表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/39

16.デート

 そして冬。大学も冬休みを間近に控え、クリスマスの雰囲気に溢れていた。中庭にはクリスマスツリーが飾られ、日が沈むとイルミネーションが点灯していた。夕方まで授業がある時は、2人でイルミネーションを堪能した。夕方までない日も、毎日中庭で待ち合わせをして、昼食を一緒にとった。

「クリスマスイヴの日、空いてる?」

「うん!1日バイト入れてないよ!」

 空けるのが当たり前……というように、思ってくれている感じがして、すごく嬉しかった。

「ほんと?じゃあ、10時に迎えに行くようにするね?」

「わかった!何しよっか?」

「昼間は普通にデートして、夜うちでクリスマスパーティーしない?」

「お、いいね!賢太君のSwitchで人生ゲームやりたいなー……」

 実は、いろはは人生ゲームが好きだ。実家に来た時も、あかりと一緒にずっとやっていた。

「いいよ。ただ、手加減はしないからな。」

「え……あれ、全部運じゃん!笑」

「ばれたか……」

 

 

 クリスマスイヴ。僕は、いろはと水族館に行くことにした。電車に乗って江ノ島に向かい、水族館へ。

「大きな水槽だね……」

 いろはは背伸びをして水槽を見上げていた。背伸びしたからって、よく見えるのか怪しいものだ。

「俺、マンタが好きなんだ。ほら、あっちの岩陰から泳いでくる!」

 平べったい身体をした大きなマンタは、ゆったりとしてこちらへ向かって泳いできた。

「うわー……おっきいねぇー……」

 小さい女の子みたいだ。

「あのひらひらした泳ぎ方が、なんか好きなんだよね。いろはは、好きな魚とかある?」

「んー……魚ってあんまり知らないけど、クラゲは好きかも。」

「あー……マンタと似てるよね。」

「え、どこが!」

 驚いた表情を僕に向けて、訝しげに見る。え、そんなに変なこと言ったかな?

「ひらひらしてるとこ……似てない?」

「あ、そういうこと?あの色とか泳ぎ方とか全然違うから、なんで!?って思ってつっこんじゃった。」

「姿かたちとかは違うけどさ、なんかひらひらーってしてる感じするんだよね。」

「言いたいことは分かった……けど……なんか、納得はしたくないかも。」

「なんでだよー……でも、俺もクラゲ好きだよ!ここ、クラゲ展やってるみたいだし、せっかくだから行かない?」

「え、そうなの?めっちゃ行きたい!」

「じゃあ行こ!あっちね!」

 

 

 そこには、色とりどりのクラゲが展示されていた。そのどれもが水の中でふわふわと漂っていて、ライトアップされた水槽の中で方がいーやん、まるでキラキラと輝く宝石のようであった。

 中でも目を引いたのは、『ポドコライナ・ボレアリス』という名のクラゲだ。ノルウェーからやってきた小さいクラゲだ。透き通った透明の頭を持ち、頭の縁のところにあるオレンジ色の太陽みたいな輪から、たくさんの足が生えていた。

「かわいい。」

 いろはは、水晶のような、球体の水槽に張り付くようにして、そのクラゲを見続けている。

「泳いでる姿、なんだか傘みたいだね。」

「うん、なんかおしゃれ。」

「このクラゲも刺すのかな?」

「んー……どうなんだろう?賢太君、クラゲに刺されたことあるの?」

「あるある。小さい頃海で泳いでたら、なんかチクチクして……痛かったなぁ。」

「うわ……こわ!ちゃんと痛いの治って良かったね!」

「しばらくヒリヒリしてたけどね。あ、そろそろイルカショー始まるんじゃない?」

「ほんとだ!行こっか!」

 

 

 イルカショーの会場は、親子連れで溢れかえっていた。なんとか空いている席を見つけ、2人で並んで座った。調教されたイルカたちが、高いジャンプを見せてくれたり、お腹を向けて泳ぐ姿を見せてくれたり、握手する姿も見られた。いろはは夢中になって見入り、なにか芸をするたびに、歓声を上げて手を叩いていた。

