まだその時ではない
「いよいよだな」
「はい」
夜の丘の上に男たちがが佇んでいる。
1人は貴族の男。もう1人はローブの男。
傍から見れば不思議な組み合わせ。
しかし、この2人には目的があり、此処にいる。
それは、
「王を殺す」
王殺しという目的が。
隣のローブの男は魔術師で、実験を許可していた国に秘密で人体実験を繰り返していた。
それが騎士団に発覚し、追い出された。
彼は魔術師としては優秀だったが発想が危険なあまり、魔術院に危険人物扱いされていた。
魔術に犠牲は付き物、という考えにはエンド以外誰も共感してくれなかった。
彼らは互いに遠い場所に位置しているが、一つの思想の元では友と呼べる関係だった。
エンドが王となり、実験を認可してくれるという約束の元、協力したのだ。
「準備を始めます」
ローブの男が後ろの森へと入っていった。
それを見送り、視線を再び戻す。
視線は王国を見据えている。
これから起こすことを頭に思い浮かべると、自然と笑みが溢れる。
計画に穴はない。
後ろの森にいるアレは化け物だ。
アレを捕獲するためにどれだけの犠牲と金を掛けたのか。
それが今日報われる。
エンドは両手を広げて言った。
「さあ、計画を始め——」
突然と後ろから何かが飛んできた。
何かと思い、拾って確認してみると。
「ひぃッ………!!」
それはローブの男の首だった。
驚いて生首を森の方向に投げた。
その森の方向から何かが近寄る。
ズシ、ズシ、ズシ。
何か大きなものが近寄ってくる音。
ズシ、ズシ、ズシ。
それは次第に大きくなっていき。
音が止んだ。
目の前には捕獲した筈のアレがいた。
「な、何故ッ!何故だ!何故ッ!!何故だ!!!」
状況が理解できない男は狂乱した様子で言い放つ。
「制御装置はどうした!!行動は制限されていた筈だ!!」
目の前にはアレがいる。
この国でも屈指の実力を持っている自分が絶対に敵わないと確信する化け物。
幼い頃から天才と呼ばれていた。
天才は上を目指すものだ。
優れている自分はもっと上に登れる筈だ。
着々と下地を積んで、王になるのが夢だった。
諦められない。
どうすれば良い。
「クソッ……!!しかし、予備の制御装置は持っている。これが有れば……」
懐から制御装置を取り出す。
ボタンを押そうとした瞬間。
手首から上が消失した。
視界から消えた手は地面に落ちていた。
「あっ、え」
痛みが遅れてやってくる。
叫ぼうとした。
するとグチャッと。
絶叫は聞こえなかった。
その叫び声が喉から出るより早く、アレと呼ばれる化け物が男を踏み潰したからだ。
地面から血が滴る。
化け物は踏み潰したものを気にしない様子で王国を見ている。
化け物が甲高い声を上げた。
それは叫び声のようで、怨敵を倒したような咆哮だった。
ゆっくりと歩みながら、化け物は王国へと向かった。
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「先生、夜になりましたけど」
私は昼から本をずっと読んでいる先生に声を掛けた。
「そうだね」
先生は本を読んだまま動かない。
「王様を殺そうとしているんですよ。エンドがしようとしていることを止めなといけないんです」
「そうだね。けど、王都は広いし何処にいるか分からないよ」
「魔力の痕跡を辿れば、大まかな位置は分かります。
だから、探しに行きましょう」
それでも動かない。
何か考えがあるのだろうか。
本しか読んでないのに。
「なんで探しに行かないんですか?」
「もう少し待って。あとちょっとで練り終わるから」
何をですか。
そう質問しようとした。
だが遮られた。
外から聞こえる喧騒によって。
外が慌ただしい。
何かと思って窓から様子を見る。
騎士団が避難誘導をしているようだ。
沢山の人が避難所を目指している。
一体何があったのだろう。
見ると騎士団が慌てていて。
「おい!まだ避難はおわらないのか!」
「まだ掛かります!祭りの準備で外部からの人たちの避難誘導が遅れていて……」
「こっちに慌てないで歩いてください!」
道は人で溢れていた。
そのため、円滑に歩けない人が多くいた。
先生はローブを着て。
全身をほぐすような動きをしてから言った。
「行くよプルル」
「避難しないんですか?」
「避難?なんで?」
「なんでって。騎士団が避難誘導してて……」
「避難なんてしない」
先生が言いながら窓を全開に開けた。
すると風が部屋の中に入ってきた。
置いている本はページが乱暴に捲れて、カーテンも荒々しく舞っている。
「だってこれから」
振り向いて私に言う。
「悪者を退治しにいくんだから」
冗談のような口調で言う先生を見て、私は理解した。
先生はこの時を待っていたのかもしれない。
エンドが騒ぎを起こして、場所を知れるのを。
先生は普段、何を考えているのか分かりづらい。
真面目なのか几帳面なのか。
この人は謎だらけで、年齢も経歴も分からない。
だけど、この人は何か強い信念を持っていることは分かる。
「じゃあ行くけど。プルルも行く?」
「行きます」
そう言って先生が窓から出て行くのを見てから、直ぐに私も後を追った。




