転生した僕の夢はクールキャラ
結果的に言うと、僕は異世界に転生したのだ。本当に何の脈絡もなく、言葉の通りの意味として転生した。
(輪廻転生か)
最近ではもはや一般化してきた転生ムーブに、まさか僕まで乗っかることになるとは。乗るしかないこのビッグウェーブに、というやつだろうか?
(転生かぁ、そういうこともあるんだなぁ)
折角転生したんだ。実は魔法とかあるなら一度は使いたいと思っていたんだ。空想上の存在に手が伸ばせるなら伸ばしてみたい。しかし。
転生して僕が目を覚ましたとき僕は赤ん坊だった。両親は見当たらず道に捨てられてた僕を拾ってくれたおばあちゃんが僕を育てているみたい。
辺りを見渡せば、中世ヨーロッパぐらいの文明の人たちが沢山居た。
(なんかこの世界、魔法がないっぽいな)
僕が転生した世界は超常的な力がなかった。
簡単に言えば、魔力とか魔法とかだ。やはり僕も思春期の男の子な訳で超常的な力に憧れるんだよね。
こう、なんか、口にするにも恥ずかしい台詞を言ってみたい気持ちはある。
(できないのか、残念だ……)
そう、とても残念だ。だが、魔法がなくたって正義の味方は目指せるのだ。
そう思いながら新しく命を得てから10年ぐらい経った。
僕は相変わらず正義の味方になるための訓練を続けていた。前の世界ではいい線まで行ったという確信があるからだろうか。僕はより過酷に自分を追い込んだ。
山を駆け抜け、木刀を振り、イノシシと勝負をした。
そんな姿を見たおばあちゃんは「王国の騎士にでもなりたいのかい?」と聞いてきた。
ここで自分の夢を答えるのは簡単だ。しかし、この世界は戦争が絶えず毎年のように村の男たちが徴兵される。
そんな世界で自ら、国同士の戦いに向かうのは正義の味方のやり方ではない。
戦争はどっちが正しいか優劣をつけずらいから苦手なんだ。今も昔もそれは変わらない。
「騎士にはならないよ。戦争とか興味ないから」
そういう僕を見ておばあちゃんは安心したようにゆっくりと息を吐いた。無難に返せたと思い、僕たちは家に帰った。
そんな日常を繰り返しながらの日々は悪くはなかった。正義の味方にはこういう穏やかな日常も必要なのだ。親和性を高めるのにもうってつけだし、この生活が普通に楽しいと思えたのだ。
唐突だが、ある日の昼にビックリの事実を発見した。
この世界に魔法はないと言ったが、僕だけは違ったらしい。何でかと言うと木の枝で腕を深く切ってしまった際、不思議な光が僕の傷を治した。
「うわぁ」
何だコレ。こんなの僕知らない。
一瞬戸惑ったけどすぐ理解した、魔力だ。
不可能を可能にする神秘の力。前世になかった超常的な力を目の当たりにした僕は、つい思わず。
「ふっ、ふふふふふ、あっはははは!!」
盛大に笑ってしまた。けど仕方ない、ないと思っていた魔力があったんだと証明できたからだ。
しかし、魔力があるのは嬉しいがそれだけだ。肝心の魔法をどう使うのか、それがわからない。どうしたものか、うーむ。
////////
そう思いながら帰路に着いた。夜になると静かになるのは自然だが今回は違ったらしい。
何かが燃える音と誰かが叫ぶ声が聞こえた。おばあちゃんは隣の国が攻めてきたとか言ってたけど、よくは知らない。
家を出て山へ向かう。手を強く引っ張られて、僕はおばあちゃんの思いやりを拒むことはできなかった。
「逃げるよ!山に隠れれば王国の騎士団が助けてくれるから!」
その途中、後ろからヒュンと弓が放たれる音を聴いた。僕を抱いて庇うおばあちゃんの背中に当たった。その当たった位置は心臓部分だった。
おばあちゃんが横に倒れ、痛みを我慢する声がすごく近く聞こえる。後ろからは馬に乗った鎧を着た人が1人来た。ニタニタ笑うその顔が、というより元の顔が気に入らない。
「おっと!1発で楽にするつもりが……すまないなぁ」
僕はおばあちゃんの体を見て矢が当たった位置的に死ぬのがわかった。
正義の味方を目指している僕は、射った矢のスピードに人間は追いつかないとわかっていた。だから避けようと思っても、逃れることはできないとわかっていた。だけど。
(人は簡単に死ぬんだな、それが凄く悲しいことなのはわかってるのに……)
普段、滅多に僕は怒らない。もし目の前に突然、豚が降り注いでも多分僕は驚かない自信がある。
そんな僕だが、今まで育ててくれた恩がある人を矢で射られて黙っていられることは果たしてできるのか?
