悪感が一気に訪れた。目が離せなかった。そして、いろはの言葉を一言も聴き逃したらいけないと思った。大粒のダイヤモンドのように輝く涙で頬を濡らしながら、いろははうつむいた。

 まだ……ダメなのか……。僕は、いろはも竜司に惹かれていると思っていた。だから竜司になら……そう思って痛みをこらえようとしたんだ。なのに……いろは……こんなのって……。

「いろはさんは……俺のこと、嫌い……ですか?」

「違う……違うの……竜司君のことは好き。だけどダメなの。」

「それならなんでですか……俺じゃダメなんですか?」

「竜司君はダメじゃない……ダメなのは私なの。私が好きになると……竜司君もいなくなっちゃうよ……」

「「え……」」

 竜司のつぶやいた言葉と、僕のつぶやいた言葉が重なった。日常生活も問題なくできるようになって、涙を流す日も減って……それでも、いろはは僕が思っていた以上に、僕がいなくなったことに責任を感じているみたいだ。君を助けたことに後悔なんて一ミリもないのに……僕のせいだ。心がどうにかなってしまいそうなほど、苦しい。いろは……死んでまでも苦しませてごめん……。僕は本当にダメなやつだ。

 二人の会話は途切れ、いろはのかすかな泣き声が、もの悲しい秋の空に響く。しばらくの沈黙の後、状況が分からずに困惑しながらも、竜司がいろはの肩を抱き寄せ、優しく、誠実にいろはに向き合った。

「過去に何があったかは分かりませんが、俺はいなくなりません。OKしてくれるまで、何度でも伝えます。俺は……いろはさんがどんなことを抱えて苦しんでいるのか知りたいです。でも、今話したくないなら聞きません。話したくなるまで待ちます。だから、俺のことも見ていてください。」

 いろははうつむいたまま、「ありがとう……ごめんなさい……」とつぶやいて、竜司の胸に顔をうずめて泣き続けた。

 僕はただ、その場に立ち尽くしていた。

 

 

 それから二ヶ月、肌寒くなる十一月になっても、二人の様子は以前と変わらなかった。仕事帰りにご飯、休日は「友人として」のデート。友達以上恋人未満だ。竜司はあれから、いろはを大切にしながらも、再び気持ちを伝えることはしていなかった。少し触れると壊れてしまいそうないろはの心を守ろうとして、待ってくれていることが伝わってきた。

 そして僕は、何もできない自分と、この状況を変えたくて……神様に会いに行くことにした。

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