第14話,塔の入り口の魔物と指輪と精霊
「ユウ、大丈夫か!? もう少しだ!」
ベル塔の入り口に近づくと、外に居た魔物が我々の気配に気付いたのか、中に入ってきてなかなか外に出れない状態が続いていた。スラキー達は俺の後ろに隠れて様子を見ている。
「大丈夫だ。スラキー達はこのまま俺の後ろに隠れてて」
俺がそう言うのと同時に、『ピキーッ!』と一斉に叫びスラキー達は更に後ろに下がり岩陰に隠れた。
ん? スラキー達どうした⋯⋯?
「スラキー、どうしたんだ? 皆もそんなに震えて⋯⋯」
「ユウ! 後ろだ! 後ろっ!」
振り返ると三メートルはあろうかという、大きなムカデみたいな魔物が今にも襲いかかろうとしていた。
「うわっ!」
俺は間一髪で避け、剣を構える。すると剣が光だし、文字が現れた。
「ん? これは⋯⋯ルミナ⋯⋯ス? ストーム?」
何だか分からないけど、これを唱えれば何か起こる気がする。そこでムカデに剣を向け、叫んでみた。
「ルミナスストーム!」
唱えた瞬間、剣から眩い光が放たれ、竜巻のような渦になり、それはやがて真っ黒に。その真っ黒な渦は、雷の様な光を発しながらムカデを包みこむ。
「キギャー! グルル、ビャーッ!」
ムカデの叫び声が聞こえたかと思ったら、ムカデはチリになって消滅した。あまりの出来事に腰を抜かして、その場にへたり込む。
な、何だったんだ? 今の⋯⋯。
「ユウ、大丈夫か?」
声にハッとして下を向くと、スラキーが心配そうに顔を覗き込んでいた。どうやら、暫くぼーっとしていたからか、心配させていたみたいだ。
「あ、ああ。大丈夫だ」
何とかスラキーに返事をして、さっきムカデが消えた方を見てみると、ムカデが黒い灰になっているのが見え、その上にキラッと光るものがあった。
何だろ?
恐る恐る近づいて、拾ってみると青い石の付いた指輪だった。
「ゆ⋯⋯びわ?」
付いた煤を払うと、指輪が淡い緑に光りだした。その様子に気付いたスラキーがこっちに向かって叫んだ。
「ユウっ! その指輪は駄目だっ! 絶対に着けてはいけない、危険だっ!」
「スラキー、どうした? この指輪がそんなに危険なのか?」
「そうだ! その指輪を嵌めると王になる為の邪魔が⋯⋯」
そうスラキーが言いかけた時、指輪の光が強くなり、俺を包み込んだ。眩しくて一瞬目を瞑る。次に目を開けると雲の中に居た。
何だよこれ⋯⋯スラキー達は!? 大丈夫なのか?
スラキー達の事も心配だが、今は自分がどうなっているのかさえ分からない。
「そういえば、指輪も何処に行った? ⋯⋯え!?」
指輪は俺の右手の人差し指に嵌っていた。石は淡く光っている。頭の中に声が響く。
『⋯⋯私は指輪の精霊。この塔から出ては駄目。あなたは選ばれた戦士⋯⋯けれど、アトディマス島の森に入ったら出られない。現世には戻れない⋯⋯帰りたかったら⋯⋯剣を⋯⋯古の剣を正しい場所に戻すのです。この塔の⋯⋯』
この塔の何だ⋯⋯? 声が遠くなる⋯⋯
「ユウ! ユウ、大丈夫か?」
気が付くと、スラキーはまた人の姿になり、俺に膝枕をしてくれていて、心配そうに覗き込んでいた。
「あ、ああ、大丈夫だ。スラキー、皆も心配かけたな」
「良かった⋯⋯目が覚めて。っとユウ、その指輪嵌めたのか? あれほど俺が危険だと言ってたのに。今からでも外した方が良い」
「そう、なのか? でも、これな、勝手に指に嵌っていたんだ。俺が着けたわけじゃないよ? まぁ、スラキーがそう言うなら外して⋯⋯って、あれ?」
「どうした?」
「いや、指輪が外れないんだよ」
「え!? 外れないのか?」
スラキーの顔が青ざめている。
「これ、そんなにマズイのか?」
「あ、ああ。このままだと、この塔から出られない」
「そうなんだな⋯⋯けど、慌てても仕方ないよな」
「ユウ、やけに冷静じゃないか?」
スラキーは驚いた顔で俺を見ているが、多分焦ったところで何も変わらないだろう。それよりも俺は精霊が言っていた事が気になっていた。スラキーの慌てようもおかしいし。
「そうか? まぁ、本当に慌てても仕方ないと思ったんだ。なぁ、さっきテントを立てて休憩していたところに一度戻らないか?」
「何でだ? 先に進もう。指輪をしていると、塔の正面からは出られないけれど、他のルートからは出れるはずだよ」
「⋯⋯スラキーはよく知っているんだな? まるでここに来たことがあるかの様に⋯⋯それに、何でそんなに急かすんだ?」
そう言うと、スラキーは明らかに焦っていた。
「い、いや、えと、実は来たことがあるんだ。あ。でも、別に急かしたわけじゃない」
来たことがある⋯⋯じゃあ何で? やっぱり何か隠しているのか?
「何でその事を黙っていたんだ?」
「来たことがあるっていっても、ずいぶん前なんだ。だから、脱出ルートとかも曖昧だし。怒ってるよな? ごめん⋯⋯」
「まぁ、良いよ。けれど、これからは隠し事は無しにしてくれるか? スラキーとはこれからも上手くやっていきたいし」
「⋯⋯分かった。約束するよ」
渋々返事をしていたスラキーが気にはなったが、俺はまた、テントを張っていたところに戻り今日は休むことにした。俺が行くと、スラキー達もゾロゾロと付いてくる。
「スラキー、もう気にするな。今日はもうおやすみ」
「あ、うん。ユウは優しいな。ありがとう。また、明日⋯⋯おやすみ」
スラキー達の寝息が聞こえてくる。俺は暫く今日あった事を思い出して考えていた。
精霊が現世には戻れないって言っていたけど、どういう事だ? スラキー達は帰れるように、早く塔を出るように言ってた様な? けど、この指輪の精霊も嘘を言っているようには感じないし。しばらく様子見かな。
——夜が更ける。繋がっていない⋯⋯圏外になっている筈の、スマホのメッセージ受信ランプが光っていた————。
長い間更新できていなかったにもかかわらず、ここまでご覧いただき誠にありがとうございますm(__)m
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優は、スラキーの言動に疑い始めていますが、今まで一緒に過ごしてきた事もあり、信じたい気持ちも大きいのです(´;ω;`)
さて、メッセージの受信は誰からだったのでしょうか⋯⋯!?