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Ms.BLACK  作者: 弓塚晋助
一章
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やってみたいシチュエーション

 船から降りてクリフ王国の検問所に向かって歩いている。クリフ王国の検問所を通るには厳格な検査を突破しなければならない。


「検問所はお金払わないといけないの嫌だな」


「それって当たり前じゃないですか?」


「当たり前なんだけど、今お金ないし、どうしようかな」


 島で捕らえた幻獣はまだ売ってない。魔術院の支部がないところでないと、幻獣は売却できない。幻獣の身体は魔力を帯びていて、様々な用途で使うことが出来る。芸術品としても生活用品としても使うことが出来るためこの世界の必需品になっている。


「ネッシー早く売らないと」


「ネッシー?」


「なんでもないよ」


 なんでか幻獣って僕の知っている生物に近い姿をしてるんだよな。不思議だね。


「検問所着いたな」


「ですね」


 検問所を見る。クリフ王国の検問所は王国を囲む白い城壁の一部に作られている。城壁はとても高く、作るのにお金掛かっただろう。


「よし、跳び越えよう」


 検問所から離れた所に行き、僕はプルルを脇に抱え、足に魔力で身体強化を施す。そして跳んだ。プルルは何か叫んでいるが、よく聞き取れない。


 白い城壁を軽々と跳び越えた僕は何処かの家の屋根に音を殺して着地した。よしよし、不法入国完了。


「じゃあ行くよ。目指すは王都だ」


「吐きそう……」


 このぐらいで吐きそうと言っているようではまだまだかな?


(後で魔力での身体強化を教えようかな)


 プルルを弟子として育てるなら最低限の実力をつけてもらおう。僕が知る格闘術でも教えてようかな。


「それで先生、王国の何処に行くんですか?」


「王国の王城だよ」


「……何でですか?」


「この国の王様に挨拶に行くんだよ。折角立ち寄ったからね、魔法使いとして今の時代のニの魔法使いに会っておこうと思ってね」


「……王様と面識あるんですか?」


「ない。けど、その王様の息子とは会ったことがある」


「それは……面識はないってことじゃないですか」


 プルルは困惑していた。確かに王様に会うってことは招待状がない限りは会うことも出来ない。僕は貴族ではないし、勿論招待状は持っていない。


 でも、クールキャラはそんなことは気にしない。気にしないから、クールキャラとも言えるからだ。


 シチュエーション的に一国の王様の前に現れ、何かを言い残すクールキャラは、とても良い。嬉しさで痺れてしまう。


「面識があるとかないとか、そんなことは僕には関係ない」

 

 そう言い切った僕を見て、驚くプルル。プルルにとっては王様って存在はとても大きい存在みたいだ。


「じゃあ王都まで歩くよ」


「……………」


 心配が顔に出ているプルルも僕が歩き出すと、トボトボと歩き始めた。師匠と弟子は一心同体だから、結局は一緒に行動するしかないのだ。



            ////////

 


 結構時間掛かったけど王都に着いた。僕は王都に来るのは初めてだけど、意外と驚いた。


 道が舗装されて歩きやすかったし、学校もあって行き交う人の中に学生服の人を見た。


 普通の人が見ればいつも通り。しかし、六百年前のことを思えば、感心することばっかりだった。あの時代は戦争しかやってなかったし、本当に見違えた。


(文明的には中世ヨーロッパ風のままだけど、街道整備や教育施設の充実ぶりは日本に並ぶものがあるな)


 そう思いながら、僕は身体強化を実践中のプルルを見ながら考えていた。僕は王都にあった魔術院の支部でネッシーを売却し、お金を受け取っていた。


 そのお金で少し良い宿に泊まり、夜が来るのを待っていた。本当はやりたいことはすぐやるのが良いと思っている僕だが、今は時期を待った。


 そう。今の時刻は昼、まだ明るいし今から王様に会っても周りに騎士たちがいるから不用意に近づかない。別に騎士たちのことを警戒している訳ではない。王国の騎士は確かに良く訓練されているけど、技術が甘い。


 剣の技術も日本に伝わる剣道に比べたら無駄が多い。


 魔力による身体強化は操作性が拙いし、消費する魔力量が多い。


 この国の騎士は気にしなくて良い。重要なのはクールキャラが昼から王様に会うのは場違いってことだ。


 例えるなら、生焼けの肉にとっておきのスパイスを振りかけておいて、いざ完全に焼けると味がイマイチな感じになるのに似ている。


 そうなりたくはない。クールキャラはミスをしない。ミスが起きないように細心の注意と最大の努力を怠らないのだ。


(狙うのは王様がベットで寝ている時だけだ)


 王様がベットで寝ている状況で、ふと、窓が開いているのに気がつく、するとそこにはクールキャラが窓の淵に腰掛けている。


(ああ、理想の状況だ。一度はやってみたいシチュエーションだ。全世界のクールキャラを代表して僕がそれを現実にしてみせるよ!)


 

            ////////



「プルル、ちょっと出掛けてくる」


「王様に会いにいくんですか?本当に?」


「本当に。」


「捕まらないですか?」


「捕まらないよ。僕は『時計』の魔法使いだよ。誰にも僕を捕らえるなんて出来ない」


「……私は先生の魔法使いとしての魔法を知らないんでよ。先生から渡された魔術書を読みましたが、本当に難しいんですよ。先生は自分の魔法を解析して書いたと言っていましたが、時間に関する魔術は使うのが難しくて使い手も少ない……私が使えるのはまだ触り程度なんです」


 プルルは不満げに溜息をこぼした。


「それに、先生の魔法を私はまだ見ていません。どれ程のものか、まだ知らないんです。」


 確かに、と思った。魔法使いって名乗ったが、僕はプルルに魔法を見せていない。弟子入りを頼んだのも魔法使いだと言ったのが大きいからなのかもしれない。これじゃあ、魔法使い詐欺じゃないか。


「確かに魔法は見せていないね。でもね、プルル。僕は確かに魔法使いだよ」


「じゃあ、魔法見せてくれますか?」


「それは出来ない。今は忙しいから帰ってきたら見せてあげるよ」


「……約束ですよ」


「いいよ」


 そう言って僕は、宿の窓から王城に向かって飛びだした。





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