不可能を可能にするのが……
「なるほどなるほど」
先生はさっきまでに私が体験したことを聞いて頷いた。
「その貴族の男がアレって言ってたものが何かはわかりません。だけど、王様が魔法を使うぐらい危ないものなのは確かです」
椅子に腰を掛けたまま、先生は窓の外を見ている。
漆黒と言っていい程の黒い眼は外に向けていたを眼を私の方向に回す。
その眼からは感情が読み取りづらい。
何を考えているか分からない。
「その貴族の男。なんて名前だっけ」
「エンドって言ってました」
立ち上がり、トランクケースの中から何かを出す先生。
取り出したのは本だった。
正確には、それはメモ帳だった。
パラパラとページを捲る音がこの部屋に響く。
「エンド・オワリクス。オワリクス家の長男で騎士団に所属。魔術院で魔術を学び、その優秀な成績から騎士団長から魔術院の学校の先生として推薦を貰っている」
詳しい情報に眼を見張る。
それは私が言ったエンドという貴族の情報だった。
「性格が良く、同じ騎士団からの評判は良い。怪しい繋がりは感じさせないな」
メモ帳を閉じる。
「情報の上では、だけど」
悠然と歩みながら、私に近づく。
「決行は今夜で間違いないか」
「はい。聞いた限り、間違いないありません」
少し考える先生。
一体どうするつもりなんだろう。
そう考える私を知ってか知らずか。
「夜まで待とうか」
そう言って、さっきまで座っていた椅子に座ってコーヒー飲む。
手には本を持っていていた。
時間が過ぎるのを待つ構えだ。
「そのエンドって男を止めに行かないんですか?」
「行かないじゃなくて、行けない」
どうしてと思った。
先生には魔法がある。
その力が有れば、堂々とエンドを倒せるだろう。
そうすれば最小限の時間で計画を阻止出来る。
なのに、どうして。
「一応そいつは貴族だ。計画のこと話しても、簡単に信じてもらえない」
本を読みながら話す。
「信用も厚いみたいだし」
「それはそうですけど」
不安になる私は心を落ち着かせる。
先生の言ってることは正しい。
わかってはいる。
わかっているだけだが。
先生が強いことはこの二週間の旅で理解している。
魔法を使わずに魔力だけで水面を走ったり、馬より早く走るのは魔力で強化した身体では普通のことだ。
だが、先生は魔力の運用と効率が段違いだ。
最小の魔力で強化しているのにも関わらず、その魔力強化は桁が違う効果を発揮する。
だから、断言する。
戦闘面に一切の心配はない。
知識も技術も経験も比べるべくもなく、最高峰の実力を有している。
「やることは変わらない」
「えっ」
私に向けての言葉か。
それとも独白か。
どっちかはわからない。
しかし、
「大丈夫だ。僕を信じろ」
力強い声で、
「なんとかしてやる」
宣言した。
「不可能を可能にするのが」
もう、不安はない。
「魔法使いというものだ」
その言葉を聞いて、何故か私は安心していた。




