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Ms.BLACK  作者: 弓塚晋助
一章
1/16

黒い女性

 :とある少女の話


 ふと、目が覚めた。


 喉が渇いて一階のキッチンに降り、水を飲もうとコップを傾けようとしたとき。近くから何か大きなものが倒れた音がした。


「何の音だろう?」


 なんとなく家から出て、その音のする方へ近づこうと私は歩き出した。


 その日は暑かったが夜は冷たく、口から白い息がハァハァと出ているのがわかる。家の中の気温と外の気温は本当に違っていた。


 村の近くには大きく、とても澄んでいる湖があり、子供が秘密基地を作りそうなぐらいの大きな木もあったが何故かその湖には誰も近づかない。


 深夜の月は優しく私を照らしている。


 まるで劇場の主役が浴びるような一点集中のスポットライトのように感じる月の光だった。

 

 ところで、私はララライ島という都会でもなければ田舎でもないぐらいの何とも微妙な感じの島に住んでいるが、この島には特徴がない。


 敢えて特徴を挙げるとすると、村のパン屋が使っている小麦は育てている土が悪いのか、はたまた作っている店主の料理の腕が悪いのかわからないが、作られたパンは不味いということだ。


 そんな不味いパンでもこの島では二つしかない飲食の店なためか、毎日まぁまぁの人がパンを買いに来ている。


 私はそんな島の村の村長の一人娘として生まれた。


 両親はどちらも真面目で人柄が良く、村の人たちとも仲良く話している。そんな親に育てられた私は何を思う訳でもなく、両親の仕事を手伝っていた。


 村の経済流通の確認、税の計算、色んな人たちとの交流など様々な仕事を手伝ってきたつもりだ。


 色々経験した私は学びたい欲が出てきて、お父さんに魔術を学びたいとお願いした。


 この世界ではどんな人でも魔術を使うことができ、村の人たちも色んな魔術を使うことができる。お父さんは一瞬迷ったように考えたが、お母さんが。


「プルルももう15歳だし魔術を教えてもいいんじゃないかしら。」


 そう言うと、お父さんはもう一回考えて「わかった、プルルに一週間だけ魔術の家庭教師をつけよう。」と言った。


 私は魔術を学べることが嬉しくなり、魔術の家庭教師が来てからは、それはもう熱心に魔術にのめり込んだ。


 そのためなのか、深夜に湖に行って何か危ないことがあっても大丈夫だと思っていた。なぜなら、覚えた魔術の中には治癒魔術があったため怪我をしても大丈夫だと思っていたからだ。


「音が大きくなってきたな」


 そんなことを考えていると湖に近づくたびに、音が大きくなるのを感じ、私は気がつけば何があるのか気になって急ぎ足で歩いていた。


「っ!」


 そこには私よりも3倍は大きいと断言できる巨大な丸い体ととても長い首を持つ怪物とここからではよく見えないが長身の女性が戦っていた。


 生まれてきて一度も見たことのない状況に私は絶句するしかなかった。


 長い首を鞭のように激しく振るう怪物に対し、その女性はただ避けているたげだった。


 いや、避けているだけでも凄いことだと瞬時に理解した。

 

 その怪物が振るう首の速さはかろうじてギリギリ見える速さでビュンビュンと音を立てていた。それを至近距離で焦らず最低限の体捌きで避けているのは神技だ。


「凄い」


 気がつけばそんな声が漏れていた。


 でも仕方のないことだ。


 だってそれは、あまりにも無駄がなく、必要という言葉を詰め込んでいるような技術だったからだ。あんな技術は見たことがない。


 一回だけ見たことのある王都の騎士団もあんなことはできないと思った。


 そんなことを考えていると女性が走り出した。怪物は首を振るう。


 しかし当たらない。私が見た中で一番早い反応できない即死の一撃が当たらない。 

 

 ならばそれは神速か。その女性は私の視界からあっという間に消えていた。


 バキ!バキ!!バキ!!!


 そんな骨の折れる音と共に視界から消えた女性は怪物の体の中心を拳で打っていた。


 速すぎて気が付かなかった。骨が粉々になる痛みに耐えられない怪物は奇声をあげて暴れ回る。


 その暴れた衝撃によって周りの木はメキメキと折れ、倒れ、粉砕される。


「あっ、これヤバいな」


 私は自分でも驚く程冷静に判断して周りの木がめちゃくちゃになる寸前に咄嗟に後ろに5mぐらい下がった。


 前をもう一度見れば土砂崩れが起きたのかのように土とか水が撒き散らされていた。


 下がってなかったら、今頃人間肉ミンチになっていただろうと。


 この夜に信じられないものを多く見た影響だろうか。なんか感覚が麻痺して一周回って思考がクリアになっている気がする。


「って、あの女の人は!」


 焦って周りを見渡す。しかし、あの女性の姿が見当たらない。

 

 まさかあの怪物の暴れ回った衝撃で全身ミンチの見るに堪えない姿になってしまったのか、と。心配していた瞬間に。


「あっ」


 空を仰いだ私は見た。


 月の光に照らされながら、その時初めて私はその女性の全体図を把握した。


 黒い髪に黒い目、黒い服に黒い靴。全てが黒かった。そんな黒一色の女性は美しかった。


 月をバックに背を向けて無重力を思わせるように体を横にのけ反って、くるりと回って体を怪物側に向けて拳を怪物の体の中心に狙いを合わせた。


 時が止まって世界はその女性を祝福するように優しく階段を降りる仕草で前触れもなくその女性は急降下し、怪物の体の中心目掛けて落ちてきた。


 ズッ!ドーン! 


 気がつけば、勢い良く落ちてきた女性は怪物の命を終わらせており、落ちてきた衝撃はすぐ近くにあった湖の水を爆発させ、雨を降らせた。


 私はこのことを一生忘れないだろう。


 だってそれはあまりにも、凛々しく綺麗で


          カッコいい

  

 と、記憶のフィルムに深く焼きつけられるものだったからだ。


「あれ?人がいたんだ。気が付かなかったな」


 そんな惚けた様子でその女性は私に話しかけた。


「貴方は、誰、ですか?」


 失礼だと分かっていたけど、興味が限界突破していて聞かずにはいられなかった。


 恐る恐る聞いた私をその黒衣の女性は無表情で威厳のある様子で答えた。


 「そうだな、僕は―――」


 女性は無表情で手を顔に当てて考える素振りをさせてから、言った。


 「僕はメビウス・ホロウ、『一の魔法』を使う魔法使いだ」

     

 そんなことを言うと、またしても月の光が彼女を今夜で一番強い光で包み込んだ。

 

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