言いたいことは早く言うのがセオリー
「……髪も眼も服も黒く、そして黒い時計……もしや『一の魔法』の魔法使いか?」
「僕のこと知ってるんだ」
「詳しくは知らない」
だが、と威厳のある声で王は話した。
「クリフ王国初代国王の残した文献に『一の魔法』の魔法使いに関しての情報が書かれていた」
豪華でありながら、今にも壊れそうな部屋で二人は話す。
「なるほどね」
「一の魔法使いは髪も眼も服も全てが漆黒で、黒い時計を持っていると記載されていた。この情報が確かなら、お前は『時計』の魔法使いメビウス・ホロウだ」
「正解だ」
その回答を微笑みで返し、黒い女性は側にあった椅子に腰掛ける。
脚を組み、手を前に置いた。
すると、次はこっちの番と言わんばかりに語り始めた。
「言うのが遅れたけど、僕がここに来たのは挨拶をしようと思ったからだ」
「挨拶、だと?」
「そう、挨拶」
王は……リングは疑問を抱き、いつでも魔法を発動できる準備をした。
世界を変えると言われている魔法、『二の魔法』を行使するために。
ここで魔法を使えば城が崩壊するのを確信していたが、相手は同じ魔法使いだ。
魔法使いと戦うのは初めてではない。
五の魔法使いは使う魔法が厄介極まりなかったが、一方的な戦いにはならなかった。
戦うなら本気で行くしかない。
緊張が走る壊れかけの寝室で二人は話し続ける。
「それは……どう言う意味だ?」
「? そのままの意味だけど」
黒い女性はリングの不安を知らずにそのまま続ける。
「別に争いたいって訳ではない。ただ、同じ魔法使いとして一眼見ておきたかった」
「それだけか?」
「それだけだよ。君の使うだろう魔法、『極小の世界創造』は世界を自分に味方させる、それは魔法の中でも規模がでかい部類だ」
自分の使う魔法を詳しそうに話す黒い女性。
鋭い眼差しでありながら、口調は淡々としている。
「安心したかな。魔法を継承したのが君で良かった」
魔法使いは一人一人に各々の世界たる魔法を持っている。
魔法の世界は魔術の世界とは違い、幅が狭い。
魔術の幅広さはまさに多くの世界が今も生み出される可能性の世界だ。
対して、魔法の世界は行き詰まりだ。
一つのことしか出来ない。
可能性を閉じているのだ。
だが、それでも魔術よりも魔法が単純だが凄いと言われているのは、できることのスケールが大きいというのが主な理由だ。
8人いる魔法使いにはそれぞれに異名がある。
『時計』『世界』『重力』『生命』
『空想』『次元』『心象』『錬成』
全ての魔法が人類の技術で解決できる域を超えている。
故に、魔法使いは人間の到達点を超えた存在と言われている。
すると女性は椅子から立ち上がり言った。
「言いたいことも言ったから、帰るよ」
そう言うと、女性は友達の家から帰るような口調で黒い蝶を身体から放出し、壊れた窓から音もなく立ち去って行った。
残ったのは微かな黒い蝶の魔力の残滓だけだった。
「戦わなくて良かったかもしれないな」
(戦ったとして負けるつもりはないが、あれ相手に準備なしで戦っていたら)
あれは狼だ。獲物は逃さず、確実に殺す獣だ。
身のこなしも、視線の配り方も魔力の操作も隙がなかった。
内心穏やかではなかった心境で窓の外を見た。
そこには黒い蝶が残した魔力が空に向かっていた。




