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11.ケーキバイキングと夏の約束

 怒涛のテストがやっと終わり、大学が夏休みに入った。大学があればいろはと会うことができる僕にとっては、いいのか悪いのか、なんとも言えないところだった。

 それでも夏休みに入ってからは、バイトをしたり、デートをしたり、もちろんだらだらしたり……すごく大学生らしい充実した日々を送っていた。

 いろはの誕生日に行ったレストランから紹介された『Chance』というケーキ屋は、僕たちのお気に入りデートスポットになった。あのおしゃれなお店が配送を頼んでいるだけあって、まず何を食べてもおいしかった。

 お店の企画で夏休み中はケーキバイキングをやっていて、僕も生まれて初めてチャレンジした。ショートケーキにチーズケーキ、チョコレートケーキにフルーツタルト……様々なケーキが並んでいて、それが小さいサイズに切り分けられていた。

「え、ケーキバイキングのケーキって、こんなに小さいの?」

 僕は最初そんな感想を抱いたが、途中からは小さくしてくれてありがとうと思った。いつもの大きなケーキを食べていたら、バイキングする前に1つか2つでもういいですってなってしまうだろう。

 いろんなケーキをお皿に乗せて、いろははにこにこしていた。この小さい体のどこに入るんだろうか。僕よりも食べている。

「賢太君、バイキングの時間はまだ終わらないよ!食べようよー!」

「待って。胃もたれしそう。限界!」

 これでも、だいぶ食べたと思うんだけどなぁ。

「はい、あーん!」

 ……そんなこと言われたら、否応なしに口を開けてしまう。だって嬉しいじゃん!何を入れるつもりなのかも把握しないまま大きく口を開けると、酸味が広がった。

「すっぱ!」

 甘いものがくると思っていたので、予想外の味に驚いた。

「レモンゼリーだよ。クリームで胃が疲れたら、こっちの方がいいかなって思って!」

「あー……なんか口の中さっぱりした!ゼリーもけっこうあるの?」

「向こうの方にあったよ!」

「それならいけそう!ありがとう!」

 その後はひたすらゼリーを食べて、お腹が水でいっぱいになった感覚がした。

「何が一番おいしかった?」

 正直、なんでもおいしかった。

「んー……強いて言うならタルトかなぁ。フルーツ乗ってて、甘すぎなかったから食べやすかった感じする。」

 いろはは、驚いた顔で僕を見ている。

「え、何??どうしたの??」

「胃もたれしてたから、ゼリーって言うかと思ったから!」

「確かにケーキバイキングはつらかった。俺、ケーキは1つでいいや。」

「あはは。たくさん食べなきゃって思うと、尚更きつく感じるよね。」

「ほんとそれ。ケーキは攻撃力高いって初めて知ったよ。」

「ケーキは攻撃しないよ!」

「いや、胃への攻撃力はかなり高かった!」

「もー……なにそれー……」

 呆れられている気がしたが、仕方ない。

 

 

 ケーキバイキングを堪能し、いろはを家まで送った。

「そうだ、8月、半ばに帰省しようかと思ってるんだ。」

「おー!いいじゃん!!柑梨ちゃんに会えるね!」

「そうなんだよ。この前帰った時、夏休みにまた来るって約束したからさ。」

「私もまた会いたいなぁー……」

「え、じゃあ一緒に来る?」

「行きたいけど、さすがに何日も行ったら迷惑だから、もし賢太君のお母さんたちが許可してくれたらだけど……賢太君が帰省するタイミングのどこかでお邪魔しようかなぁ。」

「やったぁ!」

 あ、感情がめっちゃ漏れた。

「ホントにこういうとこ、子供みたいでかわいいなって思うよ。」

 くすくす笑いながら、僕の頭をなでなでするいろは。

「もしかして……バカにしてる?」

「ア・リトル。」

「急に英語……。しかもバカにしてるって認めてるし……傷つくわぁ。」

「ふふふ……よしよし。じゃあ、お母さんたちに聞いといてね!」

「絶対いいって言う上に、連れてこなかったら怒られるまである。」

「ほんとぉー??本当なら嬉しいな!」

 夏休み、少しでも会いたい。そう思っている僕は、新しい約束が嬉しかった。そして、いろはが、僕の実家を好きになってくれていることがもっともっと嬉しかった。

 

 

 家に帰ってすぐ、LINEの画面を開き、母親に連絡をとる。

『8月の10日から1週間くらい、帰省していい?』

 ものの数秒で既読がつき、

『賢太単品不可。歓迎いろはちゃん。』

 ときた。僕の扱いは、なんでこんなに雑なんだろうか。

『長いこと泊まると、いろはも気を遣っちゃうから、何日かは来ると思う。』

『御意。』

 母親は、何か変なドラマにでもハマっているのだろうか。御意なんて言葉、使わなくないか?

『何日くらいなら大丈夫?』

『賢太3日。いろはちゃんいくらでも。』

『分かった。伝えとく。』

 もう面倒だから、雑な扱いに関しては無視を貫くことにした。

『賢太3日は嘘だけど、何日来ても大歓迎だから、いろはちゃんが大丈夫なら、気にせず連れておいで。』

『ありがとう。また連絡する。』

 分かっていた反応ではあったが、歓迎してくれていて安心した。さっきまで一緒にいたのに、声が聞きたくなって電話で連絡することにした。

「もしもし。いろは?」

「賢太君?どしたの?」

「今、母親に連絡したんだけどさ。」

「うん。」

「いろははいつまででもいていいけど、俺は3日で帰れだって。ひどくね?」

「あはは。お母さんお茶目だよね。」

「いや、俺の扱い雑すぎるよね?」

「んー……愛情表現……だね!でも、来ていいよって歓迎してもらえるの、嬉しい。」

「当たり前だよ!母さん、めっちゃいろはのこと褒めちぎってたもん。」

「え、そうなの?」

「うん。あんなにかわいくていい子いないって言われてる。」

「うわー、嬉しいな。」

「だからさ、俺、10日から1週間くらいいるつもりなんだけど、いろはどうする?」

「んー……バイトもあるから……13日からなら大丈夫そうかなー……15日に帰るんだよね?」

「そのつもり!俺もバイト入ってるから。」

「じゃあそうさせてもらおうかな。大丈夫かなぁ?」

「絶対大丈夫!じゃあ、13日の日、駅まで迎えいく。時間決まったら教えて?」

「うん!賢太君、誘ってくれて……ありがとね。」

「俺がいろはと一緒にいたいから。今も、声聞きたすぎて電話しちゃった。」

「私もだよ。……さっきまで一緒にいたのにね。」

「ほんとそれ。禁断症状が現れる前に、声聞かないと……」

「なんか病気みたい!」

「ある意味病気かも。」

「もー。明日もバイトで早いでしょ?もう寝よ?」

「うん。いろは、おやすみ。」

「うん!おやすみ!また明日ね!」

 電話を静かに切って、余韻に浸っていたら、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。

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