絶対に解かなければいけないパスワードがそこにある
【登場人物】
ジェームズ:とある機関に所属するベテラン。妻子持ち。
リアム :ジェームズの後輩。
教育係 :ジェームズが新人だった頃に仕事を教えてくれた人。
この作品は、「第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞」の応募作です。
テーマは「パスワード」。
「先輩、何やってるんですか?」
リアムは、仕事もせずに奇妙な錠前を手に持って見つめているジェームズに声を掛けた。
「これは俺が新人だった頃の教育係から渡された物なんだ。」
それはパスワードを入力するタイプの錠前だった。
「厳しかったけど、口ばっかりで何も出来ない俺に色々教えてくれた人でな。」
「へえ。」
「意見が違った時も、俺が一方的に噛みついていたんだが同格に扱ってくれて、それで良く言い合いになったりもしたな。」
「先輩に合わせられるなんて、凄い人だったんですね。」
「何が言いたいんだ?」
「いえいえ。」
ジェームズは懐かしそうに錠前を見つめる。
「この錠前のパスワードは絶対に解かないといけないんだよ。」
「何故ですか?」
「卒業試験だからだ。」
教育係が移動する時、これが解ければジェームズを一人前と認めると言って渡されたのだそうだ。
「期限は教育係が移動する日まで。それまでに箱の中身を持ってこいってさ。」
「でも解けたんでしょう?」
「いいや。」
「え?」
「パスワードが解けなくて、結局、箱の方を壊して中身を取り出した。」
「そんな方法で良かったんですか?」
「柔軟に考えろって、いつも言われてたんだよ。」
真面目に答えるジェームズにリアムは苦笑する。
「それで、中に何が入っていたんですか?」
「指輪。」
「…指輪?」
「それを持ってったらさ、突然“結婚して欲しい”って言われたんだ。」
「あの、その教育係って、もしかして…」
「俺のカミさん。」
その答えにリアムはそういう事かと納得した。
「ええと、それで何で今更その錠前を見てたんですか?」
「同じパスワードの箱を結婚十周年の記念に開けようって事になってな。」
「それは絶対解かないといけないじゃないですか!」
「だから、そう言ってるだろう?」
「僕も手伝いますよ。これで離婚とかになったら大変ですから!」
「大袈裟だな。ちょっと怒るくらいだろ?」
「絶対、大事になります!」
事態を把握していないジェームズに対して慌てながら、パスワードを解く事に協力するリアムだった。
「128√e980」
絶対に解かなければいけないパスワード。それは答えが空白ナシの8文字のアルファベットである。
1アイディアで一気に書き上げた為、設定が決まっていない部分もありますが、大目に見て頂けると嬉しいです。
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