第1話,繰り返すチュートリアル
「なんで! なんで! 出れないんだよーっ!」
ダンジョン、チュートリアルクリア15回目。クリアタイムも約一ヶ月から、約一週間まで縮まった。
いや、そもそも、そもそもだ。チュートリアルは1回のはず。クリア後、ログインすると通常ダンジョンレベル1の階層から始まるはず。
「はぁ……」
やる気がなくなり、扉を潜って部屋に戻る。自分の部屋とダンジョンは扉で繋がっている。10年前に急に現れたらしいダンジョン、中学を卒業すると、ダンジョンに行ける資格ができる。それで俺も、高校に入る前の春休みから挑戦してるんだけど、全然進まない。
否、進めない。
ちゃんとクリアしてるのになぁ。
そう思いながら、同級生のダンジョン配信を見てみる。チュートリアルをクリアした記念に配信を始める人も多い。
「あ。もう、通常20階層行ってるんじゃん。いいなー、俺もあんなアイテム欲しい」
呟きながら、ダンジョンアイテム購入サイトも見てみる。チュートリアルではコインの獲得は無いが、通常ダンジョンに入ると、モンスターを倒すことによりコインが手に入る。それでアイテムを購入する事ができる。
『第20階層、やっとクリアできました! 皆さん、応援ありがとー! 投げ銭もありがとうございます! それでは、次の配信でお会いしましょう。また来てねー!』
投げ銭までもらってるんじゃん。フォロワーも五千人越えてるし。アイテムもどんどん良いのになってる。
同級生の配信が終わり、ふと考えた。俺も配信してみようか? いや、駄目だ。今更チュートリアルを配信して何がおもしろい? それに、同級生に俺がチュートリアルをクリア出来てない奴と広まって終わりだ。俺は諦め布団へ潜る。明日からまた学校が始まる。
次の日、休み時間に廊下へ出てみるとあの配信の同級生が居た。皆に囲まれてる。
「昨日見たよ! 凄いじゃん! 20階層クリアなんて」
「この学年では一番だよね」
皆が彼を讃える。彼も満更でもない様子で楽しそうだ。
「配信に来てくれた皆のお陰だよ! 収益で良いアイテムも買えるし。みんな、ありがと!」
って、ウインクしてる。俺には到底出来ない。
「きゃーっ! 大翔くん格好良いーっ!」
謙遜してる彼に女の子達もきゃあきゃあ言ってる。それ以前に彼は俺と違って格好良い。そんな彼が俺に気付いた。
「あ! 優、そこに居たのか! お前もこっち来いよ!」
大翔の奴、なんでこんなタイミングで呼ぶんだよ!
「え、良いよ。邪魔になるし」
「そんなつれない事言うなよ。邪魔なんかじゃないよ? 俺と優の仲じゃないか。なぁ? みんな?」
大翔の言葉に、皆がこっちを見る。
「そ、そうよ! 栗花落くんもおいでよー」
皆が気を使ってるのが分かる。そう、俺と大翔は幼馴染みだ。
「わ、分かったよ」
しぶしぶ大翔の所へ行く。別に大翔が嫌いではない。けど、どっちかというと俺は陰キャで大翔は陽、出来ればほっといて欲しい、近くに行くせいで、空気も変わる。けど、大翔はそんなこと気にしない、いや、分からないのかも。だって、大翔は天然だから。
「ゆーう! 親友なんだからさ、もっと近くに来いよ! みんなだって、優ともっと仲良くしたいはずだよ! なあ? みんな? 俺の親友を嫌う奴なんていないよなー」
俺の肩を組んで、素で、満面の笑みで言っている。悪気は全くない。自分の様に俺まで皆に好かれてると思ってる。だから困る。皆も大翔に合わせて頷いてるが、作り笑い。中には俺を見てこそこそ話す奴もいる。
「せっかく大翔がああ言ってるのに、もっと楽しそうにしたら良いのに」
まぁ、それは分かるんだけど。
「大翔くん、何であんな奴と仲が良いのだろう? 親友って言ってるけど全然釣り合わない」
余計なお世話だよ。俺だって、ここに来たくなかったよ。
言われている事に対して、はぁ、と心の中でため息をつく。そんな俺の気持ちを大翔が知るはずもなく満面の笑みで誘ってくる。
「そういえば優はダンジョン行かないの? 一緒にプレイしようよ! 楽しいよ! チュートリアルさえクリアしたらさ、一緒にダンジョン行けるんだし、行こう!」
そのチュートリアルがクリア出来ないんだよ! いや違うな、クリア出来ても、またチュートリアルなんだよ!!
って、叫びたいけど言えない。大翔にはまだ始めてないと言ってある。俺も最初はチュートリアルをクリア出来たら、言おうと思ってた。けど、それから約一年半、何故かチュートリアルをやり続けている。
「そ、そのうちな。でも、大翔は20階層行ってるし、足手まといじゃないか? 俺の事は気にしないで」
「大丈夫だって! それにもう直ぐ夏休みだ、時間はたっぷりあるし、俺もレベル上げでまた一階から行っても良いと思ってる。だから、気にすんなよ」
そんな大翔に
「大翔くん優しいー! 優くんと行くのも良いけど、優くん来るまで私達と行こうよー!」
なんて言いながら女の子達もキャアキャア言っている。
もう、居なくても良いよな?
教室に戻ることにして、歩き出す。すると、女の子たちと話していた大翔が、俺に気付き、笑顔で手を振る。
「ゆーうー! また放課後な! ダンジョンの事、俺、本気でお前と行きたいからさ。考えてな?」
こうなると大翔は引かない。ずっと一緒に居たから分かる。半ば諦めモードで返事をした。
「わ、分かったよ」
「絶対なーっ!」
俺の返事に満足した様子の大翔はまた、同級生の輪に入っていった。
本当に人気だな大翔は。しかし、どうしよう? 何とか夏休みまでに、チュートリアルを脱け出す方法を見付けなくちゃ。
夏休みまで後1ヶ月、どうすれば良いか分からず不安に思いながら、今日もチュートリアルダンジョンへ入るのだった――――。
猫兎彩愛です☆
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