第9話,束の間の休息と武器合成
パチパチという音と、何かが焼ける様な匂いで目が覚めた。ゆっくり目を開けると、スラキーが焚き火の前で何か焼いている。それに、身体には茶色の布を掛けてくれていて、頭にも柔らかいものを敷いてくれている。
「スラキー? これ、スラキーが? ありがとう」
俺の声に反応したスラキーが、ゆっくりこっちを振り向く。
「ああ。ユウ、起きたか? お腹空いてるだろう? こっちおいで」
微笑み、手招きしてる。スラキーの優しさが嬉しい。
「うん!」
俺が横に行くと、串に挿して焼いた肉を渡してくれた。
「熱いからゆっくり食べな」
焼けた肉の匂いが堪らない。美味しそうだ。
ハフハフと口に頬張ると、口いっぱいに広がる甘み。それに、一瞬でとろけてしまった。高級な霜降りの肉を食べたみたいだ。
「美味しい! これ、何の肉? もっといっぱい食べたい!」
「そんなに慌てるなよ。まだ、いっぱいあるからな。これは角兎の肉だよ」
「角兎? ってあの魔物!? 俺が寝てる間に現れたのか? スラキー、倒したの? 大丈夫?」
スラキーをまた危険な目に合わせてしまったのか?
「大丈夫だよ。これは保存食だ。ユウが倒した角兎を少しずつこれに入れて保管してたんだ」
そう言って、小さな袋を出した。
これに? この大量の肉がこの中に!? どう見てもあの袋って手のひらサイズだよな?
「どうなってるの? こんな小さな袋の中にどうやって?」
「これは、アイテムの一つだよ。ダンジョン内の宝箱でも獲得できるし、スライムの里やショップでも買うことが出来るよ」
へぇ、便利な物があるもんだなぁ。それにしても、この角兎の肉、美味しいや。食欲が止まらない。
「凄いや、色々あるんだねー。俺も欲しいな。この大量の武器とか入れたい」
特に入れる物も無いので、キャリーケースに入れて引っ張っていた。武器合成のスキルがあるから何かに使えるかなって思ってて持ってたけど、スキルの使い方が分かんないし邪魔なんだよな。
「一つあげようか? って、それ気に入ったのな」
「ん? ハフハフ、う、うん、だってこれ美味しいんだもん。って、本当に? その袋くれるのか?」
口いっぱいに頬張りながら答えると、スラキーは笑いながら答える。
「ああ、やるよ。っと、こんな事言ったら怒るかもしれないけれど、ユウ、お前可愛いな。何だか弟が出来た気分だ」
弟? 弟って、何だか照れるな。お兄ちゃんってこんな感じなのかな?
「怒りはしないよ。ただ、何だか照れる」
何だか恥ずかしくて、顔が赤くなる。
「ふふ、やっぱりユウは可愛いな。それはそうと、武器合成はしないのか?」
「武器合成? やってみたいとは思うんだけど、やり方がよく分からないんだ。それにチュートリアルクリアで貰った装備だし、そんなに大した事なさそうだから、まぁ良いかなって」
そう言うとスラキーは、ちょっと呆れ顔でため息をつき、俺を見る。
「ふぅ。実はユウって、面倒くさがり屋? 勿体無いよ、そんなに武器あるのにさ。基本的に合成したら強くなるのも間違いないんだぜ? 調べよう、試してみようとは思わないのか?」
「なんだよ! そんなに言わなくても良いじゃん! 俺の勝手だろっ!」
「……ったく、じゃあ勝手にしろよ! もう、手伝わないからな!」
そう言うと、後ろを向いてしまった。
あ……俺、何やってるんだろう。スラキー、こんなに良くしてくれたのに……あんな事言っちゃって。
恐る恐るスラキーに近付き、声をかける。
「スラキー?」
「ん? 何だよ」
お、怒ってる。そうだよな、怒るのも当然だよな……
「ご、ごめん……」
「ん?」
「ごめんなさい!」
「……」
「スラキー?」
しばらくの沈黙の後、スラキーが突然笑い出した。
「ふふ。ははははは」
「え?」
「大丈夫、怒ってないよ。けど、気を付けな? 俺もユウを心配して言ってるんだからな?」
「はい……」
落ち込む俺の頭をポンポン軽く叩き、優しく言ってくれた。
「教えてあげるから、武器合成しようか?」
「うん……はい、よろしくお願いします!」
しかし、スラキーって何でも出来るんだな。最初はただのスライムだと思ってたし、ゴブリンに怯えていたスラキーとは別人みたいだ。
「ユウ? どうかした?」
どうやら、スラキーをじっと見つめてしまっていたらしい。
「否、何でもないよ。ただ、スラキーは凄いなって」
「そうか。そんなことないよ。でも、ありがとうな。じゃあ、始めようか。ユウ、自分の前に合成したい武器を5つ並べて」
言われたら通りに、チュートの剣を5本並べる。
「並べたよ」
「剣に手を翳して、シンセスウエポンって唱えてごらん?」
言われた通りに武器に手を翳してみる。
「シンセスウエポン!」
唱えると、武器が光だし一つに纏まる。そして、金色に輝いた剣が現れた。
「成功だなっ」
す、凄いや。武器合成ってこんなに凄いんだ。この剣、何ていう剣だろう? 金色に光ってるし、何だか貴重そう。
「あ、ありがとう。何だか凄そうな剣が出てきたけど、これ、何ていう剣だろう?」
手に持ってみると、輝きがなくなった。
あれ? 普通の剣みたい? さっきの輝きは何だったんだろう?
疑問に思っていると、スラキーが何だか考えるような真剣な顔をしている。
「これは、古の剣だ。良く見てみろ、剣に言葉も刻まれている」
スラキーの顔に、ただならぬ雰囲気を感じた俺は、慌てて剣に刻まれた文字を読む。
「――前王の受け継がれし遺志ココに眠る――選ばれし者よ、この遺志を引き継ぎ王となれ――」
この王ってまさか……
チラッと、スラキーを見る。
「そうだ……その選ばれし者は、ユウ、君の事だ。君は、このチュートリアルに来た時から選ばれていたみたいだな」
真剣な顔で俺を見るスラキー、これはもう、避けられない運命なんだなと、気を引き締めた――――
ご覧いただきありがとうございます。
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まるで兄弟の様に過ごした二人。優もお兄ちゃんができた様な気がして嬉しかったみたいです(◍•ᴗ•◍)