 イルカショーも終わり、簡単に昼食をとり、おみやげショップを見ていると、大きなカニのぬいぐるみに目が止まった。

「あー……カニ食いたい。」

 不意につぶやいてしまった。水族館で海鮮の話は、なんとなく残酷な気がしてしまう。

「カニおいしいもんね。今は食べられないから……ほら!見て!」

 そう言うと、いろはは両手を重ね合わせて、影絵でよくやるカニを作って微笑んでいた。かわいい。

「んー……いろはのカニ、ホントに食べられるカニじゃないじゃん!」

「えー?なんで?」

「だって……サワガニ……」

「ん?サワガニって、川にいるやつ?」

「そう!いろはのカニ小さい!サワガニ!」

「なにそれ!ひど!でも悔しいけど、おもしろいから笑っちゃう!」

 そう言って、自分の手で作られたカニを見ながらケラケラ笑っている。

「俺が作るとタラバガニ。ほら。」

 そう言いながら、僕もカニを作っていろはに見せる。

「そんな変わんない!」

「いやいやいや、じゃあサイズ比べよ?」

 そう言って、僕のタラバガニの前に、いろはのサワガニを並べてみた。

「「……ちっさ。」」

 2人の声がはもり、笑い声に変わる。

「自分でも認めたじゃん!ってことで、いろはのカニはサワガニで決定!」

「あー……なんか悔しい。でもおもしろすぎる。」

 サワガニトークで満足した僕たちは、ショップを後にした。ちなみに、出る前に、小さいカニのぬいぐるみを買って、いろはにプレゼントしておいた。

 水族館を出ると、もう15時を過ぎていた。

「少し海岸歩かない?」

「いいね!行こ!」

「カニいるかもね!サワガニは……川だからいないか。」

「ねぇ!それめっちゃ引っ張るじゃん。」

 そう言いながら、手でカニを作るいろは。

「あ!サワガニいた!捕まえなきゃ!」

 そう言って、いろはの手を取って指をからませた。

「俺、マジで幸せ者だな……」

「どうしたの?いきなり。」

「いろはとこうやっていられるのが幸せ。それに、なんかクリスマスイヴに彼女と冬の海とか、なんかオシャレだし!」

「照れるから!でも、私も幸せだよ。」

 そうこうしているうちに、砂浜に着いた。冬の海は空気が澄んでいて、夏の喧騒感がない。僕たちと同じように、海を見に来ているカップルたちがちらほらいたが、みんなそれぞれに自分たちの世界に入っているらしかった。

「いろは、俺さ、ホントダメなやつなんだけど、いろはのことずーっと大切にしていきたいって思ってるから。」

「急に改まってどうしたの?」

「なんか言いたくなった。」

「ありがと。賢太君が、そうやって言葉で伝えてくれるの嬉しいよ。」

「そんなの、当たり前だよ。だって世界一かわいいと思ってるもん。」

「それは照れる。」

「本気。いろはが彼女ってこと、人生最大のファインプレーだと思ってる。」

 海の壮大さが、僕の心を洗ってくれるようで、いろはへの素直な感情があふれ出してくる。

「柑梨がいなくなって落ちてた俺のこと、ずっと支えてくれたし、その後だって……向き合うことにびびってた俺なんかより、いろははずっとかっこいい。」

「そんなことないよ。私だって、大切な家族失った時はすごく荒れたんだよ?」

「いろはでも荒れたことあるの?」

「あるよー……私にはね、お父さんがいないの。」

「そう……だったんだ?」

「小学生の頃かな。小さい頃、たくさん遊んでくれてたから……すごく好きだったんだけどね。お母さんじゃない別の人好きになっちゃったみたいで……急にいなくなっちゃったんだ。」

「え……そうなの?」

「うん。賢太君みたいに大切な存在を永遠に亡くしたわけじゃないけど、苦しかったかなぁ。」

「そんなの、当たり前だよ。」

「うん……小学生だったから、あんまり意味も分かってなくて……お母さんが追い出したんだって……お母さんのこと責めちゃった。大きくなってから、ちゃんと聞かされて、反省したなぁ。」

「お母さん、自分が裏切られたのに、お父さんのこといろはの前で悪く言わなかったってこと?すごすぎる。」

「ね。元気ないのは分かったけど、そんな状況だったなんて全然考えてもなかったよ。でも今ね、お母さん、別の人見つけたの。幸せになってほしいから、あんまり帰らないようにしてるんだ。」

「そっか……だから夏も帰ってなかったのか。でも、今度挨拶に行きたいな。」

「え。ほんと?」

「うん。いろはさんを僕にくださいって。」

「ねぇ!早い!笑」

「だってほしいんだもん。」

「ほんとアホ!もう少ししてからね?でも、小学生の時に戻れるなら、ちゃんとお母さんのこと支えてあげたいなって、今も思うことあるんだよね。」

「お母さん、強い人だなって、聞いてて思ったよ。」

「うん。私最悪なこと言っちゃった記憶しかないからさ。ホントに申し訳なさすぎる。」

「いろは、いろいろ言った後に反省するタイプだもんね。」

「それはそう。いつもね、とりあえず言っちゃうけど……いつもお風呂の中で1人反省会するの。賢太君と言い争っちゃってた時もそうだったよ。ごめんね?」

「いや、あれは俺が悪いから!」

「違うの。なんか、お父さんのこと聞いてから、男の人ってそういうことするんだなって気持ち大きくなってて……賢太君に会うまで全然信じられなかったから、恋愛なんてできないって思ってたの。」