「答えはNOかな」
僕は無意識のうちに魔力を放出した。辺りの木や草は魔力を放出した際に生じた風圧で軽く揺らいでいる。
目の前の状況を理解できない鎧の男は慌てて矢を僕に向けた。
「遅いよ」
だが遅いのだ。魔力を使えるようになった影響だろう男が放った矢より早く動き、あっという間に男の前に立ち、中段の正拳突きを打ち込んだ。
吐瀉物を吐く鎧の男にアッパーカットを打ち込み、気絶したのを確認したら近くの木に吊り下げた。鎧の男は放っておいて、おばあちゃんに駆け寄った。
「おばあちゃん大丈夫?」
「大丈夫な訳ないじゃない、本当に痛すぎるわ」
「死んじゃうの?」
「ああ、死ぬね。でも死ぬ前にこれをお前にやる」
渡されたのは黒い時計と昔のおばあちゃんの写真だった。
「何でこれを僕にくれるの?」
「だって私が死んだら、お前1人になるだろ。それは可哀想かなと思ったんだよ」
死にかけの身体で元気よく振る舞うおばあちゃんは正義の味方として理想を体現しているようで格好いいと思った。
死に際にこそ、その人の人間性が出ると言うけど、だったら間違いなくこの人は正義の味方のような人だと感じた。
「おばあちゃん、僕を助けてくれてありがとう」
「おう」
「今まで僕を育ててくれてありがとう」
「おう」
「おばあちゃんのこと多分絶対に忘れないと思う」
「そこは絶対に忘れないって言うんだよ。馬鹿」
「最後に言いたいことがあるんだ」
「おう」
「僕の夢は正義の味方だったんだ。だけど、正義の味方にも守れないものがあるって気づいたんだ」
「おう」
「だから、正義の味方は諦めるよ。代わりに」
少し迷った末、意を決して宣言した。
「誰にも負けない力を持つ、冷静で格好良いクールキャラに僕はなるよ」
おばあちゃんは隙を突かれたように笑った。
「アッハハ!なんだい、それ!正義の味方の方がまだ現実的だったよ」
「そうだね、でもそういう生き方もありって今知ったんだよね」
「ふーん、じゃ頑張らないとな。」
「うん」
短い、しかし最後の家族の団欒がそこにはあった。
「最後に」
「おう」
「今までありがとう」
「おう」
そう言うとおばあちゃんは息を引き取った。涙は流さなかった。多分おばあちゃんはそれを望んでないから。僕はおばあちゃんを近くの大きな木の下に埋めた。少しの後悔と感謝を込めながら。
////////
「さて、魔力を使えることは確認できた。後は魔法が使えるかだけど」
そう、この魔力は不可能を可能にする力だが多分僕にしか使えない。だって村の人たちに聞いても魔法使いはいないって言うんだ。
だから、自然と魔力なんてものも存在……いや、知らないとわかった。
「望めばしたいことが出来るとか都合の良い力だったらいいのになぁ」
例えば、息を吹きかけると風が渦巻いたり、と思って息をフゥと吹いたら。ブワァッ!と風が出た。Oh、マジですか。
「ホントにできたよ。でも強すぎる力だな。あと、僕だけが使えるのもフェアじゃない気がするし。この世界の人たちも魔力使えるようにならないかなぁ」
あっ、と気がついたときには既に遅し、自分の中から何かが大量に抜け出ていくのを感じた。これは、もしかしなくても、叶っちゃったのかな?
「でも、結果オーライだな。これでこの世界は魔力に満ちた訳だし。みんな魔法も使えるようになるでしょ」
魔力の問題は解決したが、元々の力が強すぎた為か、これから魔法が使えても強すぎたら、色々面倒な事態になってこの戦争がいっぱいある時代が激化するかもしれん。
そうなっても僕は別にいいけど魔力を使えるようにした最低限の責任は取らないとな。
「よし。魔法を使える人は8人までにしよう。そして、その他の人は魔術って言う枠組みに収めたものを使ってもらおう。魔法使いになる為の条件は……そうだな、魔法の設計図を予め用意して色んな場所に設置する。そして、設計図を見つけた人が望んだ魔法を使える、でいいか」
魔法と魔術の関係は今は思いつかないから、後で考えるけど取り敢えずは、魔法はこの世界の人たちが望んだものを可能にする力として機能するように願い、魔術は魔法よりも多種多様なことが出来る無限大の可能性を秘めた誰でも使えるものとして願った。
そして、自分の中から力が抜けていき、自分の願いは叶ったんだと感じた。それが僕は嬉しかった。




