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17.君を守る

 日が落ちて、海岸にいるのが寒くなったので、予定通り僕の家に行くことにした。その前に、ケーキを買おう、ということになって、ケーキバイキングに行った後も、何度も足を運んだあのケーキ屋に向かった。

 

 

 クリスマスケーキを二つ買った僕ら。辺りはもうすっかり暗くなっていた。あの日、いろはは「クリスマスだからそれっぽくしたい」って言って、サンタさんの色……赤いダッフルコートを着て、大好きな『Chance』のケーキが食べられる!ってはしゃいで、ご機嫌だった。

 店を出て、僕の家まで2人で手を繋いで歩いている時だったね……。

「賢太君って、ホントにタルト好きだよね。なんか、いつもタルト買ってる気がする!」

「それは否定できない……でも今回の、スペシャルだから!!特別!!」

「クリスマスのスペシャルタルトだもんね。後でサンタさんも食べるんでしょ?」

「いや、あのサンタさんは家に飾る!」

「あはははは!食べ物なのに……え……あれって……」

 細い路地を笑いながら歩いていたその時。突然、二つの光が見えたのを今も覚えている。車のヘッドライトだと気づいたのは、その後すぐだった。

 いろはは、足がすくんでしまったようで、悲鳴をあげることもできずに、その場に立ちすくんでしまった。

 その光がいろはに真っすぐ向かっていったから……僕は夢中でいろはを突き飛ばした。何かに、背中を押されて動けた気がした。僕の足もすくんでいたはずなのに、僕が即座に動けたのは、奇跡だと思った。

 力任せに全力で押したから、いろはは道路の端まで飛んで、フェンスにぶつかった。ごめん。けが、させちゃったかな……痛かったよな。ごめんな。いろはがぶつかったのを確認した瞬間だった。僕の世界は逆転した。

 僕の体は空に投げ出された後、まるで人形のようにあっけなく地面に落ちた。車は、ブレーキをかけた音もなく、僕をはね上げ、その先の電柱にぶつかって止まったようだ。

 どこから出血したのかもわからないけれど、すぐに体の下に赤い、生温かい水たまりができていた。痛みは感じなかった。いろはが無事かどうか知りたかったし、思わず突き飛ばしてしまったことを、謝りたかった。それなのに、体が動かない。顔を動かすことさえできずに、僕はただ、息をしていた。胸にかけていた柑梨の骨が入ったペンダントに右手を伸ばすと、ペンダントがひしゃげていた。大切なものなのに……。柑梨の骨が無事だといいな……。いろはは大丈夫だろうか……。いろはがくれたスノードームはどうなったんだろう……。いろんな疑問が頭の中に浮かんでは消えていった。どの疑問にも、答えを出すところまで考えることはできなかった。その後は、中学の時、柑梨と出会った時のこと、不良の先輩と対峙した時のこと、いろはに出会った時のこと、いろんな映像が、浮かんでは消えていった。そして、急激に僕は眠くなった。

 瞼が今にも閉じようとしていた頃、大粒の涙を流しながら走り寄ってくるいろはの姿を視界にとらえた。安心した。君が元気だってことに、本当に安心した。守れて良かった。笑顔を作ろうとした。顔も動かない。それなのに、瞼が閉じてくる。眠い……。いろはに眠たいと伝えようと思って声を出そうとすると、口から何か生あたたかいものが一気にあふれ出して、せき込んだ。苦しい。

 もう声すら出すことができなかったけれど、僕は幸せだよ。長い間を君と過ごせたわけじゃないし、もしかしたら、君は幸せじゃなかったかもしれない。それでも、君を守れたこと、それが何よりも嬉しい。柑梨を守ることができなかった僕だけど、君を守ることができた。

 だから泣かないで?いろは……大好きだよ。それを心から伝えたかった……ケーキ、ぐちゃぐちゃになっちゃったね。ごめん。たくさん泣かせたね。ごめん。こんな風に、一緒にいられなくなっちゃったこと、ごめん。それでも僕は、君がいてくれて幸せだった。君が生きていてくれて幸せなんだ。僕の手で幸せにしてあげたかったけど……僕の分まで幸せになって……。触れられなくても、この気持ちが届くことは二度となくても、ずっと僕は君の幸せを守るよ……僕は、君のサンタクロースだから。

 僕の意識は、夜の闇に吞まれていった。

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