「え。今のろけてる?」

「ばか!……でも、ちょっと惚気けてる。」

「え、幸せすぎる。俺、こんなんだけど、いろはのことずっとずっと大切にしたい。」

「うん……ありがとう。たくさん幸せもらってるよ。賢太君、ずっとそばにいてね?」

「当たり前だよ!あー!!本当は俺の家でご飯食べてる時あげようと思ってたんだけど、我慢できない!これ。」

 バッグから、包装紙に包まれた小さな箱を取り出す。

「え?」

「クリスマスプレゼントだよ。ほら、開けてみて?」

 丁寧に包装紙を取り、箱を取り出して開けるいろは。包装紙綺麗に取れるのマジですごい。僕はいつも破いてしまう。

「え、え、何これ!」

「髪留めなんだけど……気に入ってくれたら嬉しい……」

 初めて買ったから、マジで何を選んでいいか分からなかったので、いろはがつけたらかわいいだろうなってものを選んだ。いや、何を手に取っても似合う姿しか浮かんでこなくて、本当に悩んだ。結局、グレーのリボンがついたものを選んだ。落ち着いた雰囲気だったので、どんな服にも似合うんじゃないかと考えたからだ。

「リボンだ!かわいい!ありがとう!大切に使うね!」

 やわらかい笑顔で僕を見て、喜んでくれるいろは。めちゃくちゃかわいい。魅了状態にかかる僕。

「私も賢太君にプレゼントあるんだよ。」

 見とれてぼーっとしていると、いろはの声が遠くで聞こえた。『プレゼント』というワードにはっとして、つい……

「ありがとう!俺も大切にする!」

 と叫ぶ。

「あはははは。まだ何もあげてないのに?」

 完全にフライングしてしまった。

「どんなものでも嬉しいから!」

「えー、なんかハードル高い感じする……これ……なんだけど……」

 いろははバッグから、僕があげたものより少し大きな箱を取り出した。包装紙がクリスマスカラーになっていてかわいい。

「開けていい?」

 受け取ってから、いろはの顔を覗き込んで聞く。

「もちろん!」

 包装紙を、なるべく破かないように丁寧に開ける。

「賢太君、絶対それ、きれいに開けるの苦手でしょ?」

「うん……いつもはめっちゃ破く。でも今日は、包装紙すらもったいない!」

 そう言いながら、真剣に開ける僕。

「嬉しいけど、そんなに無理しなくていいからね?包装紙って、結局最後には捨てちゃうじゃんね?」

「いや、捨てない!このセロテープも俺は捨てない!」

「ほんとアホ。」

 呆れた時にするあの細い目で、いろはが僕をじぃ……っと見る。気にするもんか。時間をかけてきれいに包装紙を取ると、白い箱が入っていた。箱の蓋に指をかけ、ゆっくり開くと……

「スノードーム?あ……」

 いろはが僕にくれたスノードームの中を覗くと、柑梨を抱いている僕の姿があった。不意に涙がこぼれた。

「賢太君……ごめん。思い出しちゃった……よね。でも……どうしても、柑梨ちゃんと賢太君は一緒にいてほしくて……」

 突然涙を流した僕を、気遣ってくれたいろは。

「そうじゃないよ。思い出して、悲しくて泣いてるわけじゃないんだ。」

「え……?」

「嬉しくて。いろはの気持ちが。」

「だって……」

「この中の俺、めっちゃ幸せそう。柑梨も笑ってる。」

「うん。賢太君のおうち泊まった時、撮った写真なの。スノードームにしたら、この先もずっとこの時の賢太君と柑梨ちゃんは、幸せのまま一緒にいられると思ったの。」

 少し困ったように、いろはは言った。

「ありがとう。大切にするってより、もう宝物だよ。めちゃくちゃ嬉しい。」

「良かった……。」

「あー……またいろはに泣かされたー!」

「えー……私のせいなのかな……?」

「そう!いろはのせい!でも、マジで幸せ。めっちゃありがとう!」

 それから少しの時間、海岸で海の満ち干きの音を聴きながら2人で語り合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